子どもの学びサポーターズセッションレポート(前編)「学びにくさ」を抱える子どもたちに地域は何ができる?

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「学びやすい地域に必要なこと」を書いた画用紙を見せ合う参加者の方々

取材:日本財団ジャーナル編集部

この記事のPOINT!

  • 「学校に行きたくない」と感じている中学生は推計約43万人。学習面を理由に挙げる子どもの割合が大きい
  • 社会全体の学びや不登校に対する意識に変化が必要
  • 大切なのは、地域ぐるみで「横のつながり」をつくり、まずは地域のみんなで取り組んでいくこと

「不登校」という言葉を聞いてどんなイメージを受けるだろう。「友達と合わない変わっている子」「集団生活ができない駄目な子ども」といった、マイナスの印象を抱く人もいるかもしれない。しかし、不登校になる子どもに原因があるのではなく、日本の教育システムや、社会制度、「不登校」に対する考え方に原因があるのではないだろうか?

2019年6月8日・9日に鳥取、6月23日・24日に横浜で開催された「学びにくさ0 (ゼロ)の地域のつくり方 〜子どもの学びサポーターズセッション〜(以下、サポーターズセッション)」は、学校になじんでいない子どもたちが学びやすい地域づくりについて、3人のゲストスピーカーと地域の大人や子どもたちで考えるイベントだ。今回は、横浜会場の模様を前編・中編・後編の3回に分けてお届けする。

調査で明らかになった子どもたちが抱える「学びにくさ」の現状

「ある先生から『学校にはたくさんの壁がある』というお話を聞きました。まずは『環境の壁』。視覚や聴覚などの感覚が過敏な子どもたちにとっては、蛍光灯の光がチカチカ見えたり、他の子どものざわつきが頭の中に響いたりして、教室にいることがつらいと感じることがあるんです。他にも、学習方法が自分に合わない『学習形態の壁』、一人で過ごすことを良しとしない『みんな仲良しの壁』…。こういった、目に見えない壁によって苦しんでいる子どもたちがたくさんいます」

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横浜市戸塚で開催された「サポーターズセッション」の様子

そう語るのは、今回のサポーターズセッションをリードする日本財団・枡方瑞恵(ますかた・みずえ)さん。日本財団が2018年12月に発表した「不登校傾向にある子どもの実態調査」(別ウィンドウで開く)では、全国の中学生約325万人のうち、文部科学省が定義する不登校生徒約10万人に加え、推計約33万人が学校で何らかの「学びにくさ」を抱えていることが明らかになった。「不登校」といえばいじめなどの「人間関係」が原因というイメージを持たれがちだが、「授業が分からない」「テストを受けたくない」「いい成績が取れない」など、学習面に関する理由が多く見られたのが特徴だ。

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日本財団の調査について語る枡方さん

「今回のサポーターズセッションは、以前に日本財団が実施した隠れ不登校や不登校の声を集める『#学校ムリかも』ツイッターキャンペーン(別ウィンドウで開く)で全国から集まった声を受けて、『ミライの学び』を考えていくもの。学ぶことに対し意欲はあるのに、さまざまな“壁”のせいで、学校になじむことができず自信を喪失したり行き場がなかったりする子どもたちをなくすために、私たちにできることを考えていきましょう」

枡方さんの呼びかけのもと、イベントはスタートした。

「学び方」は一つじゃない。一人一人に合った勉強法を

枡方さんの現状報告後、学びにくさを抱える子どもたちと長年向き合ってきたゲストスピーカーの方々が、自身の取り組みと学校教育が抱える問題について話をした。

最初に登壇したのは、京都府長岡市にある発達支援塾「コスモス」(外部リンク)で、発達に特性のある子どもたちを支援する米澤るみ(よねざわ・るみ)さん。米澤さんが最初にスクリーンに写した写真がこちらだ。

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米澤さんの資料より。(左上)聴覚が発達し教室の中では音が響きすぎるため、廊下で授業を受ける子ども。(右上)音楽の授業で、聴覚が発達しているため音が響きすぎて、教室から飛び出す寸前の子ども。(左下)体育の授業で、みんなと同じ行動をとることに気持ち悪くなり、校庭の角でうずくまる子ども

「この子どもは、悪いことをして先生に廊下に出されているのではなく、聴覚が他の子どもよりも優れていて、教室では音が響きすぎるので、自ら廊下に出て授業を受けているんです」

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子どもの個性と教育をつなげる活動を行う米澤さん

その他にも、米澤さんは「気になる子ども」として、学習障害のため直線が見えづらく漢字を書き間違えてしまいう子どもや、体育の授業で「みんなが同じことをやっているのが気持ち悪い」といって校庭にうずくまってしまう集団行動が苦手な子どもを紹介。発達に特性があるため学校の教材やルールに適応することができず、良い評価がもらえずに自信を喪失してしまう子どもも多いという。

