日本財団ジャーナル

社会のために何ができる?が見つかるメディア

大雨をもたらす「線状降水帯」。気象予報士・斉田季実治さん、気象防災アドバイザー・尾崎里奈さんに聞く災害リスクと対策法

画像
「令和2年7月豪雨」における線状降水帯をとらえた雨雲レーダー画像
この記事のPOINT!
  • 発達した積乱雲の連なりで大雨をもたらす「線状降水帯」は、事前に予測することが難しい
  • 災害発生の恐れがあれば、地域の防災情報をこまめにチェック。警戒レベルに合った行動をとる
  • 防災関連のサイトやアプリを上手に活用すれば、災害リスクを大きく減らすことができる

取材:日本財団ジャーナル編集部

大雨のニュースで「線状降水帯(せんじょうこうすいたい)」という言葉を耳にする機会が増えた。「平成30年7月豪雨」や「令和2年7月豪雨」で、西日本を中心に大きな被害をもたらした気象現象である。梅雨終盤に多く見られるが、近年では夏から秋にかけても頻繁に発生し、日本各地に被害をもたらしている。

線状降水帯とは何か?どんな災害リスクがあり、どのように身を守ればよいのか?

気象予報士としてNHKなどで活躍する斉田季実治(さいた・きみはる)さんと、気象防災アドバイザーの尾崎里奈(おざき・りな)さんに、線状降水帯の危険性とその対処法についてアドバイスをいただいた。

写真
線状降水帯への対策について教えてくれた、気象予報士の斉田さん(左)、気象防災アドバイザーの尾崎さん

※この記事の動画をYouTube日本財団公式チャンネル(外部リンク)でも視聴できます

短期間で記録的な大雨をもたらす線状降水帯

2021年6月17日から開始された「顕著な大雨に関する気象情報」の運用。気象庁が速報を伝え、呼びかけることで、さらなる警戒を促すことが狙いにある。

そして、この大雨を降らせることが多いのが線状降水帯だ。

線状降水帯とは何か

「線状降水帯とは、2014年頃から注目されるようになった気象用語です。まずはどのようなものか、実際の雨雲レーダー画像をお見せしましょう」

そういって斉田さんが示すのは、「令和2年7月豪雨」における2020年7月4日午前2時の画像だ。

画像
「令和2年7月豪雨」の雨雲レーダー画像

「九州付近にかかっている赤い部分のことを線状降水帯と呼びます。線状に次々と発達した複数の積乱雲が並んでいる状態です。上空の風と風がぶつかることで積乱雲が同じ場所で発生し続けて、線状になるのです」

写真
線状降水帯について説明する斉田さん

線状降水帯による被害

線状の雲の幅が20~50キロメートル、長さは50~300キロメートルに及び、数時間にわたり、同じ場所に停滞することで大雨をもたらす線状降水帯。その被害は大きなものとなった。

「『令和2年7月豪雨』では、熊本県球磨村で3日午前10時から4日午前10時までの24時間降水量が455.5ミリを観測しています。これは平年の7月に降る1カ月分の雨量に迫るような雨が、たった1日で降ったことになります」

その後も線状降水帯は東へと進み、各地で河川の氾濫や土砂崩れ、床上床下浸水など大きな被害を出し、全国出84人(※)が亡くなる事態となった。

  • 数字は速報値で今後も変わることがある
「令和2年7月豪雨」における熊本県球磨村神瀬地区の様子

他にも、2015年9月に発生した「関東・東北豪雨」では、大雨の影響により鬼怒川(※1)の堤防が決壊し、14人(※2)が亡くなった。当時の栃木県日光市五十里(いかり)の観測所では24時間雨量が551ミリを記録したという。

  • 1.関東平野東部を北から南へと流れ利根川に合流する一級河川
  • 2.数字は速報値で今後も変わることがある
画像
「関東・東北豪雨」での2015年9月10日午前2時の雨雲レーダー画像

