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潜在的な里親候補者は100万世帯!なぜ、里親・養子縁組制度が日本に普及しないのか?
- 日本財団の調査によると潜在的な里親候補者は100万世帯いるのに、実際に里親家庭で生活する子どもは約7,500人(2019年度。ファミリーホーム含む)
- 里親制度や特別養子縁組制度が普及しないのは、圧倒的な情報不足が一つの原因
- 里親には経済的な支援があり短期委託も可能。制度への理解が進めば、多くの子どもが家庭を得られる可能性がある
取材:日本財団ジャーナル編集部
※この記事は2019年2月12日に公開した記事を再編集しています
「里親」や「特別養子縁組」と聞くと、どこか遠い言葉に感じる方が多いかもしれない。しかし生みの親と離れて暮らす子どもが、日本には約4万5,000人いる。そのうち8割以上が、乳児院や児童養護施設で生活を送っているという。これは、先進諸国と比べても圧倒的に多い。里親だけで言えば、オーストラリアは93パーセント、アメリカは77パーセントであるのに対し、日本が18パーセント(※)にとどまっている。
- ※ 日本は2016年、他国は2010年頃の数値
2020年に民法が改正され、法律的に養子となる子どもと実の親子に近い関係を結ぶ「特別養子縁組制度」の対象年齢が、6歳未満から15歳未満に引き上げられた。15~17歳でも一定の条件下で縁組が認められるほか、実親の養育が著しく困難または不適当な場合には実親の同意がなくても児童相談所が家庭裁判所に申し立てができる制度が創設された。これにより、家庭復帰の見込みのない乳幼児を特別養子縁組につなげる機会が広がった。
そこで、里親制度や特別養子縁組制度の普及におけるこれまでの日本の遅れの原因と、改善の糸口を探るべく、日本財団国内事業開発チームの高橋恵里子さんに、2017年に行われた「『里親』意向に関する意識・実態調査」(別タブで開く/PDF)の結果とあわせて話を伺った。
子どもにとって、里親制度や特別養子縁組制度の必要性とは
そもそも「里親制度」や「特別養子縁組制度」とは何か。何らかの理由で実親と離れて暮らす子どもたちを家庭に迎え入れることには変わりないが、制度によって親子の関係性に違いがある。以下を確認してみよう。
里親(養育里親)制度:子どもを一定期間預かり育てること。里親と子どもの間に法的な親子関係はなく実親が親権を維持する。子どもの対象年齢は原則0~18歳まで。月々9万円+養育費5〜6万円の補助(※)、そのほか教育費、医療費などの支援がある。
- ※ 2022年9月時点の費用
特別養子縁組:原則15歳(※)までの子どもを、育ての親が法律上も子どもとして家族に迎え入れること。親権のほか相続権や扶養義務などは全て育ての親に移り、生みの親との法的な親子関係は残らない。
- ※ 2020年4月に改正
ちなみに、家系存続のためなど成人にも広く使われる養子縁組は「普通養子縁組」で、子どもの年齢制限は設けられておらず、特に保護を必要とする子どもが、実子に近い安定した家庭を得るための制度である特別養子縁組とは異なる。
図表:養子縁組と里親制度の違い
さて、そんな里親制度や特別養子縁組制度はなぜ必要なのだろうか。
「子どもにとって、生活の場を安定させるのはとても大事なことです。親、もしくは親代わりの特定の大人に受け入れられ、関係を築くことで、安心感を得られる。そうして自己肯定感を得ることで、(精神的に)健康な、人を信頼できる大人に育つことができるのではないでしょうか」と高橋さん。
家庭環境と子どもの発育は大きく関わっている。子ども時代に虐待を受けると脳が萎縮してしまう、というのは有名な話だ。さらに親がアルコール依存症であるなど、健全とは言えない環境で育った子どもは、将来的に健康や寿命にも悪影響を及ぼすとの研究結果も出ているそう。また中には、生まれて間もない頃から何らかの理由で生みの親と暮らすことができない子どももいる。そういった子どもたちを保護するのが、乳児院や児童養護施設だ。
「施設が必要ないということではありません。たとえば思春期で、今さら別の家庭に入っても気を使ってしまうので、児童養護施設での生活を望むこともあるでしょうし、施設でのより集中的なケアを必要とする子どもいます」と、高橋さん。しかし生まれたばかりの赤ちゃんや小さな子どもとなると、特定の大人と愛着関係を築く時間が必要だ。国連のガイドラインでも、実親の元に帰れないのなら、養子縁組をしてずっと続く家庭に入ること、それが難しければできる限り里親のような家庭的環境で育つことを目標としている。
- ※ こちらの記事も参考に:児童養護施設出身、3人組YouTuberが語る「児童虐待をなくすには?」への答え(別タブで開く)
国を挙げて子どもたちと向き合い、権利を尊重するべき
