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【「18歳」シャカイ創りのヒント】高校生は無限の可能性を秘めている。日本一有名な大学生が目指す、「若者が一歩を踏み出しやすい社会の仕組み」

- 日本財団の調査で、日本の若者が他国に比べて国や社会に対する意識が低いという結果が出た
- 今の日本の若者に必要なのは、「誰かと安心して話せる場所」と「仲間とつながれる場所」
- 自分の思いや考えを発信することが、仲間づくりにつながり、次の一歩を踏み出すきっかけとなる
取材:日本財団ジャーナル編集部
日本財団が行った18歳意識調査「国や社会に対する意識」(別ウィンドウで開く)では、他国(インド、インドネシア、韓国、ベトナム、中国、イギリス、アメリカ、ドイツ)の若者に比べて、日本の若者の国や自身の将来に対するネガティブな回答が目立ち、社会の注目を集めた。
自分の国の将来について「良くなる」と答えた日本の若者はわずか9.8パーセントと、トップの中国(96.2パーセント)の10分の1。また、「自分で国や社会を変えられると思う」若者は18.3パーセントと5人に1人しかおらず、残る8カ国で最も低い韓国の半数にも満たなかった。
この特集では、18歳意識調査「国や社会に対する意識」の結果を深掘りし、若者たちが希望の持てる未来社会を築くためのヒントを探る。
今回は、世界で活躍するトップアスリートや社会人、大学生たちと、これから社会に羽ばたく高校生たちとのつながりの場をつくるプラットフォームを運営する、現役大学院生であり社会起業家としての顔も持つ“日本一有名な大学生”こと喜多恒介(きた・こうすけ)さんに話を伺った。
日本一周、世界一周、サークル、起業、恋愛、留学、研究、アルバイト、インターンなど、大学と大学院生活合わせて12年間の中で「自分のやりたいこと」を全てやってきたという喜多さんが、いま若者に伝えたいこととは。
若者に必要なのは「安心して誰かと話せる場」「仲間とつながれる場」
「18.3パーセントという数字を見た時、『これはどういうことだ!』と驚きました。ある程度、予想はしていましたが、ここまで如実に現れるとは…」
18歳意識調査の結果を知った時、ショックを受けたという喜多さん。

「『自分の国に解決したい社会議題がある』と答えた人がそこそこいたにもかかわらず、『社会議題について、家族や友人など周りの人と積極的に議論している』と答えた人が27.2パセーントしかいなかったことにも驚きました。社会のことに関心はあるけど、周りがそうでもなさそうだから、自分も国や社会を変えられると思っていない。そんな周囲に影響を受けやすい環境が、若者の社会に対する意識の低さの現れではないでしょうか」
図表:18歳意識調査「国や社会に対する意識」/自分自身について

「日本の若者の数字が低い背景には、本人の行動や思考不足があると思います。一方で、1960年代に繰り広げられた学生運動以来、社会問題について議論することに対しネガティブなイメージが残っていることや、先生から教えられたことをやるのが正解といった日本の教育の在り方、自主性や主体性が育まれにくい環境も影響していると思います」
これまで喜多さんが接してきた若者の中にも、大きなチャンスを前にしながら、周囲の目が気になり自分の中でブレーキをかけてしまって、一歩が踏み出させなかった人が数多くいたという。
「今の日本の若者には、“自分の思いを誰かと安心して話せる場所”と“仲間とのつながりを築ける場所”づくりがとても重要なことだと考えています」
社会の先輩や仲間とのつながりが、次の一歩を後押しする
一歩踏み出すことに躊躇してしまうときに、背中を押してくれる存在。それは「同じ志を持つ仲間」であると、喜多さんは語る。
「実は、僕も大学2年ぐらいまでは、やりたいことはいろいろあるのに、なかなか一歩踏み出せずにいました。ある時、友人の1人から『お前は何をやりたいんだ?』と聞かれたんです。本気で考え、『日本をもっと前向きにしたい』と答えた僕に対し、『それは考えが甘い。この本を読んでみろ、この人に会ってみろ』といろいろアドバイスしてくれました。初めて誰かに自分の思いを伝え、打ち返してもらった体験でした。そのことがきっかけで、いろんなことに挑戦するようになり、世界観が広がっていったんです」

