1型糖尿病を仲間と共に学ぶ小児糖尿病キャンプ公益社団法人日本糖尿病協会
子どもたちの幸せを願って
糖尿病にはいくつかの型があり、生活習慣が原因の1つとされているのは2型糖尿病。一方、1型糖尿病は、主に自己免疫性の障害によって膵臓のβ細胞が破壊され、インスリンの分泌が欠乏して高血糖が生じる疾患です。多くが若年期に発症し、生涯にわたってインスリン治療を継続していかなくてはなりません。我が国の1型糖尿病を発症する小児・思春期の子どもの割合は、小児人口10万人に対して約2~3人で、世界の中でも少ないことが報告されています。
1型糖尿病と診断された子どもたちは、毎日のインスリン治療と血糖管理の継続が必要で、その困難性は身体的、心理的、社会的など多様なものです。また、治療を支える家族の抱える不安や経済的課題、園および学校生活、さらに大人になっていく過程でも多くの課題が存在します。
小児糖尿病キャンプは、1型糖尿病を持って生活する子どもたちを対象に、医療的教育の場、社会的成長を支える場として1963年に始まりました。小児科医師丸山博氏が、1型糖尿病を持つ子どもたち8人を対象に実施したのが最初で、その後、1967年からは日本糖尿病協会(以下、JADEC)がその運営を支援し、全国に拡大していきました。2019年には全国47か所で開催され、小中学生を中心に約1140人の子どもたちと、医師や療養指導スタッフ約5000人が参加しています。また、夏休みだけでなく、春休みや秋期に開催されるキャンプも加わり、2018年からは1型糖尿病だけでなく、2型糖尿病を持つ子どもも一緒に参加するキャンプに発展しています。
2020年から3年間のコロナ禍では、宿泊を伴うキャンプの開催が困難になり、オンライン形式のバーチャルキャンプによる交流などの工夫が行われました。コロナ禍を経た2024年には、開催日数の短縮傾向はあるものの、全国47か所で再開されています。
子どもの幸せを願うスタッフが60年間続けてきた小児糖尿病キャンプは、1年のうちのたったの数日間だとしても、一生涯の仲間と出会い、自己管理を学び、社会性を育み、将来に希望を持つなど、子どもたちにとって、人生の中でひときわ輝く宝物のような時間です。
小児糖尿病キャンプの内容は、糖尿病医療の進歩や社会的な環境によって変化していますが、その理念や目標は変わりません。半世紀の歴史を重ねる中でキャンプを経験し、成長した卒業生が今度は運営に加わり、先輩としての役割を果たしてくれています。また、医療スタッフにとってもキャンプはチーム医療のミニモデルであり、医療を学ぶ学生、教育学校関係者にとっては糖尿病医療や支援を実践的に学ぶ機会となっています。家族で参加するファミリーキャンプも企画され、様々な取り組みや工夫がみられます。

安心できることを1つでも増やしたい
JADEC理事の中村慶子さんは、1980年から愛媛ブルーランドサマーキャンプに看護師として継続して参加してきました。
「私が参加し始めた頃のキャンプでは、インスリン注射を自分でできるようにすることは重要な課題でした。1日2回の自己注射は子どもたち自身にとっても支援者にとっても厳しいもので、日常生活と異なる活動下での低血糖対策は特に重要な支援でした。夜間低血糖の危険が高い6歳男児のそばで並んで寝ていた時に、子どもの奇声に驚いて飛び起き、あわてて血糖測定をしたという経験もあります。その時の緊張感や不安感は、家庭で母親が毎日体験していることであり、子ども自身や家族が抱く緊張した毎日を改めて実感しました。そして、キャンプでは、子どもたちと家族も一緒に、少しでも、1つだけでも、安心できることを増やしていきたいという思いで、この活動を続けています」と、中村さん。
「キャンプを一緒に過ごした子どもたちも、年月を経て成長し、社会人としてその役割を果たし、家族をもつお父さん、お母さんになっています。たくましく、頼もしく、とても嬉しいことです。約40年が経過し、インスリン製剤や自己注射器材、血糖測定器材などは発展し充実してきました。しかし、1型糖尿病を持って生活する子どもたちや家族の負担は今も変わらないように思います」。
そう話す中村さんは、糖尿病の子どもたちの自己管理を支援するには、今その子にとって必要な「ちょうどよい支援」を継続していくことが大切であると、強調します。そのためには、成長していく子どもたちの変化を確認し、個々の発達段階に応じた認知機能や身体機能に関する知識や技術を修得していくことなどが必要であり、キャンプでは、支援者として求められる多くの学びを得てきたことを振り返っていました。

