産官学民オールジャパンで海洋ごみ対策のモデル構築

海洋に流出する大量のプラスチックごみ

2018年6月にカナダで開催された先進7カ国首脳会議(G7)では、深刻化する海洋プラスチックごみ問題も議題に上がり、プラごみによる海洋汚染の対策を各国に促す文書「海洋プラスチック憲章」が採択された。ところが、憲章で掲げられた数値目標と国内の現状とのギャップが懸念される中、憲章に反対する米国にも促される形で、日本政府は署名を保留。この後日本は世界的に批判を浴びることとなった。
プラスチックは自然界ではほぼ分解されず、半永久的に残る。直径5㎜以下のものはマイクロプラスチックと呼ばれ、回収は困難となる。陸から海洋に流出した後の行方、あるいは極小サイズとなったプラスチックが生物や人間の体内に取り込まれた場合の影響など、未だ明らかになっていないことも多い。明らかなことは、このまま増加し続ければ、近い将来(2050年頃といわれている)、「海洋プラスチックごみの量が海にいる魚の量を上回る」可能性があるということだ。
丈夫で便利、安価なプラスチックは生活に深く浸透している。海洋プラごみの汚染対策には、国民一人ひとりが海洋ごみ問題を自分のこととして、“これ以上、海にごみを出さない”という意識を醸成する必要がある。

「海と日本プロジェクト CHANGE FOR THE BLUE」の始動

当財団は海洋ごみ対策として「海と日本プロジェクト・CHANGE FOR THE BLUE」を2018年11月に立ち上げた。政府、企業、自治体、NPO団体など、産官学民のステークホルダーが“オールジャパン”で一体となって、科学的エビデンスに基づいた対策モデルをいち早く構築し、国内外に広げていくことを方針だ。

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CHANGE FOR THE BLUEの記者発表(2018年11月、日本財団ビル)

海洋プラごみの7~8割は陸で発生し、それが水路や河川を伝って海に流れ出ていることが分かっており、海のごみを掃除するだけでは問題の根本解決にはならない。そもそも川にごみが発生する原因を示すデータも乏しく、企業や自治体も効果的な対策を打ち出せず頭を悩ませていた。
そこで当財団と飲料メーカー大手である日本コカ・コーラ株式会社は、海洋ごみの発生原因を探る共同調査を実施。その結果から、原因は「ポイ捨て・投棄系」「漏洩系」の2つに大別され、特に前者を深掘りすると、従来は“モラルの問題”と一括りにされてきたポイ捨てが、実は社会的な問題や産業構造等が要因となり、ポイ捨てせざるを得ない状況が発生している実態も浮かび上がってきた。例えば、工場への納品前に長時間待機しているドライバーからのポイ捨てや、自治体によるごみ収集時間とごみを出す人の労働時間とのミスマッチ、生活困窮世帯が有料ごみ袋を買う経済的余裕がなく投棄してしまうといった事例が挙げられる。また、街中のごみ箱自体もテロ対策の名のもと撤去傾向にあるため、この結果コンビニ前に設置されたごみ箱に、コンビニで購入された商品以外のごみも捨てられるようになってきた。これを受けてコンビニ側もごみ箱を店内に設置するようになったため、屋外でのポイ捨てがさらに進むといった悪循環が見られるようになってきた。

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袋詰めで投棄されたごみ。背景には経済的困窮が推察される(2019年4月)

プラごみが「海に出た後はどこへ行くのか」「人体に入ると害を及ぼすのか」「どうすれば賢く使用できるか」という疑問に対する科学的知見を蓄積すべく、東京大学との共同研究も2019年にスタートした。これらの疑問をさらに追求すべく、同大学に加え京都大学や東京農工大学などの研究者らがチームを組み、同時進行で研究を進めている。
対策面では、関連する業界のリーディングカンパニーとの連携は欠かせない。小売大手である株式会社セブン-イレブン・ジャパンとは、コンビニ店頭にペットボトル回収機を設置する取り組みを始めた。持ち込んだ人にはポイント付与のインセンティブがあるため、ペットボトルのポイ捨て削減効果が期待できる。また、使用済ペットボトルを再びペットボトルにして再利用する「ボトルtoボトル」も実現した。開始当初、店頭回収したペットボトルの収集運搬については、廃棄物処理法との関係で自治体との調整に時間を要することもあったが、次第に設置ペースは加速し、2019年5月から2021年3月末までに約250台を設置し、計約1,200万本以上を回収した(2021年3月末時点)。

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地域で利用されるペットボトル回収機(2019年9月)

モデルの拡大・広域化

資源循環による海洋ごみ削減を発展させるため、複数企業が協働するプラットフォーム「ALLIANCE FOR THE BLUE」を2020年7月に設立した。石油化学のほか、日用品・飲食品・包装材メーカー・小売・リサイクルなど、バリューチェーンを構成する数十社の企業が参画するこのアライアンスでは、企画から流通・製造・消費・処分・再利用といった、プラスチック製造に係る一連の過程で一貫した対策を図ることができる。すべてのプラスチック使用を中止するのは現実的には難しく、またごみの流出をゼロにするのもハードルが高い。そこで、海洋ごみから製品素材となるものを製造し、あるいは使用後もリサイクルしやすく、海に流れても環境に悪影響を与えない製品やサービスを共同研究や社会実験を通して開発した。第1弾として、海洋プラごみのうち容積ベースで約3割を占める廃棄漁網を生地素材とした鞄製造に着手。漁師の協力と複数企業による協働を経て、商品化に成功した。廃棄漁網の資源活用を促進することで、海への不法投棄防止や回収を促す効果等も期待される。

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北海道厚岸の廃漁網が兵庫県豊岡で鞄に生まれ変わる(2021年7月)(左右)

自分たちが出したごみが大半を占める閉鎖性海域の瀬戸内海では、自治体の垣根を超えた広域での海洋ごみ対策モデルを構築する取り組み「瀬戸内オーシャンズX」を2020年12月に開始した。年間約4,500トンのごみが流れ込む瀬戸内海で、5年間でごみの流入量を70%減らし、回収量を10%増やすことで、限りなくごみをなくすことを目指している。

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瀬戸内オーシャンズXキックオフシンポジウム(2021年7月、香川県)

最後に、当財団と日本政府が連携した取り組み例として、全国一斉清掃キャンペーン「海ごみゼロウィーク」を、環境省や国土交通省と共に実施している。このキャンペーンは、5月30日(ごみゼロの日)から6月8日(世界海洋デー)までを「春の海ごみゼロウィーク」、9月18日(World Cleanup Dayの世界同時開催日)から1週間を「秋の海ごみゼロウィーク」として設定し、参加型アクションを通じて国民の海洋ごみ問題に対する意識醸成を行っている。2019年度は約40万人、2020年度は新型コロナウイルス感染症で減ったものの約20万人が参加した。

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海ごみゼロウィークのイベントにはコスプレイヤーも参加(2019年9月)

点から線へ、線から面へと海洋ごみ削減のモデルを拡大していき、いずれ海外にも広げていく。
(宇田川 貴康/海洋事業部)

本事業における「日本財団という方法」

産官学民の多様なステークホルダーと連携し、中でも業界をリードする相手と先駆的モデルをいち早く構築していく方針を立てて突き進めた。さらに、自主的に実施する部分と海と日本プロジェクトの助成事業とを組み合わせて、一つのプロジェクトの傘のもと推進することで、ムーブメント醸成に必要となる統一感と事業の相乗効果を生みながら推進する点も画期的であった。

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宇田川 貴康