パラリンピック支援(1/2)

東京2020へ、スポーツによる社会変革

2013年9月、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の招致が決まり、注目が高まり始めた日本のパラスポーツだが、当時はまだ課題も多く残っていた。その一つが、パラリンピックの約30の競技団体のうち、法人格を持っていない団体が10に上っていたことである(2015年6月2日現在)。専用事務所がある団体は一部で、役員の個人宅で代用している例もあり、競技力の向上や、東京2020大会の準備に十分な体制を構築することができない状態だった。

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当財団と早稲田大学の国際シンポジウム(2015年1月30日)

そこで、当財団は2015年5月、「日本財団パラリンピックサポートセンター(パラサポ、現在は「日本財団パラスポーツサポートセンター」に名称変更)」を設立、2021年度までに100億円規模の支援を表明すると共に、資金だけでなく4名の職員を出向させ、立ち上げ期から大規模な事業を開始した。パラサポは「SOCIAL CHANGE with SPORTS」をスローガンに、パラスポーツを通じて、一人ひとりの違いを認め、誰もが活躍できるダイバーシティ&インクルージョン(D&I)社会の実現を目指している。パラリンピック競技団体の運営支援をはじめ、パラアスリートや障害のある当事者と一緒に知る、学ぶ、体験する、をモットーにパラスポーツを活用したD&Iプログラムを展開している。

競技団体を全面サポート

2015年11月、パラサポは東京・赤坂の日本財団ビル4階にパラリンピック競技団体との共同オフィスを整備し、2021年度時点では29の競技団体が入居している。オープンなデザインのオフィスでは、団体同士の有機的なつながり、メディアや企業などとの外部連携も促進され、パラスポーツの一大拠点として活用されている。

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日本財団パラリンピックサポートセンターの共同オフィス(2018年)

オフィスという場所の提供に加えて、パラサポでは人材育成・ガバナンス整備・競技普及・広報活動などの支援も実施している。
競技団体の主な収入源である企業スポンサーの獲得を支援することで、競技団体の継続した運営と自立を促進している。また、各団体の共通業務を集約するシェアードサービス機能(経理、翻訳、法務・税務など)を提供することで事務効率化を進め、各団体が独自業務に集中できる環境を整えた。
2020年度は新型コロナウイルスの影響もあり1団体当たりの平均スポンサー数・収入額が10社・約3,500万円とやや減少したものの、シェアードサービス機能の拡充などによる支出削減でカバーし、各競技団体は自立への道を着実に進んでいる。

貴重なパラスポーツ専用体育館

東京2020パラリンピックの開催が決まり、パラアスリートへの応援機運が高まった一方で、日常的な練習場所の確保に苦労するアスリートが多いという声が聞かれた。日本パラリンピアンズ協会の調査によると、トップ選手であるパラリンピアンでも5人に1人は何らかの理由で練習施設の利用を断られる・制限される、などを経験していることが分かった。そこで、パラサポは2018年6月にお台場の船の科学館敷地内にパラスポーツ専用体育館「日本財団パラアリーナ」を建設。ユニバーサルデザインが徹底された施設のモデルケースとしての認識も広まった。また、パラアスリートへのスピーチトレーニングプログラムを開発し、修了した者を「あすチャレ!メッセンジャー」認定講師として全国に派遣している。2021年11月末現在で74名(内パラリンピアン46名、メダリスト17名)が登録、競技や障害のバリエーションも豊富な講師陣は国内最大級の規模となっている。

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日本財団パラアリーナ外観(2018年6月)

D&Iプログラムの展開

パラサポではD&I社会の実現のため、「あすチャレ!」と銘打った独自プログラムを開発。いずれもパラアスリートを中心とした障害当事者を講師とした様々なプログラムを展開している。教育機関向けにはパラスポーツ体験型出前授業「あすチャレ!スクール」や、企業・団体向けにはダイバーシティセミナー「あすチャレ!Academy」を、パラスポーツで行う運動会「あすチャレ!運動会」や、障害について楽しく学べるワークショップ型授業「あすチャレ!ジュニアアカデミー」を開催。そして全てを対象としたパラアスリートの講演講師派遣「あすチャレ!メッセンジャー」の5つを全国で展開した。2022年3月末時点で参加者延べ約33万人を数えるプログラムに成長した。また、視覚障害・聴覚障害・肢体不自由など様々な障害種の障害者と健常者が一つのチームをつくってタスキをつなぐ「パラ駅伝」、パラスポーツと音楽を交差させた新しいライブエンターテイメント「ParaFes」を各4回開催している。その他開催してきたイベント等も含めて合計約3,000回開催、45万人以上に対して直接的にプログラムを提供してきたことで、着実に社会に前向きな変化が起きている。

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子ども向けの車いすバスケットボールの体験授業(2016年)

スポーツの価値高めたパラリンピック

東京2020パラリンピックは、新型コロナ感染症流行のため2021年に延期され、様々な意見がある中での開催となったが、躍動するパラアスリートの姿とそのメッセージに多くの人々が感動し、成功と言われる大会となった。パラアスリートたちの洗練されたパフォーマンスによって、スポーツには健常者・障害者の垣根はないことが示された。スポーツには多様な価値があり、特に人間形成といった教育的効果が高いことが再認識された。今後のパラサポでは、パラスポーツを活用したD&Iプログラムを中心としつつも、これに留まらず広くスポーツの価値を享受できるプログラムを展開していき、パラスポーツだけではアプローチできなかった層へ、新しいムーブメントを起こしていく。
パラサポの取り組みは、当財団が目指す「みんながみんなを支える社会」を、スポーツを通じて達成しようとするものであり、さらなる展開に期待している。また、当財団の事業と各種「あすチャレ!」プログラムとの連携を強めて、日本財団グループ全体でスポーツ・教育のムーブメント醸成を図っていきたい。
(金子 知史/経営企画広報部)

本事業における「日本財団という方法」

パラサポは当財団の広告塔の役割だったと振り返る。この役割を果たせたのは、当事者のパラアスリートを支援してきたためと述べたが、はるか昔から障害者福祉等の分野での長年の活動が土台にあったことが重要で、だからこそ実現できた活動も数多くあった。70年史には新たな事業が記されることと思うが、その土台としてパラサポの活動が活かされることを期待している。

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金子 知史