障害者の「親なきあと」サポートプロジェクト

障害者の「親なきあと」サポートプロジェクトとは
「親なきあと」問題とは、障害者を支えてきた家族(親・きょうだい等)が高齢化や病気、死亡などにより支援できなくなった後、本人の生活が不安定になるリスクを指します。暮らしおよび通院・外出への同行等の日常生活支援、金銭管理など、これまで家族が担ってきた役割を、誰が、どのように引き継ぐのかが十分に整理されないまま、時間が経過してしまうことが大きな課題となっています。
とりわけ、知的障害者の約64%は親と同居しており、日常生活が家族による支援に大きく依存している現状があります。加えて、全国の入所施設やグループホーム等の待機者も多く、家族の負担と不安は一層高まっています。
本プロジェクトは、早期から「親なきあと」を見据えた相談体制を整え、住まいの選択肢の充実や身上監護・財産管理等の支援の引き継ぎを支援することで、障害者とその家族が安心して暮らせる地域社会の実現を目指します。
「親なきあと」相談室と家族支援の必要性
「親なきあと」相談室(以下、相談室)は、障害者とその家族が、親が元気なうちから将来について安心して相談できる場です。住まいや日常生活、医療や金銭管理、意思決定、家族関係など、「親なきあと」に関わる課題は医療、福祉、法律、経済といった分野にまたがり、現状では相談先が分散し、問題が先送りにされがちです。
相談室では、家族の思いや不安に丁寧に耳を傾けながら、複雑に絡み合った課題を整理し、将来に向けた道筋を描きます。福祉制度の説明にとどまらず、本人や家族の状況を多面的に捉え、医療機関、福祉事業者、成年後見人、弁護士、行政などと分野横断的につなぐコーディネートを行い、状況の変化に応じた伴走型の支援を重視しています。
こうした分野横断の相談支援にいち早く取り組んできたのが、大分県社会福祉事業団です。同事業団は大分県と連携し、「親なきあと」相談室を県内に開設し、家族の不安を総合的に受け止める支援体制を構築してきました。この取り組みは、家族支援の実践モデルとして高く評価されており、いわゆる「おおいたモデル」として全国から注目されています。
日本財団は、この「おおいたモデル」の可能性に着目し、大分県社会福祉事業団に対して、相談員養成や支援手法の整理・体系化に関する助成を行っています。今後は、こうした実践モデルを全国に広げ、地域差なく相談支援を受けられる体制を整えるとともに、相談室の全国普及や制度化を見据えた取り組みを進めていきます。
日本の障害福祉制度は本人支援を中心に整備されてきましたが、家族そのものを支える視点は十分とはいえません。家族の不安は個人の問題ではなく、親に依存せざるを得ない支援構造から生じています。だからこそ、本人支援と並行して、家族を支える仕組みを制度として位置づけていくことが不可欠です。
重度障害者に対応できる住まいが不足している現状
現在、地域のグループホームの数自体は一定程度整備されてきています。しかし、その一方で、重度知的障害、強度行動障害、医療的ケアを必要とする人が入居できる住まいは限られているという課題があります。支援体制や人員配置、医療機関との連携、地域理解などのハードルから、重度・重複障害のある人については、入居を断られてしまったり、受け入れ先が見つからなかったりするケースも少なくありません。その結果、家族との同居が長期化する状況が続いています。親が支援を継続できる間は問題が表面化しにくいものの、病気や介護、突然の出来事をきっかけに、行き場を失うリスクが一気に顕在化します。「親なきあと」問題の解決には、グループホームの数だけでなく、障害の特性や支援ニーズに応じた質の確保が重要です。重度・重複障害にも対応できる住まいをどのように整備していくのか、全国的な課題として検討していく必要があります。
「親」から次の支援者へ――情報を引き継ぐという仕組み
障害者の生活や支援においては、家族、とりわけ親の関わりが重要な役割を果たしてきました。療育の経緯、本人の特性、体調や行動の変化への対応、意思決定の際の考え方など、親の中に蓄積されてきた情報や経験は、日々の支援に欠かせない重要な資源となっています。
一方で、こうした情報の多くは体系的に整理されないまま、親個人の記憶や経験に依存しているのが実情です。そのため、親の高齢化、病気や死亡などにより支援を継続できなくなった場合、本人理解や支援の背景が次の支援者に十分に引き継がれず、支援が断絶してしまうリスクがあります。こうした課題に対し、親が持っている療育・支援の経緯や、本人の基礎情報、意思や価値観などを整理し、情報を可視化し共有するプラットフォームを構築することが重要です。これにより、医療機関、福祉事業所、教育機関、自治体など、関係する支援者の間で必要な情報を共有することが可能となります。支援者が変わっても、本人を中心とした一貫性のある支援を続けることができると考えています。
また、この仕組みは単なる情報共有にとどまらず、親自身が将来を見据えて支援を整理し、「誰に、何を、どのように引き継ぐのか」を考えるプロセスそのものを支えます。これにより、親の不安を軽減するとともに、本人の意思や尊厳を尊重した支援につなげることが期待されます。
日本財団では、「親なきあと」問題に取り組む中で、支援を特定の人に依存させるのではなく、情報と支援を仕組みとして引き継いでいく視点が不可欠だと考えています。今後は、相談支援や住まいの整備とあわせて、こうした情報の可視化や共有を支える仕組みづくりにも取り組み、将来を見据えた支援の基盤を整えていきたいと考えています。
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