海外における障害者事業
当事者リーダーの育成から企業との連携へ(1/2)

東南アジア中心に活動開始

当財団は1962年の設立以来、障害者支援を重要なテーマの一つに掲げ、国内外で様々な事業を展開してきた。海外では30年以上にわたり、東南アジア地域を中心に視覚・聴覚・肢体障害者の支援に重きを置き、障害の有無に関わらず誰にでも平等に選択肢が開かれたインクルーシブな社会の実現を目指している。
同地域では1990年代中頃まで、各国の政府開発援助も民間財団もこの分野で目立った取り組みを行っておらず、当財団の活動はかなり早い時期だといえる。他団体の活動に対して資金協力を行う助成事業であっても、企画段階から参画し、NGOや障害者団体、現地政府等と連携しながら事業を進めている。支援が終了した後も事業が現地に根付き、さらに発展していくよう、①当事者リーダーの育成、②国際ネットワークの構築、③情報通信技術(ICT)の効果的な活用、の3つのアプローチを重視してきた。いくつか代表的な事業を紹介する。

障害当事者リーダーの育成

高等教育支援で視覚障害者をリーダー人材に

当財団による視覚障害者の支援は、1990年代初めに途上国の視覚障害者が米国のオーバーブルック盲学校に留学して学ぶための基金を設置したのが始まりである。しかし基金運用益で支援できる学生数は限られていたことから、東南アジア地域の学生が自国で学ぶことができる体制へと1998年に方針を転換した。「視覚障害者のためのオーバーブルック-日本ネットワーク事業(ON-NET)」と呼ばれるこの活動は、ICTを活用しながら視覚障害者の教育と就労の機会拡大を目指し、現在まで運用益で事業を継続している。
2006年からは国際視覚障害者教育協議会(ICEVI)と連携して、アジア7カ国で2,700名超の視覚障害者に高等教育支援を提供してきた。事業内容は多岐にわたり、点字教材・必要機材の配布や大学教職員に向けた研修、また理数科目を苦手とする視覚障害者が多いことから、教員向けのビデオ教材の開発にも力を入れてきた。教材はYouTubeチャンネル「ICEVI Math Made Easy(外部リンク)」で閲覧可能。2015年からは就労支援も開始しており、現在では支援を受けていた人が支援を与える側にまわり、当事者ならではの視点で各国の課題をくみ取りながら事業を発展させている。

2021年には、これまでの視覚障害者事業の取り組みをまとめた本『PARTNERSHIPS FOR CHANGE』を出版した。この本はPartnerships for change(外部リンク)から無料でダウンロードできる。

書影
視覚障害者事業の本「PARTNERSHIPS FOR CHANGE」
写真
大学の視覚障害学生を対象に開催されたソフトスキルトレーニング(2019年、フィリピン・マニラ)

50万本超の義手義足を配布

1960年代から70年代にかけて同地域では紛争が頻発し、地雷被害者の救済が国の再建に向けた課題であった。当財団は同地域を中心に、1990年代から義手や義足を無償で提供し、地域の肢体障害者を直接支援してきた。アジア域内の人材で義肢装具の提供を継続していけるよう、義肢装具士を養成する学校への支援も実施している。これまでアジア6カ国で約600人の義肢装具士を育成し、50万本超の義手義足を提供してきた。国別実績は下図の通り。支援総額は100億円近くに上る。

義肢装具士関連事業の国別実績【ミャンマー(2012年~)】義肢装具士養成学校支援:卒業生 33名、受講生 36名。義肢装具サービス無償提供:ヤンゴン、マンダレー。【スリランカ(2003~2014)】義肢装具士養成学校支援:卒業生 65名、受講生 12名。義肢装具クリニックの運営。【インドネシア(2008~2018)】義肢装具士養成学校支援:卒業生 73名、受講生 89名。【ベトナム(1999~2010)】義肢装具サービスの無償提供。【タイ(2001~2020)】義肢装具士養成学校支援:卒業生 180名(タイ:135名、留学生:45名)、受講生 118名(タイ: 93名、留学生:25名)。義肢装具技術士への技術移転。【フィリピン(2010~2019)】義肢装具士養成学校支援:卒業生 72名、受講生 33名。【カンボジア(1991~2008)】義肢装具士養成学校支援:卒業生 219名、受講生 26名。【東南アジア域内多国間支援】「義肢装具技術士教育(2016~2018)」対象国:カンボジア、ミャンマー、スリランカ、インドネシア。場所:カンボジア義肢装具士養成学校。卒業生 26名、受講生 16名。「義肢装具士養成学校ネットワーク構築(2009~2016)」※タイでは2012年度から、各国で義肢装具士資格(カテゴリⅡ)を取得した学生を対象に、指導者資格(カテゴリⅠ)取得のためプログラムを提供しているため、一部受益者は重複。タイで育成した指導者資格(カテゴリⅠ)取得者は合計100名。
義肢装具士養成事業国別実績

義肢装具士養成学校の設立と運営は基本的に各国の保健省と協力して行い、義肢装具士の地位を国の医療制度の中に準医療職として確立するよう働きかけた。10年間を支援の区切りとし、その間に人員面・資金面ともに自立して運営できる体制を整えた上で各国に引き渡している。
本事業は国際義肢装具協会(ISPO)に委託し、2017年から2018年にかけて各国の成果を調査した。メルボルン大学ノサール世界保健研究所のチームが調査を実施。患者、卒業生、関係者等100名以上にインタビューを行った。報告書は専用サイト(外部リンク)からダウンロードできる。

またマレーシアのマラヤ大学と連携しながら、ASEAN7カ国の大学で障害当事者が修士課程で学ぶための奨学金を提供し、各国の障害者を取り巻く制度や雇用状況を障害者自身が変えていくためのリーダーとなる人材の育成も2016年から行っている。これまで65名(2022年4月時点)に奨学金を提供し、卒業生は障害者団体の代表や各国政府の障害者政策担当官になる等、各方面で活躍している。

写真
義肢を装着するインドネシア義肢装具士養成学校の学生(2018年10月)