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台風接近!とるべき行動は?気象予報士・斉田季実治さん、気象防災アドバイザー・尾崎里奈さんに聞く

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日本列島に接近する巨大な台風
この記事のPOINT!
  • 台風は、「暴風」「波浪」「高潮」「大雨」「洪水」といった5つの被害をもたらす
  • 暮らす地域によって被害リスクが異なるため、ハザードマップなどで調べておくことが重要
  • 台風は事前に備えることができる災害。情報収集と迅速な判断、対処を心がける

取材:日本財団ジャーナル編集部

夏から秋にかけて多発する台風。近年ではこれまでにない強さの台風が接近・上陸する事例が多発し、2019年9月に千葉県を襲った「令和元年房総半島台風(台風15号)」や、同年10月に東海と関東、甲信越、東北地方という広範囲に大きな被害をもたらした「令和元年東日本台風(台風19号)」は記憶に新しい。

そんな台風から命や暮らしを守るためにできることとは?

気象予報士としてNHKなどで活躍する斉田季実治(さいた・きみはる)さんと、気象防災アドバイザーの尾崎里奈(おざき・りな)さんに、台風の危険性とその対処法についてアドバイスをいただいた。

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台風対策について教えてくれた、気象予報士の斉田さん(左)、気象防災アドバイザーの尾崎さん

※この記事の動画をYouTube日本財団公式チャンネル(外部リンク)でも視聴できます

台風とその被害について知る

毎年のように発生する台風。まずは、その正体について理解しよう。

そもそも台風とは

「台風とは最大風速が毎秒17.2メートル以上の熱帯低気圧のことを指します。台風の解説でよく聞く、ヘクトパスカルというのは気圧のこと。数字が小さく、気圧が低くなるほど、周りから空気が勢いよく流れこみやすくなるため、中心気圧の低い台風ほど風が強くなり、危険ということになります」

気象予報士の斉田さんは、台風は「大きさ」と「強さ」で呼び方が変わると言う。

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台風の種類について話す斉田さん

「まず大きさですが、風速15メートル以上の『強風域』の半径によって分類され、500キロメートル以上800キロメートル未満の台風を『大型』、それ以上の台風を『超大型』と呼びます。次に強さは、中心付近の『最大風速』(10分間平均風速の最大値)によって分類され、特につけない場合と『強い』『非常に強い』『猛烈な』の4段階に分かれます。この大きさと強さを合わせて『非常に強い大型の台風◯◯号が〜』という呼び方をします」

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[大きさ階級分け]
・階級/大型(大きい)。風速15m以上の半径/500km以上〜800km未満
・階級/超大型(非常に大きい)。風速15メートル以上の半径/800km以上
[強さの階級分け]
・階級/強い。最大風速/33m(64ノット)以上〜44m(85ノット)未満。
・階級/非常に強い。最大風速/44m(85ノット)以上〜54m(105ノット)未満。
・階級/猛烈な。最大風速/54m(105ノット)以上。
台風の分類をまとめた図

意外と知っているようで知らない台風。その台風がもたらす被害にもさまざまなものがある。

台風がもたらす5つの被害

台風によって出る警報というのは、「暴風」「波浪(はろう)」「高潮」「大雨」「洪水」の5つがある。

「『暴風』は風による倒木や建物の被害、『大雨』は浸水や土砂災害、『洪水』は河川の氾濫といったようにイメージしやすいかと思いますが、『高潮』『波浪』は聞いたことあるけど実はよく知らないという方も多いと思います」

写真:左上から時計回りで「高波の付近の道路を走る車」「浸水した家」「街の中での倒れた木」「土砂崩れした山の道路」
 高波、浸水、土砂災害、倒木などの被害をもたらす台風

「高潮」は、台風や発達した低気圧が近づくと、風などにより波が高くなると同時に、海面の水位も上昇する現象だ。

波の一種ではあるが、周期が数時間と非常に長いため、海の水位が全体的に上昇するようになる。海水のボリュームがとても大きいため、一旦浸水が始まると低地には浸水被害が一気に広がってしまう。

「1959年、『伊勢湾台風』の時には、高潮による大水害が発生し5,000人を超える犠牲者が出ました。海沿いに住んでいる方は高潮警報が出たら、ただちに海から離れ、高台に避難するように心がけましょう」

