ショートステイと児童養護施設と連携して、居場所をつくる。東京・清瀬「そだちのシェアステーション・つぼみ」
東京都の多摩地域北部に位置する、清瀬市。市の中心である西武鉄道池袋線「清瀬駅」から徒歩10分ほど、古い商店も残る住宅街を歩いて行くと、一面ガラス張りの大きな窓が印象的な木造の建物が現れます。2022年4月に開所した子ども第三の居場所「そだちのシェアステーションつぼみ」です。
運営するのは、1958年に設立された社会福祉法人子供の家。清瀬市で「児童養護施設子供の家」や「自立援助ホーム あすなろ荘」、国分寺市で「アフターケア相談所ゆずりは」を運営しています。
実は約10年も前から「地域の中に子どもの居場所をつくりたい」と構想を練っていたそう。児童養護施設が居場所を運営する意味について、「そだちのシェアステーションつぼみ(以下、つぼみ)」施設長の早川悟司さんにお伺いしました。
木の温もりに包まれた「そだちのシェアステーションつぼみ」
拠点があるのは、「児童養護施設子供の家(以下、子供の家)」と同じ敷地内。一階は、子ども達が過ごすコミュニティスペースです。キッチンやテーブル、お風呂、トイレ、事務室などがあり、子どもたちが最も多くの時間を過ごす場所です。
階段を登って2階へ上がるとロフトスペース。たくさんの本が並んでいて、読書をしたり絵を描いたりしやすいように、机も備え付けられています。
外に出れば、大きな木の下に遊具や小さなグラウンドがあり、滑り台や野球などをして楽しむ子どもたちの姿が見られました。
支援することで生まれる社会的養護の二大不条理
拠点を利用する子どもたちは、清瀬市内の小学生19名。もともとこの地域で児童養護施設を運営し行政との関係性もできていたため、開所して間もなく定員は埋まったそうです。約10年前に「子供の家」の施設長として着任した当時から居場所の必要性を説いていた早川さんの想定通り。「ニーズの高さを実感している」と話します。
「20代から児童福祉の仕事をする中で目にしてきたのは、保護された子ども達が受ける数々の不条理でした」
早川さんは社会的養護の二大不条理があると話します。一つが、18歳になったら児童養護施設から出ないといけないこと、もう一つが家庭・学校・地域との関係を断ち切られることです。
「児童養護施設で暮らせるのは基本18歳まで。近年は制度拡充により最長22歳年度末まで入所を継続できますが、利用する施設は少なく、施設を出た後は何の後ろ盾もありません。にも関わらず社会に放り出すのはおかしいですよね。もう一つは、保護されることで慣れ親しんでいた家庭・学校・地域から引き離されること。これらを一気に失うのは、積み上げてきたものをある日突然知らない人から人生のリセットボタンを押されるのと同じです」
児童養護施設は、元の生活地域と関係なく空き状況に応じて入所施設が決まります。現に「子供の家」で暮らしているのは、清瀬市外から来た子どもたちばかりです。
「子供の家」のスタッフは、そうした子どもたちが将来の展望を持てるように、暮らしの基盤を整えながら関わっていきます。もう一度前を向く子どももいますが、「とても難しいこと」と早川さんは険しい表情で語ります。
「積み上げてきたものを奪われた子どもは刹那的になります。反応性愛着障害を発症する子も多い。保護という名のもと家庭・学校・地域を奪われた望まぬ副産物です」
家庭・学校・地域、3つの繋がりを守る居場所
そうした課題を目の前にして、子供の家では22歳年度末までの入所を基本として支援を継続しています。また、自らのタイミングで社会に出られるようにする施設独自で借り上げたアパートでの一人暮らし練習や、寄付金等で支えられる自立支援基金の活用による多様な体験や進路の保障など、制度の枠を超えた取り組みも行ってきました。
約10年前に始まった居場所構想もその一つ。
「児童養護施設等へ保護される前に、孤立しがちな家庭や子どもと繋がることができたら、知らない土地の施設に入る必要はありません。つぼみと2階にあるショートステイ(宿泊保育)を利用してもらうことで、家庭・学校・地域との関係を切らずに支援することができると考えました」
居場所のみであれば毎日子どもを家庭に返さなければいけませんが、ショートステイがあることで、万が一の時も保護者と相談の上、朝まで預かることもできます。また「子供の家」があるため、スタッフは24時間体制、看護師も常駐しているので連携しながら手厚い支援ができるところも特長です。
地域の人も巻き込んで、豊富な体験機会を提供
現在は週6日を居場所として開いており、食事の提供や季節イベントの実施などをしています。
つぼみが開所したことで、孤立しがちな子育て家庭と子ども食堂も含めた地域とのつながりができ、「そだちのシェア」ができるようになりつつあります。
取材に訪れたのは小学生の夏休み期間。「動画をつくってみよう」「水族館へいこう!」「ペットボトル万華鏡を作ろう!」など数々のイベントが予定されていました。
初めて実施した「お泊まり会」では、みんなでつぼみに1泊。夜は、車で10分ほどの温泉施設に行ったそうです。
「車ならすぐの場所ですが、歩くには遠い距離です。子どもたちは誰も行ったことがありませんでした」
かき氷イベントでは、三軒茶屋で人気のお店が出店し、かき氷やポップコーン、わたあめを提供し、大行列ができたそうです。また、地域の人が食事を作りみんなで食卓を囲むなど、地域の人も運営に関わり、遊びに来る場所に育ってきています。
「つぼみに来るまで、放課後は一人で家で過ごす子どもが多かったのではないでしょうか。どのようなイベントやプログラムをしても喜んでくれます」
安心できる環境があれば子どもは変わる
開所から半年。まだまだ始まったばかりではありますが、子どもにも少しずつ変化が見られることが何よりも嬉しいと早川さんは話します。
「乱暴で、最初は『おっさん誰?』と僕に言ってきた男の子が、敬語を使ったり『園長〜!』と話しかけてくれたりするようになりました。日増しに変わっていく姿を見ていますよ。ここに来れば誰かしら大人がいるし、暴力を振るわれることもない、話も聞いてもらえる。そんな安心感があるからですかね」
また、保護者ともお迎えのタイミングで話をするなどして、子育てについて悩みを抱えているご家庭には、タイミングを図りながらお話を聞いたり相談に乗れるような関係づくりを始めています。居場所の登録家庭とは別に、地域で困難を抱えている家庭を訪れて家庭内の環境整備をお手伝いすることでのアウトリーチ活動も微力ながら始めています。
「子育て支援センターではなく『そだちのシェアステーションつぼみ』という名前にしたのは、子育てを支援するのではなくシェアしたいから、センターではなくステーションにしたのは、こちらからご家庭に出向いていく姿勢を表したかったからです」
つぼみの活動は、まさにその名前を体現しているものでしょう。
ショートステイと子ども第三の居場所が一体となった拠点はまだまだ少なく、都内でも稀有な事例です。いざとなったら宿泊でき、適切な施設や制度に繋いでくれる「つぼみ」は、困難な状況にある家庭にとって心強い味方です。
子ども第三の居場所は、子どもの居場所であり親の居場所でもある。社会福祉法人として地域と深いつながりのある「つぼみ」は、今後も既存の制度の枠にとらわれず、必要とされる居場所をつくり続けていくことでしょう。
取材 北川由依