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【10代の性と妊娠】必要のは、安心して支援にたどり着ける場所。全国妊娠SOSネットワークの取り組み

写真:悩み苦しむ女子高生
増加する10代の妊娠相談
この記事のPOINT!
  • 予期せぬ妊娠の背景には、貧困問題や家庭不和など根深い問題を抱えた女性も少なくない
  • 妊娠相談には、必要な支援につなぐための福祉の知識と、当事者の悩みに寄り添う姿勢が大切
  • 相談をきっかけに、予期せぬ妊娠で苦しむ女性が人生に対し前向きになれる支援を目指す

取材:日本財団ジャーナル編集部

いま日本では、妊娠をきっかけにさまざまな問題を抱え、社会の中で孤立してしまう女性が目立っている。特に最近では、「予期せぬ妊娠」による10代女性からの相談が増えている。2021年1月にも栃木県小山市で、女子高生が商業施設のトイレで男児を出産後殺害するといった悲しい事件が起きた。

日本財団はこれまでも妊娠SOS相談窓口への助成を行ってきたが、こうした背景を受け、2020年7月より妊娠SOS相談窓口推進事業(別ウィンドウで開く)に着手し、相談窓口の新設や体制を強化。予期せぬ妊娠をした女性に必要な支援を行うことで、生まれてくる子どもの未来を守ると共に、より良い子育て環境の実現を目指している。

「自己責任」「淫らな行為」と批判されたり、タブー視されたりすることが多い予期せぬ妊娠。それは本当に、当人たちのせいで片付けられる問題なのだろうか。

連載「10代の性と妊娠」では、妊娠相談窓口を行う支援団体への取材を通して、予期せぬ妊娠の背景にある問題、それを解決するためのヒントを探る。

今回は、一般社団法人全国妊娠SOSネットワーク(別ウィンドウで開く)代表理事の佐藤拓代(さとう・たくよ)さんと理事の赤尾さく美(あかお・さくみ)さんにお話を伺った。

連載【10代の性と妊娠】記事一覧

重要なのは、話を聞き、悩みに寄り添う姿勢

「全国妊娠SOSネットワークは、全国の妊娠相談窓口の質の向上と、その地域や全国的なネットワークをつくることで、生まれたばかりの子どもの虐待死や、児童遺棄などを防ぐため、2015年11月に結成されました」

そう語るのは、代表の佐藤さん。

全国妊娠SOSネットワークは、助産師、保健師、医師、社会福祉士などのメンバーで構成されており、それぞれが妊娠相談窓口の現場を持っている。各現場の課題や取り組み、展望などを共有しながら、妊娠相談に関する研修を中心に、全国に広がる妊娠SOS相談窓口のネットワーク(別ウィンドウで開く)の構築、妊娠SOSの周知や啓発活動、調査・研究を基にした政策提言などを行っている。

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全国妊娠SOSネットワーク代表理事の佐藤さん

「私たちは、全国の妊娠SOS相談窓口と連携を取りながら、相談員さん向けの研修に力を入れています。研修は、基礎編とアドバンス編(応用編)に分かれており、基礎編では予期せぬ妊娠の現状や、妊娠SOS相談の役割、相談される側に求められる対応などと共に、育てられない場合は特別養子縁組、行き場がない場合は母子生活支援施設といった福祉支援の情報など、現場で役立つ知識を学んでいただきます。アドバンス編では『貧困・生活保護』『特別養子縁組』『性風俗』『若年妊娠』といったテーマの中からより専門性の高い知識を身に付けていただきます」

そのように妊娠相談の研修内容について話すのは理事の赤尾さん。「誰にも言えない」「お金がない」など、女性が抱える問題を見極め、必要な支援につなげることの重要性を強調する。

「研修は、妊娠相談窓口の相談員だけでなく、保健師や養護教諭、助産師など他職種の方が参加し、その場が地域の連携につながることも目的としています。研修を受けられる方の中には体のことは分かるけど、福祉的な支援が分からないという方もいらっしゃいます。私たちが実施する研修では、貧困や孤立、未受診、無保険、養育不可能等に対応できるための知識を身に付けるだけなく、実際の支援に結びつけるためのつながりも築くことができます」

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全国妊娠SOSネットワーク理事の赤尾さん

全国の妊娠SOS相談窓口に寄せられる女性からの相談は、LINEやメールからの問い合わせが多い。中には、貧困問題や家庭不和など、背景に根深い問題を抱えた女性もいるという。全国妊娠SOSネットワークは、妊娠SOS相談窓口を困っている人が「心から安心して」相談し、支援にたどり着ける入口にすることが大事な使命だと、赤尾さんは語る。

「妊娠SOS相談窓口は、一番はじめのやり取りがとても重要になります。そこで上から目線だったり、接し方を間違えたりすると、緊急を要するにもかかわらず連絡が途絶えてしまう可能性があるのです。大切なのは、勇気を出して連絡をくれた女性が『相談して良かった』と思えること。複雑な家庭事情を抱え、親に責められたり、自分自身をひどく責めたりする人も少なくありません。こちらで一方的な判断を下すのではなく、しっかり当事者の方の話を聞き、悩みに寄り添い、その人が必要としている支援につなげる方法を広めていくことが、私たちの大切な務めだと考えています」

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全国妊娠SOSネットワークの公式サイト

子育てしやすい社会づくりの必要性

長年、福祉の現場に携わり、妊娠問題に苦しむ女性と向かい合ってきた赤尾さんは、海外視察などの経験も豊富だ。この日本で、予期せぬ妊娠や、そこからつながる虐待や貧困といった負の連鎖を止めるためには、どのような取り組みが必要なのか。海外の参考事例について聞いてみた。

