子どもも家族もショートステイでリフレッシュ 特定非営利活動法人うりずん

家族がほっとできる1日を

人工呼吸器や胃ろうといった医療的ケアが必要な子どものいる家庭では、保護者は我が子から片時も目が離せません。痰が詰まらないように、必要な時に痰の吸引をしなければならないため、呼吸器を付けていると3時間以上続けて寝たことがない保護者も少なくありません。自分の睡眠や家事、他のきょうだい児と過ごす時間もままならないといいます。

栃木県宇都宮市の小児科医、髙橋昭彦さんはそんな家庭の厳しい状況を訪問診療の中で知り、2006年、当時は国内にほとんどなかった医療的ケア児の日中一時預かり事業を始めることを決意。その2年後、クリニックの建物の一部を改修して医療的ケア児とその家族のためのレスパイトケア(日中一時支援)施設「うりずん」を設立しました。

2016年には日本財団の助成を受けて、児童発達支援、放課後等デイサービス、居宅訪問型保育、ホームヘルプなどを行う新施設を開設。また、ケアに関わる人材育成や、医療的ケア児との繋がりを知ってもらうために、地域に広く参加を呼び掛けてふれあいまつりを開催するなど、うりずんは地域連携ハブ拠点の役割も担っています。

家族が休息をとるためのレスパイトには、病院や専門の宿泊施設に子どもを一時的に預ける方法がありますが、子どもは環境の変化で体調を崩しやすく、日頃通い慣れている場所での夜間預かりのケアが求められていました。

そこで、うりずんでは医療的ケア児のいる家族を対象に、1泊2日のショートステイ(お泊り)体験会「うりずんキッズキャンプ」を2022年7月と8月に3家族ずつ2回実施しました。日中はプラネタリウムや釣り堀、屋台など、家族で楽しめるプログラムを行い、夜は医療的ケア児とスタッフがお泊まり体験。
ケアの必要な子どもたちに彩り豊かな初めての経験を、いつも我慢が多いきょうだい児には家族一緒の夏休みの思い出を、両親にはケアから離れる休息を、そしてうりずんのスタッフには今後の新規事業に繋げるための経験を重ねることを目的に実施されました。

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ドキドキわくわくのプラネタリウム体験。宇宙旅行を家族で楽しみました

楽しい夏のイベントが盛りだくさん

日中のプログラムでは、移動式プラネタリウムを行っている「星つむぎの村」を山梨から呼んで、家族ごとに宇宙の旅を体験しました。壮大な映像と命の輝きへのメッセージに涙するお母さんも。

釣り堀、お化け屋敷、すいか割り、たこ焼きの屋台など、夏祭りがそのままやってきたような盛りだくさんのプログラム。会場では終始家族の笑い声が響き、きょうだい児同士が自然に遊びだし、親同士にも会話や交流が生まれました。

「楽しんでもらいたいと張り切りすぎて、ちょっと盛り込みすぎてしまったかもしれません」とうりずん副管理者の豊田紀子さんは笑います。

すいか割りをして、顔をすいかに突っ込んで勢いよく食べてみたいというきょうだい児の願いに、それを大笑いしながら実践した親子。畑に行って収穫したきゅうりにマヨネーズをつけて食べる子、トランポリンをしたいと言って思うままに遊ぶ子の姿も。

それぞれの家族がそれぞれの思いを叶え、それぞれの時間を楽しみました。

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ワクワクのすいか割り。日常的に我慢することが多いきょうだい児にとっても、家族との時間を過ごす貴重な機会になりました

昼とは違う顔をみせた子どもたち

夜はホールで、元スタッフのピアノと理事長の高橋昭彦さんの沖縄三味線というスペシャルライブの時間もありました。

事前の準備やヒアリングは十分にしましたが、当日には事前に想像していなかった発見や気づきもたくさんあったといいます。例えば、睡眠の様子が知れたのはスタッフの学びになりました。なかなか眠れなかった子もいれば予想外にぐっすりと寝る子もいて、昼間の様子とは違う顔が見られたそう。スタッフにとっては、受け入れの流れや課題を把握でき、夜間預かりの第一歩になりました。

「翌日にお迎えに来た親御さんは皆、『一日逢わないと寂しかった』などと言って、まるで何日も会っていなかったかのようでした。リフレッシュされた笑顔を見ると本当に良かったなと思い、ショートステイの必要性を強く感じました」と豊田さん。

豊田さんは参加者のアンケートを読み、家族が日頃どれだけ大変な苦労をしているかを思うと、涙が止まらなかったといいます。実は子どもが夜中も動きまわっていて、朝も早いことの辛さを初めて訴えたお母さんもいました。お母さんが倒れたら回らない実情がそこには綴られていました。

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理事長の髙橋さんも入浴介助をしました。気持ちいいね〜!

子どもと家族の幸せを願って

家族の笑顔と「良かった」という声を聞いて、スタッフ一同が「将来もやっていきたい、頑張ろう」という気持ちになったといいます。

「今回やらせていただいて私たちも自信に繋がりました。助成をいただき、イベント付きのスペシャルな会でしたが、今後は資金面をクリアして、事業としてショートステイをしていけるように準備を進めたいです」と豊田さんは意欲をみせます。

「家庭では主にお母さんが介護者で、お母さんが熱を出すなどで倒れるとその家は回らなくなるという、本当に大変な状況です。制度外でスタッフがボランティアで送迎を手伝うこともあります。家族のためになんとかしたいと思う、臨機応変に動ける気持ちと行動力があるスタッフに恵まれています」。

きょうだい児に何かできることはないかと考え、「思いきり発散していいよ!」というイベントを企画したことも。

「家族のために楽しいことをしたり、一緒に何かを生み出したりすることは、これからも続けていきたいです。少しでも家族の皆さんのお役に立つことができればいい。うりずんのイベントではお腹を抱えて涙がでるほど笑ってほしいです!」

全ての家族が当たり前の暮らしを過ごせること、その幸せを願い、うりずんはこれからも走り続けます。

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楽しかったね。いい夢みてね。おやすみなさいー!

「難病の子どもと家族を支えるプログラム」

日本財団 難病の子どもと家族を支えるプログラムでは、日本全国に難病の子どもと家族の笑顔を増やしていきます。

特定非営利活動法人うりずん

「日本財団 難病の子どもと家族を支えるプログラム」に興味をお持ちの方は、ぜひ難病児支援ページをご覧ください。

文責 ライター 玉井 肇子
日本財団 公益事業部 子ども支援チーム