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気候変動でスキーやスノボができなくなる? 「冬」と「雪」を守るために私たちができること

「POW JAPAN」は、スノースポーツコミュニティー発で気候変動から冬を守る活動に取り組む一般社団法人。画像提供:一般社団法人Protect Our Winters Japan
この記事のPOINT!
  • 気候変動により、「スキー場がオープンできない」「氷河を削らないと競技用のコースが作れない」といった影響がすでに出始めている
  • スキー場では、CO2排出削減のため、再生可能エネルギーへの転換が進みつつある。「小水力発電」に着手したスキー場もすでに複数存在する
  • 個人だけでは解決できなくても、声を上げて発信し、仕組みを変えていこうとすることが大切。それが環境問題解決につながっていく

取材:日本財団ジャーナル編集部

気候変動により温暖化が進み、雪が降らなくなったり、スキー場がオープンできなくなったりするなど、日本の雪山に影響を及ぼし始めています。

雪と聞くと、交通渋滞や事故など悪いイメージを持つ人もいるかもしれません。しかし一方で、雪には、ウインタースポーツや雪国ならではのイベントには欠かせない文化的な側面や、雪解け水を利用する農家があるといった実用的な側面もあります。

雪がなくなると、スキー場はもちろん、プロスポーツ競技や雪まつり、アウトドアブランド、宿泊施設などさまざまな分野に影響を及ぼすことになるのです。

このままでは、日本の冬山から雪が消えてしまうかもしれない。そんな危機感を抱いているスキーヤーやスノーボーダーが中心になって設立されたのが、一般社団法人Protect Our Winters Japan(外部リンク)(以下、POW JAPAN)です。

POW JAPANはスノースポーツコミュニティーの立場から、気候変動を解決できる社会づくり、国の気候・エネルギー政策への提言など積極的に活動しています。今回はPOW JAPAN事務局長の髙田翔太郎(たかだ・しょうたろう)さんに、活動内容やスポーツ界の現状、スキー場の取り組みなどについてお聞きしました。

オンライン取材に応じる髙田さん

スキー場がオープンできない、氷河を削らないと競技ができない……。雪不足の現実

――POW JAPAN は、どのような団体なのでしょうか。気候変動問題に取り組み始めたきっかけや経緯を含めて教えてください。

髙田さん(以下、敬称略):POW JAPAN は2019年にスタートした団体です。スキーヤー、スノーボーダーを中心としたメンバーで、ウインタースポーツやアウトドアの立場から気候変動問題の解決へ向けた活動をしています。

POWは2007年にアメリカでスタートした団体です。ジェレミー・ジョーンズというプロスノーボーダーが世界中の山を滑る中で、明らかに雪の量が減っていたり、冬のシーズンが短くなったりしていることを実感し、その危機感から、原因となっている気候変動の問題に対してアクションを起こすべく、POWを立ち上げました。

その後、スキーやスノーボード以外のアウトドアスポーツにも活動の輪が広がっていき、世界中に支部ができました。日本は15番目の国で、長野県の白馬エリアを拠点に活動しています。

――どのような活動をしているのでしょうか。

髙田:いま日本では「気候変動の問題が今後どうなっていくのか」「どういった対策が必要なのか」といった理解が浸透していません。そこで講習会やイベント、メディアでの情報発信など啓蒙活動を行いつつ、この問題に取り組む仲間を増やしています。

もう1つは、私たちの活動の場であるスキー場やその周辺地域から、気候変動対策を進めています。例えば、脱炭素に対する取り組みの支援、自治体の施策への関与などが挙げられます。

また、日本のエネルギー政策をウオッチしながら、必要に応じて政党や国会議員へ政策提言をするといった活動もしています。

――雪が減ると、日本の社会や文化にどういう影響が出るのでしょうか。

髙田:やはりスキーやスノーボード文化に対する影響が非常に大きいと思います。

海外にもスキー場はたくさんありますが、山と街が遠く離れている地域が大半なんです。日本は全国各地にスキー場があり、東京や大阪などの大都市からも2~3時間で行ける。これは世界的にもとても恵まれたロケーションです。

都市に住んでいる方が毎週末スキー場に通うなど、地域とのつながりを育んでいる部分もあります。

他にも、「冬の高温で雪まつりの雪が維持できない」「雪渓が溶け登山道が通行止めになる」といった影響が出始めています。

――具体的にスキー場にはどのような影響が出ているのでしょうか。

髙田:気候変動の影響を受ける度合いは地域差がありますが、共通しているのは「シーズンが短くなっている」という点です。

かつて北海道や長野では、5月のゴールデンウィークも当たり前のようにオープンしていました。しかし今は、長野の白馬エリアでいうと、一番高いところにあるコースに雪を寄せ集めてギリギリ営業できるくらいの状況です。

標高が低いスキー場では、そもそも営業が困難になるレベルになっています。

――そうすると、冬のスポーツにも影響しますよね。

髙田:はい。冬季オリンピックでは、天然の雪ではなく人工雪で開催せざるを得ない状況が生まれています。人工雪は天然のものと比べて硬く、その結果、アスリートの体へのダメージが大きくなり、転倒やけがのリスクも増えてしまうのです。

