造船・海事関連は「一丁目一番地」

造船復興みらい基金

1951年に制定・施行されたモーターボート競走法、そして当財団の定款には、共に「船舶、船舶用機関及び船舶用品の製造事業の振興」が挙げられており、設立から60年経った今もなお、造船は当財団にとって最重要事業である。この10年間も、海事産業・造船業界の生産基盤の整備に取り組んできた。

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建物が倒壊し、がれきに埋もれた造船所構内(2011年3月、宮城県石巻市)

2011年3月11日に発生した東日本大震災により、東北沿岸地域の造船業は設備の大規模損壊に加え、海岸部の地盤沈下のため、建造・修繕能力が大幅に低下、大半の造船所は独力での建造・修繕能力回復が困難な状況に陥った。この地域の基幹産業である水産業の本格復興のためには、地域の漁業関連船舶の建造・修繕能力回復という産業基盤の本格復興が不可欠であった。
当財団は、震災直後に実施した緊急支援事業に続き、地域の造船業本格復興支援のため、2013年7月、復興庁・国土交通省から、造船業等復興支援事業費補助金160億2,400万円を受け入れて、「造船復興みらい基金」(正式名称:東日本大震災被災造船業等復興支援事業費補助事業)を設置。被災した造船関係事業者向けに施設・設備等の復興に要する事業費の3分の2を補助する補助事業を開始した。

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流出を免れた修繕中の船と倒壊した建物の残骸(2011年3月、宮城県気仙沼市)
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地盤沈下で水没状態になった造船所敷地(2011年3月、宮城県石巻市)

公募による申し込み受付、有識者で構成される第三者委員会での審議、当財団理事会での審議、国土交通大臣協議等を経て、被災した複数の造船関係事業者が共同して組成した8つのグループに対し、合計112億2,861万5,892円の補助金を交付し、8グループが施設・設備等を整備した。なお、補助金として交付しなかった基金の残額は、全額を国庫へ返納した。併せて当財団では、8グループのうちで事業費の3分の1相当の自己負担金を準備できない補助事業者3グループに対し、当財団の造船関係事業資金貸付制度による合計35億9,400万円無利子融資(最長20年)を実施した。

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補助事業で海上に設置したシップリフト(2019年5月)
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事業で新設移転した㈱みらい造船の全景(2019年5月、宮城県気仙沼市)
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補助事業により設置された船体移動用レール、移動台車、牽引用ローダー(2019年5月)

補助金の交付を受けた8グループの補助事業者は、いずれも各地域の複数の造船関係事業者が共同で施設等を整備・利用するなど有効活用が図られている。
8グループの補助事業者のうち、気仙沼市の株式会社みらい造船などの3グループは、整備した新工場へ補助関係事業者が全面移転したほか、関係事業者間での会社合併、事業譲渡等の経営統合に発展するなど、集約化・共同化も大きく進展している。
8グループ内の補助関係事業者の合計雇用者数は、震災前の193人から2021年3月末時点で297人へと大幅に増加しており、被災地における造船業の復興と経営基盤の強化に大きく貢献している。

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補助事業により設置された大型クレーン(2019年5月)

世界初の先進的プロペラ・舵の開発(舶用機器の技術開発)

船舶に搭載される機器はおよそ数万点に上り、エンジンやレーダー、プロペラなど多岐にわたる。昨今のデジタル化や地球温暖化への対応は造船・舶用業界にも求められており、新たな技術開発が必要である。当財団は、これまで常に時代の一歩先を行く先進的な船舶・舶用機器の開発支援を行っており、その成果は出つつある。
船舶用プロペラの開発では、軽量、高強度、耐摩耗性などに優れ、すでに航空機や自動車など多くの産業で利用され安価になりつつある炭素繊維強化プラスチック(CFPR)を世界で初めて用いた。高効率・静粛性を特徴とするこの新型プロペラは、品質への高い信頼から、ケミカルタンカー、フェリーなど多様な船舶で使用されており、ユーザーからも燃費性能の向上や、振動・騒音の低減など高い評価を得ている。さらに、その技術の先進性は広く知られ、第6回ものづくり大賞の内閣総理大臣賞(2015年)も受賞している。

また、船舶から排出される温室効果ガス削減への対応では、世界初の新型舵システム「ゲートラダー」の開発支援も行った。これは、特殊な形状の2枚舵をプロペラ両側に配置する新たな手法により、プロペラ後方に障害物がなくなり、優れた省エネ性能をもたらす。実船試験では14%の省エネ性能を実現し、すでに注文も受けており、ユーザーからは横風に強く横揺れが少ないことや、船内騒音が低いなど高い評価を得ている。この新型舵は、優れた省エネ性能により国内外から注目され、EU最大の研究・イノベーションプログラム「ホライズン2020」における研究対象に選ばれている。

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2枚舵をプロペラ両側に配置し、高い省エネ性能を実現

海洋事業の新たな事業創出へのきっかけに

当財団は造船や船舶用機器を中心に様々な先進的技術開発を支援してきた。現在はその範囲はさらに広がり、海洋開発分野における海外連携技術開発プログラム(英国スコットランド、米国ヒューストン、ノルウェー)や、無人運航船の開発実証(MEGURI 2040プログラム)への支援もしている。今後も、カーボンニュートラル社会実現に向けた環境負荷の低減や、船員の働き方改革など、造船・舶用業界を取り巻く課題解決に資するべく、取り組んでいく。
(桔梗 哲也・山中 正/海洋事業部)

本事業を行う中で得た気づき

東日本大震災復興支援事業として実施した、みらい基金事業は、約6年間にわたる長期継続事業だった。いくつかの新しい造船所が完成稼働し、各地域の産業復興に大きく寄与することができた。
2050年カーボンニュートラル社会の実現、船舶の安全性向上、船員の労働負荷低減など、船舶に関する課題は多く、今後もこれらの課題解決にしっかり取り組んでいきたい。

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桔梗 哲也
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山中 正