社会のために何ができる?が見つかるメディア
「パートナーは反対しなかった?」「真実告知のタイミングは?」経験者が語る特別養子縁組の真実
- 特別養子縁組は、夫婦で話し合いを重ねながら同じ方向を向くことが大切
- 特別養子縁組の普及には、不安や悩みなどを発信できるアウトプットの場も必要
- 絆を深めるためにも「真実告知」は子どもが知りたいことを軸に伝えることが大切
取材:日本財団ジャーナル編集部
4月4日を「養子の日」と定める日本財団は、2019年3月30日、特別養子縁組の普及啓発を目的としたイベントを開催。これから子ども迎えたいという夫婦や、当事者である親、子どもなどが、会場となる東京・丸の内に集まった。テーマは「すべての子どもにあたたかい家庭を」。何らかの事情で産みの親と暮らすことができない子どもたちが、愛情のある家庭で育つことのできる社会を目指し、特別養子縁組への理解を深めてもらうためのさまざまなプログラムを展開した。
当事者が語る特別養子縁組の悩みや葛藤、そして幸せ
オープニングを飾ったスペシャルトークショーでは、日本財団ジャーナルの記事「産むことだけが選択肢じゃない。瀬奈じゅんさん・千田真司さん夫妻と“わが子”との出会い」(別ウィンドウで開く)でもインタビューさせていただいた女優の瀬奈じゅん(せな・じゅん)さん、舞台俳優の千田真司(せんだ・しんじ)さん夫妻が参加。特別養子縁組を経験した養親の橘高(きったか)さん、同制度を通して家族になった大木(おおき)さん母娘と共に、イベント参加者から事前に募った質問や疑問について、実体験を交えて回答した。
- 里親という選択肢もある中で、なぜ特別養子縁組を選んだのか?
- 親兄弟や親族、周囲の反応はどうだったのか?
- 真実告知はどのタイミングで行ったのか?
などといった質問に対し、経験者だからこそ伝えられる、特別養子縁組をする上での悩みや葛藤、そして解決までの道のりを語った。
「特別養子縁組をするにあたり、夫婦のどちらかが反対することはありましたか?またあった場合、どのように説得しましたか?」という参加者からの質問については、反対されなかったと答える瀬奈さん・千田さんご夫妻と大木さん母に対し、長い年月をかけて話し合ったという橘高さん。
「夫に特別養子縁組をしようと提案したのですが、当初は抵抗があったようで…。それぞれ仕事や資格取得に向けて忙しく、養子縁組について具体的に考えなかった時期があったということもありますが、イベントや説明会に一緒に参加し、2人とも養子縁組をしたいと思うようになるまでに、気付いてみると最初の提案から10年が過ぎていました。もっと若い時に子どもを迎えたかったと思うこともありましたが、この10年がなければ娘と出会えなかった。そう考えると、時間はかかりましたがこのタイミングで良かったと今は思います」
夫婦間で十分話し合い、子どもを迎える覚悟を持つことの大切が伝わってくるエピソードだ。
その後も登壇者たちは、質問への回答だけでなく子どもを迎えてからの幸せや苦労話などにも花を咲かせた。集まった質問数が多く、「もっと時間がほしい!」と登壇者が求めるほどの盛り上がりを見せて、スペシャルトークショーは終了した。
“男性目線”で語り合う、特別養子縁組の不安や悩み
イベントでは、男性限定のコミュニティサロンも実施。スペシャルトークにも参加した千田真司さん主宰によるもので、“男性目線”での特別養子縁組に関する悩みや不安を、座談会形式で語り合った。この機会を設けた千田さんに、男性限定にした理由などを尋ねてみた。
——男性限定のコミュニティサロンを開設しようと思われた理由を教えてください。
千田さん(以下、敬称略):血縁を重んじるのは、男性の方が多いらしいんです。「妻は特別養子縁組をしたいと言っているけど、いまいち気が乗らない…」。そんな悩みを持っている人は多いけど、誰にも話せずにいる。そういった男性が気楽に悩みを話しつつ、同時に当事者の声も聞ける場があればいいなと思い、この「男子会」を開きました。
——参加者にはどのような方が多かったのでしょうか?
千田:特別養子縁組を迷っている方が多く参加されるのだろうと思っていたのですが、意外にも当事者と検討中の方が半数ずついらっしゃいました。当事者の方は、「これから養子縁組したい」と考えている人に自分の経験を還元したいとの思いで参加してくださったようです。検討中の方は、これも僕の予想とは反対に、ご自身は特別養子縁組をしたいけれどパートナーが抵抗を感じているから、そこを解決したいと参加された方が多かったですね。
——検討中の方は何に不安を感じていらっしゃいましたか?
千田:特別養子縁組に対する夫婦間の意見の相違に悩んでいる方が多かった印象です。また40〜50代の方が中心だったこともあり、養親としての年齢制限に不安を抱えているケースも多かったですね。
——「男子会」を通じて得た気付きなどありましたか?
