子どもの主体的に生きる力を育む。モリウミアスで過ごす2泊3日。

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子どもに大人気の鶏。初めは怖がっていた子も、帰る頃にはすっかり仲良しに。

2022年度から子ども第三の居場所の子ども向けに提供を開始した、モリウミアスのオンラインプログラム。日本財団が提供するプログラムの中でも人気の内容です。

オンラインプログラムでは月1回、年12回の講座を通して、東北の豊かな食から、生態や文化的な背景を学び、調理をしています。そうした体験をさらに深めるため、2023年度からは、現地プログラムを追加。全国24拠点が、計8回に分かれて、モリウミアスがある宮城県石巻市雄勝町で、実際にサステナブルな暮らしの実践を体験します。

長野、三重、滋賀から雄勝へ

2023年10月、秋晴れ広がる気持のいい日。モリウミアスに長野、三重、滋賀にある、子ども第三の居場所を利用する小学生から中学生まで、約20名が訪れました。

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仙台駅からバスに揺られて約2時間。お昼頃に到着です。

少し緊張した表情を見せながら、拠点スタッフに付き添われて敷地内に足を踏み入れます。しかし、大人がそばにいるのはここまで。この後は基本的に、子どもとモリウミアスのスタッフだけで過ごします。

なぜなら、ここは子どもの主体性を重んじる場だから。いつも過ごしている家や拠点とは異なる非日常な環境に身を置き、自分で考え、チャレンジし、自信をつけてもらいたいと考えています。

モリウミアスの暮らしを体験する、現地プログラム

現地プログラムは2泊3日。毎日のテーマに沿って、過ごします。

1日目は「モリウミアスを知る」。森と海に恵まれた豊かな自然の中で、循環する暮らしを実践するモリウミスの日常を体験します。自然と動物と人が一緒に暮らすってどういうことだろう?そんな疑問を、森を歩き、火を起こし、みんなで協力してご飯を炊くことで学ぶ時間です。

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モリウミアスの裏にある山を探検。皮が剥かれた木から動物の痕跡を見つけたり、キノコを発見したりと驚きがいっぱい。
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数名ずつのチームに分かれて、釜でお米を炊く。火の起こし方、木の組み方なども最初から教えず、子どもたちに考えてもらいながら炊き上げた。
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出来上がった夕ご飯。協力し合いながら、食器を並べたり、配膳したりして、食事の準備をした。

循環する暮らしの仕事に挑戦

2日目のテーマは「全力で楽しむ」。モリウミアスのフィールドを使って、午前中は塩作り、薪割り、料理などからやってみたいことにチャレンジします。

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「薪割り」に挑戦。最初は斧の重さに驚きながらも、繰り返すうちにコツをつかみ、上手に割ることができるようになった。
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高台にあるモリウミアスから5分ほど下り、「しおづくり」に使う海水を採取。モリウミアスに戻った後、塩ができるまで沸騰させる体験をした。

午後からは、釣りや木の間伐、畑と動物の世話から選択。機械化が進み、便利になった現代の暮らしでは体験することのできない、昔ながらの暮らしのそばにある、さまざまな仕事を体験しました。

また、いつもオンライン担当の山口さんから直接料理を教わる機会もありました。山口さんは、「子どもたちの包丁さばきが想像以上に上手かった」と感心し、次回以降は、レベルを上げたプログラム内容を考えたいと話しています。

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いつもはオンラインで学ぶ料理を、山口さんから対面で教えてもらいます。リアルで学ぶからこそ、それぞれの拠点に戻った後もオンラインのプログラムが楽しくなります。
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一喜一憂しながらの釣り体験。魚の影を探しながら、釣り糸を垂らして魚がかかるのをじっと待ちます。

3日目は「思い出をつくろう」。モリウミアスで過ごした日々を振り返り、自分だけの思い出つくりとして、竹の箸を作りました。また、モリウミアスのある桑浜地区の守り神とされる白銀神社へ、無事に3日間を過ごすことができた感謝の気持ちを伝えるためにお礼参りにも。

たった数日ですが、子どもたちにとっては見るもの全てが新しく、初めての経験をたくさんした時間になりました。3拠点合同でのプログラムのため、他拠点の子どもとの交流もでき、多様性を知るきっかけにもなったようです。

子どもの変化、スタッフの気づき

各拠点から付き添ってきたスタッフは、子どもの姿をどのように捉えているのでしょうか。

「オンラインプログラムでモリウミアスの様子やスタッフさんを知っていたので、想像よりも緊張せずにすぐ馴染めていました。夜も眠れないくらい楽しみにして参加した子もいて、料理や釣りなどやってみたかった体験も全てさせてもらい、大満足です」

「日常とは異なる環境で、いつもより子どもが開放的に過ごしていました。不登校気味で新しいことに挑戦するハードルが高い子がいるのですが、嬉しそうに鶏を抱っこしていて。まさか触れられるとは思いもせず、驚きました」

「普段は着替えもお手伝いして、ここに来るための荷物準備を一緒にしていたのですが、モリウミアスでは一人でなんでもできていて、甘えがありません。これまで手を出しすぎていたのかな、子どもを過小評価していたのかなと、反省しました。もっと失敗させてあげられる環境をつくりたいです」

オンラインの学びも深まる、現地体験

春から月1回、オンラインプログラムを受講することで、モリウミアスや東北の食、文化的な背景について理解を深めていった子どもたち。それが事前学習となり、現地へもモチベーションを高くもって、参加した子どもが多かった印象を受けました。

きっと今後も続くオンラインプログラムでは、モリウミアスで過ごした3日間を思い出しながら、より興味を持って望んでくれることでしょう。

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木の実を獲って食べる子どもたち。こうした体験は、オンラインではできないものの一つ。

最後にモリウミアスの代表・油井元太郎さんから、寄付者の方へメッセージをいただきました。

「自立して生きることは、さまざま経験を積む機会が少ないほど難しいように思います。モリウミアスのプログラムは、『被災地へ行く』、『豊かな食材に触れられる』といったイベント的なものではなく、子どもたちの未来を考えて設計しています。短い期間の中でも、未来につながるきっかけを掴めるように向き合っています。このような機会をつくれるのは、寄付者の皆さまのおかげです。今後も子どもの成長を楽しみに、長期的な目線で応援いただけるとありがたいです」

現地プログラムを導入することで、モリウミアスへ行くことをゴールに見据えて、より意欲的にオンラインプログラムに取り組めるようになる兆しを感じた3日間になりました。今後も、回数を重ね、より子どもの主体性を育めるようなプログラムに変更しながら、継続していきたいと考えています。

取材:北川由依