画像イメージ:学習障害を抱える子ども(LD児)の視点から見た文字。左上から時計回りで、文字が二重にダブって見える症状例、文字がひっくり返って見える症状例、一部の文字が動いて見える症状例、文字がゆがんで見える症状例
米澤さんの資料より。学習障害を抱える子ども(LD児)の視点から見た文字

「『学校に行かなくてはならない』と思っているけど『あと一歩が踏み出せない』という気持ちの狭間で苦しむ子どもたちがたくさんいます。そんな子どもたちにまず伝えるのが『学校で教育を受けることは、権利であって義務ではない』ということ。LINEなどSNSでも気軽に相談を受けるようにしています」

米澤さんは「Learning Difference(ラーニング・ディファレンス)」について語る。これは、「子どもの個性に合った学習法を取り入れるべき」という考え方だ。例えば、数字がうまく書けない子どもには数字が印刷されたシールを、読みにくさや書きにくさを抱える子どもたちには、拡大教科書やタブレットを使って授業を行うなど、ありのままの子どもたちを受け入れ、「違いを伸ばす教育」や学校側の「合理的配慮(※)」が必要だと語る。

  • 障害の有無にかかわらず、教育や就業、その他社会生活において平等に参加できるよう、それぞれの障害特性や困り事に合わせて行われる配慮のこと

子どもたちが学校の代わりに向かうのは老人ホーム「和みの園」

次の登壇者は、地元・戸塚で「特別養護老人ホーム 和みの園」(別ウィンドウで開く)の施設長を務める、木内菜穂子(きうち・なおこ)さん。木内さんの老人ホームは他と少し違う。和みの園と子どもたちの関係について木内さんはこう語る。

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子どもたちと福祉施設をつなげる活動を行う、木内さん

「もともとは私たちの施設で働くお母さん職員がきっかけでした。彼女の子どもは学校で学びにくさを抱えていました。子育てと仕事の両立で悩んでいた彼女は施設に迷惑をかけないよう仕事を辞めたいと申し出てきたのですが、最終的には『みんなでその子を育てよう』と決めたんです。そのことをきっかけに、老人ホームの施設を地域食堂という形で子育て中の親御さんや子どもたちに開放することにしました。それからは、何らかの理由で学校になじめずにいる子どもも多く訪れるようになりました」

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木内さんの資料より。和みの園でお手伝いや勉強をする子どもたち

施設に通ううちに、木内さんやスタッフに心を開いて悩みを打ち明けたり、介護の仕事に関心を持ったりする子どもも少なくないという。中には、得意の計算能力を活かし経理としてアルバイトをする若者や、介護職員として働き出した若者もいる。

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木内さんの資料より。和みの園での体験を通して、介護や看護の仕事を目指す若者たち

「高齢者の方は100人いれば100通りの歳のとり方があります。子どもたちも同じで、100人いれば100通りの育ち方があるんです。そんな子どもたちと地域を切り離さないでほしい」

地域と子どもたちが混ざり合うからこそ、新しい居場所を提供できるだけでなく、スタッフの離職率の減少や地域のNPOや企業とのつながりなど、「和みの園」にとっても良い変化が生まれたと木内さんは言う。

「制度の狭間でつらい思いをしている人たちに必要なのは、人間同士のつながりなんです」

「やりたいことを、やりたいだけやれて、見ていてくれる人がいる」環境が大切

最後に登壇したのは、鳥取の市立高校で学校と地域をつなぐ活動をしながら、日本財団地域コーディネーターとしても活躍する大山力也(おおやま・りきや)さん。

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鳥取県で地域と子どもたちをつなげる活動を行う大山さん

「鳥取の学校で、地域と子どもたちをつなげ、彼らの居場所を増やす活動をしています。僕の担当は『総合的な学習時間(※)』になるのですが、高校生を商店街に連れ出したり、地域の起業家の方との交流会を開いたり、高校生たちにインターンをさせたりさまざまな活動をしています」

  • 変化の激しい社会に対応して、自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育てる科目

全国の中学生約325万人の子どものうち推計約43万人、約 8人に1人が「学びにくさ」を感じている現状について、「学習面での不満が大きいということは見逃せない事実です。『分かる、できる、楽しい』といった良い学びのサイクルが壊れてしまっているのだと思います」と大山さん。「やりたいことを(選択可能)、やりたいだけやれて(探究的)、見ていてくれる人がいる(寄り添う人)」、そんな教育と福祉を掛け合わせたような場所が子どもたちに必要ではないかと話す。