2023年には、国際スキー連盟がワールドカップ・アルペンスキーの試合コースを造成するため、氷河を削って雪を持っていきましたが、それに対して、世界中のスキーヤーたちが抗議の声を上げました。

Instagramに投稿された国際スキー連盟に対する疑問
POW JAPANのInstagramより。画像提供:POW JAPAN

――氷河を削らないと競技ができないくらい、世界的な雪不足が進んでいるんですね。

髙田:はい。このまま温暖化が進むと、今世紀末には「過去に冬季オリンピックを開催した都市の中で、選手が安全に競技に臨める環境を提供できるのは、日本の札幌だけになってしまう」という研究結果も出ています。

必要なのは、自然エネルギー由来の電気を自分たちで賄っていくこと

――スポーツ競技にも影響が出ている中で、POW JAPAN ではどのような取り組みを進めているのでしょうか。

髙田:2024年10月には「雪がなくなったら、全員負け。」という強いコピーで新聞広告を出しました。

これだけ多くのものが、雪という資源に支えられている現状を考えてもらいたい、と同時に「現実問題として、雪が年々減っているんだよ」という危機意識を喚起するための広告です。

スキーヤーも、スノーボーダーも、アウトドアを愛する人も、スキー場も、インストラクターも、ガイドも、Burtonも、Goldwinも、Haglöfsも、KEENも、Patagoniaも、THE NORTH FACEも、スポーツショップも、レンタルショップも、外国人観光客も、温泉宿も、ペンションも、土産屋も、ツアー会社も、雪まつりも、観光課の職員も、ソリ滑りしたい子どもも、ゲレンデマジックしたい学生も、冬季オリンピアンもパラリンピアンも、神田も、長野県も、新潟県も、北海道も、日本経済も。そして、雪解け水を必要とする田畑も農家も、人も、動物も、植物も、自然も。雪がなくなったら、全員負け。私たちは、このまま雪が降らなくなるのを、待つだけでいいのか。
北海道新聞と信濃毎日新聞に出稿された広告。画像提供:一般社団法人Protect Our Winters Japan

髙田:ただ、気候変動は個人レベルの取り組みだけでは解決できない問題ですよね。そこで、政策を作る国会議員の方々に、冬を愛する仲間たちだけでなく、アウトドアコミュニティ全体から提言書を渡すアクションも行っています。

この提言には、スキージャンプの高梨沙羅(たかなし・さら)さんやノルディック複合競技の渡部暁斗(わたべ・あきと)さんといった著名なアスリートの方、約40のスキー場、白馬村や山ノ内町といった自治体にも賛同していただきました。

自由民主党ウインタースポーツ&リゾーツ議員連盟に提言書を渡すPOW JAPANの面々。画像提供:一般社団法人Protect Our Winters Japan

――スキー場に対して、再生可能エネルギーへの転換を促す活動もされているそうですね。

髙田:はい。私たちの拠点である白馬には「HAKUBA VALLEY」(外部リンク)というスキーエリアがあります。そこで、「HAKUBA VALLEYにある10のスキー場全て、再生可能エネルギー(※)で運営しよう」という応援署名を1万5,000筆集めて、HAKUBA VALLEYに提出しました。

結果として、「2025年までに、全てのスキー場が再生可能エネルギー導入に着手する」という中期目標を掲げていただきました。すでに、ナイター照明や降雪機、リフトの電力を再生可能エネルギーで賄っているスキー場もあります。

ただ、まだ課題もありますね。再生可能エネルギーに切り替えると、どうしても少し割高になってしまう現状があります。スキー場のビジネスもそこまで安定しているわけではないため、初期投資にちゅうちょしてしまうのです。

これまでは電力契約を切り替える取り組みでしたが、今後はスキー場内の自然資源を活用し、電気をつくっていく方向へステップアップしていく必要があると感じています。

実はすでに、複数のスキー場が「小水力発電」というものに着手しています。スキー場には雪が豊富にあり、斜面もあるため、沢筋を長れる水を利用した小規模な水力発電です。

滋賀県のスキー場「グランスノー奥伊吹」(外部リンク)では、「小水力発電」によって、スキー場の運営に必要な電力を上回る量の電気を生み出せています。

2025年4月には、長野県の「野沢温泉村」(外部リンク)でも、スキー場内に「小水力発電」施設を設置し、ゴンドラの乗り場のベースとなる建物の電気を賄っていく予定です。

  • 太陽光、風力、水力など自然の力を利用して作られるエネルギーのこと。枯渇の心配がなく半永久的に利用できるとされ、発電時にC02(二酸化炭素)が発生しない

――従来の大規模な発電所ではなく、自然に配慮した小さな水力発電ということですね。水力以外の再生可能エネルギーはどうでしょうか。

髙田:身近なものだと、太陽光発電が挙げられます。ただ、雪が積もった状態だと太陽光が当たらないので発電できない、雪の重みで太陽光パネルが破損してしまうなどの理由で、雪国では太陽光パネルの普及率が低くなっています。

