アフリカの小規模農家が豊かで安定した生活を送るために

農家の手に付加価値の高い作物を

写真
農村の女性グループを訪問した当財団会長の笹川陽平(エチオピア、2013年)

当財団の国際協力事業の中でアフリカ農業支援は最も歴史が長い事業の一つである。1984年にエチオピアで発生した大飢饉への緊急支援をきっかけに、当財団初代会長笹川良一がノーマン・ボーローグ博士(※1)とジミー・カーター米国元大統領らの協力を得て、1986年に一般財団法人ササカワ・アフリカ財団(Sasakawa Africa Association 以下、SAA)の前身となる笹川アフリカ協会を設立したことから始まる。以後、35年にわたり当財団はSAAと連携し、国民の6割以上が小規模農家とされるサブサハラ・アフリカ地域で、食糧援助のような対処療法ではなく、農家の自立を目的とした支援を行っている。

SAAの活動方針は、1980~2000年代前半の「主要農作物の生産性向上」から、近年は「バリューチェーンアプローチ」(※2)に基づき、付加価値の高い農作物の生産支援までに広がっている。SAAはこれまでに、9,000人以上の農業普及員を育成し、ウガンダ、エチオピア、ナイジェリア、マリにおいては約1,000万人の農家に対して農業技術の普及を行い、小規模農家の食糧確保、栄養改善、そして収入向上の支援を行った。特にエチオピアでは、SAAの支援が功を奏し、活動開始から25年でトウモロコシの生産量が5倍以上、SAAが介入する地域においては、主要作物の収穫後のロスが4割減となった。中には貧困率が48%から14%に減少した地域もある。また、2018年にはウガンダにおいてSAAの農業普及モデルが国の農業政策に採用されるなど、SAAはアフリカの農業を支える必要不可欠な存在となっている。
2013~2017年には新たな取り組みとして農家の組織化を促し、種子や肥料の共同購入、脱穀や製粉サービスの提供、農産加工品販売など、農業ビジネスを通じて地域コミュニティの発展につながる支援も行った。

  • 1. インドやパキスタンでの食糧増産プロジェクト「緑の革命」を指導し、食糧不足の改善に尽くしたとして1970年にノーベル平和賞を受賞した。
  • 2. 作付け、収穫後処理や農業ビジネスを含む生産から消費までを一貫して支援をする考え方。
写真
農業普及委員による農場での技術指導(ナイジェリア)
写真
収穫後の加工の一環としての処理機によるデモンストレーション(ウガンダ)

国際社会への働きかけ

2011~2021年、当財団のアフリカ農業支援は、SAAによるアフリカ現地での活動を中心としつつも、国際社会への働きかけも行った。2016年8月の第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)では、SAAが初めてTICAD公式サイドイベント「農業を通じた社会の安定と雇用への貢献―アフリカにおける30年間の軌跡―」を主催し、アフリカ開発銀行と協力覚書を結んだ。2018年8月には当財団は外務省と共催でナイジェリア、モザンビーク、南アフリカ、ベナン、タンザニアの5カ国の元首脳を日本に招聘し、アフリカにおける平和と安定のための農業の重要性、平和と安全の分野で提言を行うことを目的とした「アフリカ賢人会議」を開催。さらに、2019年8月に横浜で開催されたTICAD Ⅶの公式サイドイベント「アフリカの農業と未来―若者の力と農業ビジネス―」(主催:SAA)には安倍晋三総理大臣(当時)も出席し、当財団会長笹川陽平は「新しいアプローチを導入することで農業がアフリカの未来を担う多くの若者にとって魅力のあるものとなると共に、農業を通じた繁栄を共有するための社会の安定化に貢献したい」とスピーチを行った。同イベントにおいて、SAAは独立行政法人国際協力機構(JICA)と協力覚書を締結し、JICAがアフリカで推進する市場志向型農業の普及を担うこととなり、SAAはその活動の幅を広げている。

写真
TICADへ出席するためにアフリカ各国から集まったSAA理事とのレセプション(2019年8月)
写真
TICAD Ⅶの公式サイドイベントに合わせSAAとJICAとの間で技術協力協定を締結(2019年8月)
写真
TICAD ⅦのSAA主催公式サイドベントに参加した安倍晋三総理大臣(当時)(2019年8月)

SAAの活動はアフリカ現地での評判にとどまらず、国際的にも認められ2017年、ルース・オニヤンゴSAA会長がAfrica Food Prize(※3)を受賞した。これらの実績やアフリカに根付いた活動が評価され、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、国連世界食糧計画やイスラム開発銀行などからの支援を受け、2011~2021年の間、SAAは約3,200万ドルもの外部資金を獲得している。

  • 3. ノルウェーの肥料会社、アメリカの種子会社そして国際NGO・アフリカ緑の革命のための同盟(AGRA)が2005年に設立した賞で、アフリカの農業と食料安全保障著しい貢献をした団体や人に贈られるもの。

環境再生型の農業を推進する

2020年末、アミット・ロイSAA副会長の主導のもと、2021~2025年の新戦略が策定され、環境再生型農業、栄養に配慮した農業、そして市場志向型農業に焦点が当てられることとなった。世界規模で気候変動や環境保全への対応が求められる中、SAAは農作物の生産量増加を追求する従来のフェーズから、環境再生型農業を推進する戦略に舵を切った。各国の農業政策や様々な制約がある中、アフリカで農地と地球環境をつなぐ環境再生型農業を理念として掲げるだけにとどまらず、戦略として位置づけ実行する意義は大きい。さらに、新型コロナウイルス感染症への対応をきっかけに、従来の農業普及方法にとらわれることなく、急速に普及しているスマートフォンやアプリなどを活用し「農業普及のデジタル化」も推進する。35年の実績と新戦略のもと、次のフェーズにおいてもSAAはアフリカ農業支援の先駆者となることを目指す。
日本発の非営利組織としてアフリカ4カ国に事務所を構え、現地政府や国際機関とも連携しながら35年以上もアフリカの農業支援に貢献している団体は珍しく、SAAは日本によるアフリカ農業支援を代表する存在である。アフリカに根差した長い活動実績と現地関係者との深い信頼関係を基に、アフリカの農家が安全で豊かな生活を送ることができるよう、日本財団はこれからもSAAと共に、「Walking with the Famer」の精神で小規模農家に寄り添い続ける。
(和田 真/特定事業部)

本事業・この社会課題への今後の期待

SAAはその設立以来、アフリカ現地に事務所を置き、文字通り模農家に寄り添って支援実績を積み重ねてきた。その経験、苦労そして成果は単純な数字で表現しにくいと思う。時代が流れ社会情勢が変わり、農業技術が進歩しようとも、Walking with the Farmerの精神は生き続けるはずだ。これからも農家の手を取ってアフリカの大地で活動してくれることを期待している。

写真
和田 真