ウクライナ避難民が日本でぶつかる最も大きな壁とは?
日本財団では、ウクライナ避難民の日本への受け入れのため、非営利団体への助成プログラムのほか、新たにウクライナ避難民支援基金を設立するなど、支援活動を行っています。
認定NPO法人 地球市民の会と公益財団法人 佐賀県国際交流協会は、日本財団の助成プログラムに採択された、佐賀県でウクライナ避難民の受け入れや生活支援を行う団体です。両団体への取材を通して、全2回にわたり、佐賀県におけるウクライナ避難民受け入れと日本での生活の現状をご紹介します。
後編となる今回は来日したウクライナ避難民への生活支援に尽力する佐賀県国際交流協会の黒岩春地さんに、ウクライナ避難民の皆さんの日本での様子やどのような支援が求められているのか、お伺いしました。
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佐賀県国際交流協会がウクライナ避難民の生活支援を担当するまで
2020年2月にはじまったロシア軍によるウクライナ侵攻に対して、佐賀県と佐賀市は3月9日に避難民の受け入れを表明。同時にウクライナ避難民への支援を表明していた佐賀県のCSO(Civil Society Organizations:市民社会組織)も連携し、避難民の受け入れから生活支援までをワンストップで行う「SAGA Ukeire Network 〜ウクライナひまわりプロジェクト〜」が発足しました。
佐賀県国際交流協会も「SAGA Ukeire Network 〜ウクライナひまわりプロジェクト〜」に参画する団体のひとつ。創立32年の国際交流団体である佐賀県国際交流協会では、多文化共生の地域づくりに力を入れており、佐賀県内に住む6,000〜7,000人の外国人が地域と溶け込むことができるようにサポートしています。災害時や新型コロナウイルスの蔓延時などは、難しい日本語の情報を理解できない外国人のために、多言語に翻訳した情報を発信したり、通訳の派遣なども行います。
今回の「SAGA Ukeire Network 〜ウクライナひまわりプロジェクト〜」でも、主にウクライナから来日した避難民の皆さんが日本で暮らせるようにするための、生活支援を担当しています。
「今回のウクライナ避難民支援について、当初は協会の内部で議論が起こりました。なぜなら佐賀県内にはロシア国籍の方も、ベラルーシ国籍の方もいらっしゃいます。すべての国の方を支援する立場にありながら、ウクライナ避難民だけを特別支援するのはどうか、と。
でも私自身が理事長としてどうしても弊協会の立場を表明したかったんです。それで協会の皆さんの了解を得て、3月7日に声明を出しました。各所に差し障りがないようにただ『祈っています』という表現で。
その後、佐賀県・佐賀市・他のCSO団体も動き始めたことで、今では私たちの協会も積極的にウクライナ避難民支援に動けるようになりました。
佐賀県国際交流協会では、ウクライナに限らず、在日外国人のための総合相談窓口を持っています。今回はその事業の延長線上ということで、ウクライナ避難民の皆さんのための総合相談窓口を担当しているんです」(黒岩さん)
日本語が話せないウクライナ避難民をどのようにサポートするか
多くのウクライナの人々にとって、ロシア軍による侵攻は突発的に発生したものです。そのため、日本に避難することも、予定されたものではありません。右も左もわからない異国の地でどうやって生活していけばいいのか。当然ながらウクライナ避難民の受け入れは、その後の生活支援もセットで考えなければなりません。
「受け入れ前の面接にも参加しますが、基本的に私たちが担当するのは佐賀にいらっしゃった後の生活支援です。避難民の皆さんは3カ月の短期滞在ビザでまずは入国しますが、来日後すぐに一緒に出入国在留管理庁に行き、1年期限の就労可能な在留資格に変更します。
その後は佐賀市役所に行き、住民登録や保険の手続き。さらに中学生や高校生のお子さんがいる場合には市の教育委員会と面談をして、どういう教育機会を提供してあげられるか話し合います」(黒岩さん)
慣れない場所での生活。やはり、その中で最も課題になるのが「言葉」の問題だそうです。
「やはり圧倒的に言葉の問題が大きくて、佐賀県国際交流協会では、日本語教育のカリキュラムも作成して、語学学習のサポートも行っています。
皆さん日本語を話せない方が多く、英語を話せる方も3割程度。英語が話せれば対応しやすいんですけどね。基本的にはウクライナ語かロシア語になる中で、どう就労に結びつけるか、どう学校に行ってもらうかを考えると、やはり難しい問題だな、と感じます。
元々ウクライナで日本語を専攻していたという方もいて、そういう方は仕事にも就けているのですが、そうでない方は最低限日本語を覚えてもらわないと、なかなかアルバイトとして就業するのも難しい。
また、避難民の皆さんはコミュニケーションを取りにくいため孤立化しやすい傾向にあり、私たちとしては何とかそこを上手くほぐしていかないといけないと思っています。
私たちの協会にはウクライナ語やロシア語ができる方がボランティア登録してくださっているので、本当に必要な時には通訳をしてもらったり、多言語コールセンターというサービスで三者通話したり、翻訳機を利用したりと、試行錯誤しながら彼らとコミュニケーションをとっています。
最低限の生活をするための家具や家電を買いにいくのにも、サポートが必要になりますから、避難民の方の生活サポートにはどうしてもこういった人手が必要になってしまいます。それが受け入れの人数を増やすにあたってのボトルネックになってしまう部分もあります」(黒岩さん)
継続的な支援のために必要なこと
佐賀で最初の避難民の方を受け入れてから約3カ月(取材時)。長く滞在している中で、避難民の皆さんの生活へのニーズも徐々に変わっていくそうです。例えば、ヨーロッパでは一般的な調味料が手に入らず、食材や料理ができないなど、そういった細かいニーズに応えていくためには、やはり生活支援をさらに手厚くしていく必要があります。
黒岩さんは継続的な寄付の重要性について語ります。
「皆さまからのご支援に心から感謝しています。避難民の方はいろいろな想いを抱えて佐賀で生活を始めているわけですが、そういった避難民の方たちも本当に感謝してくださっています。ウクライナ避難民の方たちの支援を行うにあたっては、やはり私たちの想いだけで続くものではなく、経済的な支えが必要になります。今後も引き続きご支援のほど、よろしくお願いいたします」(黒岩さん)
日本で生きていくという選択肢を、ウクライナの人々へ。
日本財団では、ウクライナ避難民支援を行う各団体への助成プログラムのほか、これまで独自でウクライナ避難民支援も行い、合計1,191名(2022年8月31日時点)に渡航費・生活費・住環境整備費支援を行ってきました。
また、日本に避難してきたウクライナの人々へさらなる支援を行うため、ウクライナ避難民支援基金を開設しています。いただいたご寄付はウクライナ避難民の皆さんが安心して生活を送り、地域に溶け込むことができるように、日本語学習の支援、生活相談窓口、物資の配布、地域イベントでの交流などに使われる予定です。