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【10代の性と妊娠】「もっと早く知りたかった」働く女性の声から生まれた、日本医療政策機構の「包括的」性教育プログラム

写真:日本医療政策機構のロゴを手に持ち笑顔を向ける今村優子さん
日本医療政策機構でマネージャーを務める今村優子さん。同機構のロゴは、「永遠の命」を象徴表現する「Tree of Life(生命の木)」をコンセプトにデザインされている
この記事のPOINT!
  • 先進国の中で最も遅れていると言われる日本の性教育が「予期せぬ妊娠」増加の一因に
  • 妊娠や出産が自分事になる機会が増える大学生には、性教育を包括的に学べる機会が必要
  • 若者が性と健康に関する情報や必要な医療にアクセスしやすいプラットフォームをつくる

取材:日本財団ジャーナル編集部

いま日本では、「予期せぬ妊娠」による10代女性からの相談が増えている。その背景には日本の性教育の遅れがあると言われている。

医療分野における政策提言に加え、リプロダクティブヘルス&ライツ(性と生殖に関する健康と権利※)の推進に取り組む特定非営利活動法人日本医療政策機構(外部リンク)では、日本財団による支援のもと、2019年に大学生を対象に性と健康について包括的に学べる教育プログラムを構築。助産師など専門家による講義を通して、妊娠や出産をはじめ、ライフプランを見据えた「性教育」が受けられる機会を提供している。

  • 「リプロダクティブヘルス」とは、人間の生殖システムおよびその機能と活動過程の全ての側面において、単に疾病、障害がないというばかりでなく、身体的、精神的、社会的に完全に良好な状態にあること。また、「リプロダクティブライツ」は、全てのカップルと個人が、自分たちの子どもの数、出産間隔、出産する時期を自由にかつ責任をもって決定でき、そのための情報と手段を得ることができるという基本的権利、ならびに最高水準の性に関する健康およびリプロダクティブヘルスを享受する権利のこと

今回は同機構のマネージャーで、助産師でもある今村優子(いまむら・ゆうこ)さんに、日本の性教育の実情やリプロダクティブヘルス&ライツの取り組みについてお話を聞いた。

日本は性教育後進国

他の先進国に比べて日本の性教育は最も遅れていると言われている。

国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)が発行する、国際的な性教育の指針となっている「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」では、レベル1(5〜8歳)で妊娠の仕組みを、レベル2(9〜12歳)で性行為や避妊方法について教えることを推奨している。

しかし、文部科学省の学習指導要領には、妊娠について「受精・妊娠を取り扱うものとし、妊娠の経過は取り扱わないものとする」と記載。つまり、排卵や受精の仕組みは学校で教えてくれるが、性交や避妊方法については触れられない。

その結果、10代で妊娠を経験する女性の多くは、どのような行為をすれば妊娠するのか、どうすれば妊娠を防ぐことができるのか、知識が乏しいという。

こうした状況を踏まえ、日本医療政策機構では「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」などを参考に、分野を超えた専門家の意見を集め、2019年に大学生を対象にした「包括的健康教育」プログラムを構築。それをもとに大学生約230人に講義を行い、受講前後の効果を測定するアンケート調査(外部リンク)を行った。

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包括的健康教育プログラムにおいて、大学生に向けて講義を行う今村さん

「このプログラムでは受講対象者の性別を問わず、助産師が講師を務めます。1コマ90分を使って、リプロダクティブヘルス&ライツについての説明や月経の仕組み、性感染症、性暴力、避妊などさまざまな項目について解説し、安全な情報が得られる窓口についてもお伝えしています。性と健康に関する知識を、ライフプランを見据えて伝えることを大切にしていて、例えば、性感染症が将来的に不妊の原因になることや、性暴力の項目では、友達が困っていたらどんなサポートができるか、という内容も含まれています」

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アンケートの調査結果について語る日本医療政策機構の今村さん

講義後に行ったアンケートでは、97.4パーセントの大学生が包括的健康教育の必要性を感じており、「大切なことを知ることができて良かった」「恋人にもこの講義を受けてほしい」などの声が寄せられたと言う。

図表:教育機会に対する大学生のニーズ

「教育機会に対する大学生のニーズ」を示す円グラフ。「本講義のような『包括的健康教育』の講義は大学生にとって必要だと思うか」という質問に対し、97.4%が「思う」、2.6%が「思わない」と回答(n=228)。「本講義のような『包括的健康教育』の講義は将来、自分や周りの人が困ったときに役に立つと思うか」という質問に対し99.6%が「思う」、0.4%が「思わない」と回答(n=228)。
講義を受けた大学生のうち97.4パーセントが包括的健康教育の必要性を感じ、99.6パーセントが将来の自分や周りの人が困ったときに役立つと思うと回答。作成:日本医療政策機構(調査実施期間:2019年10月16日~2020年1月28日)

