次世代に海を紡ぐ「海と日本PROJECT」
“海ごころ”をはぐくむ
21世紀に入って、「数十年に一度」と言われる重大な災害が相次いで発生している。局地的に豪雨をもたらし、各地に甚大な被害を与えた「線状降水帯」は、人類の活動で発生する二酸化炭素など温室効果ガスによる海水温の上昇が遠因とされている。地球表面の約7割を占める海に、気候変動を伴う地球環境の変化は、確実に影響を及ぼしている。
海を巡る問題はそれだけではない。海の酸性化、漁業資源の乱獲や海洋へのプラスチックごみの流入など、海洋環境を劣化させているのは私たち人類である。
一方で、古来より海の恵みを受け、海と共に生きてきた私たち日本人は、海を愛す気持ちが備わっている。海を見た時の歓喜の声や、子どもの頃に感じた海水浴前日のワクワク感など、海は私たち日本人を優しく包み込み癒してくれる存在だ。
海の課題を自分事化し海を想うことができれば、次世代に豊かな海を引き継いでいくことができる。そんな“海ごころ”を育み、人類の宝である海を未来へつなぐために、今アクションを起こす必要がある。「海と日本PROJECT」はこうして始まった。
日本最大の海のプラットフォーム

「海と日本PROJECT」は、全国の様々な地域で次世代を担う子どもや若者を中心に、多様な人が海への好奇心を持ち、行動を起こすムーブメントを目指し、海の日が20回目を迎える2015年に立ち上がった。当財団、内閣府総合海洋政策本部、国土交通省が旗振り役となり、海のことを参加者が当事者意識を持ち、より主体的に取り組めるように5つのアクション(①海を学ぼう、②海を味わおう、③海を表現しよう、④海を体験しよう、⑤海をキレイにしよう)を設定し、全国で事業を展開している。特に各地の自治体、メディア、企業や団体との活動で得られる効果は絶大で、2021年度は5,638回のイベントを開催し、269万人が参加、賛同する企業・団体等は約10,600団体に及び、着実に海と人、人と人をつなぐムーブメントへと広がった。




全国44のエリア事務局
自治体やメディアと共に活動することは「海と日本PROJECT」の最大の特徴の一つである。各地のテレビ局が「海と日本PROJECT」のエリア事務局となり、自治体トップを含めた行政機関や地域の関係者と共に、海と子どもをつなぐ事業を展開している。さらに地元のNPOなどが実施する「海と日本PROJECT」や地域の様々な海にまつわる情報を集約し、分かりやすくニュース化する役割を同プロジェクトが担っている。これにより、各地域の市民を巻き込むだけでなく、全国で実施する様々な活動につながりを持たせ、「海と日本PROJECT」の活動を一元化して発信することが可能となった。費用対効果は年間約40億円の助成金額に対して広告換算価値で78億円以上となり、その効果は非常に高いことが分かる。
また、水族館、砂浜清掃をしている企業、海産物を販売する小売店や飲食店、地域の観光業者など全国10,000以上が「海と日本PROJECT」推進パートナーとして登録、「海と日本PROJECT」のムーブメントを進める上で重要な役割を担っている。例えば飲食店が海を想うスペシャルメニューを開発したり、観光会社が期間限定のクルーズツアーを提供したりと、地元の企業・団体ならではの海に関連する企画が生み出されている。これによりプロジェクトが多くの人の目に留まり、さらに社会全体のムーブメントとして広がる要因になっている。
2020年4月に、新型コロナウイルス感染者急増による初の緊急事態宣言発令により全国の小学生が「自宅待機」を余儀なくされた時も、子どもが海への好奇心や探求心を失わないように、同年4月末には自宅でも海を楽しめるオンラインコンテンツ「stay home with the sea」を立ち上げた。オンライン水族館や海の食材を使ったメニューを考えるコンテストなどを開催し、コロナ禍に関わらず年間100万人を超える参加者があった。これも各地、各関係者との連携の賜物である(「海と日本PROJECT」-stay home with the sea 参照)。
沸き起こるムーブメント
今後、「海と日本PROJECT」は海洋ごみ対策プロジェクト「CHANGE FOR THE BLUE」(産官学民オールジャパンで海洋ごみ対策のモデル構築 参照)を好例として、異分野を巻き込んだ新たな柱となる事業を醸成し、さらに、海に関心がなくても「楽しそう」「やってみたい」と思われる事業を展開していきたいと考えている。
例えば、2018年に始まった「海ノ民話のまちプロジェクト」は、日本中の海にまつわる「民話」を選定し、物語に込められた「思い」や「教訓」を含めて次世代へと語り継いでいこうというもの。2021年度には「海ノ民話のまち」として認定した地域は27地域(話)に上り、より一層の広がりを目指している。また、灯台を“海と人とを結ぶ地域コミュニティづくり”の起点として、新しい海洋体験を創造していく「海と灯台プロジェクト」(2020年度開始)では、11月1日~8日を「海と灯台ウィーク」に制定。海上保安庁と共に約50の市町村と連携したキャンペーンを実施するなどさらなる広がりを期待している。
当財団は、引き続き人々が海の課題を自分ごととしてとらえるためにも“海ごころ”を持って、海を未来へつないでいくためのアクションの輪を広げる活動を後押ししていく。
(中嶋 竜生/海洋事業部)
本事業における日本財団という方法
日本全国の地域内での連帯や、地域間での連携、また異業種・異分野が協働できる仕組み、さらに例えば系列の違うメディア間など、同業種間での連携でネットワークの効果を高めることができるプラットフォームを構築することは、日本財団という方法の一つである。つながる先はまだまだある。今後もプラットフォームの拡大と柱となる事業の独立を繰り返して、海と日本PROJECTは続いていく。
