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学校になじめない推計33万人の「隠れ不登校」中学生。彼らの声から見える「学校」の在り方とは?

この記事のPOINT!
  • 全中学生の約1割、不登校中学生の約3倍が「不登校傾向」にあると推計される
  • 学業に対する不安や苦痛のほか、自分の居場所としての「学校」に違和感を抱いている子どもが多い
  • 子どもの声に耳を傾け、個々に適した学びの環境づくりが必要

執筆:日本財団ジャーナル編集部

「教室にいるけど学校が辛いと感じている」「本当は授業に参加したくない」「登校はするけど、教室には入りたくない」といった思いを抱えている「不登校傾向」にある中学生が、約33万人と推計されることが、日本財団の調査(別ウィンドウで開く)によって明らかになった。全中学生約325万人の10人に1人が不登校傾向にあるということだ。その実態と原因を探る。

学校に行く「義務」と、学校へ行く「意味」の間で揺れ動く子どもたち

2018年に文部科学省が行った調査によると、年間30日以上欠席している「不登校」状態にある中学生は全国に約10万人。しかし、毎年行われるその調査は、学校や教育委員会を対象に行ったものである。一方で日本財団は、不登校問題の本質を探るには当事者である子どもたち自身に聞くことが重要と考え、全国の中学生(12〜15歳)6,500人を対象に調査を実施。すると、「不登校」は3.1%の推計約10万人、「不登校」の定義には当てはまらないが「不登校傾向」にあると思われる中学生は10.2%の推計約33万人に上ることが明らかになった。

図表:中学校の通学状況

中学生の通学状況を示す表。全体の調査人数6,450人で100%とし、人口推計325万1,684人。そのうち(1).1年間に合計30日以上、学校を休んだことがある/休んでいる子どもは3.1%で推計9万9,850人。(1)-2.1週間以上連続で、学校を休んだことがある/休んでいる子どもは1.8%で推計5万9,921人。(2).学校の校門・保健室・校長室等には行くが、教室には行かない子ども[(2)-1.校門や学校の玄関まで行ったが、校舎に入らなかったことがある。(2)-2.授業中に、保健室や校長室など、教室以外の場所で過ごした・勉強した(月2~3回以上、もしくは1週間続けて)]、(3).基本的には教室で過ごすが、授業に参加する時間が少ない子ども[(3)-1. 1カ月に遅刻・早退を5日以上したことがある/している。(3)-2. 授業を受けず、に給食だけを食べるためだけに登校したことがある]、(4).基本的には教室で過ごすが、皆とは違うことをしがちであり、授業に参加する時間が少ない子ども(「教室にはいたが、みんなとは別の勉強など、他のことをしていた」月2~3回以上、もしくは1週間続けて)は4.0%で推計13万703人。(5).基本的には教室で過ごし、皆と同じことをしているが、心の中では学校に通いたくない・学校が辛い・嫌だと感じている子ども(※行動表出なし/「学校に行きたくないと思ったこと」毎日)は4.4%で推計14万2,161人。(6).学校になじんでいる子どもは 86.7%で推計281万9,049人。(1)の「不登校」の子どもは3.1%で推計約10万人。(1)-2から(5)の「不登校傾向」にある子どもは10.2%で推計約33万人。
(1)-2から(5)までに属する推計約33万人が「不登校傾向」にある。その数は文部省が定義する「不登校」の中学生の約3倍に上る

「不登校」または「不登校傾向」にある中学生を5つのタイプに分類。(1)の「1年間に合計30日以上学校を休んだことがある/休んでいる」、いわゆる「不登校」は文科省の結果と同様、推計約10万人であったが、注目したいのが、(2)から(5)までの調査結果である。

(2)は、「学校の校門や保健室、校長室などには行くが、教室には行かない」子どもたち。

(3)は、遅刻や早退の数や、保健室で過ごす時間が多いなど、「基本的に教室で過ごすが、授業に参加する時間が少ない」子どもたち。

(4)は、「基本的に教室で過ごすが、授業に興味が持てず、他のことをしがち」な子どもたち。

(5)は、基本的には教室で過ごし、授業にも参加しているが、心の中では「学校に通いたくない・学校が辛い・嫌だと感じている」子どもたち。

つまり、(2)~(5)は学校に行っているもののなじめていない、「不登校傾向」の子どもたちだ。

では、子どもたちが通いたいと思えるのはどのような学校なのか。現中学生に加え、中学校卒業生(15〜22歳)に回答を求めたところ、大差をつけて多かったのが「自分の好きなこと、追求したいこと、知りたいことを突き詰めることができる」だった。また「自分の学習のペースにあった手助けがある」、「常に新しいことを学べる」という答えが多かったことから、決して「学び」に対して興味を持てない訳ではなく、自分に適した教育環境を求めていることが伺える。

