無人運航船プロジェクト「MEGURI2040」(1/2)
実証実験の開始
現在、自動車を中心に無人運転の実証実験が進められているが、船舶・海運については、船陸間の通信環境整備や障害物を瞬時に避ける技術開発が困難であること、また開発にかかる資金が莫大であるなどの理由から、これまでは北欧などの一部の国のみで開発が行われていた。

一方で我が国では、IoT(Internet of Things)やAI(Artificial Intelligence)を活用した高い画像解析技術を保持していることから、これらの技術を持つ民間企業同士がコンソーシアムで技術開発を行えば、無人運航船の技術が飛躍的に高まる可能性がでてきた。そこで、当財団が中心となり2020年2月に無人運航船の実証実験に関する技術開発共同プログラムを立ち上げた。2021年8月までに5つのコンソーシアムが技術開発に取り組んでいる。「MEGURI2040プロジェクト」と命名したこのプロジェクトに、当財団は約74億円を助成し計19件の事業を支援している。

5つのコンソーシアムが参画
MEGURI2040プロジェクトでは、5つのコンソーシアムが、異なる船舶、航路で無人運航の実証実験を2022年3月までに実施。コンソーシアムへの参加企業・団体は、従来の造船・海運・舶用で構成した海事クラスター(造船業、海運業、舶用工業など中心に経済活動を行っている様々な企業、団体の集まり)のみならず、商社、AIや通信系企業などの異分野を加え計40以上となっている。実証実験は、船舶交通が非常に多い海域や長距離での航行、大型船や小型観光旅客船、水陸両用船による航行などもあり、これらは世界初の試みとなっている。
以下に5つのコンソーシアムについて紹介する。
①スマートフェリーの開発(三菱造船株式会社 他1社)
横須賀港と新門司港を結ぶ大型内航フェリーを実験船とし、自動離着岸や自動避航を含む無人運航の技術開発・実証に加え、将来の機関部故障予知実現に向けた監視強化の効果を確認する。
②無人運航船@横須賀市猿島(丸紅株式会社 他3社・団体)
横須賀市の三笠桟橋とその沖にある猿島を結ぶ小型旅客船を実験船とし、既存の小型船を安く早く無人運航化できる技術を開発するもの。広く小型船に適用可能な自動操船技術の実現を目指す。
③無人運航船の未来創造~多様な専門家で描くグランド・デザイン~(株式会社日本海洋科学 他29社)
東京湾と伊勢湾を結ぶコンテナ船を実験船とし、自動運航分野で国際的にも豊富な実績を有する多彩な専門家集団による無人運航船の開発と、それによって支えられる新時代の国内物流社会の実現を目標とする。オープンコラボレーションでの取り組みにより、自動離着岸や自動避航の技術開発に加えて、陸上からの監視により、無人運航機能の不具合時には、陸上からの遠隔操船を行う陸上支援センターの開発も行っている。
④内航コンテナ船とカーフェリーによる無人化技術実証実験(株式会社商船三井 他7社)
福井県の敦賀港と鳥取県の境港を結ぶコンテナ船と、北海道の苫小牧港と茨城県の大洗港を結ぶカーフェリーを実験船としている。自律運航により、内航海運業界の喫緊の課題であるヒューマンエラーによる海難事故の撲滅と、船員不足常態化・船員高年齢化への対応策として、労務負担の軽減を目指す技術開発を行う。自動離着岸や自動避航の技術開発に加えて、係船支援としてドローンの活用も行っている。
⑤水陸両用無人運転技術の開発~八ッ場スマートモビリティ~(ITbookホールディングス株式会社 他4社・団体)
群馬県のあがつま湖で、水陸両用船の自動運航を、自動車の自動運転プログラムを拡張して開発する。また、陸上での監視のための通信には、ローカル5G通信を用いる。
無人運航船の実現により、期待される効果
無人運航船の実現が、船員の半数以上が50歳以上という我が国の船員高齢化問題や、事故の8割を占めるとも言われているヒューマンエラーによる海難事故といった課題の解決に資することが期待される。また、2040年に50%の船舶が無人運航船に置き換わった場合、国内で年間1兆円の経済効果が期待されている。
無人運航船の実用化に向けて
MEGURI2040プロジェクトでは、2022年3月末まで実証実験を行い、2025年までに無人運航船の実用化を目指している。無人運航船の将来的な実用化には、技術の実証だけでなく安全性の確保が不可欠となる。当財団は、MEGURI2040プロジェクトの一環として、第三者による安全性評価の仕組みを構築し、無人運航船の実用化の後押しを行っている。この安全性プロジェクトは、海洋の専門家だけでなく、IT、宇宙、法律、自動車、鉄道関係等の専門家も含めて構成された体制で、無人運航システムの評価手法と評価機能の開発を行うものである。
また、技術の国際標準化の多くは、欧州によって定められたルールの後追いとなっている現状があり、いかにルール形成を主体的に仕掛け、産業力強化を実現するかという課題を抱えている。MEGURI2040プロジェクトでは、無人運航船の安全性評価事業の実績を基に、無人運航船の安全性ガイドラインを作成し、国際合意を得ることで、我が国の産業力強化の実現を目指している。
(桔梗 哲也/海洋事業部)
本事業における「日本財団という方法」
無人運航船MEGURI2040プロジェクトでは、船員高齢化による人材不足や船舶の安全性向上に資する取り組みとして、既存の海事クラスター(造船、海運、舶用)だけでなく、ICT、商社、自治体など様々な団体に参画いただいており、日本財団が結節点(ハブ)となり推進している事業といえる。
