学生ボランティアだからできる支援。被災地ボランティアの意義を探る

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2019年8月佐賀県豪雨で被災した住宅の床下から、油や石灰の混ざった土を取り除く学生ボランティア

取材:日本財団ジャーナル編集部

この記事のPOINT!

  • 学生ボランティアが被災地を訪れ、地域の人と交流を持つことが、被災者を勇気付ける
  • ボランティアは、学生が学校の外に出て社会の抱える課題と向き合う良い機会になる
  • 助けられた人がまた別の人に手を差し伸べる、善意の連鎖が優しい社会へと導く

「今年は、麦や米が豊作の年になるかと思ったのに…」。佐賀県在住の丑嶋(うしじま)さんの目の前には、2019年8月の佐賀豪雨の影響で茶色に枯れた水田が広がる。丑嶋さんが暮らす佐賀県大町は、記録的豪雨によって工場から油が流出し、畑や住宅を襲う深刻な被害を被った。油が染み込んだ畑や水田が回復するにはかなりの時間を要する。農業を営む丑嶋さんの畑にも大量の油が流れ込み、いつになれば作物を育める土に戻るのか分からない状態だ。

そんな畑の用水路や近隣の住宅で、油の染み込んだ土や泥水を懸命に掻き出す学生ボランティアたち。彼らはどのような思いを持って作業にあたっているのだろうか。また彼らの活動が地域の人に与える影響とは?

被災した人の心に寄り添うボランティア

「今日は朝の7時に博多に集まり、2時間かけて佐賀に来ました。作業を始めたのは10時頃。床下に溜まった油の染み込んだ土と石灰を掻き出しています」

7名の学生ボランティアを引率する、青山 聖(あおやま・しょう)さんは、活動内容についてそう語る。普段もNPO活動などで学生たちを引率する機会が多いという彼は、テキパキと次の作業や休憩するタイミングの指示を出している。

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普段はNPOで不登校や引きこもりを含む若者支援を行い、宿泊型のボランティアやワークキャンプ活動を行う青山さん

「水が引いた後、こちらでは行政の指示で土を消毒するための石灰をまいたそうなんですが、実際、石灰に消毒効果があるかどうかは証明されていません。石灰を子どもたちが吸い込めば、呼吸器に悪い影響を与える可能性もあるので、取り除く必要があるのです」

この日の最高気温は30度。クーラーもない作業場はかなりの暑さだが、石灰が舞うため扇風機などはつけられない。石灰を吸い込んだりしないようマスク、ゴーグルの装着も必須だ。学生たちは15分ごとに休憩をとりながら、水分補給をしたり、青山さんが用意した塩分入りのタブレットを飲んだりする。そんな彼らの後ろに見える、地上1.5メートルまで上がり、柱やドアに染み付いた浸水の跡が生々しい。

写真:室内の扉や柱に染み付いた浸水時の水位の跡
室内には浸水時の水位の跡が見てとれる

「水害で畑も家財も全てダメになってしまい、もう疲労感しかありませんでした」

そう、丑嶋さんは被災当時を振り返る。

「3日間避難し、家に戻ると全部めちゃくちゃになっていたんです。特に台所はひどくって家電製品なども床に倒れこんで使えなくなっていましたね」

代々この土地で暮らす丑嶋さんは、災害直後はあまりの被害の大きさに呆然とするばかりだったという。

災害のダメージというのは目に見えるだけのものではない。街を襲う土砂や洪水、不便な避難所生活、これからの暮らしの立て直し…。数えられないほどの負担が一気に被災者を襲う。畑に染み込んだ油と一緒で、表面上は普通に見えていても、どこか深いところで確実に被災者の心に影響を与えるものなのだろう。

「でも、たくさんの学生たちが手伝いに来てくれて、彼らと話をする中で、ずいぶん精神的に楽になれました。自分たちは一人じゃない、支えてくれる人たちがいるんだって感じられたんです」

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丑嶋さん宅前で、土嚢袋を片付ける学生ボランティア

今では、丑嶋さんもボランティアたちと一緒に家財を整理や部屋の掃除などを行えるまで元気を取り戻した。学生ボランティアたちの若い力や「誰かのために何かをしたい」という思いが、被災者を勇気付けたことは間違いない。また、社会的なしがらみの少ない立場で、お年寄りにとっては孫の世代に近い学生たちは、地域の人々にとってもいろいろ話をしやすい存在なのだろう。