ただ、建物の壁面をうまく活用して太陽光パネルを設置するといった新しい技術も生まれています。「雪面に反射した光でも発電できる」「1時間当たりの発電量でみると、雪が残っている春先が一番大きい」といったデータも出てきています。

ここ2~3年は電気、ガスなどエネルギー価格が高騰していますよね。CO2削減はもちろん、スキー場の経営を安定させるためにも、自分たちでエネルギーを生産して賄っていくことが必要になってくると思います。

スキー場が環境問題に取り組むことで、周辺の地域へ広がっていく

――プロのアスリートたちは、気候変動問題に対してどういう意識を持っているのでしょうか。

髙田:ウインタースポーツのアスリートたちが、気候変動に対して強い危機意識を持っていることは間違いありません。ただ一方で、社会問題に対して踏み込んだ発言をすることや、政治的なことに関与していくことにちゅうちょしているアスリートも多いと感じています。アスリートが発言すると、どうしてもSNS上でネガティブな批判やコメントが出てきてしまうからです。

POW JAPANとしては、アスリートを孤立させるのではなく、コミュニティーとして一緒に進めていく形をつくりたいと思っています。

――ウインタースポーツ以外にも、危機意識は広がっているのでしょうか。

髙田:そうですね。登山やサーフィンなど他のスポーツ関係者ともコミュニケーションを取っていますが、同様の危機感を持っています。特に自然の中で行うアウトドアスポーツの界隈では着実に広がりつつあります。

「Jリーグ気候アクション」(外部リンク)の取り組みも非常に印象的です。Jリーグは全国各地にクラブチームがあり、地域とのつながりも大きい。そうすると、環境問題に対する活動が地域にも広がっていきます。変化の事例をつくっていく点でも、大きな役割を担っていると感じます。

スキー場も同様です。スキー場はその地域の基幹産業となっている部分があるので、「脱炭素社会に向けてしっかり取り組もう」となると、周辺の宿泊施設や飲食店にも姿勢が伝わっていくはずです。

――日本社会では、まだ気候変動問題に対する危機感は十分には共有されてないような気がします。その理由はどういう点にあると思いますか。

髙田:私たちのような団体は、「雪がなくなったらライフスタイルも変わってしまう」という、自分ごととして語れるストーリーを持っています。でも多くの人は、多くある環境問題の1つと捉えており、自分ごととして語られにくい状況になっていますよね。

また、「社会課題に対して自分が関わることで、何かが変えられる」という成功体験が非常に少ないというのも理由の1つかなと思っています。

POW JAPANとしては、先ほど挙げた「小水力発電」のような「ポジティブな成功体験」を広げていきたい。それによって状況が少しずつ変わっていくのではないか、と期待しながら活動しています。

ウインタースポーツを通じて感じるフィールドの危機感を社会に伝えるPOW JAPANのメンバー。画像提供:一般社団法人Protect Our Winters Japan

――気候変動問題に対して、私たち一人一人ができること、考えるべきことはありますか。

髙田:自然環境の変化が如実に表れている時代であり、原因も分かっているので、そこに対してしっかり目を向ける。そして、自分のライフスタイルを自然環境に優しい形へ変えていくことが必要です。

ただ、環境問題は個人だけでは解決できません。意識の変化だけでなく、原因となっている仕組みを変えていくことも重要なポイントです。

「国会議員へ働きかける」と聞くと、すごくハードルが高いことだと思うかもしれません。でも、そういった権利は、国民である私たち誰もが持っているんですよ。何か問題意識があるのであれば、地元の議員に相談するのもいいかもしれません。

エコな活動やライフスタイルだけで満足せず、「気候変動が心配だ」と思っていることをちゃんと口に出し、自分の中にとどめず、社会に対して発信していくことが重要だと思います。

諦めず、他人任せにせず、身近なことから始めてみてほしいですね。

編集後記

スポーツが取り組む気候問題を調べていて、POW JAPANの活動を知り、取材を申し込みました。

今回の取材で雪不足による影響が切実なレベルで出ていることを初めて知りました。

気候変動と聞くと、どうしても「個人ではどうすることもできない問題だ」と諦めがちです。しかし、国際連合広報センターによると、自動車ではなく徒歩や自転車で移動したり、環境に配慮した製品を選んだりすることも、気候変動の抑制に貢献できる行動であると示されています。

私も小さなことから行動を始めたいと思いました。

〈プロフィール〉

髙田翔太郎(たかだ・しょうたろう)

北海道札幌市生まれ、長野県大町市在住。大学生のときにパタゴニアで働き始めたことから、公私共にアウトドアにどっぷりの20代を過ごす。30代になると、サステナブルな生活のヒントを求め、ニュージランドやタスマニアに旅立つ。帰国後、縁があって事務局長としてPOW JAPANの立ち上げに関わることになる。
一般社団法人Protect Our Winters Japan 公式サイト(外部リンク)

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