キャンプはみんなにとって学びの場
キャンプ運営や継続のためには、運営費用や開催場所の確保、災害対策、スタッフの確保などの課題もありますが、全国各地でそれぞれの特徴をもって開催されるキャンプの経験や知恵を共有し、深めていくことが求められています。
今回、キャンプ開催地の1つ、新潟小児糖尿病キャンプ代表である新潟大学医歯学総合病院小児科の小川洋平医師にお話を聞きました。
「新潟では、1982年から毎年開催され、今年度は40回目のキャンプでした。医師や看護師以外にも、管理栄養士や理学療法士、検査技師、大学教員、薬剤師、学生、キャンプ経験者など100人程度がスタッフとして参加しています。キャンプの参加者は、小学生から高校生まで約30人。スタッフは4月から毎月ミーティングを開き、準備をしっかり重ねています」。
新潟のキャンプの特徴はスタッフが主体性をもって動くこと。
「キャンプ経験者を含めスタッフには役割と責任を持たせて、それをきちんと果たせる形にしています。それぞれの職種に子どもたちに向けた各々のプログラムを組んで主体的にやってもらいます。教育的なものもあれば、楽しんでもらうものもあります」。
たとえば、理学療法士担当である「沢登り体験」は、自分の体力を試す機会であると同時に、災害時の対処にも一役買っているといいます。びしょ濡れになった時、医療機器や補食が限られる時にどう対応するかといった実践の場になっているのです。
野外炊飯、カヌー体験、キャンプファイアーといった楽しいものもあれば、インスリン自己注射指導や血液測定指導、歯科衛生士からの口腔ケアのレクチャーのほか、自分の血糖値がどうしてその値になったのかをみんなの前で話すワークもあります。
「新潟のキャンプでは、試して一緒に考えることを大切にしています。食事や補食は、まず自分で考え食べてみて、その後に血糖値を確認し、だからこうだったんだね、今後同じことがあればこうしよう、といった実践的な学びの場としています」。

1型糖尿病のことをもっと知ってほしい
「キャンプは、『糖尿病の教育指導の場』『メンタルケア、仲間との語らいの場』『自立支援の場』であると同時に、保護者が参加しないキャンプでは『親御さんが休める場』でもあります。365日子どもの血糖値を心配しなければならない親御さんの休暇です。また、新潟では家族と子どもたちが一緒に参加する『ファミリーキャンプ』も開催していて、大切な『親御さん同士の交流の場』になっています」と小川さんはキャンプの意義を話してくれました。
小川さんは大学二年生の時に知り合いに声をかけられ、キャンプという楽しそうな響きに誘われて初めて参加したといいます。
「子どもたちが懸命に糖尿病に向き合う姿、それを支えるスタッフ、当時キャンプで出会った医師の岡田泰助先生が子どもたちと対等な立場で向き合われる姿に感銘を受け、小児科医として糖尿病を専門とすることを目指しました」。
キャンプを通じて、子どもたちへの想いは確実に次の世代に引き継がれているようです。
「小児糖尿病キャンプのこと、1型糖尿病のことを多くの方に知って、関心をもってもらえたら嬉しいです。スティグマ(いわれのないレッテル)という言葉がありますが、誤解や偏見はいまだに多いと感じています。糖尿病だから、不摂生という意味合いではないのです。糖尿病の子どもたちが子どもの時期も社会人となっても、活躍できて普通に生活できるような社会の環境になるといいなと思いながら、活動を続けています」。

「日本財団 難病の子どもと家族を支えるプログラム」に興味をお持ちの方は、ぜひ難病児支援ページをご覧ください。
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文責 ライター 玉井 肇子
日本財団 公益事業部 子ども支援チーム