甚大な被害をもたらした台風19号。日本財団災害対策チームが大切にする支援の視点

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台風19号の被災地で復興活動に取り組むボランティアたち

取材:日本財団ジャーナル編集部

この記事のPOINT!

  • 公的資金以外で調達された学校等の教材は、被災しても公的支援が受けられない
  • 地元の生徒・学生が自ら街の復旧・復興に関わることが被災地全体に希望や勇気を生み出す
  • 災害からの復興には、地域同士やボランティア団体、被災経験者などのネットワークが重要

2019年10月12日から13日にかけて東海・関東・甲信越・東北地方を襲った台風19号は、各地に甚大な被害をもたらした。災害発生直後の10月15日に、日本財団は「台風19号 緊急支援策」(別ウィンドウで開く)を打ち出し、さらに「新しい地図」の稲垣吾郎、草なぎ剛、香取慎吾らと共に災害復興支援特別基金「ななにー基金」(別ウィンドウで開く)を設立。大きな話題を集めた。

日本財団が実施する「台風19号 緊急支援策」は、国や自治体による公的支援ではカバーできない復興課題と向き合い、より災害に強い街づくりを目指すものだ。そのためにはどのような取り組みが必要なのか、日本財団災害対策チームの藤重香弥子(ふじしげ・かやこ)さんに話を伺った。

想像をはるかに超えた台風19号の被害

「今回の台風で被害を受けたのは一般の家屋や事業所だけではありません。子どもたちが通う幼稚園や学校などの多くが浸水し、ひどい状況に…。本当に胸が痛くなる光景でした」

そう、沈痛な面持ちで藤重さんは切り出した。彼女が取りまとめる全国から日本財団に寄せられた支援要請には、各地の被災状況の詳細と共に被災写真も添えられている。

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台風19号の緊急支援策に取り組む藤重香弥子さん。写真:新澤 遥

「台風19号の被害は、各地の河川で堤防が決壊したことから大変な規模になっています。さまざまな災害現場で活躍してきた歴戦のボランティア団体の方たちも、『被災地の範囲が広すぎて、どこの支援に入れば良いのか…』と途方にくれるほどでした」

藤重さん自身も、現地の自治体と支援の調整を行うため、栃木県・宮城県・福島県などを回った。想像を超える被災現場を目の当たりにし、さまざまな課題が浮上したという。

「昨年の西日本豪雨では、夏という時期もあり食中毒の心配がありましたが、今回は『寒さ対策』が問題になるでしょう。特に寒い地域では雪が心配ですね。一見落ち着いたように見えても、まだまだ危険な状態のエリアがたくさんあります」

「例えば床上浸水した家屋は、見た目は元の状態に戻っていたとしても、壁や床などの断熱材がしっかり乾き切っていないことが多いのです。そのままにしておくと後からカビが発生するなどの健康被害をもたらし、また断熱材が凍結すれば復旧作業の妨げにもなります。今回の災害では自宅で被災生活を送る方も多く、本格的な冬が訪れる前にいかに早く安心して暮らせる環境に戻せるかが、大きな課題です」

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台風19号による河川決壊で大きな被害に見舞われた長野県長野市

日本財団が新たに取り組む緊急支援策

アスリートによる社会貢献活動を促進するプロジェクト 「HEROs Sportsmanship for the future」(別ウィンドウで開く)のアンバサダーによる復旧活動や学生ボランティアの派遣など、さまざまな被災地支援を行ってきた日本財団。台風19号の緊急支援策においては、「教育環境整備への支援」「地元学生、生徒のボランティア参加への支援」を決定した。

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台風19号で被害を受けた栃木県鹿沼市粟野地域で復旧活動を行ったアスリートたち

「日本財団の中心となる取り組みの一つに『未来を担う子どもたちのサポート』があります。それを軸とした時に、子どもたちが集まる場所、つまり各地で被災した保育園や幼稚園、学校への支援が必要だと考えました。図書や体育用具、楽器といった教材には、卒業生による寄付やPTAによる購入など公的資金以外の手段で調達されたものが少なくなく、被災しても公的な支援が受けられないのです。そこで日本財団は、今回初めてそのような教材を緊急的に整備するための支援を決定しました」