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低地に浸水被害をもたらす高潮
写真:伊勢湾台風の時の復旧作業の様子
1959年9月26日に紀伊半島先端に上陸した『伊勢湾台風(台風15号)』は、台風災害としては明治以降最多の死者・行方不明者数5,098名に及ぶ被害をもたらした

「波」を指す漢字を含む「波浪」。これは、その場所で吹いている風によってつくられる「風浪(ふうろう)」と呼ばれる波と、遠くの台風などによってつくられた波が伝わってきた波長の長い「うねり」の2つの波を組み合わせた言葉だ。

波浪警報が出ている場合は、海に近づいたり、船で沖へ出ることはやめよう。

「激しい雨と風だけでなく、海のシケや川の氾濫、土砂崩れや停電など、さまざまな災害を引き起こすのが台風です。予測技術は年々向上し、『伊勢湾台風』のような大きな被害は出なくなりましたが、2019年に発生した『令和元年東日本台風(19号)』では、90名(※)の方が亡くなられています。油断はできません」

  • 数字は速報値で今後も変わることがある
写真:高波の付近の道路を走る車
波浪警報は、高波による遭難や沿岸施設の被害など、災害が発生する恐れがあると予想したときに発表される

台風進路予想図の正しい見方で、災害に備える

テレビの天気予報でもよく目にする台風の進路予想図。その正しい見方を理解できれば、自分の暮らす場所の危険度も予想することができる。

「進路予想図に描かれているのが台風の予報円。およそ70パーセントの確率で台風の中心がこの円の中を移動します。円が大きいときは、進路がまだ定まっていないことを表します」

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『台風19号(9日3時現在)]
・大きさ/大型
・強さ/猛烈な
・方向・速さ/北西20km/h
・中心気圧/915hPa
・最大風速/55m/s
・最大瞬間風速/75m/s
「令和元年東日本台風(19号)」の上陸3日前の台風進路予想図
  • 現在の中心位置:観測時刻での台風の中心位置(この図では9日3時現在)
  • 暴風域(赤い円):台風の暴風域。平均風速25メートル以上の暴風になっていると考えられるエリア
  • 強風域(黄色い円):台風の強風域。平均風速15メートル以上の強風になっていると考えられるエリア
  • 予報円(白い円):例えばこの図では、13日3時に台風が関東付近を北上し、予報円の西側のコースを通れば上陸すると予想される
  • 暴風警戒域(予報円を囲む白い枠):台風の中心が予報円内に進んだ場合に、暴風域に入る可能性のある範囲

風速15メートル以上となる強風域では、風に向かって歩くことが難しくなるぐらいの風が吹くため、高所での作業は非常に危険となる。また、風速25メートル以上となる暴風域では、樹木が倒れたり、看板が落ちたりする恐れがあるため、屋外には出ないようにしたい。

ただし、台風は必ずしも予報円どおりに進むわけではないので、上陸の恐れがある場合はこまめなチェックを心がけよう。

台風がもたらす災害対策

台風の防災対策について教えてくれるのは、気象防災アドバイザーの尾崎さん。「強風」「大雨」「高潮」「波浪」への対処法を見ていこう。

事前準備の大切さを語る尾崎さん

「強風」の対処法

強風への対処法は「屋外」「車の運転中」「室内」の3つの場面に分けて紹介してくれた。

「まずは、屋外での歩行中。強風にあおられて転倒する事故が起こる可能性が高まるので、リュックなどを使い両手を自由にしておく方がいいでしょう。傘は飛ばされることもあるので、レインウェアが安全です。次に車の運転中。強い横風で横転する危険があります。特に橋の上やトンネルの出口付近では、速度を落として慎重に運転しましょう。最後に室内。雨戸や窓に鍵をかけてカーテンやブラインドも閉め、窓から離れた場所で過ごすのが安全です」

「大雨」の対処法

大雨の災害は、「土砂災害」と「浸水害」の2つのパターンに大きく分かれると尾崎さんは話す。

「斜面崩壊や地滑り、土石流といった土砂災害は前触れもなく急に起こり、一瞬で命を落とします。しかし、その場から離れるだけで、危険度は小さくなります。大雨のときは“早めに”土砂災害の危険地域の外へ出ることが肝心。余裕をもった『水平移動』によって命は守れます」

