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【ソーシャル人】無理解で苦悩する吃音(きつおん、どもり)の若者たち。“注文に時間がかかる”カフェが夢を後押しする

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「注文に時間がかかるカフェ」を開いた奥村安莉沙さん(左から2人目)と当事者の学生を含むスタッフ
この記事のPOINT!
  • 言葉を滑らかに話せない吃音という発話障害のある人が、日本には約120万人いる
  • 吃音に悩む若者たちを応援すべく、1日限定の「注文に時間がかかるカフェ」がオープン
  • 吃音当事者の症状はさまざま。どんな対応を望むのか、個々の声に耳を傾けてほしい

取材:日本財団ジャーナル編集部

話す時に最初の一音に詰まってしまうなど、言葉が滑らかに出てこない発話障害の1つ「吃音(きつおん、どもり)」。主な症状には3つある。

  • 「ここここ、こんにちは」と言葉のはじめの音を繰り返してしまう「連発(れんぱつ)」
  • 「こーーんにちは」と音が伸びてしまう「伸発(しんぱつ)」
  • うまく言葉が出ずに間が空いてしまう「難発(なんぱつ)」

幼児期に発症する「発達性吃音」と、疾患や心的ストレスなどによって発症する「獲得性吃音」に分類され、その9割は発達性吃音であると言われている(※)。

日本には約120万人(100人に1人)いると言われているこの吃音は、正しい理解がいまだに広がっていないため、当事者には「しゃべり方がおかしい」という偏見がぶつけられることも珍しくない。

そんな吃音のことを知ってもらうため、2021年8月21日、東京・世田谷で1日限りの「注文に時間がかかるカフェ」(外部リンク)がオープンした。主宰者の奥村安莉沙(おくむら・ありさ)さんは自らも吃音当事者であり、これまでにも「吃音について知ってもらうため」の活動をしてきた。

奥村さんが「注文に時間がかかるカフェ」をオープンした理由、そして、吃音で悩む若者たちや彼らを取り巻く社会に伝えたいこととは。

吃音に悩み、「死にたい」とすら思った過去

奥村さんが自身の吃音に気付いたのは、小学生の頃。学校で音読をしたことがきっかけだった。

「小学3年生の時、授業参観で音読をしたんです。そうしたら、授業終わりに友人のお母さんから、『安莉沙ちゃん、最近、うちの子とおしゃべりしてる?』って聞かれて。その時は、どうしてそんなことを聞くんだろう?と不思議に思いました。後日、友人から『安莉沙ちゃんの話し方がうつるといけないから、もうお話ししちゃダメなの』と言われてしまったんです。それ以降、徐々に噂が広まってしまったのか、他の子たちからも避けられるようになってしまいました」

写真:ラバーバンドを着けた当事者たちの手のアップ写真
幼少期は本当につらいことばかりだったと話す、奥村さん

吃音は決してうつるものではない。けれど、当時の奥村さんは周囲の間違った情報により、いわれのない差別を受けることになってしまった。

「何度も、もう死にたいと思い、苦しみました。でも、これは私だけに限ったことじゃないんです。他の当事者に聞いてみても、教師から『その話し方はなんだ!』と怒られたり、友人から『変なしゃべり方はやめたほうがいいよ』と言われてしまったり、深刻な差別を受けている人が少なくない。しかも、それは大人になってからも続きます。例えば、就職活動の時。私は制限時間内に自分の名前をうまく言うことができず、結果として、200社の面接に落とされてしまいました」

その後、奥村さんは吃音に対する支援や医療体制が整っているというオーストラリアで生活することに。通院を始めて、吃音が起きにくい発声方法を習得する療法に取り組み、1年ほど続けると症状は劇的に改善。日常生活でほぼ支障がないほどまでに良くなった。

日本に帰国したのは3年前。そこで目の当たりにしたのは、当事者たちが置かれている現状だ。昔、悩み苦しんでいた自分と同じ境遇にある人たちが、まだまだ存在している――。そんな若者たちを支えるべく、奥村さんは活動を始めた。

「吃音は目に見えない障害なので、ひとりぼっちになりやすい。だから、当事者同士が認識できるように、クラウドファンディングで資金を募って目印となるラバーバンドを製作しました。それを身に着けていれば、街中でも互いが認識できるため、孤独感にさいなまれることも防げます」

それ以外にも、吃音を診てくれる病院を探し、リスト化して当事者の方に向けて発信。海外にある最新の治療を翻訳し、国内の医師たちと研究会を開くなどの取り組みを行っている。

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奥村さんがクラウドファンディングを利用して製作した吃音当事者がお互いを認識できるラバーバンド

接客業に憧れを持つ吃音の若者のために開いたカフェ

全ては当事者を支えるため、そして、吃音について知ってもらうためだ。今回の「注文に時間がかかるカフェ」では、当事者の学生たちを集め、スタッフになってもらった。

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「注文に時間がかかるカフェ」の様子。お客さまに向けて吃音当事者の学生スタッフ(写真中央)を紹介する奥村さん(写真右奥)

