海外における障害者事業
当事者リーダーの育成から企業との連携へ(2/2)
広がる手話教育のネットワーク
アジア地域では、手話は言語であるという認識や手話言語に関する研究が欧米に比べ遅れており、体系的に手話を学ぶ機会、手話で教育を受ける環境が整っていない。当財団はアジア地域のろう者※の社会参加を後押しするため、手話が音声言語と対等な言語として認められ、大学等において言語科目となり普及し、ろう者が手話で社会参画できる環境を目指し、手話による教育支援、手話言語学研究の普及、手話言語の法的認知の推進に取り組んできた(図1)。
ベトナムではアジア初となる手話と書記言語によるバイリンガルろう教育実践校を設立し、ろう者が小学校から大学まで一貫して手話で勉強ができるようにしたことで、2000年設立時には中学卒業者が1人もいなかった状況から、20年後の2020年には30名以上の大学卒業者を輩出するまで成果を挙げている。現在はフィリピンとラオスでも同教育方式を導入し、事業を展開している。また途上国のろう者が米国のギャロデット大学やロチェスター工科大学で高等教育を受けられるよう奨学金制度を1992年に創設し、30年近く支援を継続している。

2002年からは香港中文大学を拠点にアジア諸国のろう者と聞こえる人に手話言語学の学位プログラムを提供し、これまで8つの手話言語の辞書・データベースを完成させ、5カ国の大学に手話言語研究拠点を設置してきた。本事業を通じて、アジア各国からの奨学生が手話言語学を学び、帰国後自国の大学で新たな研究拠点整備に貢献し、自国の手話の研究・教材作成・人材養成の拡大につなげる流れが定着しつつある。2019年には、大学コンソーシアムを設立し、手話言語の研究拠点を持つ大学間の連携を通して、アジア地域の手話言語学研究を加速させている。
昨今はITを活かした事業開発にも力を入れており、2021年には香港中文大学と共同で、手話やろう者の理解促進を目指し、Googleと関西学院大学協力のもと、AIが手話表現を認識する手話学習ゲーム「手話タウン(外部リンク)」を公開した。子どもたちの手話を学ぶ機会を広げ、手話通訳者や学校・病院・職場等で手話ができるプロフェッショナル人材が育成され、ろう者の幅広い活躍を後押しする土壌を整えていきたい。
- ※ ろう者=聴覚障害者の中でも、手話を日常的に用いる人




世界中の大企業を巻き込んだ挑戦
このように、障害者の自立と社会参加の促進を目指し、教育支援を中心に様々な事業を展開してきた結果、多くの優秀な人材を輩出した。一方で大学を卒業しても、障害が理由で希望する仕事に就くことができない人や、早期離職してしまう障害者が多くいる。当財団は、当事者に対する直接的な支援と政府や国連など公的機関への働きかけに加え、社会の多数派の意識を変える必要があるという観点から、2019年のダボス会議で設立された企業CEOのネットワーク組織The Valuable 500(V500)との連携を開始。障害者の社会参加を世界規模で推し進めている。

当財団はこれまでの障害者支援を通じて、障害を生み出すバリアをなくせば、皆が自分の持つ力を発揮できると信じている。世界中の企業と共にビジネスにおける障害者インクルージョンの促進に取り組むことで、障害者の社会参加を一層推し進めることが今後の目標である。
(内山 英里子・川俣 郁美/特定事業部)
本事業を行う中で得た気づき
支援を必要とする人も、当事者や行政・企業、多様な主体と連携して支援することで社会を支える担い手として力を発揮し、「みんながみんなを支える社会」の実現に資することができる。各国で育成された障害当事者リーダーがモデルケースを作り、後進に刺激を与えていることを心強く思う。学ぶこと、働くことにおいて、皆に平等な選択肢がある社会を目指していきたい。

