企業・団体・著名人との連携
東日本大震災が遺したもの
2011年3月11日に発生した東日本大震災では、多くの企業や団体から多大な寄付金が寄せられた。震災直後に立ち上げたROADプロジェクトには、200を超える企業から製品や備蓄資材などの支援物資が提供されたほか、多額の支援金も寄せられた。被災地の復興へ向かう長い道のりの中で、企業や団体の「民」の力は、寄付金額以上の大きな力となった。
地震と津波によって壊滅的な被害を受けた東北沿岸地域において、震災直後からの水産業の復興支援として、当財団はキリン株式会社(現:キリンホールディングス株式会社)と協力し「復興応援 キリン絆プロジェクト」を立ち上げた。食文化に関わるビジネスを展開する同社の「東北の水産業の復興支援をしたい、国からの支援で行き届かないところまで支援したい」という想いを受け、合計16億円の寄付金提供を受け実現したプロジェクトである。2011年12月からの第1ステージでは、地震と津波で大きな被害を受けた養殖業や生産設備の復興支援を行い、2013年からの第2ステージでは、生産支援だけでなく水産物のブランド育成支援の活性化や、将来にわたる担い手・リーダー後継者育成支援へと展開した。その結果、水産業の活性化が重要な課題となっている東北において、6次産業化に向けた地元水産物のブランド育成、商品開発、販路拡大、情報発信などに活用されるなど、長きにわたり東北の水産業の復興を支えるプロジェクトとなった。
海外からも届いた復興支援
海外からの支援も多く届いた。震災から1カ月後、被災地のがれき処理や魚市場の整備、悪路での移動手段の確保のため、ダイムラー社からは、メルセデス・ベンツのゼトロス、ウニモグなどの車両計20台がドイツから空輸された。その後同グループの日本法人であるメルセデス・ベンツ日本株式会社と三菱ふそうトラック・バス株式会社の車両を合わせて50台の車両が寄贈された。寄贈車両は震災の復旧支援をするNPO法人や自治体などに貸与され、復興の現場で活躍した。2年目からは被災地域の事業者たちが、事業を再開する上での移動・運搬手段として、特殊機能を持つ車両それぞれが重要な役割を果たしていった。

併せて、ダイムラー社からは2億円の寄付があった。この寄付を基に、未来を見据えコミュニティの支えとなる「人材」と既存の枠組みを打破する「事業」に投資する仕組みが必要との考えから、長期的な視点に立った被災地の人材育成と雇用の促進に対する支援が開始された。グロービス経営大学院仙台校を事業パートナーとし、特別奨学金や特別講座の設置、1事業につき500万円を上限とする卒業後の新規事業立ち上げの資金として活用された。
発災直後から復興期まで、中長期的に被災地に寄り添う企業支援の事例となった。
東日本大震災の教訓は、災害対策は起きてから動くのでは遅く、大災害が起きたとき、真っ先に動くためには日頃から備えておく仕組みが必要であるということであった。この教訓を基に、当財団では2014年3月に災害復興支援特別基金を設置し、平時においても寄付の募集を開始した。災害が発生した際には、この災害復興支援特別基金の寄付金を活用し、現地で活動するボランティア団体への支援や、学生ボランティアの派遣、高齢者や障害者など災害弱者への支援、幼稚園や小中高校等の被災した教育施設復旧のための支援等を行っている。
企業の強みや特色を活かした寄付、連携
2016年4月に発生した熊本地震では、新たな企業連携も行った。ネスレ日本株式会社は、寄付金付きの商品(チョコレート)『キットカットいきなり団子味』を販売。熊本県名物のいきなり団子味のキットカットを一袋購入すると10円が当財団に寄付される商品で、全国のスーパーマーケットで販売された。一般の人でも気軽に被災地を応援できる寄付つき商品の販売で合計600万円の寄付が集まった。当財団は、この寄付金を、熊本地震で深刻化した「農業離れ」対策と、規格外の野菜の有効活用の2点を目的として、県内の若手農家らの団体が購入したキッチンカーの整備費用に充てた。
LINE株式会社は、毎年3月に「3.11を忘れない」という想いのもと、チャリティーキャンペーンを行っている。2018年は寄付としてLINEポイントが当財団の災害復興支援特別基金に提供された。さらに2019年3月には、フィギュアスケーター羽生結弦選手のLINEスタンプを販売、LINEポイントの寄付と合わせて3,385万2,715円の寄付があった。この寄付により、被災された住民の復旧作業を補助する支援車両として8台(軽バン4台、軽トラ4台)の整備を行った。2020年は、3.11検索寄付キャンペーンとして約3,500万円の寄付があった。
さらに2021年には寄付を身近に感じてもらう新たな取り組みとして、株式会社メルカリと連携を開始。1枚につき5円が寄付される寄付型の梱包資材の販売や、家で不要になったモノを売ることで寄付につながる仕組み作りを行っている。
このように企業・団体等と連携し、それぞれの得意分野や特色を活かした支援や現場に寄り添う長期的な取り組みが増えてきている。

