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【「18歳」シャカイ創りのヒント】「自分の国の将来が良くなる」と思う日本の若者は1割未満。希望の持てる社会づくりに必要な支えとは
- 日本財団の調査で、日本の若者が他国に比べて国や社会に対する意識が低いという結果が出た
- 国や社会に対し意識が低いのは、社会に触れる機会に乏しく、興味を持つきっかけが少ないから
- 若者たちが社会に触れるきっかけづくりと、大人たちが一緒になって関心を抱き、行動することが大切
取材:日本財団ジャーナル編集部
「子どもは、その社会を映す鏡である」
社会学のアプローチの一つを示す、こんな言葉がある。
日本財団が2019年9月下旬から10月上旬にかけて行った18歳意識調査「国や社会に対する意識」(別ウィンドウで開く)。若者が自分の国や社会に対しどのような思いを抱いているか、国際比較を行うために、インド、インドネシア、韓国、ベトナム、中国、イギリス、アメリカ、ドイツと日本の若者各1,000人を対象に行ったものだ。その結果に、世間が騒ついた。
自分の国の将来に対する質問対して「良くなる」と答えた日本の若者はわずか9.8パーセントと9カ国中最下位。また「自分で国や社会を変えられる」と思っている若者も1位のインドが83.4パーセントいたのに対し18パーセントしかいなかった。これは、冒頭で記した言葉のように、私たちが暮らす今の日本社会を表す姿なのだろうか。
今特集では、18歳意識調査「国や社会に対する意識」の結果を深掘りし、若者たちが希望の持てる未来社会を築くためのヒントを探る。
今回は、東京学芸大学附属国際中等教育学校(別ウィンドウで開く)で国際協力・社会貢献などの授業を担当すると共にソーシャルアクションチーム(別ウィンドウで開く)の顧問も務める藤木正史(ふじき・まさし)先生に話を伺った。
「いいえ」という回答の裏にある「分からない」
「この結果について、私自身は驚きませんでした」
18歳意識調査の感想を藤木先生に尋ねると、そう返ってきた。
「日本の子どもたちの自己肯定感が低いというデータはいろんなところ出ていますから」
9カ国の中で、日本の若者の数値の低さは抜きん出ている。「自分の国の将来」を問う質問に対し、中国では96.2パーセントの若者が「良くなる」と回答したが、日本の若者でそう回答したのは10分の1に当たる9.6パーセント。その社会に対して「自分で国や社会を変えられる」と思っている若者は18パーセントにとどまった。
図表:自分自身について
この中で藤木先生が注目したのは、自分の国の将来について「どうなるか分からない」という回答だ。
「質問に対し『分からない』と回答した若者が日本では全体の3分の1を占めています。これは、日本の若者は社会に関わる機会が乏しく、興味を持つきっかけが少ないため、どう答えていいのか分からないというのが、実情ではないでしょうか」
図表:自分の国の将来について
「ただ、国の状況によって回答は左右される気がします。急激な成長を遂げている国の若者は自分たちの将来に対し希望を持っているように見受けられます。日本でも明治期の若者に同じ調査をしたら、きっとポジティブな意見が多かったでしょう(笑)。また、いまの日本の子どもたちは学校に塾にと、とても忙しく、家庭とそれ以外の世界に触れる機会が少ない。私たちにできることは、そんな若者と社会の接点をつくることなのではないでしょうか」
若者が自分の国や社会のことを「分からない」というのは、決して良い状況とは言えない。では、若者と社会の接点はどのようにつくれば良いのだろう。
社会に触れられる機会をつくることが必要
「私が『国際協力と社会貢献』に関する講義を始めて今年で6年目になります。もともとこの授業は、生徒たちが社会に触れられる場づくりをしたい、という思いでスタートさせました」
藤木先生が手掛けるこの授業は、生徒たち自身の手で授業をつくるのが特徴だ。自分たちが関心のある国際協力や社会貢献に関するテーマについて「対話」を重ね、学びを深めていく。
「生徒たちが主体的に学ぶことが、理解を深めるために重要だと思っています。そして、できるだけ自由な雰囲気の中で、自分はこんなに話すことができて、人の意見も聞けて、それに答えらえたんだという、小さな成功体験を重ねる。そのような経験が、彼らが大学生や社会人になった時に役に立ち、周りの若者にも良い影響を与えるのではないかと」
藤木先生は、ちょっとしたアドバイスをする程度で授業中もほとんど口を出すことはない。生徒たちがリラックスしながら話をできる、環境をつくることに努めている。
「私が口を出さないので、生徒たちは何となく『自分たちで話さないとね』という雰囲気になってくれています。ただ、ディスカッション(討論)ではなくダイアログ(対話)をしてくださいとだけ伝えています。意見をぶつけ合う必要もないし、違う意見が出たらこういう考え方もあるんだと受け止めてくれるだけで構わないと。そうすることで、より自由に発言しやすい雰囲気になり、生徒たちからはいろんな意見が出てきます。こんなこと考えていたんだと、驚かされることも良くあります。他には、全員の顔を見渡しながら話ができるよう円座を組むなど、テーマに合わせて椅子や机の配置も工夫していますね」
