True Colors Festival 超ダイバーシティ芸術祭の展開

マジョリティが変われば社会が変わる

当財団が障害者支援を開始してから約60年。この間、国内外で障害者が教育や仕事にアクセスする機会が多く創出され、その社会制度化も進展してきた。しかし「ダイバーシティ」という言葉が浸透した現代においても、障害者を遠い存在として認識している人は多いかもしれない。
当財団が2019年に実施した意識調査(全国の10~60歳代の男女5,216人に実施)では、9割近い人が「多様性に富んだ社会の重要性を感じる」とした一方で、95.9%が「障害者をはじめとする社会的マイノリティに対して偏見や差別がある」と感じており、73.4%が実際に「自分の中にある心の壁を何らかの形で意識した経験がある」とした。さらに、同調査では、社会的マイノリティとより多くより深く関わった経験のある人のほうが、経験の少ない人と比べて心の壁を感じづらいということも明らかになった。差別的な言動だけでなく、接した経験が少ないことから生じる心の壁が、障害者の様々な機会を奪っている可能性があり、その解決には障害のある人と共に過ごす時間をつくり出すことが有効であると示唆された。

「True Colors Festival 超ダイバーシティ芸術祭」(以下、TCF)は、以上の調査結果も踏まえ、「マジョリティが変わらなければインクルーシブな社会は実現しない」という問題意識のもと、世の中の多くの人たちが、障害者をはじめ社会的マイノリティと出会い、違いを共に楽しむ機会を生み出すために展開している取り組みであり、一般財団法人日本財団DIVERSITY IN THE ARTSと共催で行っている。2006年にベトナムとラオスで初開催後、東南アジア各国で開催してきた「障害者芸術祭」を源流としつつも、出演者を障害のあるアーティストだけに限定せず、多様な背景を持つ人が共にステージに立ち、多くの聴衆にまぜこぜの社会の可能性を体感してもらう芸術祭として2019年にリニューアル。2020年の東京パラリンピックをマジョリティの変化を醸成する絶好の機会ととらえ、同大会に向けたおよそ1年間の計画でスタートした。

「アクセシビリティ」の社会浸透を目指して

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片足でブレイクダンスを披露するブラジル人ダンサーSamukaさん(2019年9月)

TCFは2019年9月、渋谷駅付近の広場のダンスイベントで幕を開けた。平日にも関わらず集まった約800人の観客には車いすの利用者も多く見られた。舞台では、様々な身体障害があり国籍も多様なブレイクダンスチーム・ILL-ABILITIESと、世界トップレベルの日本人ダンサーたちとが互いにアクロバティックな技を披露するバトルが行われた。MCは専門用語も含めすべて字幕となってスクリーンに投影され、傍らにはパフォーマーの一人として情感を持って通訳をする手話通訳者がいた。

このイベントに限らず、TCFが様々なジャンルのイベントを催す上で必ず行ってきたことが、出演者・作り手の側に障害のある人も含めた多様な人を交えることに加え、障害の有無等を問わずイベントに参加することができ、客席側にいる誰もが内容を理解して鑑賞できる工夫を行うこと(アクセシビリティの確保)である。パフォーマンスを伴うイベントだけでなく、会議等の日常のシーンにおいても、アクセシビリティが確保されることは未だに少なく、特に聞こえない人、見えない人等にとっては参加困難な状況がある。人の集まる場を誰もが参加できる場に変えるため、アクセシビリティを世の中に浸透させることも本事業が目指す変化の一つである。そのために、ジャンル・規模の異なる多様なイベントを通じてTCFが蓄積してきたノウハウをまとめた本の出版等も計画している。

多様な人と共につくる世界最大規模の新たな文化の祭典

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サーカスでパフォーマンスを披露する車椅子ダンサー・かんばらけんたさん(2021年4月)

TCFは前述のダンスイベントを皮切りに、音楽、ジャズ、ミュージカル、演劇などの様々なジャンルの公演を行ってきた。2020年の新型コロナウイルス感染症の流行後は、大幅に計画を変更。オンラインに舞台を移して、文字通り世界をターゲットにミュージックビデオやドキュメンタリー映像の配信、オンライン映画祭の開催も行った。これまでフェスティバルに出演したアーティストは30カ国1,200名。2019年9月~2021年7月までの約2年間で、オンラインでの視聴も含めた参加者数は延べ200万人を超え、参加者数だけで見れば歴史上最も成功したと言われる2012年ロンドンパラリンピックの観客数220万人に迫る。障害のある人を主役とする文化的催しとしては世界最大規模であり、多彩な内容面でも世界に類を見ない取り組みとなっている。今後は、2022年11月に最大級のコンサートを東京で開催した後、新たな価値観を世界に広げる日本発の取り組みとして、再び海外を舞台に展開する計画である。

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ファッションショーで着物姿を初披露した乙武洋匡さん(2021年5月)

パフォーミング・アートは作り手と観客が時間・空間を共にし、参加者の間で多くの対話を生み出す効果を持っている。また、オリンピック・パラリンピックに代表されるスポーツとは異なり、障害の有無や性のあり方等を問わず、誰もが対等に同じ舞台に立ち、観客と共に一つのステージを作り上げることができる。TCFはこのようなパフォーミング・アートの力を生かしてマジョリティの意識に働きかけ、誰もが居心地の良い社会をつくるための世界最大規模の文化の祭典として歩みを続けていく。
(青木 透/特定事業部)

ミュージックビデオ「You Gotta Be」イメージ図
9カ国13名の障害のあるアーティストが共演したミュージックビデオ「You Gotta Be」(上 2020年6月、下 2021年6月)

本事業を行う中で得た気づき

True Colorsという言葉には、「ありのままのその人らしさ」という意味があるそうだ。複数形であることに深みがあり「その人らしさ」も決して一つではなく、多様で移ろうことを意味しているのだと思う。一人ひとりに様々な顔があり、違うところが面白く、時に同じところを見つけるとそれも面白い。そんなことを発信していきたい。

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青木 透