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「助けて」と言葉にできない子ども・若者の声をテクノロジーの力で拾い支援につなぐ。OVA伊藤次郎さんの自殺対策の提言

写真:雑踏の街中に立つOVA代表の伊藤次郎さん
インターネットを活用した、若者の自殺防止について取り組むOVA代表の伊藤次郎さん
この記事のPOINT!
  • 1つの検索エンジンで「死にたい」と検索されている回数は、毎月10万回以上
  • NPO法人OVAではネット広告を活用し、自殺を考える人にアプローチ。必要な支援につなげている
  • 自殺防止活動の支援者を育成し、全ての人が当たり前に「助けて」と言える社会を目指す

取材:日本財団ジャーナル編集部

新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、子どもや若者の自殺が急増している。

厚生労働省自殺対策推進室が発表した統計『令和2年中における自殺の状況』(外部リンク)によると、2020年における総自殺者数21,081人の内、小学生が14人、中学生が146人、高校生が339人であった。これは統計開始以降、過去最多の数値である。

図表:新型コロナウイルス感染症拡大前後の子ども・若者の自殺者数

図表:新型コロナウイルス感染症拡大前後の子ども・若者の自殺者数を示す縦棒グラフ。小学生2019年7人、2020年14人。中学生2019年110人、2020年146人。高校生2019年279人、2020年339人。大学生2019年389人、2020年415人。
小学生、中学生、高校生、大学生の自殺者数は、新型コロナウイルスの感染が拡大する前よりも後の方が増加傾向にある。出典:厚生労働省「自殺の統計:地域における自殺の基礎資料

NPO法人OVA(オーヴァ)(外部リンク)では、2013年より若者の自殺問題を解決するべく、「インターネット・ゲートキーパー」事業を行っている。

これは、「死にたい」といった自殺関連用語をネット検索した人に対して相談を促す検索連動広告を表示し、メールやSNSを通して相談支援を行うもので、自殺防止対策の新たな取り組みとして注目されている。

日本財団がソーシャルイノベーション(社会問題に対する革新的な解決法)の創出に取り組む人材やチームを支援するために実施した「日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム2016」(外部リンク)においてソーシャルイノベーターにも選出された。

今回は、OVAの代表を務めソーシャルワーカーでもある伊藤次郎(いとう・じろう)さんに、子ども・若者たちを取り巻く環境の変化や、若年層の自殺の現状について話を伺った。

長期の自粛生活や、家庭内不和が子どもたちのストレスに

新型コロナウイルスの感染拡大で、生活様式が大きく変わったことによって、最もストレスを受けているのは子どもや若者だと伊藤さんは語る。

「ストレスは、環境の変化に影響される部分がとても大きいもの。学校生活をはじめさまざまな行動を制限され、友達にも自由に会えない状況の中、ストレスを受けた際のクッションになる『人との結びつき(ソーシャルサポート)』が弱くなり、孤独感を抱えている子どもや若者がたくさんいます」

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ストレスがメンタルに与える影響について語る伊藤さん

また、ステイホームの推進やリモートワークが広まり、家族で過ごす時間が増えたことによって、家族間の不和が起こりやすくなっているという。

「DV(家庭内暴力)も深刻化しており、2020年度に行った公的な一つの性暴力被害の相談事業では、加害者の中で最も多いのは家族という結果が出ました(※)。家族間でトラブルが起こると、どうしても一番立場が弱い子どもたちにしわ寄せが及ぶのです。家庭内でも孤立しフラストレーションがたまっている子どもたちは、孤独感が高まっていく中、周囲から見てちょっとしたことでも、それが引き金になって、『死にたい』という気持ちが高まることがあるのです」

OVAが2013年に行った独自調査によると、1つの検索エンジンで「死にたい」というキーワードで検索されている回数は、毎月10万回以上。「死にたい 助けて」での検索も多く、「助けてほしいけれど、誰にも相談できない…」と一人で苦しんでいる人がどれほどいるのかと想像すると胸が痛む。

画像:公園で、一人スマートフォンを見つめる少年
一見普通に過ごしているように見えても、誰にも悩みを打ち明けられず苦しんでいる若者も多い

OVAを立ち上げる以前に、実際に同じキーワードで検索した伊藤さんは、検索結果が「何の助けにもつながらなかった」ことから、検索連動広告を活用した自殺予防のためのゲートキーパー(※)活動、インターネット・ゲートキーパーを考案した。

  • 自殺の危険を示すサインに気付き、声をかけ、話を聞き、必要な支援につなげる、見守ることで悩んでいる人に寄り添い、支援すること

「『心配をかけたくない』『理解してもらえない』など、いろんな思いから声に出して『助けて』と言えなくても、オンラインだったら何とか思いを伝えられるかもしれない。誰にも言えない『助けて』に宛先をつくりたいと始めた相談活動です」

VAが展開するインターネット・ゲートキーパーの仕組み。「しにたい」という自殺関連のキーワードで、自殺を考える人が検索→相談を促す検索連動広告を表示→SNSやメールを通じて相談支援を行う
OVAが展開するインターネット・ゲートキーパーの仕組み

OVAが2021年3月に発表した調査資料では、2018~2019年に受け付けたメール相談のデータを和光大学の協力のもと分析したところ、こうした相談活動には自殺念慮と抑うつ・不安感が減少する効果があることが明らかになった(※)。