以来、自分のやりたいことを口に出していくことで、自然と仲間ができていったという喜多さん。
「仲間ができて、彼らの助言を受け入れていくと、『これはちょっと違う』『この部分は共感できる』など、徐々に自分の考えややりたいことを明確化することができるんです。そのサイクルをいかに早く回すかが、若いときにはとても大切だと考えます」
そんな実体験に基づき、現在喜多さんが取り組んでいるのは、高校生が自分のビジョンを描くことができ、後押しをしてくれる「つながり」をつくる場づくりだ。
日本財団と共に、「高校生みらいラボ」と「HEROs LAB」という、新型コロナウイルスの影響で学校外での友だちや社会とのつながりをつくりづらい高校生のための、自宅にいながら参加できるオンライン課外授業を立ち上げて、運営している。
「高校生みらいラボ」(別ウィンドウで開く)に登壇する講師は、宇宙技術を活用した農業支援で注目を集める社会起業家や、落語の力を着目した新しい教育に取り組む元小学校の先生、日本最大の人工知能コミュニティを運営する大学生など、自分の夢実現に向かって人生を歩んでいる起業家やアーティスト、研究者といった社会人、大学生たち。その多くが、喜多さんがこれまで出会ってきた仲間だという。



「運営上で気を付けているのは、講師陣による授業が一方的なものにならないようにすること。進行役を務める運営スタッフが、講師に質問を投げかけ授業の内容を深掘りしたり、高校生たちに質問を促したり、チャットを生かして質問者以外のコメントを引き出すようにしたり、授業に参加する全員が双方向で講師とやりとりできるように工夫しています。授業というよりも、ライブディスカッションといったほうがイメージしやすいでしょうか」
参加者した高校生からは、「実体験を持っている人が話すと説得力が違うし、同時に安心感もあると感じた。だからこそ、たくさんのワクワクすることに飛び込んだ方がいいなと思いました」「自分の周りにいる人だけが全てではなくて、一歩外に踏み出してみたらまた違う世界が見えてきて、素敵な仲間に出会えるのかもしれないと思いました」などといった声が寄せられている。
オンラインで開催することで、全国の高校生同士がつながれるところも、高校生みらいラボの特徴と言える。
「また『高校生みらいラボ』の活動に並行して、高校生の進路探しをサポートするオンラン塾『大学受験スタートダッシュプログラム』(別ウィンドウで開く)や、次の一歩を応援し合うコミュニティ『チャレンジグラウンド』(別ウィンドウで開く)なども展開し、高校生たちが未来に向けてワクワクしたビジョンを描けるお手伝いをしています」
そして、もう1つのオンライン課外授業「HEROs LAB」(別ウィンドウで開く)は、日本のトップアスリートたちが、競技生活で培ってきたチャレンジ精神やスポーツマンシップを、中学生・高校生たちに伝える特別プログラムだ。

講師陣には、ラグビー元日本代表の五郎丸歩(ごろうまる・あゆむ)さん、パラ水泳のレジェンド河合純一(かわい・じゅんいち)さん、元なでしこジャパンの近賀ゆかり(きんが・ゆかり)さん、元サッカー日本代表の中田英寿(なかた・ひでとし)さん、プロボクサーの村田諒太(むらた・りょうた)さん、全日本柔道監督の井上康生(いのうえ・こうせい)さんなど、そうそうたるメンバーが顔を連ねる。
「僕も毎回、進行役や生徒の1人として授業に参加しているのですが、世界に挑戦し続けるアスリートの方の言葉の重みに、感銘を受けまくっています。五郎丸さんの『日々の努力、夢への近道』という言葉は有名ですが、そのことを実体験を通した話で聞くと、もう説得力が違いますよね。過去や未来にとらわれるのではなく、今を生きることの大切さを教わりました」

