離島だからこその困りごとや「あったらいいね」に向き合う。鹿児島・沖永良部島「ダ・ヴィンチ」

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子ども第三の居場所「ダ・ヴィンチ」

九州本島から南へ552km、沖縄本島からは北へ約60km進むと、奄美群島南西部に位置する鹿児島県沖永良部島があります。人口12,000人足らずの小さな島に、2022年1月、常設ケアモデルの子ども第三の居場所「ダ・ヴィンチ」がオープンしました。

離島で子育て支援のNPOを運営して16年

沖永良部島は和泊町と知名町の2町からなり、「ダ・ヴィンチ」は北側に位置する和泊町にあります。運営は特定非営利活動法人心音(こころね)。理事長の安徳建二さんと安徳美智子さんが立ち上げました。

福岡生まれ・長崎育ちの建二さんは、以前東京をはじめ全国各地で働いていたそう。島の自然やゆったりと流れる時間に魅せられ移住してきました。
美智子さんは、沖永良部出身。保育園の園長や役場の保健福祉課で働いた経験があり、現場と行政の立場から子どもの育つ環境を長年見てきました。

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右:安徳美智子さん

そんなお二人は、2006年子育て支援を目的に心音を設立。以来、住民の「あったらいいね」を地域の課題として解決すべく、児童福祉や障害者福祉の領域で活動してきました。

活動の中で大きな課題として浮き彫りになったのが、島の子育て環境の脆弱さです。

「なかには本土から嫁いできた方、海外から嫁いでくる方もいます。文化の違いに戸惑っていたり、小さい島だからこそ悩みをどこに相談したらいいかわからないという声を耳にしました」(美智子さん)

「外の人からは、島はこじんまりとしたコミュニティだから、祖父母が近くにいて頼れて、ご近所付き合いもあるんじゃないか。みんなで子どもを見守っているんじゃないかと思われがちです。しかし、コミュニティが小さいゆえ、子どもが不登校になっても誰にも相談できない保護者が多くいらっしゃる現状があります」(建二さん)

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安徳建二さん

浮き彫りになった子どもの現状

そんな声を受けて、様々な子育て支援を模索した心音。2016年には夏休みに子ども向けの学習塾を開き、日中居場所のない子どもを受け入れました。

先生には本土の大学生を招待しました。なぜなら島には高校までしかなく、子どもたちは大学生と触れ合う機会がないため。卒業後は、進学よりも就職する人の方がまだまだ多く、ロールモデルがいないことも島の課題の一つと考えています。

「学習塾を開いてみると、利用はひとり親世帯が多いこと、子どもの学力が全国平均よりも低いことがわかりました。また、昼ごはんの時間になっても子どもが自宅に帰らないので理由を聞いてみると、家にご飯がない、お金も持たせてもらっていないから弁当を購入することもできない現実が見えてきました」(建二さん)

そこで2年目からは、調理人を雇い、子ども食堂を学習塾と合わせて実施することでお昼ご飯を提供。子どもがお腹いっぱい食べられて、勉強もできる、そして保護者が働いている間の居場所にもなる環境を整えました。

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拠点で育てている島バナナ。島のフルーツを使った手作りケーキやジュースをおやつに提供することが多い。

また、利用者に発達障害の傾向が見られる子どもが多かったことから、2016年には放課後等デイサービス「サランセンター」を開設。一人ひとりの特性に合わせた療育支援も始めます。

心をひらけば、遊びも勉強も前向きになる

目の前にいる人の声を聴いて、できることを増やしてきた心音。様々な助成金を活用しながらも、不安定な運営が続く中で見つけたのが、日本財団の助成金でした。以前は築50年の民家を借りて学習塾を運営していましたが、居場所として木造2階建ての施設を新築。子どもが安心安全に過ごせる環境が整いました。

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「ダ・ヴィンチ」の1階はリビングやキッチン、2階は学習コーナーや相談室などがある。子どもはのびのび過ごせ、大人は安心して困りごとを話せる環境になった。

「お風呂に入れず、洗濯していない服を学校に着て行って友達に揶揄されて、自信を無くして不登校になった子どももいます。ダ・ヴィンチに来れば、お腹いっぱい食べられる、なんとかなると子どもにも保護者にも思ってもらえるような場所にしたいんです」(建二さん)

現在「ダ・ヴィンチ」には午前中は不登校の子ども、午後からは様々な困りごとのある家庭の子どもが利用しています。

拠点として勉強や遊びの時間を決めたプログラムを設けながらも、一人ひとりの特性に合わせて柔軟に対応しています。

「ここでは音楽を聴いたり絵を描いたり、やりたいことをやってほしい。得意なことを見つけて、スタッフや先生に褒めてもらった体験があることで、心が育ち、生きる力に繋がっていくと思います」(美智子さん)

一年ほど不登校になり言葉を失っていた子どもは「ダ・ヴィンチ」に通いはじめて1カ月ほどでおしゃべりが戻りました。また、好きだった魚釣りにスタッフと毎日のように出かけ、魚の標本を作成し、「学校で発表したい」と思うようになり登校を再開したそうです。

「心をひらければ、物事に前向きに取り組め、集中力も付きます。不登校期間にダ・ヴィンチで勉強をし、通信制の高校に合格した子どももいます。人間って変われるんです」(建二さん)

全ての子どもに手を差し伸べる環境を

沖永良部島には文化的な施設がなく、唯一あった本屋もインターネットの発達に伴い閉店しました。農業や漁業が主産業のため島で食べることに困りませんが、正規の仕事数は限られているため、ひとり親世帯が子どもを育てられるだけ稼ぐことは容易ではありません。

「高校卒業後に本土へ行き、島とのギャップについていけず、結婚・離婚した後、子どもを連れて島に戻ってくる女性が多くいます。その格差を少しでも埋めたい。ダ・ヴィンチで学習して基礎学力がつき、本土に出ても生活していける力を身につけてほしいです」(建二さん)

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拠点近くからの風景

ダ・ヴィンチは、奄美群島第一号の子ども第三の居場所であるため、近隣の島々から視察に来られる方が多くいらっしゃいます。
各島の話を聞くなかで、沖永良部島の課題は、他の島でも起こっていることだとわかってきました。

「みなさん思いはあるけど、お金がない、施設がない、人がいないと思いを遂げることができていません。ありがたいことに僕たちが日本財団さんの助成をいただいて、島でもできるんだと思う機運が高まってきています。沖永良部島だけではなく近隣の島とも手を取り合って、困っている子ども一人残らず手を差し伸べられる環境をつくりたいですね」(建二さん)

「子どもはもちろんですが、保護者も苦しんでいます。パートで得た月8万円の収入で、家賃を払い子どもを育てることは困難です。困りごとを抱えた方が、ダ・ヴィンチに行けばなんとかなると思える、駆け込み寺のような場所になっていけたらと思います。子どもには笑顔で過ごして、好きなことやりたいことで社会に出られる自信をつけてほしいですね。日本財団さんからいただいた支援をありがたく受け取って、きちんと地域にお返ししていきたいです」(美智子さん)

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リビングで遊ぶ子どもとスタッフ。

外から見る島のイメージだけではわからない、子ども第三の居場所の必要性を理解する時間になりました。現在、沖永良部島には拠点が2ヶ所開所し、1ヶ所が開所準備中です。小さな島に拠点が3ヶ所できることでよりきめ細やかな支援ができる環境が整いそうです。こちらは別途ご紹介します。

取材:北川由依

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