島の内外を結び、子どもの選択肢を増やす。鹿児島・沖永良部島「e.lab〈みんなのおうち〉」

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コミュニティモデル「みんなのおうち」の外観

鹿児島空港から飛行機で1時間15分ほどの場所に位置する、沖永良部島。和泊町と知名町の2町からなる島に、約12,000人が暮らしています。

この小さな島に、子ども第三の居場所「ダ・ヴィンチ」が開所したのは2022年1月のこと。それから一年未満の間に、現在準備中も含めて3つの拠点が生まれました。

今回ご紹介するのは島2つ目の拠点として2022年5月に開所した「e.lab(イーラボ)〈みんなのおうち〉」。「ダ・ヴィンチ」から車で15分ほど離れた場所にある空き家を改修し、コミュニティモデルとして地域に開かれた居場所を目指しています。

出迎えてくれたのは、「e.lab〈みんなのおうち〉」を運営する一般社団法人えらぶ手帖のみなさん。取材に訪れた日、代表のかまゆきみさん(かまさん)は遠方にいらっしゃるとのことで、オンラインでご案内してくれました。

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左から、藤井わかさん、大村しのぶさん、理事の地下智隆さん

島留学から始まった居場所づくり

「e.lab〈みんなのおうち〉」があるのは、島の南西に位置する知名町。全校生徒はわずか十数名、島の中でもっとも生徒数が少ない小学校のある校区にあります。

えらぶ手帖は、2017年に地域おこし協力隊として東京から沖永良部島にやってきた代表のかまさんと、フィンランドで教員経験のある理事の地下智隆さんが立ち上げた団体。当時空き家だったこの場所を「地域のために活用できないか」と大家さんから相談を受けて始めたのが、島留学の制度でした。

「空き家を過疎化の進む地域のために役立てる方法として、島外の親子を受け入れる島留学を思いつきました。存続が危ぶまれる学校の生徒数にも貢献できます」(かまさん)

コンセプトを練る中で大切にしたことがありました。それがゆくゆく子ども第三の居場所を運営することにも繋がるもの。

「留学生のシェアハウスを作るなら、そこを地域の子どももご年配の方もみんなが集える場所にしたいと思ったんです」(かまさん)

こうして2021年度から、「えらぶゆりの島留学(以下、島留学)」をスタート。留学期間は1年間で、親子はシェアハウスで暮らしながら、豊かな自然を楽しみ、島の人との交流を深めていきます。

初年度は親子二組・子ども3名を受け入れ、今年度は親子三組・子ども3名が留学中です。

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代表のかまみゆきさん。

また、2022年春からは子ども第三の居場所の運営団体となり、シェアハウスの斜め向かいに「e.lab〈みんなのおうち〉」をオープン。島の子どもも島留学生も一緒に遊び、学べる環境を整えました。

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一階にはワンルームのキッチン付きリビングとスタッフが暮らす部屋がある。屋根裏は、子どもたちのお気に入りの遊び場だ。

“遊ぶように 学びながら 暮らす”

「e.lab〈みんなのおうち〉」のコンセプトは、“遊ぶように 学びながら 暮らす”。学びは机上のものだけではなく日々の暮らしの中に散りばめられているものだという考えからきています。

「以前、島の別地域の公民館で放課後のまなび場を開いていました。そこで気づいたのは、多くの子どもが暮らしと学びをかけ離れたものとして受け取っていること。学びを暮らしの中の楽しいものとして位置付けていきたいと思いました」(かまさん)

現在、拠点の登録者は約40名。毎週火曜日から土曜日まで開いています。放課後、宿題を終えた後は、曜日ごとにプログラムの趣向を変え、水曜日と金曜日は「学べる“あそびば”」、火曜日と木曜日を「遊べる“まなびば”」と位置付け、学びの機会をつくっています。

「学べる“あそびば”」と「遊べる“まなびば”」の違いとはどのようなものでしょうか。

「『学べる“あそびば”』は、気の向くままにやりたいことをやります。目的よりも、子どものやりたい気持ちを大切にしています。『遊べる“まなびば”』は目的を持って取り組むことを大切にしています。例えば、鬼ごっこにしても、ただやるのではなく新しいルールを作ったり、鬼ごっこ大会を企画したり。論理的思考力や想像力を働かせるようなアプローチをしています」(かまさん)