SNSを活用して生徒たちにテーマに関する資料を事前共有したり、生徒たちが発言した内容をまとめたものを全員に共有したりするなど、理解を深めやすいサポートも行っている。生徒たちからリクエストがあれば、授業に有識者をゲストとしてブッキングすることもある。
「授業にはちょっとした非日常感を取り入れることもしています。先日もオンラインツールを使って、セントルシアやニカラグア、東ティモールで活躍するJICA(ジャイカ※)のスタッフの方と交流できる機会を設けました。生徒のモチベーションを高めることも大事ですから」
- ※ 発展途上国への技術・資金協力を行う外務省所轄の独立行政法人「国際協力機構」
もともとは、大学院で日本中世史の研究をしていたという藤木先生。現在のような授業を行うようになった背景には、当時参加したボランティア活動の影響も大きいという。
「大学院では学ぶ知識や関わる人も限られていたので、多くの人たちと一緒に何かつくり上げることをしたいといつも思っていたんです。そんなある日、NPO活動を行う知り合いから、イスラエルやパスレチナの子どもたちと日本の子どもたちの交流を図るプログラムに、ボランティアとして誘われたんです。たくさんの大学生、社会人が一緒になって取り組んでいたのですが、それが本当に楽しくって毎日のように足を運んでいました。そんな経験を生徒たちにも味わってほしいという思いがあり、社会貢献に関する授業や、ソーシャルアクションチームの顧問を務めるようになりました」
生徒たちが社会を知るための手段として、ソーシャルアクションチームの活動にも力を入れる藤木先生。日本各地にスタディツアーなども展開し、訪れた先の人たちと交流を図ることで、その地域の人たちのために何か貢献したいという思いが生徒たちの中に生まれ、地域課題解決の行動にも結びついているという。
「ある地域では生徒たちが『ふるさと納税』の返礼品について提案したこともあります。また、スタディツアーを通して『自分たちの地元のことも大切だよね』ということになり、この学校のある大泉学園(東京都練馬区)の街の魅力をもっと同世代に知ってほしいと、グルメスポットを載せた中高生向け手作りマップを作成しました。これが好評で、マップを置いてくださるお店の方から、追加でもらえないかという相談もありますね」
普段とは異なる場所での越境体験や、世代や地域を超えた人たちとの関わり合いが、生徒たちの興味・関心を広げ、新しいことに挑戦する力や自信を育んでいるのだろう。
同じ目線に立ち、行動することも大切
子どもや若者たちが、社会について理解を深めるためには、そばにいる大人の存在も重要であると藤木先生は語る。
「いまの日本の大人に、国や社会に対する調査を行っても、若者たちと似たような結果が出るような気もします。いつも仕事に追われていて、家に帰っても寝るだけといった暮らしの中では、なかなか社会のことについてじっくり考える余裕もないですよね。しかし、家族で社会問題について話したり、子どもと一緒にボランティアをしたりする時間も大切だと思うんです」
大人たちが、子どもや若者たちと同じ目線に立ち、歩みよることができれば、彼らの可能性を広げることができるのでは、と藤木先生はいう。
「社会的に成功している人でも経歴を誇るのではなく、もともとは君たちと同じだった、成功するまでにこんなに失敗があった、という話を聞けると、若者たちに『自分たちでもできるかも』『失敗してもいいんだ』といった自信を与えられる気がしますね」
若者たちが自分の国の将来に希望を見出し、自分の力に自信を持てるようになるためには、彼らが社会に触れる機会をつくると共に、大人たちが一緒になって関心を抱き、行動することが必要なのではないだろうか。
撮影:佐藤潮
〈プロフィール〉
藤木正史(ふじき・まさし)
1979年生まれ。大学では日本中世史を専攻。大学院時代に、イスラエルとパレスチナの子どもたちの信頼醸成プログラムを行うNPO法人の活動に参加。2009年より、東京学芸大学附属国際中等教育学校に勤務。2012年には、JICA主催教師海外研修でブータン王国に渡航。また同年、拓殖大学国際開発教育センターの国際開発教育ファシリテーター養成コースを受講し、2013年に国際開発教育ファシリテーター認定。現在は、ソーシャルアクションチーム顧問の他、Social Actionコーディネーターとして学校全体の社会貢献活動の支援や、「国際協力と社会貢献」「ファシリテーション実践」などの講義も担当している。
特集【「18歳」シャカイ創りのヒント】
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