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自己肯定感を育み、負のサイクルから抜け出す居場所。沖縄B拠点レポート 後編

写真:草むらで虫取りをして遊ぶ子どもたち
自然に恵まれた沖縄。うっそうと茂った草をかきわけて、虫取りに行こう!
この記事のPOINT!
  • 沖縄県は、困難を抱える家庭が多く、負の連鎖も起きている
  • コロナ禍で、不登校の増加、非常時の居場所の継続など、新たな課題も生まれた
  • 「子ども第三の居場所」沖縄県内のB拠点では、子どもの希望を尊重し、自立を促している

取材:なかのかおり

新型コロナウイルスの「第5波」により、各地の学校でも夏休みの延長や、分散登校、オンライン授業が行われ、子育て家庭にとって不安定な日々が続いている。

日本財団は、多様な困難を抱える子どもたちが安心して過ごせ、将来の自立に向けて生き抜く力を育む「子ども第三の居場所」(外部リンク)プロジェクトを全国で進めている。その中の1つ、沖縄県内のB拠点は、沖縄の特殊な事情を踏まえ、子どもの自主性を尊重したサポートに特徴がある。

B拠点のレポート後編は、子どもの「やりたい!」を実現し、自己肯定感を育てる日常について紹介する。

負の連鎖を断ち切る「子ども支援」を徹底

学童保育の仕事や、コミュニティづくりの経験も豊かな田中さん(仮名)は、沖縄県にある「子ども第三の居場所」B拠点の中心スタッフだ。拠点で目指してきたことについて、こう語る。

「ここでは、子育て支援や保護者の支援というよりは、子どもの支援を徹底しています。進学率が低い、困難を抱える家庭が多いといった沖縄の文化も含め、凝り固まった考えの親を変えるのは、時間がかかると思います。

子どもの自立を阻み、負の連鎖を断ち切れない状況が当たり前だと思っていて、その部分にメスを入れると、保護者と信頼関係が築けない。でも、子どもたちは10年後には、社会に出ます。支援が届けば、子どもはこのサイクルから抜けられるかもしれないという考えです」

田中さんは、「生きる意欲」が持てない子どもに出会ってきた。

「子どもが子どもでいられる居場所が、必要です。当たり前を担保できるようにしたいです。夜寝るときに、明日は何して遊ぼうかなとか、今日はご飯をいっぱい食べたなとか、そんな当たり前のことが思えるように。学校に行けてなくても、勉強ができなくても、ここにいていい。将来こうなりたいと思い描ければ、学力も上がってきます」

写真:海岸で遊ぶライフジャケットを着用した子ども
B拠点には、子どもたちのライフジャケットも用意されている。海遊びも沖縄ならではの楽しみだ

「どうせ」が口癖の子どもたち

B拠点は、広くて外遊びも伸び伸びできる。ライフジャケットや、SUPボードも用意されていて、海へ行って遊ぶ日もあるという。

恵まれた環境があるだけでなく、スタッフが子どもたちの声をよく聞くようにしている。

「子どもがポロッとやりたいと言ったことは、徹底的にやれるか検証します。全てスタッフが提供するのではなく、子どもたちも考えます。失敗してもチャレンジしたことに価値がある。

拠点に通う子どもの多くは、自己肯定感が育たないまま成長しています。家庭環境により諦めざるを得ない経験が多く、『どうせ』が口癖になっている子もいます」

スタッフがまず楽しむ

小さいことでもいいから、成功体験をしてほしいと、スタッフは黒子になり、時間をかけて準備する。

「選択肢を用意し、決めるのは子どもたち。食べたいものを食べたことがない子に聞いても、希望が上がってこないからです。

例えば、泥だんごを作ろうという企画をしました。ミーティングしたりプランを立てたり、子どもと一緒に企画を作ります。

そこで大事なのは、スタッフ自身が楽しむことです。泥だんご作りに、2人のスタッフがはまってしまい、残ってずっとやっていました。それを見た子たちが、そんなに面白いならやってみよう、と入ってきました。

