難病の子どもと家族が孤立しない地域づくり

25万人以上の難病児

医療技術の進歩等を背景に、救える命が増えると同時に、病気と向き合いながら生活する子どもも増えている。日本には難病を抱えた子どもが25万人以上いるといわれている。この中には指定難病・小児慢性特定疾病の子ども、日常的に人工呼吸器や胃ろう(※1)等の医療的ケアを必要とする子どものほか難病指定されない希少な病気の子どもも含まれる。

難病の子どもを育てる家族は、我々が想像する以上に「自由な時間」がない。中でも医療的ケアを必要としながらも自宅で生活せざるを得ない子どもは24時間体制でケアが必要なことから、家族は娯楽に費やす時間や休息する時間はほとんどなく、子どものために睡眠時間を削り、その命と向き合っている。このような状況下では産後の母親が社会復帰をすることも難しく、感染症のリスクや移動の困難、周囲からの視線などを意識するあまり気軽に外出することができず、必然的に引きこもりがちになってしまう。そんな難病児と家族が置かれている現状をより良くしたいとスタートしたのが、「難病の子どもとその家族を支えるプログラム」である。

  • 1. 病気やけがなどの理由で口から食事を摂れない場合に、胃から直接栄養を摂取するための医療措置のこと

30カ所のハブ拠点

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ハブ拠点「青と碧と白と沖縄」は、家族で滞在可能な宿泊施設(2020年1月)
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ハブ拠点「Burano」は日中の預かりに加え、2階で母親の在宅ワークが可能(2018年4月)

2011年から難病の子どもと家族が孤立しない支え合いの社会を目指し、当財団が公益社団法人日本歯科医師会の協力を得て実施している「TOOTH FAIRYプロジェクト」は、小児がん治療専門施設をはじめ家族が一時的に介護から離れ、休息の時間を過ごすための小児レスパイト施設の建設を支援している。

また、2015年からは在宅生活支援も強化し全国に30カ所の地域連携ハブ拠点の整備を進めている。難病の子どもの命を支える「医療」、生活を支える「福祉」、学習を保障する「教育」、その家族の暮らしを支える「フィランソロピー」の4つの領域を包括的にアプローチする地域連携ハブ拠点を作ることで、医療や福祉の制度を活かすとともに、制度によらない自主的な取り組みが増え、結果、難病の子どもと家族が孤立しない状態作りに寄与することを目指す。具体的には、日常的な福祉や医療のサービスに基づいて通所または宿泊する施設に加えて、非日常的な楽しみであるキャンプや旅行で家族全員が利用できる施設など、個性ある拠点作りだ。休息のなかった家族は自分の時間を持て、旅行を諦めていた家族は非日常的なゆったりとした時間を過ごし思い出を作る場所となる。また、普段難病の子どものケアでなかなか目を向けてもらえない兄弟姉妹も家族に甘えられ、家族全員で楽しいひと時を過ごせる特別な場所だ。2022年3月時点ですでに28拠点が開所しており、建設中の2拠点を含め計30カ所、総額約34億円を支援している。

ケアだけでなく遊びを

当財団は、先に述べた「TOOTH FAIRYプロジェクト」も含め、企業や一般からの寄付金を活用し子どもが成長していく上で必要な支援も行っている。難病の子どもへのサポートというと医療的な支援や補助金にばかり目が向いてしまうが、それだけでは十分でない。難病の子どもたちは毎日病院や自宅で治療と向き合っており、どうしても遊びは後回しにされがちだ。難病の子どもと家族にこそ「遊び」が必要だと当財団は考えている。
2019年6月、当財団とNPO法人芸術と遊び創造協会東京おもちゃ美術館による難病児向けのおもちゃセット「あそびのむし」の共同開発がスタート。療育を目的にしたものではなく、治療やリハビリを忘れ、子どもも大人も純粋に遊びの時間を楽しめるよう当事者の声を取り入れた。約1年半の開発・準備期間を経て、2020年12月のクリスマスに向け、地域連携ハブ拠点30カ所を含む全国の病院や施設計約90カ所に配布した。ケア中心の生活を送り、子どもとのコミュニケーションに悩む家族も多く、中には“あそびのむし”を使い、「初めて子どもと遊べることを知った」という声もあり、ケアだけでなく「遊び」が子どもの成長に大切であるかを改めて知るきっかけになった。難病を理由に遊びを制限せず、どうすれば共に楽しめるかを考えることが重要である。

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「あそびのむし」贈呈式(2020年12月)

他にも、これまで病院、施設、自宅での子どもの成長を支える取り組みとしてクリニクラウン(臨床道化師)の訪問やファシリティドッグ(※2)を届けるなど様々な事業を支援してきた。長期入院や重い病気の治療でふさぎがちな難病の子どもたちに、驚きや喜びなどの感情表出や自己表現する機会をつくり、自尊心を保てる“心のケア”に取り組んでいる。
難病の子どもとその家族を取り巻く課題は周りが想像するよりもはるかに多い。病気や障害の有無に関わらず誰もが平等に笑顔でいられ、子どもたちとその家族が地域で孤立することなく支え合いの中で暮らしていけるよう当事者に寄り添ったプログラムを展開していきたい。

  • 2. ファシリティドッグとは、病院で活動するための専門的なトレーニングを受けた犬のこと。医療従事者であるハンドラーと共に、検査や処置にも付き添います。
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難病の子どもたちと共に「遊ぶ」クリニクラウン
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辛い治療を続ける子どもたちに勇気と笑顔を与えるファシリティドッグ

(本田 明日美/公益事業部)

本事業・この社会課題への今後の期待

日々病気と向き合いながら生活する子どもや家族にとって、日常生活を支える医療や福祉の支援はもちろんのこと、制度では解決できない遊びや思い出作りといった支援も重要である。多様な支援者が協働することにより、全国各地に支援の輪が広がり、難病の子どもとその家族が孤立しない支え合いの社会を実現したい。

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本田 明日美