日本には家庭で暮らせずにいる子どもがたくさんいる。しかしその実態を知る人や、実際に養子縁組制度や里親制度を利用する人が日本では非常に少ない。「血縁を重んじる文化があるから」などその原因には諸説あるが、そもそも制度自体を知らない人が多いことが問題のようだ。アンケート調査によると、里親制度については「まったく知らない」「名前を聞いたことがある程度」と回答した人が6割以上だった。
その理由の一つが、国が里親の制度普及ににお金を使ってこなかったことではないかと高橋さんは話す。
「例えば児童養護施設に保護された子どもの約7割が里親と暮らすイギリスでは、普及活動が大々的に行われています。テレビやラジオCMを放送したり、ポスターを作ったり、さまざまな方法で里親のリクルートをしたりと、時間とお金をしっかりかけています。また、里親の研修や支援をする民間機関にも多額の補助金を出しています」
また、日本は法律的に親の権利を重視する傾向が強いことも制度が普及しない原因の1つと言えるようだ。「親の権利が守られていること自体は悪いことではありませんが、時に子どもの権利を奪う原因になります。親が同意しないという理由で、長期間一時保護所で生活していた、という子どもの話を聞いたこともあります」と高橋さんは言う。2016年に改正された児童福祉法には、子どもの意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮されるべきと書かれている。これを守るためにも、児童相談所と弁護士が連携しながら社会的養育を充実させていくことが重要だ。そうすればもう少し、里親や特別養子縁組も当たり前のこととして普及するかもしれない。
里親には国からの経済的なサポートがある
日本では里親制度や特別養子縁組制度があまり知られていない。とは言え、なにも無関心なわけではない。アンケート調査の結果、6.3パーセントの男女が「里親になってみたい」「どちらかというと里親になってみたい」と回答した。これは里親の対象となる世帯として 30 代~60 代の「夫婦のみの世帯」と「夫婦と子どものみ世帯」を想定し、そこから生活保護世帯を除いた数はおよそ 1,780 万世帯であることから、約100万世帯が潜在的な里親候補者であることを示す数字だ。
「民間で里親のリクルートや支援をしているNPO法人キーアセットの経験では、最初の問い合わせから里親登録まで結びつく確率は2~3パーセントとのことです。もし100万世帯が行動に移してくれれば、今実親と暮らすことが難しいとされている子どもたちの多くに、家庭で生活するチャンスを与えられる可能性があります。もちろん、ただ里親の数を増やせばよいということではなく、研修や支援の拡充も一緒にやっていくことが重要です」
法律上、家族となって子どもを迎え入れるのが養子縁組制度であるのに対し、養育里親は、実親のもとへ帰る可能性のある子どもを一時的に育てることになる。年齢や期間がまちまちなため、子どもを育てたことのある人はその経験がプラスとなる。しかし、里親になることをためらう人が多い。大きな原因は経済面にあるという。
「里親には国からの経済的な補助があって、これを知っていたと答えた人は2パーセント以下でした」
養育里親には、毎月9万円の手当と、5〜6万円の養育費。虐待を受けた児童や障害児など専門的ケアを必要とする児童を養育する「専門里親」であれば、月額14万1,000円+養育費が国から支給される。
図表:里親の意向はあるが、現状里親になっていない理由
アンケート調査の回答者に、里親には手当が出るといった経済的サポートがあることや、短期の里親もあることなどの情報を提供したところ、最終的に里親の意向者は、6.3パーセントから推計で12.1パーセントにまで増える可能性があることが分かった。日本社会において里親制度や特別養子縁組制度の理解が進めば、高橋さんの思いが叶うのも夢ではない。
まずは子どもたちの現状を知り、救うための制度を知り、今の実態を人ごとではないと認識することが大切だ。未来の担い手たる子どもたち一人一人が幸せに、健やかに育つようサポートすること。これは子どもたち、ひいては私たちの幸せにつながるはずだ。
撮影:十河英三郎
〈プロフィール〉
高橋恵里子(たかはし・えりこ)
上智大学卒、ニューヨーク州立大学修士課程修了。1997年より日本財団で海外の障害者支援や国内助成事業に携わる。2013年、日本財団「ハッピーゆりかごプロジェクト(現:日本財団子どもたちに家庭をプロジェクト)」を立ち上げる。実親と生活することが難しい子どももあたたかい家庭で暮らすことのできる社会を目指す特別養子縁組や、里親の制度を啓発するべく活動を行っている。ハフポストではコラム(外部リンク)を執筆している。
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