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NPOがもっとパワフルに活動できる社会に。NPOの課題をコミュニケーション戦略で支援
- 社会に対しコミュニケーション活動がうまくできずに経営課題を抱えているNPOが少なくない
- 「誰のために何をやるか、どんな良いことが起きるか」、NPO自身が社会にきちんと伝えることが大切
- 支援されるNPOが増えれば、非営利活動やボランティア活動への社会の理解も深まる
取材:日本財団ジャーナル編集部
少子高齢化、経済・教育格差、過疎化…。社会課題が複雑化する中で、多くの特定非営利活動法人=NPOが、社会を良くするためにさまざまなフィールドで活動している。
特定非営利活動法人NPOコミュニケーション支援機構(action unit for communicative NPO)、通称a−con(外部リンク)は、NPOのコミュニケーション活動をプロボノ(※)がサポートすることで、NPOが抱えるさまざまな経営課題を解決する支援に取り組んでいる。
- ※ ラテン語の「pro bono publico(公益のために)」の略。職務上の専門知識・技術を生かして行う社会奉仕活動
今回お話を伺った加形拓也(かがた・たくや)さんは、普段は事業開発のコンサルタントとして、未来のまち、ライフスタイル、テクノロジー起点の事業・サービス開発を行うサービスデザインチームを率いながら、a−conの代表も務めている。
自身もプロボノとして活動する加形さんに、なぜNPOのコニュニケーション活動に支援が必要なのか、実現したい社会像と共に話を伺った。
■ なぜコミュニケーション活動が重要なのか
「解決すべき問題は存在するが、現時点でビジネスモデルが確立されていない。そういった分野に先んじて取り組んでいるのがNPOです。そんなNPOだからこそ長く活動を続けるために自分たちの活動を多くの人に知ってもらうことが重要なのですが、社会に対するコミュニケーション活動がうまくできていない団体が少なくないのも事実です」
その背景には、NPOが取り組む課題自体が世の中に認知されていないケースが多いこと、NPO自体もコミュニケーション活動に割ける資金や人手が少ないことを、加形さんは理由として挙げる。
「非営利組織ということで予算も限られてきますし、やはり大切なのは『活動をする』ことなので、どうしてもそちらを優先せざるを得ません」
一般企業の場合は、サービスを受ける受益者自身がお金を支払うことでビジネスが成り立つ。NPOの場合は、支援者(寄付者、行政)に資金提供してもらうことで活動することができ、受益者とお金を支払う人が異なる場合が多い。だからこそ、活動内容や目指す社会像を、しっかりと伝えていくことが大切になるのだ。
「コミュニケーションって結構難しいものですよね。自分のことを人に伝えようとすると意外とうまくいかなかったというご経験は、皆さんもよくあるのでないでしょうか。それはNPOでも同じで、つい専門用語が多くなってしまったり、伝えたい気持ちが強すぎてコンテンツが多くなってしまったりと、客観的な視点が抜けがちになるのです。そんなときに、第三者目線、客観的な目線でコミュニケーションをお手伝いできるパートナーがいれば、NPOの価値向上につながるのではないかと考え、2007年にa−conを立ち上げました」
コミュニケーション活動に必要な視点
ウェブサイトのリニューアル、チラシの作成、イベント企画や動線作成など、a−conにおける、NPOのコミュニケーション支援は多岐にわたる。しかし、どのプロジェクトでも共通していることは、「誰のために何をやるのか」そして「どんな良いことが起きるのか」という視点で取り組むことだと、加形さんは語る。
「ご相談いただいたNPOのプロジェクト開始前に、依頼者の方へヒアリングを行うのですが、そのタイミングやその後の打ち合わせにおいてもこの視点は大切にしています。また、コミュニケーション支援を行った結果について、具体的に成果を数値化して把握することにも重きを置いています」
例えば、アジア地域で子どもたちの教育支援を行うNPO団体では、季節ごとに寄付を募るダイレクトメールを発信していた。資金集めを強化したいとリニューアルの相談を受けて、まずはダイレクトメールを送るターゲットを整理し直し、メッセージの内容、デザインまでトータルで支援し、寄付額が大幅に増加した。
また、現代アートの学びのプラットフォームづくりを目指すNPO団体からは、より多くの人に関心を持ってもほしいという相談を受けた。では、そもそも現代アートを知っている人がどれだけいるのか?という問題を定義し、「初心者に関心を持ってもらうにはどうしたらいいだろう?」とうことを突き詰め、自分に合ったアーティストが分かる「アーティスト診断」というパンフレットを企画。講座への参加者も増えたという。
プロジェクトの期限は多少を前後することもあるが概ね3カ月と決めている。
「複数のプロボノのメンバーがチームを組んで取り組むため、活動に参加しやすいようにスケジュールを明確にする必要があるんです」