千田:悩みがある方にとって、アウトプットは本当に大切なのだと改めて実感しました。特別養子縁組をする上で、何に不安を抱えているのか。これってパートナー以外に相談したくても、できないものなんです。そこで、経験談を聞いたり、ノウハウを学んだりといった「インプット」だけではなく、思っていることを発信できる場があれば、不安を抱えている方も前向きになれるんだなと感じました。
——今後も今回のような男性限定のイベントを開催されることはあるのでしょうか?
千田:続けられたら嬉しいですね。少人数で話ができることが大切だと感じているので、今後も機会があればぜひ、今回のような規模で開催したいと思っています。
当事者の親と子が語る「真実告知」経験談。どのように乗り越えるべき?
特別養子縁組家庭が幸せに過ごすために、養親が子どもに養子であることを伝える大切なプロセスである「真実告知」。イベントでは、「どう乗り越える?乗り越えた?“真実告知”」と題して、一般社団法人ベアホープの代表であるロング朋子(ともこ)さんが、何歳までに、どのように説明すべきか、そしてその際にやるべきこと、やってはいけないことを解説した。また、真実告知を経験した親と子、双方の経験談が聞ける貴重なプログラムも用意された。
「真実告知をした側」の経験者として登壇したのは、特別養子縁組で迎えた長男と三男、血のつながっている次男、里子である四男の兄弟を育てる女性・石井(いしい)さんだ。彼女は長男を育てる中で、乳幼児の頃から少しずつ“ヒント”を話し聞かせていたという。
「お母さんの宝物って、何か分かる?1つは、お父さんと出会えたこと。もう1つは、あなたと出会えたことよ」
そう毎日話し聞かせることで信頼を積み上げ、徐々に準備を重ねていたのだとか。そうしているうちに次男が生まれ、長男が3歳になった頃、1週間ほど不機嫌な日々が続いたそう。
「ある日長男が『僕が赤ちゃんだった頃のおもちゃが1つも残ってない!』って、顔を真っ赤にして怒り始めたんです。そこで彼が、何か違和感を覚えて1週間考え込んでいたのだと気づきました」
内心では慌てふためきながらも「そう、あなたが赤ちゃんだった頃のおもちゃはないの。だけどお母さんの宝物のお話、覚えてる?」と尋ねると、長男は小さく頷いた。石井さんの場合、日常の中で積み重ねたコミュニケーションが、真実告知をする際に子どもに与える衝撃の緩和剤となったという。
続いて登壇したのが、5人きょうだいの末っ子として、ご自身のみが特別養子縁組を通して家族に迎え入れられた女性・近藤(こんどう)さんだ。真実告知に衝撃を受けた彼女は、思春期に入ると周囲に反発するようになったという。
「中学生の頃、成績に関してけんかをして『本当の親じゃないくせに!』と母に言い放ってしまったことがあります。そうしたら母は、あなたは来るべくしてこの家族の元へ来たのだと泣きながら話してくれたんです」
生みの親に育ててもらえなかった。その事実に対して複雑な感情を抱いた近藤さんは、やり場のない怒りを周りにぶつけ、何度もご両親の手を離そうとしたそう。
「だけど母は、がっちり手をつかんでいてくれました。何があっても絶対に離さない!という一心で私と向き合ってくれていたようで…。今話を聞いても、上のきょうだい4人に比べ、私には何倍ものエネルギーを使ったと言われます(笑)」
真実告知は、ただ事実を話して終わりというわけではない。そこから子どもは「真実探求」を始めるのだと、当時の経験を振り返り近藤さんは語る。
「育ての親は、どんなことがあっても私の手を離さずにいてくれるのか。そもそも私のルーツはどこにあるのか。そんな、さまざまな“真実”を求めて私はもがいていたと今思います」
揺れ動く子どもの心に寄り添い、決して手を離すことなくそばにいてあげてほしい。自身の経験を踏まえ、近藤さんは話を締めくくった。
最後に登壇したのは、日本財団で養子縁組事業に携わる徳永祥子(とくなが・しょうこ)さん。日本財団が作成した養親向け小冊子「養子縁組をした762人の声」(別ウィンドウで開く)の概要と共に、真実告知の重要性について解説した。
「真実告知というと、ある一定の事実を子どもに提示することだと考えている親御さんもいらっしゃいます。だけどそうではなく、子どもが何を本当は知りたいと思っているのかを軸に話してあげてほしいんです」
真実告知を受けた子どもは、さまざまな不安を感じる。「いつまでこの家にいられるのだろう?親はこの手を離さずにいてくれるのだろうか?」。そんな不安を抱えながらも、生みの親が誰なのかを知りたいと願うようになる。そこをすくい取り、子どもが知りたいと思っていることを適切に聞かせてあげることが大事だという。
さらに、「親が真摯(しんし)に向き合い、真実告知をした結果『この家で育って良かった、真実も教えてもらえて良かった』と子どもが心から言えるようになることが、調査からも分かっています」と続けた。
日本には、乳児院や児童養護施設で暮らす子どもたちが大勢いる。また養子縁組ができたとしても、学校などで嫌な思いをしてしまう子どもがいるのも事実だ。「すべての子どもたちにあたたかい家庭を」、このテーマの重要性をより多くの人に伝えるために、日本財団は今後も特別養子縁組への理解と普及促進に取り組み続ける。
撮影:十河英三郎
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。