スタッフがベーゴマに負けたら、本気で悔しがる。1人が踊り出したら、会場全体が踊り出すようなもので、巻き込んでいくということです」

写真:
海にシャボン玉。沖縄の美しい風景を、子どもたちの幸せな記憶にしてほしいと願う

企画書で気持ちを伝えられる

子ども自身で「企画書」を書く取り組みもしているそうで、興味深い。

「文字にすると、やりたい、できるを可視化できます。ニワトリを飼いたいという話が出ていたので、企画書を書いてごらんと言って、子どもたちに書かせてみました。

学校に行っていない子は、文字が苦手で、どうするかなと思っていたら、得意な子を連れてきて、筆記してもらって。その様子を見て、天才だと思いました。得意・不得意を考えて、できる人に頼むって、すごいアイデアです。

企画書を書きながらチームを作って、なぜ飼いたいか、予算やプロセスを考え、ニワトリを飼うために、どんなところに注意する必要があるかを、養鶏場へ学びに行きました。訪問の約束も、子どもたち主体でして、自分たちの名刺も作りました。お店で餌がいくらか聞いたり、メールを打ってみたり。バックヤードでスタッフがかなり動いていると分かった子もいます。コロナ禍で中断していますが、とても良い試みです」

現在は、企画書にはこだわっていないものの、子どもたちに「なんで」と聞くと説明できたり、プレゼンが上手になって気持ちを整理できるようになったり、文字にするのはとてもいいことだと田中さんは思っている。

「そういう企画を通して、挨拶も必要だよね、口に出せないと伝わらないよねと実感が湧きます。集団行動が苦手で、就職せずに起業したいと言う子もいます。起業するにしても、やりたいことをやるには、できる方法を模索し、大人を説得しなければなりません。この過程は、社会に出た時に、必ず役立ちます」

写真:手作りパンケーキ
おやつ作りも、みんなの楽しみの一つだ

諦めざるを得なかった子をはじかない

田中さんが事務所でパソコン作業をしていると、「聞いてー」と子どもが来ることもある。田中さんはパソコンに向かっているので、子どもは面と向かって話さなくていいから話しやすい。けんかした後、クールダウンの場所にもなっている。

オンライン取材中にも、「コード貸して」とか、「作ったお菓子を持ってきたよ」とか、子どもたちのにぎやかな声が聞こえた。こうしたリラックスした関係を築くのに、さまざまな努力があったのだろう。

時には、ルールを守らない子がいても、田中さんは受け止めてきた。

「初年度の夏休みは、地元のプロスポーツチームから招待を受け、それに行く前に、宿題を終わらせる約束でした。ですが、ある子ができていませんでした。若いスタッフは、約束なので連れて行けないと言います。

ルールだから守らないとはじかれる、では窮屈で、周りのみんなにとっても辛い。私はごめんだけど、と言って頭を下げ、彼を連れて行きました。すると、他に何か課題があるときに、私のわがままでこういうことがあったから、今度は協力するね、誰でも失敗はある、というプラスのサイクルにつながります。

ここには、社会から排除され、諦めざるを得ない子が来ているなら、そうじゃない体験を保証してあげるべきだと思いました。彼の隣に座って、一緒に試合を見ました。反省していないし、ありがとうもない。でも彼は、会場の雰囲気を味わえました。

彼は不登校で、やんちゃなところもあったけれど、それからずいぶん変わりました。今はリーダー的存在になり、半分スタッフみたいな関係性に変わって、彼に助けられています」

写真:海岸に面した道を歩く子どもたち
気軽に海へ。都会の子から見たら、うらやましい過ごし方だ

子どもの元気、親に伝わる

DVを経験した女子は、人間不信で、男性が話しかけても、目を合わせてくれないこともあった。

「学校や行政も困って、ここにつながったんですね。わがままが言えるって素敵なことだと思います。自己主張して、わがままを言えるようになった子を見るとうれしいです。

お茶を出してくれる子、気を使う子って、偉いねって言われるけれど、本当はDVの影響を受けて異様に気を使うようになっている。わがままが言えたり、『お母さんが殴られて血が出てた、悲しくなった』とぽろっと伝えたりできる環境をつくりたいです」