「遊べる“まなびば”」では、複数のプロジェクトも実施しており、これまでに「海のピクニックプロジェクト」「染め物プロジェクト」「畑プロジェクト」などが生まれてきました。

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海のピクニックプロジェクトの様子

好きなことを探究し、知識やスキルをシェアする

こうしたプロジェクトは全て、子どももしくはスタッフの興味関心や好きなことが形になったものです。
例えば、畑プロジェクトはスタッフのわかさんが「いい土からいい野菜ができて、食べると元気が出ることを伝えたい」という気持ちから、染め物プロジェクトはスタッフの大谷かなみさんが「自然由来の色彩の美しさを感じてほしい」と思ったところから、花や枯れ葉などさまざまなもので洋服を染めるようになりました。

「拠点は子どもも大人も誰もが自分らしくいられることを大切にしています。だからまずはスタッフが、やらされる感からではなく、やりたいことを自分らしくできることを大事にして、子どもにも自分らしくいることを伝えてほしいなと」(かまさん)

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拠点には畑があり、オクラやさつまいもなどを栽培。畑で取れた野菜でピザを作って、海へピクニックへ行ったこともある。

開所から半年が経ち、島の子どもと島留学生が共に過ごす「みんなのおうち」ならではの気づきも生まれています。

「島留学生が釣りをしたいと言うので、島の子どもに先生をしてもらいました。自分ができることを誰かに教える機会が少ないからでしょうか、すごく誇らしげな顔をしているのを見て、自己肯定感が育まれていると感じました。他にも、『この貝は美味しい』『パッションフルーツはこうやって食べるんだよ』など、島の子どもと島留学生が、お互いに持っている知識やスキルを自然と交換しているシーンを日常的に見ます。スタッフも移住者が多いので、島の子どもから教わることは多いですね」(地下さん)

島の良さを残しながらも、子どもの世界を広げる

えらぶ手帖が立ち上がって2年。かまさんが島に来てから5年半の月日が経ちました。スタッフも移住者が多く、また、えらぶ手帖には本土の大学生や大人も関わることから、島の外と中をつなぐ役割も果たしています。

外の視点を持ちつつ、中の実情も見てきた立場からして、子ども第三の居場所の必要性をどのように考えているのでしょうか。

「島にも都市の波が押し寄せてきていています。島に学童がなかった頃、子どもは放課後の時間を地域の中で過ごし、大人みんなで見守っていました。それを私はすごく豊かだと思いましたが、島の人からすると都市には当たり前にある学童がないという感覚で、中にいるからこそ島の価値がわかりづらいのかもしれないな、と。だからこそ、私たちは拠点を子どもだけではなく地域のみんなの居場所にして、地域の中で子どもが安全安心に過ごせる基盤づくりをしたいと考えています」(かまさん)

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地域に開かれた場所になるため、放課後以外の時間はフリースペースとして使えるようにしている。また、三線の演奏会をしたり、拠点の前にあるバス停でゆっくりバスを待てるようベンチを置いたりなど、接点をつくる試みにも積極的だ。

同時に、島の選択肢の少なさにもアプローチし、子どもの可能性を広げたいと考えます。

「島で出会える人や仕事は限られていて、警察官や学校の先生、役場職員など知っている仕事以外のキャリアを考えるのが難しい状況です。拠点は島外から子どもや大学生、大人も訪れますから、島では出会えない人との接点が生まれるサードプレイスとしての役割を担えそうだと考えています」(かまさん)

コミュニティの小さい島では多世代が交流する機会は多い一方、知らない人と一から信頼関係を気づいていく機会はまだまだ少ないのが現状です。小学校も各学年数名ずつしかいないため、いざ社会に出た時、初対面で自分を出していくことに戸惑いを隠せない人もいるよう。

「大人と話すのは慣れないけれど、拠点に来る人は、スタッフの知っている人だから安心して話すことができると話してくれた中学生もいます。信頼できる場所があるとそこに集う人も信頼できて、安心できる社会が広がる感覚を持てるはずです」(地下さん)

小さなコミュニティだからこそ、みんなで子どもを育てていく安心感がある一方で、新しい出会いや職業選択の機会は乏しい現実が島にはあります。

「e.lab〈みんなのおうち〉」は、古来から受け継がれてきた島の豊かさを残しつつも、外からの風を吹き込み、子どもたちがどこで暮らしても自分らしく生きていくことができる力を育む場所になりそうです。

取材:北川由依

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