日本財団ウクライナ避難民支援シンポジウムを開催(9/19)

現在、日本には2,000人を超えるウクライナ避難民が来日しています。当財団は、ウクライナ避難民支援の経験を今後の日本の支援制度の設計に活かすため、当財団が支援中のウクライナ避難民2,000人のアンケートデータや生の声を調査・分析するとともに、支援団体や、有識者委員会の助言を得て、支援制度に関する「提案書」を公開しました。

今般、「提案書」の理解を進めることを目的とし、「日本財団ウクライナ避難民支援シンポジウム」を開催し、ウクライナ避難民や有識者の方々に登壇いただき、本当に必要な支援のあり方を共に考えました。

シンポジウム冒頭では、「日本財団避難民支援の取り組みと今後」について、当財団常務理事の笹川順平が紹介後、当財団の支援を受ける3人のウクライナ避難民の生活実態について、特別動画を公開しました。動画では、母国を気にしつつも、将来日本で活躍することを目指し、日々仕事や学業、日本語学習に励んでいる避難民3人の思いが放映されました。

写真:笹川順平(日本財団常務理事)
日本財団避難民支援の取り組みと今後(当財団常務理事 笹川順平)

日本社会での活躍を目指す避難民3名の特別動画

次に、提案書の中身(支援策)と、そこに至る背景・分析を、アンケート結果や支援現場の声を踏まえて説明するために、ウクライナ避難民支援に取り組む当財団職員の神谷をモデレーターとし、基調セッション「避難民に必要な支援とモデル事例の紹介」を設けました。基調セッション全体として、日本の支援の課題と、ドイツやカナダなどのモデルとされる国の支援制度を対照し、両国が日本の数百倍の避難民支援と経済成長を両立、持続できている理由を提示しました。そして避難民支援のデータ・実例をもとに、日本の一時的な滞在を想定した人道支援だけでは不十分であり、定住可能性を持つ地域社会の一員として受け入れ、中長期視点に立った社会統合支援をセットとして行い、制度化することが重要であると提起しました。

画像:日本財団の提案概要(一人ひとりが望む形での共生・活躍を目指した人材育成)のインフォグラフ。提案1(来日前~直後)は、自治体がプレイヤーとなり・アセスメント・支援プラン作成・支援のコーディネートを行う。提案2生活基盤づくり(来日後数カ月以内)は、国際交流協会等がプレイヤーとなり、・オリエンテーション、制度説明・初期日本語教育・生活相談を行う。そしてNPOなどがプレイヤーとなり・地域に合わせたあ補完的支援(助成)も行う。そして教育委員会等がプレイヤーとなり・子供の就学支援(入学前教育)も行う。提案3共生・活躍(来日後数カ月以内)は、日本語学校・企業などがプレイヤーとなり・キャリアデザインプログラム※希望職種に必要な日本語等の教育と就業支援を行う。また教育委員会等がプレイヤーとなり・神学に向けた親子伴奏支援も行う。提案4は横断的テーマとして、・外国人理解促進(広報)、・官民連携ネットワーク、・外国人共助コミュニティ形成、・デジタル活用を行う。
日本財団の提案概要(一人ひとりが望む形での共生・活躍を目指した人材育成)

基調セッションでは、「①来日~生活基盤づくり」及び「②中長期的な共生・活躍」の二つの適応ステージにて登壇者グループを分け、議論を深めました。初期段階の「①来日~生活基盤づくり」に関しては、「官民連携体制の構築」、「共助に繋がる母語コミュニティの形成と活用」、「アセスメント(個別の聞き取り・評価)」、「将来像の相談機会と目標設定」の4つの軸に分け、中長期的な視点に基づく最適な受入れ・支援手法を分析し、提案しました。特に、定住希望の避難民が約7割に上り、将来像や目標を持つ避難民ほど前に踏み出せている現状を踏まえ、避難民一人ひとりが希望する将来像の相談対応・把握と、それを踏まえた支援プランの作成の重要性を示しました。

また、上記提案の参考となる先駆的な取り組み事例として、愛知県名古屋市における官民連携支援を取り上げました。名古屋市国際課の西川修平氏からは地域NPOを含めた官民ネットワークよる包括的な取り組みの紹介や、一人ひとりの状況や課題を支援団体が十分に聞き取り、カルテ化していること(アセスメント)について、お話いただきました。名古屋市職員で避難民でもあるサムソノバ・テチアナ氏もご登壇し、当事者目線を持つ避難民自身が支援に係わることの意義や、日本で活躍するための日本語教育の重要性について語られました。

写真:左よりサムソノバ・テチアナ氏(名古屋市観光文化交流局)、ガジェンコ・インナ(日本財団)、川口リュドミラ氏(日本ウクライナ文化協会)
サムソノバ・テチアナ氏による講演

さらに、名古屋市と連携する日本ウクライナ文化協会(ウクライナ人コミュニティ団体)の川口リュドミラ氏、榊原ナターリア氏がご登壇し、避難民が頼ることのできる母語コミュニティの重要性と、母語でないと難しいきめ細かな支援やメンタルケアについて、在日ウクライナ人の視点及び独自の支援経験をもとにしたプレゼンが行われました。

