自然体験と、地域と交わるファッションショー一般社団法人 幹らんど

「人として」関わるケアで、医療的ケア児の可能性を広げる

一般社団法人 幹らんど(和歌山県和歌山市)は、医療的ケアが必要な子どもたちの日中預かりを中心に行う団体です。一般社団法人幹の主要事業である「幹在宅看護センター(訪問看護)」は2018年にスタートしました。0歳の赤ちゃんから100歳以上の高齢者まで訪問し、在宅看護・看取り・精神科訪問など、あらゆるケースに対応してきました。
代表理事の丸山美智子さんは「赤ちゃんであっても高齢者であっても、『人として関わる』という根本は同じです」と語ります。
2023年には日本財団の助成を受けて、子どもの支援に特化した地域連携のハブ拠点となる「幹らんど」を開所し、主に児童発達支援を行っています。
幹らんどが、子どもたちの日頃のケアで最も大切にしているのが「外遊び」です。夏はプールに入ったり、砂場で泥団子を作ったり、公園のブランコや滑り台で遊びます。
「室内でリハビリをするよりも、外遊びをしている方が子どもたちの成長・発達がずっと進む事例をたくさん見てきました。外の段差を飛び降りたり、プールの水に触れたりすることは、理学療法や作業療法で目指している動きそのものです。重度の障害で動けない子でも、外に出ると、その子なりに首を動かそうとしたり、表情が変わったりします」と丸山さんは力説します。こうした日々の五感への刺激が、感染症の重症化を防ぎ、子どもたちの体力を底上げしているのです。

災害時のシミュレーションにもなったキャンプイベント

日頃から外遊びの実践を行っている幹らんどですが、今年度は新たな挑戦として、医療的ケア児とその家族を対象とした「1泊2日のキャンプイベント」を開催しました。

 写真
グランピング施設に集まり、自然を楽しむ参加家族とスタッフ

この大きな企画で中心となって窓口や調整を担当したのが、スタッフの麓(ふもと)さんです。
「医療的ケアのある子どもたちは、家族だけではキャンプに挑戦することが難しい現状があります。体調を崩したらどうしようという不安があるからです。それを経験させてあげたいという思いと、きょうだい児を含めた家族みんなで自然を体験してほしいという願いから企画しました」と、麓さんはイベントに込めた思いを語ります。
会場には、障害福祉施設が運営し、障害者対応のノウハウを持つ近隣のグランピング施設を選定。10家族が参加し、看護師や保育士、リハビリ専門職などのスタッフが同行して安全面をサポートしました。
イベントのプログラムについて、麓さんはこう振り返ります。
「ただ集まって話をするだけでなく、『誰かのために何かを作る』という時間を設けました。お父さんたちが夢中になってレジンで可愛いチャームを作り、お母さんにプレゼントする微笑ましい場面も見られました。夜には花火も上がり、きょうだい児たちも大喜びでした」。

写真
キャンプでのプログラム、チャームづくりを楽しむ家族

そして、このキャンプには、単なるレクリエーションに留まらない「災害時の宿泊体験」という重要なテーマもありました。
「普段、病院の受診で外出には慣れているご家族でも、家の外でお泊まりをする経験はなかなかできません。当日は9月でしたが思いのほか暑く、エアコンのある部屋にいたものの、冷えるまではみんなで必死に子どもを扇ぎました。電源の確保や体温調整といった屋外での宿泊体験が、そのまま災害時のシミュレーションになりました」と丸山さんはいいます。
さらには、「家族の交流」、特にお父さん同士の繋がりが生まれたことが大きな成果であったといいます。
「普段の送り迎えはお母さんが多いのですが、キャンプではお父さん同士が一緒に作業をしながら自然と会話を弾ませていました。『子どもが熱を出した時、どこの病院に相談してる?』といった情報交換が活発に行われていて、男性同士のコミュニケーションの良い機会になりました」と丸山さんが語るように、子どもだけでなく「家族を丸ごと支援する」貴重な機会となりました。
翌朝、朝ごはんのサンドイッチを子どもと一緒に作ったお母さんからは、「こんなことができるのだと改めて知りました」という喜びの声も寄せられ、体調を崩す参加者もなくキャンプは大成功となりました。