「『関東・東北豪雨』での2015年9月10日の雨雲レーダーを見ると、線状降水帯が南北に発生しています。線状降水帯は西から東へだけでなく、『風向きによっては南から北に発生する』ということを覚えておいてください。これは、全国どこでも起こりうる現象なのです」

線状降水帯は、発生するメカニズムが分かっていないことも多く、予測することが非常に難しいのも特徴の1つだ。

「現在の予報技術では、積乱雲の階層構造と呼ばれるものが上手く表現できずにぼやけてしまい、よくある雨雲ととらえ、線状降水帯であることを予測するのは難しいのです。予測できるようになるのは早くても2030年頃と言われています。ですので、普段からの備えとテレビやインターネットなどからいち早く情報を手に入れることが大切です」

画像:
1.低層を中心に大量の暖かく湿った空気の流入が持続。
2.局地的な前線や地形などの影響で空気が持ち上がり雲が発生。
3.大気の状態が不安定で湿潤な中で積乱雲が発達
4.上空の風の影響で積乱雲や積乱雲群が線状に並ぶ。
線状降水帯の代表的な発生のメカニズム

気象庁では2021年6月から「顕著な大雨に関する気象情報」を発表するようになった。これは線状降水帯による大雨の状況をとらえ、5段階の警戒レベルの内、レベル4相当以上の段階で発表される情報だ。

画像:
[警戒レベル5]
・住民が取るべき行動/命の危険、直ちに安全確保!すでに安全な避難ができず、命が危険な状況。いまいる場所よりも安全な場所へ直ちに移動等する。
・市町村の対応/緊急安全確保。※必ず発令される情報ではない
・気象庁等の情報/大雨特別警報。氾濫発生情報。
・相当する警戒するレベル/5相当。
警戒レベル4までに必ず避難!
[警戒レベル4]
・住民が取るべき行動/危険な場所から全員避難。過去に重大な災害の発生時に匹敵する状況。この段階までに避難を完了しておく。台風などにより暴風が予想される場合は、暴風が吹き荒れる前に避難を完了しておく。
・市町村の対応/避難指示。第4次防災体制(災害対策本部設置)。
・気象庁等の情報/土砂災害警戒情報。高潮警報。高潮特別警報。キキクル(危険度分布)は「極めて危険※2」「非常に危険」。氾濫危険情報。
・相当する警戒するレベル/4相当。
[警戒レベル3]
・住民が取るべき行動/危険な場所から高齢者等は避難。高齢者等以外の人も必要に応じ、普通の行動を見合わせ始めたり、避難の準備をしたり、自主的に避難する。
・市町村の対応/高齢者等避難。第3次防災体制(避難指示の発令を判断できる体制)。
・気象庁等の情報/大雨警報※1。洪水警報。高潮警報に切り替える可能性が高い注意報。キキクル(危険度分布)は警戒(警報級)。氾濫警戒情報。
・相当する警戒するレベル/3相当。
[警戒レベル2]
・住民が取るべき行動/自らの避難行動を確認。ハザードマップ等により、自宅等の災害リスクを再確認するとともに、避難情報の把握手段を再確認するなど。
・市町村の対応/第2次防災体制(高齢者等避難の発令を判断できる体制)。第1次防災体制(連絡要員を配置)。
・気象庁等の情報/大雨警報に切り替える可能性が高い注意報。大雨注意報(第2次防災体制)。大雨注意報、洪水注意報(第1次防災体制)。高潮注意報。キキクル(危険度分布)は注意(注意報/第2次防災体制)。氾濫注意情報(第2次防災体制)。
・相当する警戒するレベル/2相当。
[警戒レベル1]
・住民が取るべき行動/災害への心構えを高める。
・市町村の対応/心構えを一段高める。職員の連絡体制を確認。
・気象庁等の情報/早期注意情報(警報級の可能性)。
5段階の警戒レベルと防災気象情報。「避難情報に関するガイドライン」(内閣府)(外部リンク)に基づき気象庁において作成
  • 1.夜間〜翌日早朝に大雨警報(土砂災害)に切り替える可能性が高い注意報は、警戒レベル3(高齢者等避難)に相当
  • 2.「極めて危険」(濃い紫)が出現するまでに避難を完了しておくことが重要であり、「濃い紫」は大雨特別警報が発表された際の警戒レベル5緊急安全確保の発令対象区域の絞り込みに活用することが考えられる