コロナ禍で「新しい地図」と協働
これまでの災害とは違い、未知のウイルスとの戦いとなった新型コロナウイルス感染症との闘い。未曾有の事態が日本中を襲う中、「備えあれば憂いなし」の方針のもと、病床不足に備えた療養施設「日本財団災害危機サポートセンター」の設置を皮切りに、医療従事者等への支援を開始した。2020年4月7日に東京都等で緊急事態宣言が発令された同日に当財団は寄付の受付を開始。医療従事者等への支援を呼び掛け、多くの方のからの協力を得た。さらに、4月27日には「新しい地図」の3人のメンバー(稲垣吾郎氏、草彅剛氏、香取慎吾氏)と共にLOVE POCKET FUND<新型コロナウイルスプロジェクト>を立ち上げた。寄付に対する一般の方々への発信力はとても大きく、SNSやネットメディアを通じた呼びかけにより、1年間で約1万4,000件もの寄付があった。広くメディアを通じて報告・発表した当財団の支援活動が寄付者によりSNS等で拡散、それが新たな寄付につながることが著名人との連携で見えてきた。

次々に寄せられた医療従事者支援
新型コロナウイルス感染症拡大のため、多くの企業や団体も大きな影響を受けているにもかかわらず、逼迫する医療従事者への支援に多くの寄付が寄せられた。
公益社団法人日本モーターボート選手会・一般財団法人日本モーターボート競走会・一般財団法人BOATRACE振興会からは、2020年4月に合計で6億円、2021年にはBOATRACE振興会から10億円のさらなる寄付があり、それを基にして感染症指定病院に対する新型コロナウイルス感染症対策整備支援を行った。
株式会社セブン&アイ・ホールディングスは、系列コンビニエンスストアやスーパー、店舗に募金箱を設置し当財団への寄付を呼びかけた。さらにポイントによる寄付もできるようにした。多くの方の賛同により合計1億2,052万1,892円(2021年9月末時点)の寄付が集まり、新型コロナウイルス感染症対応に従事する救急医療施設の医療機器や設備の改修等の支援に充てた。
また、国内企業だけではなく、多くの外資系の企業からの寄付もあった。メットライフ生命株式会社・メットライフ財団からは、全国のホームホスピス・訪問看護ステーションへ感染予防拡大のための支援として約1億円の寄付が寄せられた。当時、物資が不足し、マスクの使いまわしや防護具の代わりに雨合羽で対応していた現場からは、感謝の声が寄せられた。
金銭による寄付だけではなく、物資の寄付も寄せられた。当財団は、一般の寄付者からの寄付と合わせ、株式会社コーセーと共同で、現場で奮闘している医療従事者へ全国で約28万セットの化粧品等の配布を行った。株式会社コーセーのテレビCMとも連動し、医療従事者を応援する姿勢を示し、そのCMは一般の人たちにも感動を与え、大変な反響があった。
このように基金設置当初から継続的に多くの企業からの寄付や協力の申し出があり、企業としての社会貢献への意識の高まりを改めて感じる。だからこそ、NPOや現場と企業のハブとなる当財団の立場がより重要となっており、寄付を受けた後の説明責任を今後もしっかりと果たさなければならない。

寄付で「みんながみんなを支える社会」を
多額の寄付が寄せられる一方で、どこに寄付したらいいのか分からない・寄付がどう使われているのか分からないという声もよく耳にする。
様々な困難な状況に直面して支援を必要としている人がたくさんいる中、その課題を行政に任せっきりにするのではなく、できるところはみんなで支え合い、協力し合う「共助」の意識を広めていく必要がある。「寄付」はその一つの方法でもある。より身近に、安心してできるような寄付文化の醸成を、引き続き当財団が先頭に立って推し進めていかなければならない。
(橋本 朋幸・酒井 美峰・川部 育子/ドネーション事業部)