プロボノのメンバーとは、普段はFacebook上のコミュニティでつながっている。そして、NPOから依頼が来たら、一度加形さんが詳しく話を聞き、領域や課題を把握し、コミュニティページに投げかける。そこに関心のあるメンバーが集まる仕組みだ。
2021年時点で登録メンバーは300人を超え、マーケティングの専門家やエンジニア、メーカー勤務、学生まで幅広い。
「いろんな職業の人がいるだけにプロジェクトの進め方や手段、価値観の違いなどは生じるものの、普段出会う機会の少ない人とチームを組むことで、プロジェクトを通していろんな知見を得ながら共に経験を積むことができる。それが縁となって新たなビジネスにつながることもあるんです」
それは、プロボノがa−conの活動に参加する大きな魅力と言えるだろう。
プロボノの多様な視点で戦略を練る
実際にa−conに相談を依頼した、発展途上国の社会起業家に投資するという手段を用いて支援している認定NPO法人ARUN Seedの池島利裕(いけしま・としひろ)さんと、そのプロジェクトリーダーを務めた横山領(よこやま・りょう)さんに話を伺うことができた。
ARUN Seedでは、ソーシャル・インベストメント(※)の理解促進、人材育成のためのスクールを運営している。それを新たに基礎知識が学べる「入門編」と、専門家を養成する「探究編」という2つのコースに分けて展開することとなった。a−conには2021年度中に開講予定の探究編の広報戦略・ウェブサイト作成を依頼したという。
- ※ ビジネスを通じ、社会課題の解決を目指す企業に対する投資で、経済的リターンだけでなく、社会的リターンの両方を追求する
「新しいスクールの試みということで、どんな層にどのようにアプローチすれば良いのか、という点に一番頭を悩ませていました」
そう話す池島さんは、ウェブサイトのデザイン云々ではなく、a−conの持つネットワークを活かしたさまざまな分野の潜在受講者へのヒアリング、講座内容に関するニーズの抽出などに期待したという。
このプロジェクトにメンバーとして加わったのは、外資系、IT系企業、NPOに務める社会人、学生などを含む5人。a−conの活動に初めて参加したというメンバーも3人おり、横山さんもそのうちの1人でありながらリーダーを買って出た。
「私たちがプロジェクトとして重きをおいたのは、どういった人々に届けるかと言うことです。競合調査に加え、インパクト投資・ESG投資に携わる方や金融機関の方にヒアリングを行った結果、間口を広げていろいろな人が関われるようにした方が、ニーズが高いということが分かりました。さまざまなバックグラウンドを持った人たちが交流できる機会を増やすことでコミュニティとしての価値を高め、それを打ち出した講座づくりをしていくことになりました」と横山さん。
池島さんは3カ月のプロジェクトを振り返り、「ページの構成要素や講座内容など素晴らしいものを提示していただきました。また、私としては、そこに至る過程も非常に勉強になりました。戦略を練るフォーマットができているというと少し堅苦しく聞こえてしまうかもしれませんが、誰かの意見を否定せずに傾聴し褒める姿勢など、学ぶべきところがたくさんありました」と話す。
横山さんも、「a−conでは、クライント案件というよりは、クライアントも含めて多様なメンバーと一緒に問題解決に取り組むといった感覚で、プロジェクトを進めていく過程がとても楽しかったです」と振り返る。
NPOがパワフルに活動できる社会に
新型コロナウイルスの影響もあり、対面ではまだ一度も会ったことがないという加形さん、池島さん、横山さんの3人。しかし、長年の友人のような親しい雰囲気が取材を通して伝わってきた。
「プロボノということで、もちろんモチベーションの維持などは大変ですが、金銭が絡まないつながりなので、その分お互いへの信頼度も高まります」
自身も含めて、a−conの活動では決して会社にはない経験やつながりが得られるという加形さん。
「素晴らしい活動をされているNPOはたくさんあります。私たちはそのコミュニケーション部分をお手伝いすることで、そういった方々の活動を社会に広め、多くのNPOが支援者や理解者を得てパワフルに活動に取り組める社会を目指します」
社会を良い方向に変えようとするNPOの活動が理解され、広がれば、社会はもっと生きやすく豊かになるはず。加形さんたちa−conの活躍に期待したい。
撮影:十河英三郎
[ご案内]
a−conでは月に1回程度、プロボノに興味があるメンバー向けにオンラインでの活動説明会を実施。詳しくはa−conのコーポレートサイト(外部リンク)まで。
〈プロフィール〉
加形拓也(かがた・たくや)
特定非営利活動法人NPOコミュニケーション支援機構(a-con)代表理事。広告会社のコンサルティング部門で未来のまち・ライフスタイル・テクノロジー起点の事業・サービス開発を行うサービスデザインチームのリーダー。自治体顧問や大学院でのまちづくり研究なども行っている。NPOの広報・マーケティングを支援するプロボノ集団a−conの代表としてこれまで数十のNPOのコミュニケーション支援を行っている。趣味はウクレレの弾き語り。
特定非営利活動法人NPOコミュニケーション支援機構 コーポレートサイト(外部リンク)
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