ラジオ放送を通して被災者に「安心」を届ける

災害時に情報を入手するために被災者はさまざまなメディアを活用していますが、ラジオはそんな災害時に有効なメディアの一つです。今回の地震で特に大きな被害を受けた厚真町でも、町役場の職員が中心になって「あつま災害エフエム」をラジオ放送しています。
災害情報をラジオで伝える
平成30年北海道胆振東部地震は被災地に大きな被害をもたらしましたが、被災者は災害に関する情報を入手するために、さまざまなメディアを活用しています。テレビ、新聞などの従来からあるメディアに加えて、Facebook、Twitter、LINEなどインターネットを活用したメディアまで幅広いツールが活用されました。そんな数ある災害時の情報入手方法の中でもラジオは有効な情報入手手段であり、多くの被災者がラジオで情報を入手しています。地震により特に大きな被害を受けた厚真町でも、町役場の職員が中心になって「あつま災害エフエム」を放送しています。
「時計の針はお昼12:00を回りました。こちらは臨時災害放送局、あつま災害エフエムです。周波数は81.4Mhzで厚真町役場からお送りしています」
パーソナリティを務める厚真町役場の佐々木さんが慣れた様子で放送を始めました。

厚真町役場では、9月20日から災害ラジオの放送を開始しており、土日以外は8:00、12:00、18:00にラジオで情報発信を行なっています。防災行政無線で流している情報から町内のちょっとしたお知らせに至るまで、被災者にとって有益と思える情報がラジオで放送されます。
「ちょっとした息抜き情報でも発信できるのがラジオの良さですね。ラジオは“ながらメディア”なので、何か作業をしながらラジオを聴くという人が多いです。そのために被災者の生活に入り込んで必要な情報を伝えることが出来ます」
厚真町役場の丸山さんがラジオで災害情報を届ける意義について説明してくれました。

行政が災害に関する情報を伝える手段として、防災行政無線を活用することが一般的ですが、防災行政無線は必ずしも全ての被災者に情報が伝わるとも限りません。そのために、災害情報の発信手段を多様化しておく必要があり、広報誌や新聞などできるだけ多くのメディアを活用して情報発信することを心がけているとのことです。
「切羽詰まった状態が常に流れているのではなく、途中で音楽が挟まれているのが良いですね。ラジオは他のメディアよりも視聴者にとって身近で感覚的に近いメディアなのだと思います」
丸山さんが更に詳しく教えてくれました。

あつま災害エフエムは、すぐそばにあるラジオ局として被災者に寄り添って情報発信を続けており、被災地内からは「いつもの人の声に救われています」というコメントが届くそうです。また、被災地外からも「頑張ってください。一日も早く元の生活を送れるように祈っております」というコメントが寄せられており、支え合うメディアとして浸透しつつあります。
災害ラジオを通して被災地を支援する
「ラジオは停電になっても電池があれば動くので、災害時に使いやすいメディアです。最近では災害でSNSが活用されていますが、SNSは情報が一気にシェアされることがある一方で時系列が混同されやすく、古い情報がいつまでもシェアされ続けて誤解を招くこともあります。また、ラジオは喋っている人が町の知っている人なので親しみやすいという側面もあると思います」
胆振東部地震災害FM支援会の沼田勇也さんが説明してくれました。

胆振東部地震災害FM支援会は今回の地震で大きな被害を受けた厚真町とむかわ町で災害ラジオの開局・運営支援を行なっている団体です。災害ラジオを放送するためには、まず総務省からラジオ放送の許可を取り、ラジオを放送するための機材を準備します。次にラジオをいつ、どれくらいの頻度で流し、どんな内容について話すのかを考えていく必要があります。沼田さんは普段から室蘭でコミュニティラジオの放送をしており、今回の地震ではそのノウハウをもとに、厚真町とむかわ町の災害ラジオの開局・運営を支援されています。
「ラジオの大きな役割として災害時に情報を発信するという側面があります。ラジオは公共のものであり、災害時に情報発信することはとても大切です。だから今回は災害ラジオの開局・運営を支援しようと思いました」
沼田さんがラジオを通して被災地を支援しようと思った理由について語ってくれました。過去には東日本大震災でも災害FMの現場を見てきており、その経験が今回の支援でも活用されているようでした。
日本財団では胆振東部地震災害FM支援会へ助成を行なっております。災害ラジオへの支援を通して、少しでも被災者の生活に密着した情報が提供できればと考えております。
取材・文:井上 徹太郎(株式会社サイエンスクラフト)
写真:和田 剛