「日本では、子どもを生み育てることは大変です。しかし、ヨーロッパの国では、母親や家庭にかかる負担が少ない国もあります。日本の医療機関では飛び込み分娩は嫌がられますが、ドイツでは出産するまでに最低限必要とされる費用は全て公的保険でカバーされます。またフランスでは、親の経済状況によって子どもの教育や自立が左右されてはならないという考えのもと、子育てに関する社会福祉が充実しており、難しい申請など必要なくさまざまな支援を受けられます。教育も(公立の)幼稚園から大学まで無償で受けられます」

支援自体も、専門機関の職員が対象の家庭に度々訪れて、「最近、困っていることはない?」と気さくに話を聞いたり、朝の忙しい時間帯に子どもの面倒を見てくれたりもするという。親への支援を充実させることで、貧困や虐待といったさまざまなリスクから守られているのだ。

一方、日本は妊娠・出産に関する支援策が乏しすぎるという。

「コロナ禍の状況でもそうですが、まず経済的に不安定な人からどうしようもなくなっていきます。妊娠期の支援先としての受け皿も少ない。せめて妊娠して住むところがない、家賃が払えないという人が出た時に身を寄せられる妊婦用のシェルター的な居場所が各都道府県にあれば…。中には入院助産制度がない自治体もありますから。暮らす場所や、いい保健師や医師など出会った人によって左右されるものではなく、医療、保健、居場所、願わくは自立するまで、どこにいても同じ支援が受けられる制度が日本にも整っていることが理想ですね」

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全国妊娠SOSネットワークの公式サイトにある「お悩み別情報」(別ウィンドウで開く)。よくある相談内容別に、優しく丁寧に公的制度や民間の支援情報がまとめられている

ドイツやフランスのような優れた制度は、福祉の現場から『もっとこんな制度があれば』という声が上がり生まれたものも多い。児童福祉の経験豊富な職員が国に提言し、法律を変えてきた歴史があるという。そのような取り組みが日本で広がらない理由の一つには、「公務員の人事異動」もあるのではないかと赤尾さんは指摘する。

「日本の場合、公務員は短い期間で人事異動となる傾向にあるので、知識や経験を積んで専門的な知見を深め、現状の課題を見ながら制度や法律を何年もかけて変えていく取り組みをすることが難しいのではないでしょうか」

一人でも多くの女性や子どもに支援の手が届くために

日本の性教育は欧米諸国に比べて遅れており、それが若年妊娠の一因にもなっていると言われているが、赤尾さんは性教育だけで解決できる問題ではないと話す。

「年齢に応じた教育、親世代への教育などが決して充分とは言えない日本の性教育はもちろんもっと充実した方が良いのですが、ただ性教育がいくら充実しても、それが響かない若者は必ずいます。予期せぬ妊娠で苦しむ若者の中には、生い立ち自体に困難を抱え、自分のことや人が傷つくことなんてどうでもいいと感じている人も少なくありません。貧困や虐待、親に愛されてこなかった、親同士が歪み合っているのを見て育った。その慰めとして性行為に走るなど、性教育では解決できない傷を負っている人も多いのです」

「そのような若者を『自己責任』で片付けてしまっては身も蓋もない」という代表の佐藤さん。どんなことでも話せる、しっかり秘密を守ってくれる、そんな安心して相談できる場所が、彼らには必要だと語気を強める。

「そのためにも、全国妊娠SOSネットワークでは研修等を通して、当事者の背景にもきちんと目を向けながらしっかりと支援につなげられる福祉の知識を持った人材を育て、増やしていきたいと思っています。予期せぬ妊娠は、当事者にとっては悲しい出来事。しかし、受けた支援をきっかけにその後の人生が前向きになれる。その瞬間に関われるよう努めていきます」

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全国妊娠SOSネットワークでは、予期せぬ妊娠で苦しむ女性が前向きな人生を歩める社会を目指す

全国妊娠SOSネットワークが目指す、予期せぬ妊娠を自己責任とせず、一人でも多くの女性や子どもたちが希望に満ちた人生を歩める社会。そのためには、苦しむ人を取りこぼさないためのネットワークづくりが必要なのだ。

〈プロフィール〉

佐藤拓代(さとう・たくよ)

一般社団法人全国妊娠SOSネットワーク代表理事。公益社団法人母子保健推進会議会長。元大阪府立病院機構大阪母子医療センター母子保健情報センター長などを歴任する。

赤尾さく美(あかお・さくみ)

一般社団法人全国妊娠SOSネットワーク理事。一般社団法人ベアホープ理事。助産師として8年近く勤務した後、海外で国際支援の現場に関わる。その後、名古屋大学の助教として、「妊娠葛藤相談」をテーマに日米比較などを行う。

写真:『見えない妊娠クライシス』表紙
2021年3月8日にかもがわ出版より発売

見えない妊娠クライシス(別ウィンドウで開く)

予期せぬ妊娠に悩む女性を社会で支え、赤ちゃんの0日死亡を無くす。予期せぬ妊娠で葛藤する妊婦を社会的支援につなぐ。「匿名出産」など海外の取り組みに学び、赤ちゃんの0日死亡を無くすことを目指す。全国妊娠SOSネットワーク代表理事の佐藤さんと理事の赤尾さんが手がけた最新著書。

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