写真:基調セッションの様子
榊原ナターリア氏による講演

基調セッション後半では、「②中長期的な共生・活躍」に関して、大人と子供に話を分け、「スキルギャップや日本語力を原因とする就業の壁」や「子どもの就学や日本語教育」に関して、当財団より課題を説明しました。その対策として、一人ひとりが希望する職種に必要な日本語等の教育と、就業支援等をパッケージ化した「キャリアデザインプログラム」を提案しました。また、子どもについても、円滑な就学・進学を目的とし、学校生活に必要な日本語教育を軸とした「ウェルカムクラス」や「親子伴走支援」を提案しました。

また、上記提案に関連する事例として、当財団が実施中の日本語学校奨学金プログラム(避難民が日本語学校を候補リストから選んで上で通学し、日本財団が学費を支給)を説明の上、奨学生のアンケート結果をもとに、日本語学校が単なる言語を学ぶ場だけではなく、「地域社会とつながる居場所」となっていることを示しました。

写真:基調セッションの様子

次に、実際に日本語学校に通うコロトコバ・エリザベータ氏より、日本語学校での充実した学校生活や意義に加え、覚えた日本語を使い日本でフリーランスデザイナーとして働いていることの実体験が語られました。日本語を勉強して1年にも関わらず、プレゼンテーションは日本語のみで行われ、日本語学校による集中的な支援が、社会で活躍するための重要な手段であることが伝わりました。

写真:コロトコバ・エリザベータ氏によりデザインされた自販機
コロトコバ・エリザベータ氏による仕事(自販機のデザイン)の紹介

さらに、アウトソーシング社に雇用されたウクライナ避難民のシェウチェンコ・オレナ氏より、外資系銀行での過去の職務経験が活かせない仕事につき、退職となってしまったことや、スキルマッチングを改善するための充実した日本語教育システムや、安定した在留資格の必要性が語られました。同じく雇用された避難民のコルズニナ・ポリナ氏からは、当財団の生活費支援により、集中して大学での勉強や日本語学習を進めることができ、日本語検定1級が取得できたことや、就職により自らの居場所を認識し、「精神面の改善、友人との繋がり、日々の生活の充実等」の明確な効果があったとの実体験が語られました。

写真:基調セッションの様子
シェウチェンコ・オレナ氏による講演

続くセッションでは、専門的な立場で議論を行うべく、「日本財団ウクライナ避難民支援に係る有識者委員会」の委員でもあるダイバーシティ研究所田村太郎氏及び日本国際社会事業団石川美絵子氏、前述の名古屋市観光文化交流局の西川修平氏に登壇いただき、パネルディスカッション「避難民等の共生・活躍に必要な支援とは」を行いました。「受け入れ時のアセスメントのポイントや方法」、「日本における魅力的なキャリアパスのあり方」、「地域のNPOや外国人コミュニティの役割・活用・育成」、「財源設計」を議題とし、ウクライナ避難民を含む外国人が社会の一員として共生・活躍するために、一人ひとりが希望するゴールと道筋を明確にし、それに向けて必要な統合支援が官民連携で行われることの必要性などが議論されました。

写真:基調セッションの様子
パネルディスカッション「避難民等の共生・活躍に必要な支援とは」

最後に支援関係者の皆さまより「提案書」及びシンポジウムに関するメッセージをいただきました。初めに、避難民の地域定住支援の重要性について、「難民の地域定住支援ガイドブック」を作成した実績を持つ笹川平和財団の森ちぇろ氏、岩品雅子氏より、説明が行われました。今回のウクライナ避難民に関しては、特に未成年の教育問題を大きな課題として挙げられ、当財団と協力して行った調査から見えてきた分析として、日本語教育や心理的ケアを考慮した居場所作りなどの充実化の必要性が示されました。

写真:基調セッションの様子。左から、岩品雅子氏(笹川平和財団)、森ちぇろ氏(笹川平和財団)
笹川平和財団からのメッセージ

次に、日本ウクライナ友好協会のイェブトゥシュク・イーゴル氏より、避難民の共生・活躍に向けてメッセージが送られました。実際に日本語学習を経験し、現在日本企業で活躍中の自身の立場から、日本で就職するための日本語教育の重要性について説明があり、また日々避難民を支援する立場から、活動資金としてNPO助成プログラムが提供されることの重要性が語られました。

写真:イェブトゥシュク・イゴール氏(日本ウクライナ友好協会)
イェブトゥシュク・イーゴル氏からのメッセージ

最後に、「日本財団ウクライナ避難民支援に係る有識者委員会」で座長を務められた、筑波大学人文社会系の明石純一教授より、提案書及びシンポジウムを総括いただきました。実際に当財団が行った2千人の支援やアンケート等に基づき、活発な議論が行われて提案書が作られたことと、今回の貴重な知見を次に活用することの重要性について講評がありました。

写真:明石純一氏(筑波大学人文社会系教授)
明石純一教授による総括

以上、避難民や支援者とともに、とても有意義な議論が行われました。
今回の議論を踏まえながら、今後も当財団は避難民支援を続けていきます。

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お問い合わせ

本シンポジウムに関するお問い合わせ先

日本財団 経営企画広報部 ソーシャルイノベーション推進チーム

  • 担当:神谷
  • 電話:03-6229-5176
  • メールアドレス:support_ukraine@ps.nippon-foundation.or.jp