インターネット・ゲートキーパーは足立区をはじめ自治体で導入されているほか、ノウハウの政策化も進められている。

また、OVAは現在日本財団が長野県と協定を結び、「子どもの自殺ゼロ」の実現を目指して取り組んでいる「子どもの自殺対策」自治体モデル事業の1つとして、教員や養護教諭、スクールカウンセラー等を対象に、地域で子どもを支える人材としてのゲートキーパー養成も行っている。

困ったときに、助けを求めにくい日本社会

インターネットでつながった人への具体的な支援としては、一人ひとりの声に耳を傾け、問題解決のためにできることを一緒に考え、医療や福祉等の支援団体につなぐ。

いじめなど学校内でのトラブルに悩んでいる場合は、学校に直接介入することもあるという。

「年齢が上がるほど、医療や弁護士など具体的な社会支援につなぐケースが増えるのですが、子どもたちは家庭や学校での対人関係でうまくいかないなどの悩みも多く、心理的なアプローチも重要です。他者と話しているうちに『こういう考え方もあるんだ』と視点が変えられたり、問題が整理されたりということもあります。相談活動はすごく大切なことなんです」

伊藤さん自身も10代の頃、悩みを抱え、誰にも相談できず苦しい思いをしたことがあるという。

「私が子どもの頃、『キレる17歳』という言葉が生まれたほど、ニュースで若者の犯罪を見聞きする機会が多くありました。関連した本などで調べてみると、加害行為をした若者も孤独感を抱えて苦しんでいたりするんですね。自分と彼らは何が違うんだろうか?大人は彼らの逸脱した行為しか見ないけれど、社会がその背景にある子どもの孤独感や、その苦しみを受け止める必要があるんじゃないかと感じていました」

以来、子どもや若者の非行やメンタルヘルスに関心を持ち続けてきた伊藤さんは、社会起業家になるという目標を掲げ、メンタルヘルスの分野へ。企業や医療機関でソーシャルワーカーとしてさまざまな相談を受ける中で見えてきたのは、「助けて」と言いづらい日本の社会の在り方だったという。

「日本にはなぜか、助けを求めることに対してネガティブなイメージがあります。また『他者に相談するのは格好が悪い』『うつ病は心が弱い人がなる』といった間違ったイメージが偏見として社会全体に根付いてしまっている。海外の映画にはよく、登場人物がカウンセリングを受けるシーンが登場しますよね。本来、助けを求める行為は、自分の問題を他者の協力を得ながら解決していく、ポジティブなライフスキルです。『助けて』と言える社会にしていくためには、一人ひとりが認識を変え、社会全体で正しい理解を広めることが重要だと考えています」

「助けて」を受け止める人を増やすことも重要

苦しんでいる人の数に対して、その気持ちを受け止めて支える人が少ないことも大きな課題だ。これまでは「いのちの電話」をはじめ、多くの人がボランティアとして支援活動を行ってきたが、特に新型コロナ以降、相談員不足が問題視されている。

「病気になったら医師、事故に遭えば救急救命士が駆け付けます。それはボランティアではなく専門職です。日本の若年層の死因の1位は自殺。しかし、職業として自殺願望がある人にかかわる専門職はほとんどいません。一部の人たちの善意に頼るのには限界があり、変えていかなければならない」と言葉に熱を込める伊藤さん。

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自殺防止対策をする人材の不足について語る伊藤さん

しかし、伊藤さんのように自殺防止対策を専門とするソーシャルワーカーはほとんどいないのが現状だ。

「国として予算をきちんと立て、担い手となる専門職を育てるための土壌をつくること。今ある医療や福祉の枠組みにどのように対策を入れ込むかも含めて、新しい仕組みづくりが必要なのではないでしょうか」

自殺防止対策の専門家には、主にソーシャルワーカー(精神保健福祉士)や公認心理士などの対人援助職が適しているだろうと話す。

そうではない一般市民にもできることはあるかと伊藤さんに尋ねると「自分の半径1メートル以内にいる人に興味を持つこと」という答えが返ってきた。

「例えば、身近に何か苦しんでいる人がいたら、『どうしたの?』とか『最近、元気ないね』と声をかけてみる。他者の痛みに関心を持ち、その人が『困ったときに助けてくれる人がいるんだ、助けを求めてもいいんだ』と思えるように、いつでも話を聞くよという態度を示しておく。それだけでいいと思うんです」

写真:学校の屋上で友人に声をかける少年
周囲に一人で苦しんでいる人がいたら、否定するのではなく、つらい思いに寄り添うことが大切だと、伊藤さんは話す

災害など有事の際には、人と人との連帯感が強まるため自殺率は減り、数年経って落ち着いてから増えるケースも少なくないという。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大ではすでに子ども・若者の自殺は増加傾向にあり、今後も増える恐れがある。

子どもは身近にいる大人の行動を観察しながらさまざまなことを学んでいる。彼らが安心して「助けて」と言える社会に変えていくためには、まず大人が自分自信も含め「助けて」と言える環境をつくっていくこと。そして、目の前にいる人の痛みや苦しみに関心を持つことが大切と言えるだろう。

撮影:十河英三郎

〈プロフィール〉

伊藤次郎(いとう・じろう)

ソーシャルワーカー。2013年、日本の若者の自殺に対して問題意識を持ち、マーケティングの手法で自殺リスクが高い若者にリーチするためにインターネット・ゲートキーパーを開発。2014年にNPO法人OVAを設立する。「厚生労働省 自殺総合対策の推進に関する有識者会議委員」、「自殺総合対策東京会議委員」なども務める。
NPO法人OVA コーポレートサイト(外部リンク)
声なき声プロジェクト 公式サイト(外部リンク)