日本医療政策機構では、講義が行われた3カ月後にもアンケート調査を実施。大学生たちに行動の変化について調べたところ、「性感染症を予防するための行動が変わったか」という問いに対して、パートナーと話し合うなど具体的に行動した人が29.2パーセント、「性暴力や性的同意が行われていない場面における行動は変化したか」という問いに対しては66パーセントが変わったと回答した。

図表:「性感染症」の予防に関する意識の変化

「『性感染症』の予防に関する意識の変化」を示す円グラフ(n=178)。「3カ月前に受講した助産師による『包括的健康教育』の講義をきっかけに、『性感染症』を予防するための行動が変わったか」という質問に対し、29.2%が「変わった」、70.8%が「変わらない」と回答。「変わった」という回答(n=52)のうち、「コンドームの必要性について話した 38人」「コンドームを使用するように伝えた 7人」「コンドームを使用するようになった 10人」「一人で性感染症の検査に行った 4人」「感染症の検査に行くように伝えた 1人」「一緒に性感染症の検査に行った 1人」
講義を受けた大学生の29.2パーセントに、性感染症を予防するための行動に変化が見られた。作成:日本医療政策機構(調査実施期間:2019年10月16日~2020年1月28日)

図表「性暴力・性的同意」に関する意識の変化

「『性暴力』『性的同意が行われていない場面』に関する意識の変化」を示す円グラフ(n=50※1)。「3カ月前に受講した助産師による『包括的健康教育』の講義をきっかけに、『性暴力』や『性的同意が行われていない場面』におけるあなたの行動は変化したか」という質問に対し、66%が「変わった」、34%が「変わらない」と回答。「変わった」という回答(n=33)のうち、「注意する 15人」「拒否する 12人」「『大丈夫?』といった声かけをする 14人(※2)」。※1.全体から「そのような場面はなかった」と回答した 128人は除外した ※2.友達など自分以外が被害に遭っている場合
講義を受けた大学生の66パーセントに、性暴力や性的同意に関する行動に変化が見られた。作成:日本医療政策機構(調査実施期間:2019年10月16日~2020年1月28日)

「たった1回の講義でも大きな行動変容につながるという結果が得られたことに私自身も驚きましたね。全国的に広めるためにも講義を行う助産師の育成を進め、厚生労働省や文部科学省に提言活動を続けています」

働く女性の声から生まれた包括的健康教育プログラム

日本医療政策機構がリプロダクティブヘルス&ライツに取り組むようになった背景には、2015年に立ち上げた「女性の健康プロジェクト」がある。

「2015年に女性活躍推進法が成立し女性の社会進出が注目される一方で、当時は女性の健康に必要な支援が不十分でした。その問題を解決するために立ち上げたのが『女性の健康プロジェクト』です」

同プロジェクトでは、婦人科系疾患を抱える働く女性の医療費支出と生産性損失による経済損失の数値化や、女性に関するヘルスリテラシーの高さと仕事のパフォーマンスの高さとの関連性を示し、「働く女性の健康増進」をテーマに調査・政策提言を行ってきた。

妊娠や出産、子育て、就労の継続など女性が自身のライフプランを主体的に選択していくためには、性や健康に関する知識は重要だが、多くの女性は正しい知識を学ぶ機会がないまま社会人として生活を送っている。

2018年に、全国18歳~49歳のフルタイムの正規社員・職員およびフルタイムの契約社員・職員、派遣社員・職員女性約2,000名を対象に実施した「働く女性の健康増進調査」(外部リンク)では、女性の健康に関する教育のうち、学校でもっと詳しく聞いておきたかった内容として「女性に多い病気のしくみや予防・検診・治療の方法」「どのような症状の時に医療機関へ行くべきか」が共に40パーセント以上。「学生の頃にリプロダクティブヘルス&ライツについて学びたかった」という声が多く寄せられたと言う。

図表:学校の授業で詳しく聞いておきたかった女性の健康に関する教育(複数回答)

「学校の授業で詳しく聞いておきたかった女性の健康に関する教育(複数回答)」を示す縦棒グラフ(n=2000)。「女性に多い病気の仕組みや予防・検診・治療の方法	」48.9%、「どのような症状のときに医療機関へ行くべきか」41.1%、「医薬品(月経時の鎮痛剤やピル等)との付き合い方と副作用」25.5%、「第二次性徴(月経、射精)」24.7%、「月経に伴う症状との付き合い方」23.3%、「性行為、妊娠のしくみ」21.5%、「妊娠に適した時期、妊娠する力、不妊」18.0%、「避妊の方法や中絶」17.8%、「性感染症(HIV、梅毒、クラミジア等)」16.4%、「キャリアと女性の健康」14.8%、「特にない」9.4%。「その他」0.2%
1位の「女性に多い病気のしくみや予防・検診・治療の方法」が48.9パーセント。2位の「どのような症状の時に医療機関へ行くべきか」が41.1パーセント。作成:日本医療政策機構(調査実施期間:2018年2月2日~2018年2月8日)

