よりよく生きる~日本財団のホスピス・プログラム

「ホスピス」の普及

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住宅を改装したホームホスピスで医療依存度の高い患者の利用者がテーブルを囲んで談笑

「ホスピス」とは、一般的には末期のがん患者などに緩和ケアを行う病棟などの施設を指すが、広義にはそれを支える理念や運動までを含んでいる。また、「ホスピス・緩和ケア」とは、医師・看護師・ソーシャルワーカーやボランティアがチームとなって、生命を脅かす疾患に直面する患者とその家族の生活の質(QOL)を向上させ、心身にわたる苦痛を緩和しケアすることを言う。
ホスピスは、よりよい終末期を支えるものであるだけでなく、最期まで自分らしい生活を送り「よりよく生きる」ためのものでもある。当財団は1996年、専門家による「ホスピス研究会」を設置し、その提言に基づき、ホスピス・緩和ケアに関する事業を積極的に推進してきた。当時はホスピスという言葉自体がよく知られておらず、理解促進と基本的な環境整備を図るために、「周知啓発」「施設整備」「人材育成」の三つを柱に事業を進めた。
周知啓発では、1999年から一般向け公開セミナー「memento mori(メメント・モリ)」を全国で開催。「『死』を見つめ、『今』を生きる」をテーマに、講演や座談会を通して分かりやすくホスピスの考え方を紹介した。公開セミナーは2008年度までに開催は30回を数え、3万人を超える人々が参加し、ホスピスへの理解を深めた。施設整備では、13カ所281床の緩和ケア病棟や独立型ホスピスの整備を支援した。人材育成では、公益社団法人日本看護協会や公益財団法人笹川記念保健協力財団(現・笹川保健財団)の協力のもと、看護師がホスピス・緩和ケアを学ぶ「緩和ケアナース養成研修」と「ホスピスナース養成研修」、日本看護協会の「緩和ケア認定看護師」資格を取得するための教育課程への支援を行った。

地域で暮らし、最期を迎える

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古民家をほぼそのまま活用し家のような雰囲気のホームホスピス室内

長年にわたりホスピスの活動を支援してきた当財団は、2012年に「在宅ホスピスプログラム・アドバイザー会議」を設置し、その提言から今後の取り組みを策定した。在宅ホスピスの実践を支え普及を促すプログラムでは、地域のリーダーとなる「人」と「場」を育て、モデルとなるべき在宅ホスピスの提案を目指した。具体的には、地域の「終の住み処」として注目されている「ホームホスピス」(※1)の理念の普及と施設整備の支援を開始した。ホームホスピスは、主に民家を改修してバリアフリーなどの環境を整えたもので、老々介護や独居などの理由で自宅療養が困難な人々が、家庭的な雰囲気の中で最期の日々を過ごせる場所である。
プログラムはホームホスピスを実践する「リーダー研修」と「拠点整備」の2つの柱からなる。「リーダー研修」では、ホームホスピスの設立を目指す看護師や介護福祉士などの専門職が、先駆的な実践を行っているホームホスピスで実習を受けた。「拠点整備」では、実習を受けた専門職が、地域でホームホスピスを開始する民家のリフォームや介護機器等の整備を支援した。2020年度までに、寄付プロジェクト「夢の貯金箱」からの拠出を含め、支援を受けて設立されたホームホスピスは60拠点になった。
また、2014年からは、笹川保健財団の実施する「日本財団在宅看護センター」起業家育成事業の支援も開始。終末期だけでなく高齢者が地域で穏やかに暮らせる環境整備を進めた。同センターは、基本的人権の一つである“Health for All(全ての人に健康を)”を実現するため、地域の人々の健康を守る看護師の拠点を全国に整備するもので、2020年1月現在55カ所のセンターが活動している。研修を受けセンターを運営している100名以上の看護師は強固なネットワークでつながり、地域の在宅看護を支える貴重な人材となっている。

  • 1. 「ホームホスピス」は全国ホームホスピス協会の登録商標(区分:第44類)
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ご自宅のベッドで療養する難病の子どもを囲み、ご家族と在宅看護センター研修生がケアを検討中

在宅の看取り、6割が希望

当財団が1996年に「ホスピス研究会」を設置して以降、国も大きな動きを見せた。2007年には厚労省が「がん対策推進基本計画」を策定、その中で緩和ケアを明記すると、在宅医療推進に向けた診療報酬が改定されるなど、ホスピス・緩和ケアをめぐる社会的ニーズは大きく変化した。
現在、大きな課題と考えられているのは、在宅での看取りである。当財団は2020年に「人生の最期の迎え方に関する全国調査」を実施。そこで明らかになったのは、約6割が「自宅」で最期を迎えたいと考え、約9割が最期は積極的な治療をせず体を楽にすることを優先したいと考えていることだ(※2)。実際は病院死が8割を超える現状の中、選択肢としての自宅・地域看取りを充実させることは、最期までよりよく生きることを目指すホスピスの理念でもある。
この調査結果を受け、当財団は、さらにホスピスの理念を普及し「よりよく生きる」を実現するため、2021年8月より在宅看取りの推進のための環境整備と地域づくりを支援する「もう一つの“家”プロジェクト」を開始した。在宅での「看取り」は、地域づくりが欠かせないため、今後も継続して全国各地での研修事業や訪問看護師の養成を支援していく。さらに、誰もが最期まで自分の望む生活を送れる社会の実現を目指して支援を行っていく。
(福田 光稀/公益事業部)

  • 2. 日本財団『人生の最期の迎え方に関する全国調査』(2021年3月)

本事業を行う中で得た気づき

住み慣れた場所で最期を迎えるには、本人の希望だけでなく、家族や、医師・看護師等の専門職、地域住民といった、人と人とのつながり・連携や、地域づくりが大切であることが分った。一人ひとりが、自身や家族の死を前向きに考えられる社会になることを願ってやまない。

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福田 光稀