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「もしも水害に遭ったら」生活再建をスムーズに進めるためにやるべきこと
- 水害にあったときに」は、スムーズに生活再建するための手段や心得が記された手引書
- 生活再建は長期戦になることも。見通しを立て、無理のないペースで進めることが大切
- ハザードマップや備蓄品の確認、避難のシミュレーションなど、日頃の備えが命を守る
取材:日本財団ジャーナル編集部
ここ数年、台風や豪雨などによる大規模水害が後を絶たない。2019年秋には、超大型と言われる台風が2度も日本を直撃し、想像を絶する被害を各地にもたらした。そんな中、SNSを中心に話題になったのが「震災がつなぐ全国ネットワーク(通称:震つな)」(別ウィンドウで開く)が制作した水害後の生活再建手引き書「水害にあったときに」(別ウィンドウで開く)だ。今回は制作に至った経緯や、水害に遭ったときに注意しなければならないポイントについて、震つなの事業担当責任者・松山文紀(まつやま・ふみのり)さんに話を聞いた。
水害に遭った人が、生活再建までの見通しを立てられる手引書を
震つなは、1995年の阪神・淡路大震災で被災したメンバーを中心に1997年に立ち上げられた、複数のNPO団体によるネットワーク組織である。経済や効率優先でない、一人一人に寄り添った支援を行う仲間が集い結成された。
「被災された方は、さまざまな支援制度や義援金を受け取ることができますが、生活再建をできるまでの金額には程遠いもの。それだけでは明日に向けた一歩が、なかなか踏み出せないのが現実です。一方で、対価を求めないボランティアらの関わりによって『こんなに良くしてもらったのだから、自分も頑張ってみよう』と勇気付けられる人がたくさんいるのも事実。復興の要となるのは、被災した方の思いに寄り添い、共に歩む姿勢なのです」
各地で災害が起こればボランティアとして活動し、東日本大震災では日本財団と組んで関東圏からのボランティアのコーディネートなども行ってきた震つな。その後、水害が各地で頻発するようになり、メンバーが活動を通して得たノウハウを形にしようと、手引書の制作を思いついたという。公的支援制度などが変更になるたびに細かなアップデートを繰り返しながら、「水害にあったときに」は全国の被災地に届けられている。
被災者の声を反映し、復興への見通しをつけられるように工夫
手引書の制作にあたり特にこだわったのが、被災者の声を集めて反映させたこと。それを実現させたのが、震つながさまざまな被災地で行ってきた「足湯」の支援である。
「足湯は、心に寄り添う支援をするという震つなの要とも言える活動です。メンバーには、現地で被災者の方の声をたくさん聞き、コミュニケーションをとるようにお願いしています。これが手引書の制作時にとても役立ちました。ただ『声を聞かせてください』とかしこまって話しかけても、被災者の本音を引き出すことは難しい。足湯という心も体もリラックスできる場所だからこそ聞くことのできる声があると思っています」
例えば、手引書には「ボランティアと片付けた時に捨てない方が良かったという物が多かった」という被災者の声が掲載されている。とにかく片付けをしなければと焦ってしまい、ボランティアが来てくれた時に物を捨ててしまったが、住宅再建後に一から揃えるには時間もお金もかかったという。
物を捨てるか否かは直接命に関わることではないため問題視されることは少ないが、生活再建後生きていく上では重要なこと。このような声にこそ価値があると考え、「水害にあったときに」にはさまざまな被災者の声が反映されている。
スムーズに生活再建するためのポイント
浸水被害にあったとき、生活を再建するためにはどのような手順を踏めば良いのだろうか。大まかな流れは下記の通りだ。
- 落ち着いて被害状況を確認し、記録を残す
- 被災の規模、浸水の深さ、土砂の量によって生活再建の時間が変わるため、生活拠点は慎重に選ぶ
- 罹災証明書を取得するために、片付け始める前に被害状況の写真を撮る
- 公的支援を受けるために必要な手続きを行う
- さまざまな公的支援を受けるために必要な罹災証明書を自治体に申請し、交付を受ける
- 保険や共済に加入している場合は連絡する(加入状況不明の場合は照会センターに問い合わせる)
- 水道光熱費や税金などは支払いの先延ばしや、減額、免除できる場合もあるので各種制度等を役所で確認する
- 家屋の片付けと清掃
- 濡れた家具や家電を片付ける
- 床下や壁の中の泥や水を除去し、しっかり乾燥させる(最低1カ月程度)
- 床下の消毒は安全な逆性石けんを使用する
次に、それぞれ実行する際のポイントを押さえておこう。
「落ち着いて被害状況を確認し、記録を残す」ときの心得
長期戦となることが多い浸水被害。まずは見通しを立て、無理のないペース配分で取り組むことが重要だと松山さんは言う。
「水害から復興するまで、一般的に3カ月程度かかると言われていますが、被害や住宅再建を行う工務店の対応や住宅再建する土地などの状況によっては2年近くかかる場合もあり、マラソンのような長期戦になることが多いんです。最初に頑張りすぎると、後でがたっと疲れが出てしまうことも多いので注意が必要です」
