ミャンマー少数民族地域の教育支援を通じた地域開発
貧困の連鎖を断ち切る教育支援
発展途上国の貧困を私たちが考える時、まず思い浮かぶのは教育の機会を奪われた子どもたちによる労働問題だ。いわゆる「児童労働」と言われるもので、単純労働、重労働に就く子どもたちは、充分に学校に通うことさえもできない。成長過程で大切な基礎教育を受けられなかった子どもたちは、読み書き、計算ができず、一般常識も不足することから、成人した後も安定した収入を得る仕事にも就けず、一向に貧困から抜け出すことができないでいる。
こうした貧困の連鎖を断ち切るには、質の高い基礎教育の提供が必要だ。子どもたちが勉学に励み自分たちの将来像を描ければ、貧困から抜け出せる可能性が高まる。
こうしたことから現在では発展途上国の貧困対策を考える上で、最優先課題となっているのが基礎教育を提供するための支援や環境整備だ。
これまでも発展途上国では、様々な団体の支援によって学校建設など教育環境整備事業は行われてきた。しかし、学校を建てて終了という取り組みも多く、建設後、学校が教育目的以外に使用されたり、教師が不在で授業が実施されないといった問題が散見される。学校教育支援では、学校建設後の持続的な学校運営をいかに担保するかが重要な課題となっている。
ミャンマーの教育環境

当財団は、歴史的に日本とつながりが深く、これまで112万人以上の紛争被害者への食料や復興支援を行ってきたミャンマーで、2002年から学校建設事業を展開している。
当時、ミャンマーの都市部は各国の活発な経済投資や、政府のインフラ投資で急速に発展していた。他方で、辺境地域に暮らす少数民族には投資による恩恵や支援が行き届かないことが課題となっていた。多民族国家であるミャンマーには、約7割を占めるビルマ族のほか、130を超す少数民族が暮らしており、その多くが、物資輸送が困難な山岳地帯や、土砂災害などの自然災害が頻発する地域で暮らしており、貧しい生活を余儀なくされていた。
ミャンマー政府からの要請を受けた当財団は、こうした貧しい地域に暮らす子どもたちに教育の機会を提供することを目的に学校建設事業をスタートさせた。
村人が学校運営も

当財団が最初に支援したのは2002年、インフラ整備が都市部に比べ著しく遅れていた少数民族地域シャン州での学校建設を通じた基礎教育支援事業だ。現地NGOのセダナーと協力して、「箱モノ」としての校舎建設に終わらせず、地域住民の力で教育を地元に根付かせることを目標とした。特徴は、当財団からの学校建設費用の助成に加え、地域住民からは土地や建設資材、そして建設のための労働力を提供してもらうことにある。校舎完成後、住民の貢献分をお金に換算し、それをコミュニティ開発基金として、共同農園やマイクロファイナンス等の地域開発事業も始め、この収益を教員確保や学校備品補充等に充てる。地域住民が「自分たちが作った学校」を「自分たちの資金」で運営する仕組みとなっている。
2012年からは認定NPO法人ブリッジエーシアジャパンと共に、洪水・サイクロンで甚大な被害を受けたラカイン州でも事業を開始した。この事業の特徴は、屋上に避難所機能を備えた校舎や、浸水対策として高床式の校舎を建設することで、地域で災害が発生した際の避難場所としての機能も担っている点にある。建設作業員には地域の若者を採用、建設作業に関わることで土木に関する知識と技能を習得できる職業訓練の要素も兼ね備えている。
また、ラカイン州は特に多様な民族が暮らす地域でもある。そのため当財団が建設した学校にも、様々なバックグラウンドを持つ生徒がいて、一緒に勉強することで、幼少期から異文化を理解する場ともなっている。
毎年、雨季の浸水被害が著しいエーヤワディー管区でも、2013年から認定NPO法人れんげ国際ボランティア会と共に、住民参加型の学校建設を実施している。建設費の4分の1を村人に負担してもらい、建設作業にも協力してもらうことで、自立運営への意識とオーナーシップを醸成し、継続的な学校運営が可能になっている。また、若手教員を対象にした研修も実施しており、次世代の教育を担う人材育成も行っている。
なお、村人から集めた資金は建設後に地域開発基金として村に返し、共同農園や寮の運営の原資に充てている。


これまで当財団の支援を通じてミャンマーで建設された学校は740校に上る。校舎建設後は生徒数も増え続け、村人が自ら資金を集めて追加で学校を建設したケースもある。こうした地域参加型の教育支援事業によって、住民が子どもたちの教育に責任感を持ち、より良い教育を受けさせたいという意識を醸成できたことは、本事業の成果である。
子どもたちが教育を受ける機会をコミュニティの人々が自ら考え、持続可能な形で発展させていく。これは国づくりの基盤ともなる安定したコミュニティ、社会の形成にもつながる。当財団も学校建設事業を通じて、こうした発展途上国の国創りを今後も支援していく。
(勝俣 創介/国際事業部)
本事業を行う中で得た気づき
本事業を通じて、「ハコモノ」を建てて終わりではなく、支援終了後に地域の方々に継続して活用してもらえる事業を実施することの大切さを改めて感じた。現地に赴き、ニーズをしっかりと把握すること、そして現地の方々に一緒に参加してもらえるプロセスを大切にしていきたい。