図表:現中学生と卒業生に聞いた「学びたい」と思える場所

現中学生と卒業生に聞いた「学びたい」と思える場所を示す棒グラフ。自分の好きなこと、追求したいこと、知りたいことを突き詰めることができる67.6%、自分の学習のペースにあった手助けがある44.6%、常に新しいことが学べる37.2%、クラスや時間割に縛られず、自分でカリキュラムを組むことができる33.3%、学校の先生だけでなく、地域の人など、さまざまな社会人が先生になってくれる15.5%、その他1.4%、当てはまるものがない6.8%。
トップの「自分の好きなこと、追求したいこと、知りたいことを突き詰めることができる」をはじめ、自分が興味・関心を持っている「学び」に対しては、積極的な姿勢が伺える

無理してまで学校に行く必要があるのか?子どもと親、大人たちの考えは?

ここで「不登校傾向」に関する生の声をツイッターで見てみよう。かつて登校することが苦痛だと感じていた大人、学校に行きたくないと感じている子どもを持つ親、そして「隠れ不登校」状態である子どもたち。彼らは学校に対してどのような思いを抱いているのだろう。

まずは当事者である子どもたちがツイッターに上げた声を紹介したい。

学校での人間関係や義務教育の在り方などに疑問や悩みを持ちながら、親や周囲に理解されない苦しみを抱える子どもたちの姿が浮き彫りになった。

碧さん「親は学校行けっていうけど、僕と入れ替わって学校行ってみろよって思う…。辛くて、嫌で、悲しくて、こんなとこにいるなら、死にたくて…、お前これでも行こうと思うの?」

しほさん「母のため息、父の怒鳴り呆れた声、妹の機嫌を伺うような視線、私の一番のストレス。家にいることも学校にいることも、私にとっては不安定な毎日で、安定を求めて彷徨い歩き続ける。でも安定なんて見つからなくて、自分の存在価値が分からなくなる。ここにいる意味、私の人生って何だろう」

そんな不登校傾向にある子どもたちの親の中には、子どもの気持ちを理解し、無理に学校へ行かなくても良いと考える人も少なくない。

えに(有葉 えに)さん「子どもたちに時々伝えるのは『学校が辛い場所なら、無理に行かなくてもいいよ 。無理して行く以外の選択肢もあるから』。色んな選択肢があることを思っているだけではなく、伝えることが大切な気がする。子どもが辛くなったら、いつでも言えるように」

ママライオンさん「自分も学校に馴染めない子どもだった。高校大学は楽しかったけどね。小中学校は苦痛だった〜。だから子どもには学校以外のコミュニティにも属していてほしい。学校だけが世界じゃないんだってある意味逃げ道を残しておくといいような気がしている」

では、かつて不登校傾向にあった大人たちの意見も見てみよう。

たらればさん「『学校』というのは『愛情と時間をかければ人と人は理解し合えるし仲良く学び合える』ということを学ぶ場所ではなくて、『愛情があろうが時間かけようが、どうやっても理解できない相手はいるし、別段仲良くなくても一緒に勉強することくらいは何とか出来る』というのを思い知る場所だと思っています」

編集者として活躍するたらればさんの話題になったツイート。「学校」という場所の捉え方に大きな共感を呼んだ。たらればさん自身も子ども時代に、無理やり学校に行くことに疑問を感じていたそうだ。

吉藤オリィさん「学校では浮いて仲間外れになっていた私も、子ども向けのキャンプに参加すると得意なローピングや自炊で役割を得られ頼られる存在になれていた。自分に合ったコミュニティ選択はとても大切だ。合わない組織に自分を無理に合わせようとすると我慢が蓄積してしんどくなる」

ロボット研究者として活躍する吉藤オリィさんも、学校になじめない子ども時代を過ごした大人の1人。学校とは違う別の居場所を見つけたことで、自分肯定感を得られたと言う。

このほか、プロサッカー選手の本田圭佑さんも、「隠れ不登校」の記事をリツイートし、学校がすべてではないと伝えている。このツイートに救われた子どもたちも多いことだろう。

本田圭佑さん「別に行かんでいいよ。人生は1回。時間を無駄にするな。誰かの為になることを考えろ。地球は広いぞ。宇宙は果てしなく広いぞ」

「不登校」に否定的な意見や感情を持つ人も多いが、「集団行動ができない子ども」と一方的な批判の目で見ることは間違いだ。多感な時期を過ごす子どもたちにとって学校生活は、さまざまな要因が絡まり合い、時には強い苦痛を伴うこともあるだろう。

今回は、調査で見えた実情と、実際にネット上で発信されている当事者の声をお伝えした。日本財団では引き続きこのテーマを追い続け、解決の糸口を探っていく。

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