土砂崩れによって崩壊した道路

「浸水害」は、河川の氾濫や用水路、下水溝などの氾濫によって、住宅や田畑が水に浸かる被害のことを言う。

「浸水害は土砂災害と違って急に起こるケースは少なく、事前に危険を知ることができます。地下施設などの場合、わずかな水深でも水圧でドアが開かなくなり、閉じ込められることがあるため、少しでも早く地上階へ移動する必要があります。また、地上でも川の氾濫などにより浸水害が始まった場合は、くるぶしほどの深さでも流れがあると歩いて避難することが難しくなります。無理をせずに2階以上の高い場所へ移動しましょう。浸水害は、『垂直移動』によって命の危険を回避できる可能性が高まります」

まずは事前に、自宅や職場でどんな災害が起こりやすいかをハザードマップ(外部リンク)などで調べて備えておくことが重要だと話す。

ハザードマップポータルサイト~身のまわりの災害リスクを調べる~
・重ねるハザードマップ~災害リスク情報などを地図に重ねて表示~
洪水・土砂災害・高潮・津波のリスク情報、道路防災情報、土地の特徴・成り立ちなどを地図や写真に自由に重ねて表示できます。
・わがまちハザードマップ~地域のハザードマップを入手する~
各市町村が作成したハザードマップへリンクします。地域ごとの様々な種類のハザードマップを閲覧できます。
国土交通省が運営する「ハザードマップポータルサイト」

「高潮」「波浪」の対処法

「高潮」は情報を集めることで、危険な時間帯をある程度特定できると尾崎さんは言う。

「まず『潮回り』と『満潮時刻』をネットなどで調べるようにしてください。潮回りが大潮、かつ満潮の時間帯に、台風の接近による気圧低下と、強風が重なったときに高潮が発生しやすくなります。海岸や河口付近には絶対に近づかないようにしてください」

台風が離れていても、過ぎ去った後でも起こりうるのが「波浪」だ。

「一番長い間、対策を続ける必要があるのが波浪です。波というのは一定ではなく、高い波、低い波が入り混じっている中で、1,000個に1個程度の割合で、非常に高い波が押し寄せます。これを『一発大波』というのですが、概ね2~3時間に1回程度起こります。見た目であまり波が高くないと思っても危険なので、台風が近づく数日前から、過ぎ去っても数日間は、海のレジャーは控えた方がいいでしょう」

日頃の備えが運命を分ける

台風は、過ぎ去った後も「断水」や「停電」が長引くことがある。

「断水に備える方法として浴槽に水をためておく(生活用水に使用するため)、水のペットボトルを購入するなどが有効です。停電には、懐中時計などを常備しておくことに加え、最近スマートフォンは、安否確認や情報を手に入れるのに必須となっています。携帯バッテリーを停電前にしっかりと充電しておきましょう」

もしものときの備えと、テレビやラジオ、インターネットから情報を仕入れることで、被害を防ぐことができる台風。油断をせずに、いち早く準備、対処、避難できるように心がけよう。

素材提供:
tenki.jp(外部リンク)
気象庁(外部リンク)
ウェザーニュース(外部リンク)

台風接近!とるべき行動は?気象予報士・斉田季実治さん、気象防災アドバイザー・尾崎里奈さんに聞く

大雨をもたらす「線状降水帯」。気象予報士・斉田季実治さん、気象防災アドバイザー・尾崎里奈さんに聞く災害リスクと対処法

〈プロフィール〉

斉田季実治(さいた・きみはる)

気象予報士。北海道大学で海洋気象学を専攻し、在学中に気象予報士の資格を取得。報道記者として、自然災害の現場を数多く取材した経験から、被害を伝えるだけでなく、未然に防ぎたいとの想いを持ち、気象の専門家の道へ。民間企業で経験を積み、2006年からNHKの気象キャスターに。現在は「ニュースウオッチ9」に出演中。2018年には株式会社ヒンメル・コンサルティングを設立、代表取締役を務める。著書に、『新・いのちを守る気象情報』(NHK出版新書)、『知識ゼロからの異常気象入門』(幻冬舎)などがある。
ヒンメル・コンサルティング 公式サイト(外部リンク)

尾崎里奈(おざき・りな)

気象予報士、気象防災アドバイザー。大学を卒業後、フリーキャスターとして活動しながら、気象予報士の資格を取得。気象キャスターとして、多くのテレビやラジオ番組に出演してきた。現在は、3つの民間気象会社が新しい気象サービスを展開するために結成したチーム「Team SABOTEN」に所属しながら、より専門的な気象解説を目指し、気象動画作成や局地予測業務、ニュース記事の作成、講演活動、教育活動を行っている。
Team SABOTEN 公式サイト(外部リンク)

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