子どもたちに家庭養育を

8割が施設で暮らす現実

日本で、生みの親と暮らすことができず社会的養護を必要とする子どもは2022年に約4万2,000人いる。その約8割は乳児院や児童養護施設などで生活しており、里親や特別養子縁組などの制度により家庭で暮らすことができるのは2割にすぎない。特別養子縁組は要保護児童に家庭を提供するための制度だが、2012年頃まで、その成立件数はわずか年300件程度で推移していた。
国際的には、「子どもの権利条約」で子どもは家庭で育つ権利が認められており、2009年に国連で採択された「児童の代替的養育に関するガイドライン」では、国はまず子どもが実家族で生活し続けられるよう支援し、それに失敗した場合は養子縁組などの永続的な家庭を提供することが望ましいとされる。また、社会的養護においてはできる限り安定した家庭を提供すべきで、乳幼児、特に3歳未満の子どもは原則として家庭で養育するとされており、施設養育は子どもの最善の利益にかなう場合に限るとしている。ところが、日本では3歳未満の子が年間3,000人近く乳児院で生活している。養子縁組についても、児童福祉として積極的な取り組みは行われず、2015年の厚生労働省の調査では、児童相談所のうち養子縁組を実践しているのは6割にすぎなかった。また民間の養子縁組団体に規制がなく、研修や支援の質にばらつきがあることが問題となっていた。

特別養子縁組を児童福祉へ

当財団は、子どもたちが暖かい家庭で育つ社会を目指し、2013年に特別養子縁組を推進する「ハッピーゆりかごプロジェクト」を開始した。
まず制度の認知を広げるため、シンポジウムを開催し、ホームページやSNSでの情報発信、冊子の配布等を行った。また、4月4日を「養子の日」として、特別養子縁組に関するトークセッションや、民間養子縁組団体による養親希望者向けの説明会、研修などを毎年実施している。

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毎年4月4日に開催される養子の日イベントのトークショー

2015年には「日本の社会的養護と特別養子縁組制度への提言」を発表し、特別養子縁組を児童福祉として正式に位置づけて推進すること、民間養子縁組団体を許可制とすること、養子縁組後の支援を拡充することなどを提言し、塩崎恭久厚生労働大臣(当時)に要望を提出した。
2017年には養子縁組をした家庭の子どもたちの実際の生活状況を調査した。この調査では、養子縁組家庭で育った養子の幸福度は平均7.6で、一般家庭の子どもの幸福度の平均6.4を上回った。一方で、養子縁組で嫌な思いをしたと答えた子どもも4分の1おり、周囲の偏見や理解不足、養子縁組後の支援不足や出自を知るためのルーツ探しにおける困難など、課題も多く指摘された。
国の動きとしては、2016年の児童福祉法改正によって、家庭養育の優先原則が明記されると共に、養子縁組が児童相談所の業務として正式に位置づけられた。同年には、それまで申請制であった民間養子縁組団体を許可制とする「養子縁組あっせん法」も成立し、この数年間で国内における法的な整備に大きな進展が見られた。また2017年に厚生労働省の検討会が公表した「新しい社会的養育ビジョン」では、5年間で3歳未満の里親委託率75%、特別養子縁組1,000件の目標が掲げられた。
こうした国の取り組みもあり、2013年頃から増加し始めていた特別養子縁組の件数は2019年には711件となった。一方で、養子縁組情報の保存や開示についてのルール作りや、支援の拡充、制度への理解不足等が課題となっており、当財団は引き続き、特別養子縁組が子どもの視点に立った制度となるための活動を続けていく。

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里親啓発イベントの会場

里親制度を推進するプロジェクト

当財団は、英国で成果を挙げている里親向け研修である「フォスタリングチェンジプログラム(※1)」の日本導入を目指し、2014年から教材の翻訳・出版と、英国から講師の招聘、100人以上の講師の養成を支援した。また、特定非営利活動法人キーアセット、立命館大学、日本福祉大学と連携し、里親を支えるソーシャルワーカー養成のためのフォスタリングソーシャルワーカー養成講座を実施している。他には、里親普及のシンボルとしてフォスタリングマークを作成し、普及啓発に役立てている。
2018年からは、民間で里親支援を担うフォスタリング機関の立ち上げモデルへの助成を行い、11団体に3年間で2億1,000万円の支援を行った。このうちの多くは引き続き自治体の補助金を受けて、民間のフォスタリング機関の先駆けとして活躍している。こうしたプロジェクトの広がりから、2020年に「子どもたちに家庭をプロジェクト」へと改名した。

  • 1. フォスタリングとは一般に里子などを血縁関係のない子どもを養育することを意味する。
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イギリスから講師を招いての里親支援機関向け研修

3自治体に5年間で5億円

特別養子縁組も里親制度も児童相談所が大きく関わるものであり、自治体との協働は重要である。2016年には三重県の鈴木知事(当時)の発案により、自治体と民間団体が連携して家庭養育の推進を目指す「子どもの家庭養育推進官民協議会」が発足した。当財団は会員として事務局も務めており、厚生労働大臣への政策提言書の提出や、研修の実施に大きな役割を果たしている。

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子どもの家庭養育推進官民協議会の設立(2016年)

また、2021年には大分県、山梨県、福岡市の3自治体と「家庭養育推進自治体モデルプロジェクト」を開始した。自治体が進めている3歳未満の里親委託率75%の達成や、特別養子縁組の拡充、要支援家庭への支援の強化を、当財団は5年間で5億円程度を支出することで支援している。今後はその成果を検証し、全国への拡大を目標としている。
(高橋 恵里子/公益事業部)

本事業・この社会課題への今後の期待

生まれてくる子どもたちが人生のスタートを温かく安全な家庭で過ごすことは、子どもにとって何よりも大切と考えられる。そのために、国、地方自治体、民間団体、専門家、国会議員などあらゆる関係者に働きかけ、ソーシャルイノベーションのハブとしての役割を果たすべく活動してきた。前進はしているがまだ課題も多く、引き続き取り組みを続けたい。

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高橋 恵里子