「接客業をやってみたいけれど、吃音を理由に断念してしまう子たちってすごく多いんです。私自身、幼い頃からカフェで働いてみたいと憧れていました。実は、小学3年生の頃、“20歳の自分に向けた手紙”に、『カフェの店員さんという夢を叶えていますか?』と書いたことがあって。私はオーストラリアにいた頃、障害者カフェで働かせてもらったことがあるので、幸いにも夢を叶えることができた。でも、他の子たちはどうだろう、夢を諦めてしまっている子もいるかもしれない、と思ったんです。そこで1日限りですが、『注文に時間がかかるカフェ』のオープンを決意しました」

オープンに当たってさまざまな工夫を凝らしたが、特筆すべきはスタッフのマスクだ。そこにはそれぞれのスタッフがお客さまに「お願いすること」を明記した。

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スタッフは一人ひとりお客さまに“要望”を書いたマスクを装着

その理由を、奥村さんはこう語る。

「同じ当事者でも、求めることは違うんです。自分の話を最後まで聞いてもらいたい人もいれば、途中で助け舟を出してもらいたい人もいますし、『リラックスしてね』という言葉にプレッシャーを感じてしまう人だっている。吃音というラベルを貼ることで、ひとまとめにはしないでもらいたい。お客さまには個々が求めていることを知り、対応してもらえるような環境を整えました。これは今回のカフェの中での話で終わるのではなく、社会全体に必要な配慮だと思うんです」

「あなたはどうしてほしいの?」

これは、奥村さんがオーストラリアにいた頃、よく他人から言われた言葉だ。現地で吃音当事者であることをオープンにすると、みな、口々に尋ねてきたという。

「吃音」というラベルによって一方的に決めつけるのではなく、あくまでもその人自身の意思を尊重する。この考え方に感動した奥村さんは、以降、「個別性のある支援」をモットーにしている。それが「注文に時間がかかるカフェ」にも活かされているというわけだ。

何もしてくれなくてもいいから自分たちを知ってほしい

「注文に時間がかかるカフェ」にスタッフとして参加した、大学生4年生の萌恵(もえ)さん、高校3年生の心杏(このん)さん、高校1年生の勇太(ゆうた)さんにも話を聞いた。

写真:真剣な眼差しでインタビューに答える萌恵さん
一度は諦めた接客業に、再度チャレンジした萌恵さん

――「注文に時間がかかるカフェ」に参加しようと思った理由を教えてください。

心杏さん:高校3年生になりいろいろ進路を考えていた時に、吃音を理由に夢を諦めてしまう自分がいたんです。そんな時に、奥村さんのSNSでスタッフ募集の告知を見つけて、応募しました。将来にもつながるんじゃないかと思ったんです。

勇太さん:僕も「吃音があるから……」と最初から決めつけて、諦めてしまうことがよくありました。でも、当事者であることをオープンにして働くのはとても貴重な経験になると思ったんです。

萌恵さん:私は接客のバイトを5年くらいしていたんです。でも、2021年の3月に吃音で言葉が出てこなくなって、それがきっかけでバイトを辞めてしまいました。ただ、それでも接客業を諦めきれなくて、今回、改めてチャレンジさせてもらいました。

写真:目を見ながらインタビューに答える勇太さん
今回の体験から、吃音当事者の支援をしていきたいと決心したという勇太さん

――これまで、吃音で困ったことはありますか?

心杏さん:小学生の頃、少しだけ吃音訓練を受けたことがあるんです。でもそこで、「あなたは他の子よりも軽いんだから」と言われたことがトラウマになっていて。吃音を打ち明けた友人からも、「全然分からないから大丈夫、気にすることないよ」なんて言われたりもするんです。たとえ症状が軽かったとしても、吃音であることを否定されるのはつらい。一人ひとり異なることをもっと理解してもらいたいです。

勇太さん:僕はやっぱり、周囲の人たちにばかにされるのがつらいです。しゃべっている途中でどもってしまうことがあるんですが、それをイジられると苦しくて……。

萌恵さん:吃音って、言いたいことはあるのに、出てこないだけなんです。でも、誤解されてしまう。必死に言葉を出そうとすると、体も動いてしまうこともあって、それを見た人から「変な動きしてたよね」ってからかわれると哀しくなります。

写真:真摯にインタビューに答える心杏さん
将来は病に苦しむ人を支えるため音楽療法士を目指しているという心杏さん

――カフェに参加してみて、他の当事者や社会に対して伝えたいことはありますか?

