病児と家族が共に過ごす特別な時間奈良親子レスパイトハウスの取り組み
こんにちは。「難病の子どもと家族を支えるプログラム」活動報告ページへようこそ。
国内事業開発チーム 難病の子どもと家族を支えるプログラムチームです。
今回は社会福祉法人東大寺福祉事業団 奈良親子レスパイトハウスの取り組みをご紹介します。
生きてきてよかったと思えるサポートを
医療の発達と共に救われる命が増え、退院して在宅で過ごせる子どもが増える一方、家族は24時間介護に追われ、息をつく間もない状況です。社会福祉法人東大寺福祉事業団奈良親子レスパイトハウスでは、そんな親子が揃ってほっとできる時間を作りたいと、東大寺の境内を観光したり緑の中を散策して、家族がゆったりと過ごせる特別な機会を提供しています。
「医療は命を守るだけでなく、生きてきてよかったと思えるサポートも必要だと考えています」と、東大寺福祉療育病院院長でもある奈良親子レスパイトハウス代表幹事の富和清隆さんは言います。
日々命が脅かされる切実な状態の中でも毎日を豊かに生きるためのサポートをするイギリスの子どもホスピス、ヘレン・ダグラス・ハウスの活動に感銘を受けた富和さんは、一時的に病児を預かり介護の肩代わりをする従来のショートステイ(レスパイト)とは異なり、家族が共に休息し、「この子の親でよかった」「家族でよかった」と親子である喜びを実感できる機会の提供を「親子レスパイト」と提唱し、2010年より奈良親子レスパイトハウスの活動を始めました。
大仏様のお膝元で奈良を堪能
奈良親子レスパイトハウスでは、親子と家族を招いて、東大寺の旧職員宿舎であった敷地内のレスパイトハウスに滞在してもらいます。東大寺は約10万坪の敷地に多くの建造物があり、見どころが満載。緑の中で鹿と触れ合ったり、お寺を拝観したりと奈良の文化や自然を体感することができ、レスパイトハウスの庭からは若草山や大仏殿も見られます。2018年には日本財団の助成でレスパイトハウスに併設するキッチンサロンを作り、ボランティアが奈良の素材で作った手料理を提供できるようになりました。
これまで外に出ることがなかった親子は、「初めての家族旅行に勇気をもらえた」と、その後にユニバーサル・スタジオ・ジャパンへ行ったという報告も。家族で外出や泊りがけの旅行をするなど、出来ることが増え、未来の楽しみや人生の幅が広がるきっかけになっています。
奈良親子レスパイトハウスでは、主治医が必ず同行することになっています。主治医や看護師といった親子を支えてこれからの人生も長くかかわる人たちと一日を共に過ごし、一緒に食事をする体験を通じて、これまでとは違った信頼関係が生まれると言います。
みんなで楽しみ、笑顔が溢れる
複数の家族が集まりイベントを楽しむ日帰りレスパイトも定期的に開催しています。流しそうめんの会では、お坊様がご自分の住む大仏殿周辺のお寺から切り出してくれた竹で流しそうめんをして、お土産のスイカでスイカ割り大会。奈良の秋を楽しむ会では、奈良女子大学の学生が中心となって考えた献立で奈良の秋の味覚を堪能。音楽の催しや絵本の朗読会、境内の散策も楽しみました。学生や一般の会員ボランティア、それに地元の企業の協力も得て、みんなで楽しく過ごします。
「楽しいことが何よりです。参加者のみなさんが楽しんで、ボランティアにも楽しんでもらえたら。それもやはりお子さんやご家族に伝わるので」と事務局の青田順子さん。ボランティアは医療関係者、会社員、学生、仕事をリタイアした年配の方から子どもまで幅広い年齢層。どんなご飯を作ってどんなことをしようかと、みんなで和気あいあいと、準備をします。
スピリット(精神)を伝えていく
奈良親子レスパイトハウスでは、活動にあたり「奈良を味わう」「寧楽(なら)に遊ぶ」「善(よ)き友に会う」という3つのスローガンを掲げています。「善き友に会う」とは、普段出会うことのないような人との出会いや、一生のうちで会えてよかったと思える出会いやご縁のこと。そして家族の絆を深めてもらうことを大切にしています。
「ご家族は単なる受益者ではなくて世の中に知恵を発信する人。当たり前と思っていることが実はかけがえのないことなのだと気付かせ、生きる喜びのヒントをくれる人。お金や名誉以上に大事なことを教えてくれる人。大事だと思っていることへのズレ…新しい価値を与えてくれる存在。初めは彼らを支えると思っていましたが、これまでの10年間の活動を通じて、そうした気付きがありました。」と富和さん。
「団体を大きくすることは考えておらず、これからも親子レスパイトのスピリットを大事にしながら地道に身の丈にあった活動をしていきます。我々が社会に根付いて続けてきたことや学んだことを、他のグループが様々な形で全国に広げていってくれたら」。
「また、すでにある福祉施設の中でも医療制度、福祉制度に乗る形で、重度の子どもが入所したり、一時預かりのレスパイトが行われています。そこにもう少し、我々が純粋にボランティアでやっている民間としてのスピリットを伝え、そうした施設に影響を及ぼし、お互いに良いところを補い合い与え合って新しい支援の方法を開発する。これをやらないといけないなと思っています」と富和さんはこれからの活動への思いを語ってくれました。
日本財団 難病の子どもと家族を支えるプログラムでは、日本全国に難病の子どもと家族の笑顔を増やしていきます。
難病の子どもと家族を支えるプログラム
社会福祉法人東大寺福祉事業団 奈良親子レスパイトハウス
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文責 ライター 玉井肇子
日本財団 公益事業部 国内事業開発チーム 中嶋弓子
日本財団は、「生きにくさ」を抱える子どもたちに対しての支援活動を、「日本財団子どもサポートプロジェクト」として一元的に取り組んでいます。