子どもが元気になれば、親も変わる。

「あるお母さんは、ニコニコした子どもの表情を見て、感激していました。自分が病気のため治療していて、子どもに不自由させているけれど、生きる糧は子どもなんですという。

子どもたちの写真をLINEで見せると、『キラキラの笑顔のわが子を久々に見た』と、励みになるようです。そうしてお母さんも変わり、就労につながることもあります」

写真
子どもたちに大人気のオキナワキノボリトカゲ。生き物との出会いも大事な体験だ

コロナ対策も…歩み止めない

B拠点で過ごす子どもは、普段はおよそ20人。夏休み中は緊急事態宣言中でもあり、ニーズの高い層を中心に、交代で来ていた。週1〜2回だけ来る子もいる。夏休みならではの企画も少しはあったらと、近場に出かけたり、庭でバーベキューをしたりした。

9月はコロナ変異株の流行に伴い、再び休校になり、いっそう子どもと向き合うことが求められている。

「スタッフを2チームに分け、バックヤードと保育とに分けています。もしスタッフからコロナの陽性が出ても、運営していけるようにです。

アウトリーチにも力を入れ、オンラインでしりとりをしたり、食事を届けに行ったりしています。週1回は子どもがここに来て、その間にお母さんがゆっくり休むこともできる。ネグレクトや自傷行為をしてしまう親もいますから、そうした時間が必要です」

コロナの影響で、拠点が閉まってしまうのが一番つらいという田中さん。

「今、小学生の感染も増えています。これまでに、スタッフが濃厚接触者になったケースはありました。ひとり親で保護者がかかったケースもあります。入院できず、子どもはPCR検査が受けられない。働けなくて生活費がなくなって…。支援を受け何とか生き延びました。

疾患がある保護者で、子どもがコロナを持ち帰ったらどうしようと恐れる家庭もあります。家庭に困難がある子どもにとっては、この居場所が止まってしまうことが一番のリスク。スタッフは、それぞれの家庭のリスクを改めて洗い出しています」

写真
夏休みには庭でバーベキューをした。イベント感があって、子どもの笑顔が浮かぶ

スタッフのワクチン接種は、9月以降にやっとスタートするという。感染が拡大し、緊張が高まる中、田中さんは「つながりは切らさない」と決意している。

「子どもの感染が増えたのは、検査数が増えたことも関係しているでしょうか。学校で出ると、全員が検査を受けることになっています。保育園でもクラスターが発生しています。

拠点に来られなくても、訪問して食料を届けつつ、1日2回は顔を合わせて家庭の変化を感じられるようにします。万が一、居場所の現場を閉めたり、縮小したとしても、アウトリーチは続けようと話しています」

写真提供: 子ども第三の居場所B拠点

低い進学率や不登校――困難抱える沖縄、小学生から未来を見据えた支援を。B拠点レポート 前編

自己肯定感を育み、負のサイクルから抜け出す居場所。沖縄B拠点レポート 後編

〈プロフィール〉

なかのかおり

ジャーナリスト、早稲田大参加のデザイン研究所招聘研究員。早大大学院社会科学研究科修了。新聞社に20年余り勤め、地方支局や雑誌編集部を経て、主に生活・医療・労働の取材を担当。著書に、パラリンピック開会式にも出演したダウン症のあるダンサーを追ったノンフィクション『ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦』(ラグーナ出版)。調査報告書に『ルポ コロナ休校ショック〜2020年、子供の暮らしと学びの変化・その支援活動を取材して見えた私たちに必要なこと』『社会貢献活動における新しいメディアの役割』など。講談社現代ビジネス・日経電子版・ハフポスト等に寄稿している。

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