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全ては被災者の笑顔のため。災害支援のエキスパート黒澤 司さんが語るボランティアの務め
- 国や自治体では対応しきれない被災者の「助けて」に応えられるのがボランティア
- 災害現場では、保障の薄いプロのボランティアがレスキュー隊を指導するという「ねじれ」が起こりがち
- ボランティアは被災地の人を支えるのが務め。災害現場で使う小型重機もその有効な手段の一つ
取材:日本財団ジャーナル編集部
地震、台風、津波、土砂災害…。日本は世界の中でも自然災害の多い国の一つである。日本列島は4つのプレートにより形成されているため地震・火山活動が活発だ。また、アジアモンスーン地域と呼ばれる気候帯にあるため梅雨や台風の影響をまともに受けやすく、短く急な河川は上流から下流へ一気に水が流れるためいったん雨が降ると急に増水しやすい。近年では温暖化の影響か、災害の頻度と深刻さは、増しつつある。
そんな災害現場で名前を知らない人がいないと言われる災害支援のプロがいる。日本財団職員の黒澤 司(くろさわ・つかさ)さんだ。1995年の阪神・淡路大震災以降、40を超える災害現場で日本財団の災害派遣員として活躍してきた。今回は、そんな黒澤さんに災害現場におけるボランティアのあり方や、課題などについて話を聞いた。
被災者の「助けて」という声に応える。黒澤さんが現場主義を貫く理由
「災害現場とは、特殊なものです。普段生活していて、見知らぬ人から『助けてもらえませんか?』と声を掛けられることなんて、なかなかないですよね。被災地では、それが普通に起こります。屋根の上に車が乗っていたり、歩道が崩れたりすることもしばしば。これまでの常識が通じない世界なのです」
国や自治体が何でも助けてくれると思っている人もいるかもしれないが、それは大きな間違いだと黒澤さんは指摘する。
「例えば、川が溢れてあなたの家の玄関前に水上バイクが流れ着いたとします。国や自治体は、誰の持ち物か分からないものは撤去できません。また、道路の整備などを行うにしても、国や自治体の場合は、調査会社にリサーチを依頼し、業者に見積もりを出してもらい、ゼネコンに頼んで発注しないといけません。カバーできる規模は大きいのですが、どうしても時間がかかってしまうのが国や自治体の支援なのです」
災害発生時は、消防団やレスキュー隊も大きな現場から対処せざるを得ない。そんなときに、「助けて」という個人の声に応えられるのが民間のボランティアなのだ。
「もちろん人命が第一優先ですが、他にも大切なものはたくさんあります。土砂崩れや水害などでめちゃくちゃになってしまった現場を、少しでも元に近い状態に戻すことも非常に重要です。誰でも家の前に車や船が転がっている状況が何日も続くのは耐えられませんよね。どうしても災害のことを思い出してしまうし、ずっと避難生活を強いられることになってしまい、精神的な影響も甚大です」
「そんな時、ボランティアが駆けつけ、家をきれいに片付けてくれたら自分も前に踏み出そうと、前向きな気持ちになれるはずです。それだけボランティアは重要な役割を担っているんです」
災害が起きれば、誰よりも早く現場に駆けつけ、復興支援に当たる。黒澤さんの現場主義は、そういった経験から始まったのだろう。
日本の災害現場には「ねじれ」が起こっている
黒澤さんの周りにも、幾度となく災害現場に赴き、支援を続けるボランティアたちがいる。彼らの一人一人が、小型重機を使った救出作業や、足場の不安定な屋根に登っての作業を行うことができる災害支援のプロだ。実際に現場では、彼らが消防士や自衛隊員に技術を指導することもあるという。そんな専門知識や技能を生かして参加する社会貢献活動を「プロボノ」と呼ぶ。
「僕が懸念しているのは、プロボノとして活動する人たちの負担の重さです。彼らは無償で作業し、けがをした場合の保障も薄く、寝袋で何泊もしながら被災地の復興活動に取り組んでいます。