「以前、私が助産師としてクリニックで働いていた頃、中・高生が人工妊娠中絶のために入院してくることもありました。また、職業体験で受け入れた中学生たちからは、性に関する質問もたくさん受けました。みんな、単に興味があるだけでなく、ライフスキルとして知っておきたいという欲求が感じられるんですね。でも周りには教えてくれる大人がいないから、ネットや雑誌で調べるしかない。最近では、自治体ごとに助産師による性教育の出前授業なども行われていますが、大学ではほとんど教えられていません。これから社会に出る世代の人に向けて、リプロダクティブヘルス&ライツを学ぶ機会をつくることが重要だと考えます」

また、今村さんは、一人ひとりが性に関する正しい知識を持ち、「予期せぬ妊娠」を防ぎたいという思いから、日本財団が2020年10月に専門家らと性と妊娠に関する社会課題について議論し解決するために発足した「性と妊娠にまつわる有識者会議」にもメンバーとして参加している。

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今村さんも参加する日本財団「性と妊娠にまつわる有識者会議」の様子。メンバーには、医師や大学教授、政治家、NPO代表といった専門家が顔を連ねる

若者がもっと気軽に「性」を話題にできる社会へ

今村さんが、さまざまな調査結果を通じて感じる最も大きな課題は、「若者が性について正しい情報を得る機会や、相談できる場所がないこと」だと言う。

また、親世代が正しく理解していないことも大きな問題だと話す。子どもが不安を抱えていたとしても、親や身近な大人が性に関する話題をタブー視していたら、相談することをためらってしまうのは当然のことだろう。

日本医療政策機構では、日本財団の助成を受けて高等教育機関への性と健康の出前授業を実施している他、10~20代の若者を対象としたプラットフォーム「Youth Terrace(ユーステラス)」の立ち上げを、2021年の秋を目指して進めている。

日本医療政策機構が運営するプラットフォーム(2021年秋よりスタート予定)を示す図。日本医療政策機構(HGPI)が運営するプラっフォーム上では、大学・短期大学、各種専門学校と助産師と連携しながら「全国の大学へ包括的な健康教育の提供」「調査研究と政策提言の実施」「若者へ情報提供や相談サービスの実施」を展開。関連学会、文部科学省、厚生労働省、日本助産師会、企業、日本財団がバックアップ。全ての若者たちがリプロダクティブヘルスに関する教育や相談の機会を得られる社会の実現を目指す。
「Youth Terrace(ユーステラス)」の仕組み。プラットフォームを通して、全ての若者が性や健康に関する教育や相談の機会を得られる社会の実現を目指す

「包括的健康教育プログラムの講義では、自分の身体の状態を知るためにも『年に1度は産婦人科や婦人科を受診しましょう』と伝えています。講義直後のアンケートでは『産婦人科や婦人科を受診しようと思った』と回答した人は約60パーセントだったのに対し、3カ月後のアンケートで『実際に受診した』と回答した人はわずか5.7パーセントでした。産婦人科や婦人科は妊娠や出産に関することだけでなく女性特有の病気を診るところなので、自分の健康を守るためにも定期的に受診をすることが望ましいのですが、やはり日本に根付く婦人科へのネガティブなイメージが原因なのだと思います。そんな、婦人科へ行きづらいと感じている人や、性にまつわる悩みや不安があるときに、気軽に相談でき、安全に情報収集できる場所が提供できればと思っています」

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プラットフォームに集まった若者たちのリアルな声をもとに、政策提言を行っていきたいと話す今村さん

包括的健康教育プログラムを全国の大学に広めていくと共に、「Youth Terrace(ユーステラス)」で集まった若者の声をもとに、女性の健康に関わる政策提言を積極的に行っていきたいと話す今村さん。

「海外には、初潮を迎えたらお母さんと一緒に婦人科を受診するのが当たり前という国もあります。日本の現状を変えるために、子宮がん、乳がん検診のように、自治体から無料クーポン券が送られるなど、健康を守るための受診のきっかけにつながる仕組みづくりの後押しができたらいいですね」

日本では長い間、性にまつわる話題を言葉にすることは「恥ずかしい」ことのように避けられてきた。子どもの頃、性に関する悩みや不安を誰にも相談できずに苦しんだ経験のある大人も少なくないだろう。

大人も性について学び直し、若者が自身の性や健康について悩みを抱えたときに気軽に相談できる社会をつくっていく必要があるのではないか。

撮影:十河英三郎

〈プロフィール〉

今村優子(いまむら・ゆうこ)

総合周産期母子医療センター愛育病院、育良クリニックなどで、助産師として8年間勤務。多くの女性が妊娠・出産について正しく理解しておらず、解決するためには政策策定が重要としてイギリスへ留学。シェフィールド大学にて公衆衛生学修士課程修了。大学院卒業後、市民主体の日本医療政策機構に参画し、リプロダクティブヘルス&ライツの普及に努める。2018年度 第22回村松志保子助産師顕彰会・精励賞受賞。
日本医療政策機構公式サイト(外部リンク)

連載【10代の性と妊娠】