日本財団ジャーナル

「できない」を「やってみたい!」に変える、子どもたちの自律と創造性を引き出すタブレット学習

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夢中でタブレット学習に取り組む子ども
この記事のPOINT!
  • タブレット学習は、子どもたちの「やりたい」を育み、子ども同士の学び合いを生み出す
  • 学校や日常生活で学んだ知識をバーチャルで生かし、新たなものを創造する
  • タブレット学習は、子どもたちの自律性も育む

取材:中野綾香

日本財団では、さまざまな困難に直面する子どもたちに、安心して過ごせる居場所を提供し、学習や生活の支援を行う「子ども第三の居場所」事業を実施している。

2020年度はコロナ禍にて学校が一斉休校になった影響もあり、子どもたちが「子ども第三の居場所」の拠点で過ごす時間が増えていた。そこで、日本財団では、対象となる拠点に対してタブレットを配布し、子どもたちの学びと心のサポートを行う体制を充実させている。

子どもたちの「やりたい」を育むタブレット学習

「ほっこりできるみんなの家」それが、「子ども第三の居場所」鳴門拠点のモットーである。ここでは、自分の家のように安心できる場所で、「子どもたちが生まれながらにして持ち合わせている自分自身で生きていく力」を養っていくためのきっかけづくりをする。

だが、いくら子どもたちが「自分自身で生きていく力」、すなわち、子どもたち自身で考え、行動していく力を育もうと思っても、もともと自己肯定感が高くはない子どもたちをやる気にさせることは容易ではない。

「ここの子どもたちは、何かできないことがあると、すぐに『できない』、『分からない』と言うことが多かったんです。例えば、学校の宿題ですね。すぐに『分からない』といって、スタッフに頼ってくるので、どのように子どもたちの支援をしていこうか、スタッフ間でも試行錯誤していました」と拠点を運営する酒井美里(さかい・みさと)さんは話す。

しかし、あることをきっかけに、子どもたちが自主的に問題解決へのやる気を見せるようになる。それは、拠点でのタブレット学習の導入である。

鳴門拠点では、コロナ禍を経て2020年8月から子どもたちに一人一台ずつタブレットが配布され、拠点での基本的な約束事の範囲内であれば、子どもたちが自由にタブレットを用いた学習ができるような環境が整備された。

そして、子どもたちは、タブレット学習に取り組みたいがために、今まで「分からない」といって引き延ばしがちであった宿題を早く終わらせ、我先にとタブレットを手にしていく。

「タブレット学習が導入されてから、子どもたちが自分たちで問題解決をしようとしているんです。今までは、分からないことがあるとスタッフに頼ってきていた子も、タブレットという要素が入ることによって、自分自身で『トライ・アンド・エラー』を繰り返すようになっています。もちろん、スタッフに頼ることもあるのですが、次のステップに進みたいからという理由での技術的な質問が多いです。また、子どもたち同士で『分からない』点を解消し合っている光景もよく見られることは、本当に驚きですね」

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「子ども第三の居場所」でのタブレット学習の様子

バーチャルと現実を行き来しながら自分の世界観を創造する

数あるタブレット学習ソフトの中でも拠点の子どもたちに人気なのが、「マインクラフト」という、冒険感覚で資材を集め、時には敵とも闘いながら、その資材を組み合わせて作品を作り上げるゲームである。

子どもたちは、マインクラフトを使って、単に自分が好きなものを作るだけではなく、学校で学んだ知識を活用させながら、自分だけの作品を創造していく。つまり、子どもたちは、実際の現実世界での知識をバーチャルの世界で生かしているのである。

「子どもたちは、学校でSDGsの勉強をしているみたいなんです。なので、マインクラフトで、遊びながら自分たちにとっての持続可能な世界観を築き上げているんです。例えば、ある子どもは、食料難を逃れるためには、家も全部食べられる素材で作ってみてはどうかといって、実際にマインクラフトでお菓子の家のようなものを作ってみたり、雨水が飲めるようになれば、飲料水の不足が問題とならなくなるといって、雨水を残さず飲むことができるようなシステムを作ったりしていました。あと、子どもたちが作る家の近くには、必ずといっていいほど、畑がありますね。拠点では、実際に土に触れてもらう機会を大切にしているからでしょうかね」