この「教育環境整備への支援」は2019年11月8日に始まり、すでに多くの問い合わせがあった。藤重さんも、被災地の大人たちの「子どもたちのために、一刻も早く日常を取り戻してあげたい」という思いをひしひしと感じているそうだ。

「『地元学生、生徒のボランティア参加への支援』については、地元の生徒・学生が自ら街の復旧・復興に積極的に関わることが被災地全体に希望や勇気を生み出すことになると考え、その活動に対し奨励金による支援を行うことにしました。安全面も考慮し、学校単位で受け付けています」

この支援策は被災地の周辺地域で暮らす学生の参加を想定したものである。

「甚大な被害に見舞われた被災地の学生さんは、ボランティアどころではないでしょう。そんな時、土地勘もあり、『助けたい』と思える知り合いがいて、すぐ現場に駆けつけられる周辺地域の学生さんたちは、被災地復興の大きな力になると思うのです」

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平成30年7月豪雨災害時に、日本財団が運営する学生ボランティアセンター「Gakuvo」(別ウィンドウで開く)から派遣された学生たち

増え続ける自然災害。「初動」と「中・長期対応」で必要な視点

災害復興は、命を救うための「初動」フェーズと、被災した街を復興させていく「中・長期的」な支援が必要になる。藤重さんはそれぞれの段階で、どのような視点を大切にしているのだろうか。

「初動については、現場状況の見極めや、専門技術・知識を有するプロのボランティア(プロボノ)の人たちが現地で集める情報が頼りです。次の段階は被災地を横並びに見て、必要な支援の見極めや支援が不足している地域のサポートを行います。ここではバランス感覚が大切になってきます」

一方、中・長期の被災地支援では「長期にわたる街づくり」の視点が必要になるという。どんな街にしていきたいかを考える「グランドデザイン」が重要だと藤重さんは語る。

「中・長期の支援では『build back better』、つまり被災地域を被災する前よりも良い状態に復興することを検討していくのが近年のスタンダードです。そのような視点は、被災直後の混乱状態ではなかなか持てませんが、それでもなるべく早い段階で検討し始めることが、より災害に強い街をつくるために大切なことだと思います」

日本財団が目指す、災害に強い街づくり

最後に、日本財団が目指す災害に強い街づくりについて聞いた。そこで強調されたのは、「被災を経験した人たちのネットワークをつくること」だった。

「日本財団が被災地を直接支援するのには限界があるため、やはりNPOといった『支援する人たち』を支援することを重視するスタンスは変わりません」

「また、今回取り組んでいる教育環境の整備など、民間だからこそできる支援にも力を入れていきたいと考えています。あともう一つ大切にしていることは、全国のボランティア団体の方たちとの連携です。特に自らも被災経験を持つ方たちは、被災地支援に役立つ貴重な情報をお持ちです。そのような方たちと連携し、みんなで支え合うネットワークづくりに取り組んでいきたいと考えています」

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被災地でボランティアをする人々。被災経験を持つ人の知識や行動が被災地支援に役立つ

藤重さんの話に「受援力(じゅえんりょく)」という言葉があった。これは地域が持つ「支援を受け入れる力」のことを指す。その力が強い地域は外部からの支援を柔軟に受け入れ、早期復興が果たしやすく、力の弱い地域は復興も遅れがちになるという。

自然災害の多い日本はどこでも被災地となりうる。だからこそ、この国土に住む私たちには、いつでも助け合う心構えと連携の仕組みが大切なのではないだろうか。

〈プロフィール〉

藤重香弥子(ふじしげ・かやこ)

日本財団経営企画広報部・災害対策チーム。NTTグループ勤務後、笹川平和財団・海洋研究調査部を経て、2018年に日本財団へ。2018年6月より現職に。日本財団が取り組む災害支援に携わる。

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