しかし現場では、そんな彼らが消防団や自衛隊に屋根の登り方をレクチャーすることもあるのです。保障の薄いボランティアが保障のある人たちに現場で指導するというのは、どう考えてもボランティアの負担が大きくなってしまいます」
ドイツでは、そんなボランティアを安全面や経済面で支えるTHW(ドイツ連邦技術支援隊)というNPO機関がある。国から年間200億円ほどの予算を受けて、国内外における災害時のボランティア派遣や、災害時の救援作業に欠かせない重機などを扱うトレーニングも実施している。黒澤さんは、そういったボランティアに対する国や自治体からの手厚い支援や保障が必要だと語る。
「ボランティアは『自発的な行い』という意味で、必ずしも『無償の行為』ということではありません。特に日本は災害の多い国です。それだけ彼らを必要とする現場は多くなるし、同時にプロボノとして活動する人たちの負担も高まります。そのような現状を変えないと、後進を育てることも難しくなってしまうのです」
小型重機はあくまでも手段。大事なのは「人に寄り添う姿勢」
「私は2016年の熊本大震災をきっかけに何度かボランティアに参加していますが、いつも災害現場へ行くとクロさん(黒澤さんの愛称)に会いますね」
そう話すのは、佐賀県出身で小型重機の免許を持つ、技術系災害ボランティアネットワーク「DRT JAPAN」(別ウィンドウで開く)の江島花奈(えじま・かな)さんだ。
「災害現場での小型重機の必要性は大きいです。小型重機が一つあるだけで、大きな障害物を撤去したり、屋根を支えて中の人を救出したりと、できることの幅が格段に広がりますからね。何か起こった時に扱えればと思って免許を取りました。でも、現場のクロさんの言葉で最も印象に残っているのは『技術は被災者に寄り添うためのもの』という言葉です」
その言葉の意味について黒澤さんに尋ねると、「建設現場では、重機担当はほとんど機械から降りません。ですが被災地では、小型重機はあくまでも被災者を助ける手段の一つでしかありません。重要なのはむしろ、乗り降りが面倒でも、どれだけそこから降りて被災者の方の手助けができるかということなんです」と、語気を強めて言う。
「最後に家の中に閉じ込められた人を助け出し、大切なものを取り出すのは人の手ですからね」
現場では、被災者との対話を大切にしているという黒澤さん。よそ者がボランティアとして介入することで、被災者の人たちも知り合いには言えない胸の内を吐露できるという。
「その土地のことを知らないよそ者や、高齢者にとっては自分の孫の齢に近い若者が来ることで、しがらみなく悩みを打ち明けられたり、明るい挨拶に励まされたりすると思うのです。そうすることで、被災した人たちの気持ちが少しでも明るくなればと思って活動しています」
「助けて」という被災者の声に応えたい。そして、少しでも早く笑顔にしたい。今回のインタビューからは「被災した人をいかにみんなで支えていくか」という黒澤さんの思いがひしひしと伝わってきた。
2007年からは、消防士などを対象に各地で災害時における小型重機の扱いについて講習も行っている黒澤さん。被災者に向けた黒澤さんの思いも、参加者たちにしっかりと受け継がれていることだろう。
撮影:十河英三郎
〈プロフィール〉
黒澤 司(くろさわ・つかさ)
日本財団災害支援チーム・シニアオフィサー 。1989年に日本財団に入職し、福祉、伝統文化、環境保全などの公益法人・NPO団体・ボランティア団体の立ち上げや活動を支援。1995年に起きた阪神・淡路大震災をきっかけに、災害現場の第一線で復興支援に取り組む。2008年に一度日本財団を退職するも、2011年の東日本大震災から復職。技術系災害ボランティアネットワーク「DRT-JAPAN」主宰、NPO法人国際ボランティア学生協会(IVUSA)特別顧問なども務める。
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