「HEROs LAB」に参加する高校生たちは、「どうしても一歩が踏み出せない」「学校でいじめを受けている」「けがをして部活動ができない」といった、さまざまな悩みを抱えているという。
「その悩みに対し、アスリートの方たちが自分の経験や考えを踏まえながらアドバイスを送ると、高校生たちの目が輝いてくるんですよ。声のトーンまで変わってきて『明日からやります!』『勇気が湧きました!』って。『HEROs LAB』は、そんな素敵なエネルギーをもらえる、高校生たちにとって特別な場所になっています」
「高校生みらいラボ」や「HEROs LAB」に参加した高校生たちの中には、ここで出会った仲間たちと一緒に、中止になってしまった文化祭や修学旅行をオンラインで企画・実施したり、海外の人たちとつながれるオンラインコミュニティを自分でつくったり、自ら新たなことにチャレンジする者もたくさん出てきていると、喜多さんは話す。

自分の思いを誰かに伝えることから始めてみる
高校生たちの未来づくりを支援する喜多さんに、今後のビジョンについて聞いてみた。
「『高校生みらいラボ』も『HEROs LAB』も、もっとたくさんの高校生たちに知ってもらい、たくさんの講師の方に参加してもらえたらと考えています。また、これまでもいろいろやってきたのですが、高校生の方から『こんな授業をやってほしい』というリクエストをもらって、一緒に授業をつくっていけたらいいですね」
若者自身が自分の思いを発信して、誰かとつながることが、成長する上で大切だと語る。
「自由な時間もたくさんあるし、体力も気力もある。高校生たちには無限大の可能性があると僕は信じています」
また一方で「自分が持っている弱さを受け入れることも大切」「痛みとソーシャルイノベーションはコインの表裏」とも話す喜多さん。
「人が劇的に変われるのは、逆境に遭い自分の弱さや未熟さを受け入れたタイミングではないかとも思っています。僕自身、親が厳しくて自分の夢ややりたいことをうまく伝えられない過去がありましたし、多くの人が自分の純粋な想いを他人に伝えることをためらっているようにも思います。しかし、そういうところにも社会を変えるヒントが眠っている。痛みの経験があるからこそ、似た境遇の他者に共感し、そしてその境遇を変えたいと強く思えるのではないでしょうか。痛みから生まれる自分の弱さを否定するのではなく、受け入れ、それでも前に進もうと決意することで、人は社会を変える存在、すなわちソーシャルイノベーターになっていくと思います」

喜多さん自身、「やりたいことを伝えられない」弱点をしっかり見つめたからこそ、それが現在の「高校生みらいラボ」や「HEROs LAB」などの取り組みにつながっているという。
18歳意識調査の「自分で国や社会を変えられると思う」若者の数字を、18.3パーセントから100パーセントにしたいと意気込む喜多さん。
「高校生の皆さん、『将来何をしたらいいか分からない』とか『自分はこれが好きだ』とか、何だっていい。まずは、自分の思いや考えを周りに向けて発信することから始めてみませんか?」
撮影:佐藤潮
〈プロフィール〉
喜多恒介(きた・こうすけ)
東京大学出身。慶應義塾大学大学院政策メディア研究科所属。株式会社キタイエ代表取締役。一般社団法人全国学生連携機構。「人と人とのつながりで、社会をよりよくする」をテーマにキャリア教育事業や政策提言を手掛ける。現在は「自分のやりたいことを見つけ、広げ、深める」ことに特化した次世代型教育機関「Narrative Career School」や、日本財団との協働で高校生のためのオンライン課外授業「高校生みらいラボ」「HEROs LAB」を運営。2017年、世界経済フォーラムGlobal Shaperに選出。
喜多恒介 公式サイト(別ウィンドウで開く)
株式会社キタイエ コーポレートサイト(別ウィンドウで開く)
高校生みらいラボ(別ウィンドウで開く)
HEROs LAB(別ウィンドウで開く)
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