教訓を次に活かす/災害への備え―人材育成編

災害復旧現場での活動実態

地殻変動による地震、大雨や台風による風水害など、自然災害が起きるたびに、建物、農地、道路などの生活インフラに被害が及ぶ。
大雨は川の氾濫、堤防の決壊、越水だけでなく、用水路・下水溝から水を溢れさせ、市街地の家屋に床上床下浸水の被害を及ぼす。山間部では山の斜面が削り取られ、水と共に土砂が流出する土砂崩れが発生。支流河川の決壊や氾濫で溢れる水は、一緒に川底の石や岩を流す土石流となって人家を襲う。地震や台風は家屋に倒壊や損壊といった被害をもたらす。そして、こうした被災地の復旧・生活再建には多くの専門技術が必要となる。

水害や土砂災害の復旧現場では、床下・床上浸水で家屋や家財が水や土砂に浸かる被害が発生する。
そのため、使えなくなった家財を搬出し、カビの発生で住宅内の衛生環境悪化が懸念される場合は、水を含んだ断熱材や木材を壁からはがし、洗浄、乾燥、消毒を行わないといけない。猛烈な風で吹き飛ばされた屋根、飛来物で損壊した屋根は、補修してシートを貼り雨漏りを防ぐ処置が必要となる。作業は人力だけでは不可能で、危険なブロック塀の除去や、大掛かりな木材、堆積物、巨大な岩石、水を吸って重くなった畳などの移動・運搬は、建設や土木現場で使用する重機が必要となる。

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専門技術を活かして家屋の復旧を行う団体(2020年)
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天井に広がったカビの除去作業
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危険を伴う屋根の上で専門の知識や安全対策をしながら作業する団体(2018年)
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重機を使った支援活動

生活再建の支援

こうした活動を行う団体の特長は、過去の被災地での経験を活かしながら、被災者に寄り添った活動をする点にある。例えば、本工事に入る前の被災した家屋に応急処置を施したり、工事に余計な費用がかからないよう、今後も使えるものは家屋から丁寧に取り外すなど、被災者の精神的経済的負担の軽減に努めている。また、浸水被害後の生活再建に関する手引きの配布や、車両や工具の貸出、住民の相談にのる「復興支援センター」の設置など、一刻も早く自分の手で自宅の応急処置や復旧をしたいという被災者に向けた取り組みもなされている。当財団は、こうした団体に助成を行い被災者の生活再建を支援してきた。

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被災住民に貸し出す工具や資機材(2018年)

技術を有する団体・人材を増やし有事に備える

小型重機操作等の専門技術を有する団体や、職業上のスキルや専門知識を活かして被災地支援に関わる人材のネットワークづくりと、そのための人材育成を目的に、当財団は2007年から災害時における小型重機活用の体験講習会を開始した。スコップ、一輪車中心の支援現場に、重機を追加することで、危険性を除去しながら活動の場を広げることができた。また、人手による作業と重機による作業の組み合わせで、土砂除去作業が迅速に進むようになった。

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ボランティア向けの重機講習会(2019年)

こうした人材育成は被災地でも行われた。2019年8月に大規模な豪雨被害に見舞われた佐賀県多久市では、市内の消防職員を対象に小型重機の講習会を実施した。被災地での支援活動時間の合間に、専門技術を有する活動団体が互いの経験を共有し合うと共に、蓄積してきた技術を消防職員有志に伝える機会も増えている。近年は、平時にも消防職員有志に対する講習を実施しており、2021年、静岡県熱海市で発生した「令和3年7月伊豆山土砂災害」の復旧現場には、講習を受けた近隣の消防職員有志がボランティアで駆けつけ土砂除去や家屋再生の支援活動を行った。

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災害現場で小型重機の活用法について消防職員に説明(2020年)

2021年からは全国50カ所以上の海洋センターに小型重機を配備すると同時に、小型重機の操作に関する研修事業がB&G財団への助成事業として実施される。多発する大雨や台風、地震による被害に備え、これまで被災地支援活動を共に行ってきた技術専門団体のネットワークを活かしながら、全国に発災時に動き出せる人材を増やす取り組みを加速させている。
(高島 友和/災害対策事業部)

本事業・この社会課題への今後の期待

被災からの生活再建は多くの人にとって初めての経験であり、被災地で支援活動を行ってきた団体の経験・活動は、被災者の精神的負担の軽減につながる。他方で、外部支援団体の多くは短期の活動が中心となり、長期的復旧・復興は、地元主体の活動に移る。平時から互助・共助を中心とした取り組みが増え、その結果、災害への備えがなされる地域が増えることを期待したい。

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高島 友和