家や家財は、経済的な負担は大きいものの修復したり新しい製品を買えば元どおりになる。しかし、心に負った傷は、その人自身がそれを乗り越えようと前に歩み出さない限りは治すことはできない。そんな時に一緒に頑張って、励ましてくれる人がいるのといないのでは大きな違いがある。

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豪雨の影響で油が染み込んで枯れてしまった水田。農産業に与えた影響は計り知れない

ボランティアを通して、学生たちは社会を知り、自分を知る

「今日は朝から廊下の床下に潜り込んで、石灰が混ざった土を掻き出しています」

そう語る北九州市立大学1年生の川相(かわい)さん。ボランティアに参加するのは2回目だという。

「前回は福岡県佐倉市で地域コミュニティをつくる活動に参加していました。今回の現場はとても大変です。でも、将来は土木関係の仕事を通して、復興支援や防災に関わる仕事がしたいので、この現場では、作業の段取りや作業時の安全の確保など学べることが多いですね。来月には、別の学生主体の復興ボランティアに参加する予定なので、学んだことを生かしていきたいです」

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ボランティアを通して、自分の方向性やそのために必要なことを確認できるという川相さん

ゼミの友人に誘われて今回のボランティアに参加したという広島修道大学3年生の沖中(おきなか)さんは、外に土嚢袋を運び出す作業をしている。

「実際に被災地を訪れることで、テレビのニュースでは分からなかった災害の現実を目にすることができました。これまでは、他人事だった災害を自分事として考えられるようになりました」

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広島の大学からボランティアにやってきた沖中さん

「SNSで地元、佐賀の被害状況を知って参加することにしました」と話すのは、佐賀県出身の甲斐(かい)さん。沖中さんと同じゼミに通う広島修道大学3年生だ。今回参加したのは、将来防災関係の仕事に就きたいと考えていたことと、とにかく地元・佐賀県を元気にしたいという思いからだという。

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佐賀県唐津市出身の甲斐さん

学生ボランティアは、彼らにとって社会や社会の抱える課題に向き合う良い機会にもなる。自分の意思で被災地に赴き、そこで暮らす人と言葉を交わすことで「自分事」にできる。そんな経験の中で、自分が何にやりがいを感じるのかといった自身の方向性や、現場で通じる実用的な知識や経験が得られるのかもしれない。

ある研究によると、人は自分の住み慣れた居心地の良い空間(専門用語では「コンフォートゾーン」と呼ぶ)を出ることで成長できるそう。不測の事態への対処法や、これまでなかった視点などが得られることもあるボランティアに参加する価値は大きいのではないだろうか。

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石灰の舞う、狭い床下で作業を行う学生たち

「優しさの連鎖」を生み出すボランティア活動

この現場には、約1カ月前から現場入り、活動を行ってきたベテランボランティアがいる。災害が起こったときに他団体と連携し合いながら活動する技術系災害ボランティアネットワーク「DRT JAPAN」(別ウィンドウで開く)の萬(ばん)さんだ。

「僕がボランティアを始めたきっかけは、2011年の東日本大震災です。宮城県石巻で被災した私は、当時助けられる側でした。あの時受けた大きな恩を返したいし、被災した方に『大丈夫、必ず立ち上がることができますよ』と伝えるためにDRT JAPANで活動をしています」

学生ボランティアの持つ可能性の最たるものは、地元の人々との交流にあると萬さんは言う。

「若くて元気な学生さんたちが来てくれるだけで、街のお年寄りの人たちはうれしいんです。しっかり挨拶してくれる若者が多いので、地元の人も気持ちがいいですよね。それが、被災者の心を動かし、新たに一歩を踏み出すきっかけを与えてくれるんです」

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災害で犠牲になった人々のために何ができるか考え、支援に取り組んでいるという萬さん

自身もボランティアたちの努力により、立ち上がることができたという萬さん。これからも被災地支援や、学生ボランティアのサポートをしていきたいと語る。今回被災した丑嶋さんも「孫たちには、今回学生さんたちからもらったものをいつか返さないといけないよと教えています」と同じようなことを話していた。

人への思いやりが、誰かの行動、さらには生き方までも変えていく。資金的な援助や現場の復旧活動といったハード面でのサポートも大切だが、最後に被災者を救うのはそんな「優しさの連鎖」なのかもしれない。本当に大事なことは、目には見えないものだ。

撮影:十河英三郎

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