警戒レベル4というのは「危険な場所から全員避難」する段階。もしも自分が暮らす地域にこの「顕著な大雨に関する気象情報」が出た場合は、すぐに自分の命を守る行動を取る必要がある。

線状降水帯がもたらす災害への対処法

予測が難しい線状降水帯から命を守る対処法について、気象防災アドバイザーの尾崎さんは「情報の変化に気付けるように常に注意を払い、警戒レベルが上がったら速やかな判断と行動が必要」と語る。

写真
線状降水帯の対処法について説明する尾崎さん

「まず、大雨による被害というのは、お住いの地域によって種類が異なり、危険度も違います。河川の近くや低地では浸水の被害が、山沿いでは土砂災害の危険性が高まります。避難指示に相当する警戒レベル4や『顕著な大雨に関する気象情報』が発表されたときには、浸水の場合は高いところへ、土砂崩れの危険がある場合は離れた場所へすぐに避難してください。ご高齢の方や避難に時間を要する方は、警戒レベル3が発表されたら避難を開始するようにしてください」

写真:浸水被害に遭った町
河川付近や低地では浸水の危険性が高まる
写真:土砂が崩れで山肌があらわになった山
大雨により山沿いでは土砂災害の危険性が高まる

レベル3やレベル4といった警戒レベルは自治体から発表されるが、多くの場合は気象庁から先に防災気象情報が発表される。自治体から警戒レベル等が発表されていなくても、自ら情報を入手して、早めに避難開始の判断をすることも大切と言える。

危険回避の鍵となる情報収集について、尾崎さんは3つのサービスを教えてくれた。

「キキクル」

気象庁が提供する「キキクル」(外部リンク)は、大雨や洪水によって「土砂災害」「浸水害」「洪水災害」が起こる可能性のある地域を、5段階に色分けして地図上に表示。今、どこで、どのくらい危険度が高まっているのかが一目で確認できる。

画像
「キキクル」の画面。2021年8月18日13時40分時点の危険度を表示。右上のボタン操作で「土砂災害」「浸水害」「洪水災害」を選択し、表示を切り替えることができる

例えば「土砂災害」「浸水害」の色分けは以下のようになっている。

  • 紫色は「警戒レベル5」 → 極めて危険
  • うすい紫色は「警戒レベル4」 → 非常に危険
  • 赤色は「警戒レベル3」 → 警戒
  • 黄色は「警戒レベル2」 → 注意
  • ベージュは「警戒レベル1」 → 今後の情報等に留意
  • 「洪水災害」の危険度の色分けは若干異なる

「赤色になったら高齢者の方や避難に時間を要する方は速やかに避難を開始しましょう。うす紫色で、危険な場所から全員避難。紫色の場合は、すでに重大な災害が発生している、もしくは発生している恐れが高い、避難するのも危険な状況となります」

また「キキクル」には、危険度の高まりをスマートフォンのアプリやメールにリアルタイムで知らせてくれる無料通知サービスもある。離れて暮らす家族の場所を登録しておけば、その場所の通知を自分が受けて、家族にいち早く避難を呼びかけることも可能だ。

「あなたの街の防災情報」

同じく気象庁が提供する「あなたの街の防災情報」(外部リンク)では、都道府県、市町村単位で設定・登録ができ、現在発表されている注意報、警報といった防災情報や、雨の状況などを細かくチェックすることができる。

画像
「あなたの街の防災情報」の画面にて、都道府県→市町村の順に設定。画面は、2021年8月18日14時35分時点の東京都品川区の状況

「重ねるハザードマップ」

また、防災は自宅や会社、学校などの周辺ではどんな災害リスクがあるのか、事前に把握しておくことも肝心。その際に役立つのが、国土交通省が提供する「重ねるハザードマップ」(外部リンク)だ。洪水や土砂災害、津波のリスク情報、道路防災情報、土地の特徴や成り立ちといった災害種類を選択し、地図や写真に自由に重ねて表示することができる。