画像イメージ:不登校問題を巡る問題の難しさを表した図。集団対応、効率性、評価一律性を重んじる「教育」と、個別対応、手厚いフォロー、ケースワークを重んじる「福祉」の狭間に、「学びにくさ」を解決するヒントがある。
大山さんの資料より。大山さんは「教育」と「福祉」の狭間に「学びにくさ」を解決するヒントがあるという

その事例として挙がったのが東京・港区にある大型児童館だ。3階建てのこの施設は、1階が受付となっており、カード式で子どもたちの来館・退館を把握できる。遊具室、図書館、ダンススタジオ、自習スペース、PC施設、体育館などさまざまな施設があり、施設ごとに職員がいる。

図版イメージ:港区にある児童館の2階にある施設。ダンス教室やスタジオ、学童、創作室のほか、談話室、自習スペース、パソコン室など。
大山さんの資料より。多種多様な施設で構成された東京・港区の児童館

「この施設の良いところは、遊びの自由度が高いところ。いろいろ揃えて、あとは君たち次第だよ、といった感じで子どもたちの自主性に任せる。開館時間が他の施設より長い20時までやっているところも興味深いですね。9時台から15時くらいまでは定時制の子どもや学校に行っていない子ども、15時から18時は学校帰りの小学生たち、18時以降は中高生が訪れるんです。中には人生相談をする子どももいます」

明らかにケアをする施設だと子どもたちは身構えてしまうと大山さんは言う。相談するかしないかは、子どもたちに任せつつも、ちゃんとした居場所の一つとして機能し、子どもたちの探究心を刺激し、さらにサポートしてくれる大人もいる。児童館は未来の学び場の一つとなる可能性を秘めているのかもしれない。

今必要とされるのは地域ぐるみの「横のつながり」

続いて行われたのが、ゲストスピーカーと参加者全員によるパネルトーク。ここでは、不登校の子どもを持つ母親や、市役所職員、教育関係者、NPO職員などさまざまなバックグラウンドを持つ参加者の間で活発な意見交換が行われた。

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地域のつながりの大切さについて語る参加者の方

木内さんが「老人ホームから子どもたちが出てきても問題ないと思う方は?」と参加者に問えば大多数の手が上がり、市役所職員の方からは「学校と家以外で子どもたちの居場所があることは素晴らしいと思います。学校や行政機関も現状手いっぱいなので、もっと地域やコミュニティの中で、新しい取り組みに挑戦していきたいですね!」という意見が上がった。

また、個別支援学級に通う子どもを持つ母親からは「学校ではおとなしいと言われている子どもですが、家では、かなり奔放(ほんぽう)に振る舞い、その違いに戸惑っています。そんな両親を救ってくれる仕組みもあるとありがたいです」といった声も。

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アメリカには「不登校」という概念自体がないと発表する参加者の方

このパネルトークを通して多かった意見は、「学びにくさ」を抱えている子どもたちや、その両親が地域の中で孤立しており、その状況は本人の努力や縦割り行政(※)では改善することが難しいということだ。困ったときに「どうしよう」と悩みを打ち明けられる第三者や施設とつながることが、問題解決の糸口になるのかもしれない。

  • 個々の事務の処理・遂行にあたり,各省庁間の横の連絡・調整がほとんどなく,縦のつながりだけで行われている日本の行政のありかた

後編では、今回明確になった問題点について、参加者の方たちが中高生と協力し、具体的な解決策を考えるワークショップの様子を紹介する。

撮影:十河英三郎

〈プロフィール〉

米澤るみ(よねざわ・るみ)

臨床発達心理士、自閉症スペクトラム支援士、特別支援教育士(LD学会)、教育カウンセラー(日本教育カウンセラー協会)の資格を持つ。教職経験(小学校教諭、特別支援学級講師)を持つ教育カウンセラーとして、発達に特性のある子どもたちを支援。京都府長岡市の発達支援塾「コスモス」で不登校児の支援やカウンセリングを行う。
発達支援塾「コスモス」公式サイト(別ウィンドウで開く)

木内菜穂子(きうち・なおこ)

特別養護老人ホーム・和みの園、施設長。社会福祉学部卒業後、精神科病院にて相談員として勤務。老人介護、看取りに関心を持つ。終の棲家を地域につくるため、「和みの園」を立ち上げる。
和みの園 公式サイト(別ウィンドウで開く)

大山力也(おおやま・りきや)

早稲田大学院、教職研究科を卒業。山梨県で私立高校の講師を経験。2017年に鳥取へIターンし、市立鳥取城北高校にて、総合・探求主任、地域デザイン部の顧問として勤務。2019年5月からは日本財団地域コーディネーターを兼任し、学校と地域をつなげるべく活動中。

「子どもの学びサポータズセッションレポート(中編)」はこちら

「子どもの学びサポータズセッションレポート(後編)」はこちら

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