教訓を次に活かす/災害への備え―仕組みづくり編

災害時の非常用トイレの配備

災害時の断水により大きな問題になるのが、飲料水と共にトイレである。多くの災害では、断水や停電、下水道や浄化槽の損壊によって水洗トイレが使えなくなる。汚れや臭いもひどくなり、トイレ衛生環境は悪化し感染症のリスクが高くなる。さらに、遠い、寒い、暗い、怖いなど使い勝手が悪いトイレだと、多くの人は行く回数を減らすため水分や食事を控える。その結果、脱水症状や慢性疾患の悪化、エコノミークラス症候群、脳梗塞・心筋梗塞などを発症し、最悪、死に至ることがある。このような「災害関連死」が、災害による直接死を上回ることも稀ではない。
災害時に健康を左右するトイレの問題。当財団もこうした問題に正面から向き合い、災害関連死防止に取り組んでいる。共にこのプロジェクトを進めるのは、平時は災害医療のための人材育成や調査・研究を行う「特定非営利活動法人 災害医療ACT研究所」。当財団と共同で、各災害発生時に非常用簡易トイレ(ラップ式トイレ)を配備し、2020年度には今後発生する災害への備えとして、全国を9ブロックに分けて、全600台を分散備蓄する体制を構築した。

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令和2年7月豪雨で被災した人吉市で非常用トイレの設置にあたる災害医療ACT研究所のメンバー(2020年7月)
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人吉リハビリテーション病院のトイレに設置された非常用トイレ

ラップ式トイレの配備展開

  1. 熊本地震
    要援護者が多い避難所・福祉施設に医師や保健師等の医療専門職のチームが無水無臭のラップ式トイレを設置(100カ所387台)
  2. 平成30年7月豪雨(西日本豪雨、2018年)から令和2年7月豪雨(2020年)まで
    • 平成30年7月豪雨(2018年)(106カ所445台)
    • 平成30年北海道胆振東部地震(2018年)(19カ所103台)
    • 令和元年東日本台風(2019年)(39カ所146台)
    • COVID-19関連(3カ所7台)
    • 令和2年7月豪雨(2020年)(7カ所45台)
  3. 全国配備
    日本各地で発生する災害への備えと対応のための配備(全国9ブロック、600台)
屋内設置用非常トイレ備蓄拠点:北海道ブロック50台。東北ブロック50台。関東ブロック①80台。関東ブロック②100台。中部ブロック50台。近畿・中国ブロック100台。四国ブロック100台。九州ブロック50台。沖縄ブロック20台

災害時支援活動における官民連携協定の締結

当財団では、平時での防災の取り組みや、大規模災害発生時に官民連携で迅速かつ効率的な支援活動ができるように「防災・減災に関する連携協定」や「大規模災害発生時における支援協定」を2015年から2017年にかけて、静岡県や福岡市、諏訪広域連合、各地の社会福祉協議会等と当財団の間で締結した。これらのモデルとなる自治体等においては、災害発生時に地域の被災者全体を支援する「被災者支援拠点としての避難所のあるべき姿の検討」や、支援のあり方をモデル化するための「被災者支援拠点運営人材育成研修・訓練」、「消防局との重機活用に関する合同研修会」等が実施された。
2018年度以降は、頻発・激甚化・広域化する災害の発生状況を踏まえて、地域ごとの個別の協定ではなく、災害発生時の被災地域の状況に応じて復旧支援等を行う体制へと移行し、各地での活動を行っている。

誰一人取り残さない「i-BOSAI」の取り組み

サイトイメージ
誰一人取り残さない「i-BOUSAI」(inclusive-BOSAI)サイトのトップ

災害時に必要な情報の確保や、安全な場所への避難が困難な人への対策が防災上の課題であると初めて言及されたのは、1987(昭和62)年版の防災白書とされる。その後、こうした「災害弱者」「災害時要援護者」「避難行動要支援者・要配慮者」への対策は講じられてきたが、災害が起こるたびに被害は要配慮者に集中してしまう実態が繰り返されてきた。
この背景には、超高齢社会の到来と社会保障対策の整備が進んだことに加えて、要配慮者への対応が平時の福祉と災害時の防災で分断されていることに原因があるとされている。このような課題に対して、当財団は災害時に避難移動や避難生活で配慮が必要な人への支援のあり方を検証する実証研究に助成している。助成の対象となるモデルは、2016年度から始まった別府市モデル、2018年度から兵庫県で始まった防災と福祉の連携モデルで、当財団と共に、そのあり方についての検討を進めてきた。
本課題の解決策としては、有事でも平時と同じサービスやケアを切れ目なく連結して受けられる体制づくりにある。災害発生時は、いつもケアを提供しているヘルパーや介助者は駆けつけることはできない。その代わりとなる近隣住民の支援といかにつなげるかを、あらかじめ考えておく必要がある。
大分県別府市から始まった「i-BOSAI」(inclusive-BOSAI、誰一人取り残さない防災)は、災害時の個別支援を計画する先駆的な取り組みだ。市民団体からの呼びかけに応じて、当事者・市民団体・事業者・地域・行政の5者協働でこうした課題に取り組み計画作りをする。基本は、災害時の要配慮者対応と平時の障害福祉サービスを切れ目なく連結させることに重点が置かれている。その後、本取り組みは、兵庫県内の36市町でのモデル化としての取り組みにつながった。

「i-BOSAI」の取り組みは個別避難計画の作成に関する具体的な仕組みとして、内閣府の「高齢者等の避難に関する検討会」でも参考事例として取り上げられた。「個別計画策定の業務に福祉専門職の参画を得ることが極めて重要」「災害対策基本法の改正などを通じて制度的な位置づけを明確化させることが必要」である点などが言及され、2020年の災害対策基本法の改正につながることになった。
(藤重 香弥子/災害対策事業部)

本事業・この社会課題への今後の期待

災害発生時に必要とされる支援の分野は、生活に関わる多岐の事象に渡るため、様々な分野の横断的な連携が不可欠である。また、最後まで残る課題の多くは、平時からの潜在的な課題が浮き彫りになるため、災害発生時を想定して、平時から備えておくことが重要となる。今後、これまでの事業等をきっかけに様々な分野を超えて横断的な連携による社会課題の解決が進むことを期待したい。

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藤重 香弥子

参考

  • 別府市における障害者インクルーシブ防災(福祉フォーラムin別杵・速見実行委員会)2016-2018
  • 障害者インクルーシブ防災を推進するためのアクセシブルな防災世界会議の開催支援(The United Nations Office for Disaster Risk Reduction)2016
  • 障害者インクルーシブ防災における災害時ケアプランコーディネーター養成(ひょうご震災記念21世紀研究機構)2017-2019