「遊び」と「学び」のバランスをどうとるのか

「子ども第三の居場所」でのタブレット学習は、子どもたちに良い影響をもたらしていると言えるが、一方で「タブレットでのアプリ使用」を行っていると聞くと、子どもたちがゲームやネットに依存してしまうのではないかという心配の声が保護者の方々からも聞こえてくる。

「子ども第三の居場所」のスタッフは、「遊び」と「学び」のバランス、そして「タブレットを用いる時間」と「タブレットを用いない時間」のバランスをどう考えているのだろうか。

タブレットを活用した取り組みを積極的に行っている、「子ども第三の居場所」丸亀拠点の本西志保(もとにし・しほ)さんにも話を聞いてみた。

「私たちの拠点では、『タブレットは1日何分までね』などのように、特段のルールを設けていないんです」と丸亀拠点を運営する本西さんは語る。

「子どもたちの意見や考え方って、私たち大人の事情によって、簡単にねじ伏せていいものではないじゃないですか。子どもだから、という理由で、自分たちの意見がつぶされてしまう、考える機会を奪われてしまうのではなく、できる限り子どもたちの力で、自分たちが納得することのできるルールを作り出していってもらいたいんです」

丸亀拠点では、拠点で何か問題や検討したいことが発生したとき、「子ども会議」が開催される。子ども会議では、子どもたちが、子どもたちだけで、拠点での問題の解決策を編み出していくために議論する。

ここで、何かその場で決めるべきことがあるときは、多数決はせず、みんなが納得のいくまで議論をして、子どもたち全員が納得するかたちで最終的に一つの案を提示することになる。

「私たち大人は、ほとんど口出しはしないですね。ですが、施設や物品などの大人の事情が絡むこともあるので、そのときには『私たちはね、こう思うけれど、あなたたちはどう思う?』という問いかけをすることにしています」

子どもたちのみに選択を押し付けるのではなく、大人たちもそれぞれの意見を持っていることは伝えつつも、子どもたちの意見を尊重していく。このような子どもたちを「受け入れる」態度は、無条件に大人から受け入れられることを知らない子どもたちの自信を育んでいく。

写真:施設の庭を元気よく走る子どもたち
子どもたちを「受け入れる」行動が、子どもたちの自信を育む

自律とは、遊びと学びとが共存できている状態である

このように子どもたちの意見を尊重する「子ども第三の居場所」丸亀拠点で大切にしているのは、子どもたちの「自律」である。

「『自律』って一言で言いますけど、学校の学習をしっかりこなすことができるようになることだけが、子どもたちにとっての自律ではないですよね。子どもたちは、これから先、勉強と遊びとのバランスを考えながら、生活していくことになるんです。なので、子どもたちの中で、勉強や遊び、そしてタブレットが共存できている時点で、自律と考えていいのではないでしょうか。時には、タブレットのゲームにはまって勉強がおろそかになることもあるかもしれませんが、大人だって同じですよね。何かにはまって、少しほとぼりが冷めると新たな分野に視点を向けていく。そうやって、やじろべえのようにバランスを取りながら、自分の人生を進んでいけるようになることを応援できればと思います」

このように子どもたちの自律性を尊重していくことで、子どもたちが自分自身の行動を振り返り、徐々に自らのスケジュール管理を意識していくことになる。学校の宿題のように他者から決められたタスクではなく、自ら「やりたいこと」があるからこそ、「あまり気が進まないこと」についてどうやってこなしていこうか考えることになる。

「子ども第三の居場所」におけるタブレットは、「学習」と「遊び」のバランスを子ども自身が考えるきっかけであり、子どもの自己調整学習能力を高める一つのツールである。