心杏さん:私は自分の吃音が嫌いなんです。でも、吃音があったからこそ、「注文に時間がかかるカフェ」で働くことができたし、社会には私たち当事者を助けようと考えている人たちがいることも知った。だから、同じ当事者には、吃音があったとしてもプラスのこともあるし、のんびり付き合っていきましょうと伝えたいですね。

勇太さん:当事者には吃音のことをあまりネガティブに捉えないでもらいたいです。難しいとは思うんですけど、吃音でも良かったな、と受け止めてほしくて。だから僕も、奥村さんのように当事者をサポートする活動がしてみたいと思っています。

萌恵さん:私は社会に対して、「何もしてくれなくてもいいから、まずは知ってほしい」と思っています。そして当事者には、誰でもいいから仲間をつくってもらいたい。つながりを持つのは本当に大事なことですから。

「注文に時間がかかるカフェ」での体験を通して、3人はそれぞれに貴重な時間を過ごすことができたようだ。また、彼らが働く姿を目にして、カフェに訪れた人たちは何を感じたのか。2組のお客さまが話を聞かせてくれた。

写真:路上でインタビューに応じる山口さん
カフェ閉店後、快く取材に応じてくれた山口さん

――「注文に時間がかかるカフェ」を訪れたきっかけを教えてください。

山口さん:ユニークなカフェがオープンすると知人から聞いて参加しました。ただ主旨を深く理解しないまま訪れたので、吃音当事者の方々を取り巻く状況を知って驚きました。実は吃音そのものについては、田中角栄(※)が当事者だったということくらいしか知らなかったんです。

  • 昭和後期を代表する政治家、第64・65代内閣総理大臣

――実際に当事者と触れ合ってみて、何かできることは見つかりましたか?

山口さん:吃音も障害の1つであること、当事者の方々がどんなことに悩んでいるか、それを乗り越えるためにどんな工夫をしているのか、など、初めて知ることばかりでした。でも、「普通に接してください」とも言われて。吃音もその人の特性と捉えて、普通に関わっていこうと思います。

写真:お店の前でインタビューに応じる尾関さんご夫婦
愛犬を連れてカフェに参加した尾関さんご夫婦

――「注文に時間がかかるカフェ」は何で知ったんですか?

尾関さん:友人が教えてくれて、興味があったので参加しました。吃音のことは知っていましたけど、当事者の方々がこんなに悩んでいるとは思いもしませんでした。

――間近で接してみて、ご自身の価値観は変わりましたか?

尾関さん:吃音当事者は想像以上にいることを知って、びっくりしました。だから、もしかしたら身近な知人の中にも明かせない人がいるかもしれませんし、これから先の人生で出会うこともあるんだろうな、と。とはいえ、肩ひじ張って付き合うのではなく、あくまでも自然体で付き合っていくのが大事なんだと思います。一人ひとり違って当たり前ですし、吃音というフィルターを通してではなく、その人自身を見つめていきたいですね。

必要なのは、個を尊重した配慮

「注文に時間がかかるカフェ」でスタッフとして働いた吃音当事者の学生たちも、彼らと触れ合ったお客さまたちも、双方に新しい発見があったよう。

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緊張しつつも、丁寧な接客をする学生スタッフの萌恵さん
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お客さまに注文の品を運ぶ学生スタッフの心杏さん

1日限りではあったが、企画をした奥村さんにも大きな収穫があったそうだ。

「帰り際にお客さまから、『接客がとても温かかった』と言っていただけたんです。実は今回、接客マニュアルのようなものは用意しませんでした。というのも、当事者の中にはそれでつまずいてしまう人もいるから。例えば『いらっしゃいませ』の一言がどうしても言えなくて、それで接客業を諦めてしまうケースがあるんです。なので、マニュアルは用意せず、自分の言いやすい言葉で接客をしてもらいました。『こんにちは』『どうも』など、そういった砕けた表現でも構わない。大切なのは、心が伝わる言葉で接客することだと思います」

奥村さんの狙いは見事に的中。お客さまたちは心温まるひと時を過ごし、カフェを後にした。

1つの成功事例として、これを機にガチガチに固まったマニュアルを捨て、個々にできる表現で接客をするお店が増えることを、奥村さんは願っている。そうなればきっと、吃音であっても接客業を諦めずに済む若者たちが増えていくはずと。

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来店するお客さま一人ひとりに、吃音について説明する学生スタッフの勇太さん

さらに、社会に対して望んでいることがある。

「吃音に限ったことではありませんが、もしも目の前に“他者との違い”で悩んでいる人がいたとしたら、『あなたはどうしてほしいの?』と聞いてあげてほしいんです。その人のラベルを見て、『じゃあ、こうすればいいんでしょ』と決めつけてしまうのは、ときに相手を傷つける結果にもつながります。そうではなく、その人自身を見て、意見を聞き、個別の支援をする。それが多様性にもつながっていくと考えています」

そして最後に、奥村さんに聞いてみたいことがある。「死にたい」と悩み、苦しんでいた小学生の頃の自分に、大人になったいま、なんと声をかけてあげたい?

「なんて声をかけてあげるか……。あの頃、いつも死にたいと思っていて、自分には何の価値もないんだって泣いていました。でも、そうじゃなかった。『あなたには価値がある。念願だったカフェも開いたし、安心して大人になってね』って言ってあげたいですね」

写真:カフェをオープンしたことで得た成果について笑顔で話す奥村さん
カフェの成功に、奥村さんは喜びと手応えを感じた

そう言うと、奥村さんは少し照れくさそうに笑った。

吃音で悩んでいた頃の奥村さんは、もういない。いまの彼女は堂々と胸を張り、自分と同じように悩む子たちを支える存在になったのだ。奥村さんの活動は、今後も続いていく。

撮影:十河英三郎

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