また、家の被害状況を写真撮影する際に心掛けたいのが、外観はなるべく4方向から、浸水した深さが分かるように撮ること。そして室内の被害状況も忘れずに撮影を。
「公的支援を受けるために必要な手続きを行う」ときの心得
役所などで手続きを行う際に知っておいてほしいのが、罹災証明書を交付する際に行われる住宅被害認定の調査判定に疑問が残る場合、再調査を依頼できるということ。「被害認定の内容によっては支援金額が大きく変わることもあるので、判定に疑問がある場合は必ず再調査の申請をしてほしい」と松山さんは言う。
また、支援制度にはさまざまなメリット、デメリットがある。中でも応急修理制度を利用するか否かは冷静な判断が必要だ。
「この制度はあくまで自宅を修理するために使うもの。この制度を利用した場合は仮設住宅への入居はできなくなりますので、使うかどうかの見極めが肝心です。また、応急修理制度は現金をもらえると勘違いをしている人も多いのですが、これは現物支給による支援。その金額分の工事費用を自治体が受け持ち、直接業者に支払う仕組みになります」
「家屋の片付けと清掃」するときの心得
床下浸水の場合こそ注意が必要だ。家財道具が濡れていなければ、床下や壁の中をチェックしないまま清掃を終わらせてしまう人もいるが、そういった目に見えない箇所が浸水している可能性がある。
濡れたまま放っておくと、後からカビや悪臭が発生し生活に支障がでる場合も。床はがしなどは難易度の高い作業だが、震つなでは「水害後の家屋への適切な対応」(別ウィンドウで開く)を発行し、その必要性を呼び掛けている。
また床下の消毒には、やけどなどの危険性がある消石灰ではなく、逆生石けん(ベンザルコニウム塩化物)の使用をお勧めしている。
命を守るための行動は、日頃の備えから始まる
災害から命を守るために何より重要なのは、日頃からの備えだと松山さんは語気を強める。水害は、ハザードマップの確認が重要だ。
「どんな水害が起こりうる地域なのかを、事前にハザードマップで確認し避難のシミュレーションをしておくことが大切です。ポイントは、立ち退き避難が必要な地域なのかどうか。『避難』という言葉を避難所に行くことだと捉えている人も多いと感じますが、自宅に留まる方が安全な場合は自宅待機も立派な避難行動です。お年寄りや子どもなど自分で避難行動ができない人は、誰に手助けしてもらうのかも確認しておくべきですね」
また、今回台風19号が近づいているという予報が出た直後から、スーパーやホームセンターでは水、カセットボンベ、食料などの欠品が目立った。「予報後のタイミングで準備するのでは、避難生活に十分な食料・飲料、日用品が確保できない場合があります。普段から備えておくことが大切なのです」と松山さんは語る。
「この街にずっと住んでいたい」と思える支援制度を
被災した人々に寄り添う活動を続けてきた松山さんは、現在の被災者支援制度が抱える課題について、「自分の街にずっと住んでいたいと思えるような、支援の形態になっていないことですね」と話す。
「例えば、家を自力で再建しようとする人は、大規模半壊以上の被害認定があった場合、応急修理制度として最大59万5,000円、被災者生活再建支援制度として最大300万円の支援は受けられます(2019年11月時点)。しかし、自治体が仮設住宅をつくるとなると、1軒あたり500万円程の税金が投入されるんです。
家屋という個人の財産に税金を投入するのはどうかという議論はありますが、自力で生活再建をする人にもう少し手厚い支援がなければ、その街にとどまる人がだんだん少なくなってしまいますよね」
重要なのは地域におけるコミュニティだと松山さんは続ける。活気のあるコミュニティが復興を促し、より安心・安全な街を形づくっていく。長い年月をかけて築かれたコミュニティを分断しないためにも、自分の街で暮らし続けられる支援が必要なのだ。
度重なる災害で今まさに生活再建の道を歩んでいる人たちに向けて、「まだ先が見通せないかもしれませんが、必ず生活再建はできますので希望を捨てないでください」と力強く語る松山さん。同時に「頑張り過ぎないことも大切」だと呼びかける。
「いろいろやらなくては、と焦る気持ちもあるでしょうが、生活再建には長い時間がかかります。まずは、体調管理を第一に今できることを、できる範囲でやることを心掛けてください。私たちも、これまで蓄積してきたノウハウを生かしてサポートし続けていきます」
撮影:佐藤 潮
〈プロフィール〉
松山文紀(まつやま・ふみのり)
1972年、静岡県生まれ。震災がつなぐ全国ネットワークの事務局長を6年間務めた後、現在は事業担当責任者となる。防災に関する講演・講座を各地で行うほか、災害ボランティアが活動するために必要な情報収集と発信をするための人材育成も手掛けている。
震災がつなぐ全国ネットワーク 公式サイト(別ウィンドウで開く)
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。