商店街がランウェイに!ミキハウスとコラボしたファッションショー

もう一つの大きなイベントが「秋祭り」です。きっかけはコロナ禍の2020年、幹らんどの広い敷地を活かして何かできないかと、地元の石鹸会社の機材を借りて「手洗い研修」という名目で野外イベントを始めました。スタッフやボランティアがコーヒーの焙煎や豚汁作りを行い、年々規模を拡大して、今では近隣住民が150名も訪れるお祭りへと成長しました。
そして今年度は、事業所を飛び出し、和歌山駅隣の商店街を舞台に「ファッションショー」を開催しました。
ご自身も障害のあるお子さんの子育てをしているという麓さんはこう語ります。
「私は他県から和歌山に移り住んだのですが、最初は障害に対して少し閉鎖的で、『隠すべきもの』という空気がまだ残っているように感じました。知らないからこそ距離ができてしまう。だからこそ、不特定多数の人が集まる場所で、障害の有無に関わらず子どもたちが主役になれるイベントをしたかったのです」
この企画では、子ども服ブランドの「ミキハウス(MIKI HOUSE)」とのコラボレーションが実現しました。『mikihouse笑顔プロジェクト』を通じて、リメイクして衣装にできるように、特別に商品サンプルの服を選んで提供していただけたそうです。それを幹らんどのスタッフたちが、子どもたちの胃ろうチューブやギプスに合わせて着やすく、かつ可愛く見えるように一着一着リメイクを施しました。

写真
ヘアメイクでファッションショーのモデルさんに変身

当日の朝、美容室でヘアメイクをしてもらった子どもたちがランウェイを歩くと、イベントを知らずに通りがかった人々も次々と足を止めました。
「みんな『可愛い!』『ステキ!』と一生懸命に写真を撮ってくれました。駅前で歌っている人がいても素通りする人が多い中で、みんなが足を止めてカメラを向けてくれた。子どもたちが主役として輝き、『地域にはこういう子たちも普通にいるんだ』ということを自然な形で知ってもらえたのは大正解でした。子どもたち自身もモデルさんとして注目されることで、自己肯定感を高める素晴らしい経験になりました」と丸山さんは喜びを語ります。

写真
商店街のランウェイを誇らしげに歩く子どもたち

丸山さんは、日頃のケアとインクルーシブな環境の重要性について、あるエピソードを交えて語ってくれました。
「酸素チューブをつけている子が一般的な保育所に行く際、『チューブが踏まれると危ないから、酸素ボンベをリュックのように背負わないと受け入れられない』と言われたことがありました。でも、うちのような障害のある子もない子も混ざり合う環境では、チューブが3本重なっていても、子ども同士で『これは大事なものだ』と理解し、自然と踏まないように気をつけるようになります。最初から隔離するのではなく、幼い頃から共に過ごす環境を増やすことで、お互いを思いやる心が育つのです」
商店街でのファッションショーは、まさにそうした「共に生きる社会」への第一歩を示すものでした。

「見る・聞く」支援で拓く、子どもたちの未来

キャンプや秋祭りの成功を経て、五感で感じることを大切にしている幹らんどでは、今後の目標として重症心身障害児の「視覚」と「聴覚」の発達支援にさらに注力していきたいといいます。
「視力検査のランドルト環で『右』『左』と言えない重度の子は、見えにくさが発見されにくく、未矯正のまま過ごしているケースが多くあります。日本財団の助成を受けて専門的な測定を行ったところ、多くの見逃されていた遠視や乱視が見つかりました。手元が見えていないから積み木が積めない、文字が書けないのに、それを『不器用』や『学習障害』と認識されている子どもたちがいます。眼鏡で矯正したり、見え方を指導したりして、見えるようになると、その子なりの発達が劇的に進む事例を何度も見てきました」と丸山さんは強調します。
連続した文字を書くとひどく疲れてしまう子も、実は見えにくさが原因であることが多いといいます。また、聴覚についても同様に、早期発見と適切な支援の重要性を訴えます。
「視覚的な反応が良い子は、実は聞こえていないのに周りの動きに合わせて動けるため、聴覚障害が見過ごされがちです。また、聴覚過敏があるからといって安易にイヤーマフをつけてしまうと、発達に必要な音まで遮断してしまう危険性があります」さらに、補聴器をつければ言葉が入るわけではなく、残された聴覚を活用して発声・発音を促す「聴覚口話法」などの専門的な支援方法を、支援者自身がもっと学んでいく必要があると指摘します。
「子どもには常に、たくさんの選択肢を用意してあげたいのです」と丸山さん。早期に「見えにくい」「聞こえにくい」を発見し、適切な環境を整えることが、その子の人生を大きく変えることに繋がります。
「重度な障害があっても子どもたちの瞳は輝いています。障害の有無にかかわらず、瞳を輝かせている子どもたちを多くの人に見てほしい」
丸山さんのこの言葉には、幹らんどが目指す社会への強い願いが込められています。自然の中で五感を育み、地域社会のバリアを溶かし、専門的なケアで子どもたちの隠された可能性を引き出す。幹らんどの挑戦は、これからも地域と共に続いていきます。

「日本財団 難病の子どもと家族を支えるプログラム」に興味をお持ちの方は、ぜひ難病児支援ページをご覧ください。

文責 ライター 林口ユキ
日本財団 公益事業部 子ども支援チーム