画像
「重ねるハザードマップ」の画面。「洪水」「土砂災害」「津波」の情報を重ね合わせたもの

「また最近では、スマートフォンアプリからも緊急時に役立つ情報を入手することができます」

そう尾崎さんがおすすめするのは2つのサービスだ。

「NHKのニュース・防災」

NHKは放送局では唯一、気象業務法の中で気象庁が気象警報を通知する機関として指定されている。

「NHKのニュース・防災」(外部リンク)アプリでは、地域登録が3カ所できるので、自宅の他に職場や学校、よく出かける場所や離れて暮らす家族の場所など、自分の行動範囲や知りたい地域の災害情報を入手することができる。

天気予報はもちろん、現在発表されている防災情報、避難情報などプッシュ通知(※)で知らせてくれる。

  • 新しいメッセージやメール、ニュース速報や天気予報、セールの開始など、アプリが自動的にお知らせを表示する機能
画像:「NHKのニュース・防災」アプリの画面
「NHKのニュース・防災」アプリは、リアルタイムでニュースが見られ、警報注意報、避難情報、災害関連情報、熱中症情報なども見やすい

「Yahoo!防災速報」

ヤフージャパンが運営する「Yahoo!防災速報」(外部リンク)アプリは自分の住所などを設定しておくと、気象情報や警報の他に目先の豪雨予測、地震などさまざまな災害に関する情報を、プッシュ通知で知らせてくれる。こちらも地域を最大3カ所まで登録することが可能だ。

また、災害時の「困ったとき」にどうアクションすればよいのか、イラストを使って分かりやすくまとめた「防災手帳」も、もしものときに役立つ情報が入手できてとても便利だ。

画像:「Yahoo!防災速報」アプリの画面
「Yahoo!防災速報」アプリの「災害マップ」にはユーザー同士で状況を共有できる機能も

近年、多発傾向にある「線状降水帯」。しかし、天気予報や防災サイト、アプリなどを活用して備えれば、災害リスクを大幅に減らすことができる。ぜひこの機会に利用することをおすすめしたい。

素材提供:
tenki.jp(外部リンク)
気象庁(外部リンク)

台風接近!とるべき行動は?気象予報士・斉田季実治さん、気象防災アドバイザー・尾崎里奈さんに聞く

大雨をもたらす「線状降水帯」。気象予報士・斉田季実治さん、気象防災アドバイザー・尾崎里奈さんに聞く災害リスクと対処法

〈プロフィール〉

斉田季実治(さいた・きみはる)

気象予報士。北海道大学で海洋気象学を専攻し、在学中に気象予報士の資格を取得。報道記者として、自然災害の現場を数多く取材した経験から、被害を伝えるだけでなく、未然に防ぎたいとの想いを持ち、気象の専門家の道へ。民間企業で経験を積み、2006年からNHKの気象キャスターに。現在は「ニュースウオッチ9」に出演中。2018年には株式会社ヒンメル・コンサルティングを設立、代表取締役を務める。著書に、『新・いのちを守る気象情報』(NHK出版新書)、『知識ゼロからの異常気象入門』(幻冬舎)などがある。
ヒンメル・コンサルティング 公式サイト(外部リンク)

尾崎里奈(おざき・りな)

気象予報士、気象防災アドバイザー。大学を卒業後、フリーキャスターとして活動しながら、気象予報士の資格を取得。気象キャスターとして、多くのテレビやラジオ番組に出演してきた。現在は、3つの民間気象会社が新しい気象サービスを展開するために結成したチーム「Team SABOTEN」に所属しながら、より専門的な気象解説を目指し、気象動画作成や局地予測業務、ニュース記事の作成、講演活動、教育活動を行っている。
Team SABOTEN 公式サイト(外部リンク)

関連タグ
SNSシェア