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社会課題に挑戦する中高生たち。未来を切り開くために必要な行動とは?

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「社会を変える」行動について熱い議論を交わす中高生たち
この記事のPOINT!
  • 「意識高い系」という先入観の壁が、若者の社会活動への参加を阻んでいる
  • 活動を広げるためにはネットだけでなく、対面というアナログなコミュニケーションも重要
  • 他人任せでは何も変わらない。自ら行動を起こすことで社会を変える可能性は高くなる

取材:日本財団ジャーナル編集部

少子高齢化が進み、「失われた30年」と呼ばれる沈滞ムードが蔓延する日本。自分たちの将来に希望を持てず、無力感にとらわれている若者は少なくない。その一方で、世界には気候変動問題を訴えるために大西洋をヨットで単独横断した少女や、自由と権利のためにデモに参加する学生など、自ら社会課題と向き合い未来を切り開こうとする若者がいる。

日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム2019で開催されたパネルディスカッション「ユメジツゲン大会」は、「中高生の声で社会を変える」をテーマとしたプログラム。社会貢献活動に取り組み、自ら理想とする未来を実現するために動き始めた日本の若者たちが、社会を変えるための挑戦や行動について模索しながら、熱い議論を交わした。

困難に立ち向かう力が、自分たちの未来を切り開く

パネルディスカッションに先駆けて、元サッカー日本代表監督を務めた株式会社今治.夢スポーツ代表取締役会長の岡田武史(おかだ・たけし)さんによる講演が行われた。日本代表監督として2度にわたりワールドカップで戦ってきた岡田さんだが、その裏ではマスコミに叩かれ、熱狂的なファンに叩かれ、悲壮な決意を固めたこともあったという。

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プロサッカークラブFC今治のオーナーも務める岡田さん。子どもを対象に環境教育や野外体験学習のワークショップも展開している

「『負けたら日本に帰れない』と覚悟を決めた時、自分の中でスッと落ち着いて周りを見られるようになったんです。それを『遺伝子にスイッチが入った状態』と言っているのですが、今の日本は、社会全体が過保護になり過ぎて、若い人たちの挑戦する機会が失われている気がします。(パネリストの)皆さんのように大きな目標を持って挑戦することは素晴らしい。ぜひ、主体的に物事を考えて、素敵な未来を切り開いてください」

そんな岡田さんの激励の言葉を受けて壇上に現れたのは、社会貢献活動に取り組む3つの団体の中高生たち。

香川大学教育学部附属高松中学校に通う「プロジェクトO(オー)」のメンバー津田真帆(つだ・まほ)さんと平井愛美(ひらい・あみ)さんは、ハンセン病の理解促進活動に取り組んでいる。

ハンセン病患者は、その外見や感染への恐れから偏見と差別の対象になり、長きにわたって遠い島や隔離された施設に追いやられ、自由を奪われてきた悲しい歴史を持つ。現在は治療法が確立され、国内の新患者はほとんどいない。

そんなハンセン病の歴史や差別について、少しでも多くの子どもたちに知ってもらおうと、2人は国立ハンセン病療養所がある香川県高松市・大島の歴史を調べ、案内地図を作成し、島を巡るツアーを企画・実施している。

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国立ハンセン病療養所がある香川県大島を「日本一輝く島」にするために活動する津田さん
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津田さんと共にプロジェクトOのメンバーとして活動する平井さん

慶應義塾高等学校に通う久保田啓斗(くぼた・けいと)さんは、高校生だけで「理想の学校」づくりを目指す団体「BE Frontier」(別ウィンドウで開く)を立ち上げた。多様な背景や知識を持つ高校生たちが集まって互いに刺激し合い、興味を掘り下げる、全く新しい価値観に出会うことで成長していく…そのような学校を超えた学びの場の創造に、プロジェクトやイベントを通して取り組んでいる。

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高校生だけで理想の学校づくりに取り組むBE Frontier代表の久保田さん

広尾学園高等学校に通う池田遥(いけだ・はるか)さんは、中高生を中心とした若者の「社会を変える」挑戦を応援するプラットフォームづくりに取り組む、同高校の生徒で結成したグループ「i Stand」のメンバー。i Standは本プログラムの主催者でもあり、自分たちが思い描く未来を実現するためにどのような行動が必要かを、同世代の若者と議論するためにこの場を企画した。

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中高生の可能性を広げるために活動を行うi Standの池田さん

SNS全盛時代。しかし、鍵になるのは対面でのコミュニケーション

パネルディスカッションの司会進行役を務めるのは、元TBS報道局のアナウンサーで現在はジャーナリストとして活躍する下村健一(しもむら・けんいち)さん。i Standの池田さんが出演交渉し、参加が実現した、

まず下村さんから彼らに投げかけられたのは「自分たちが取り組む活動と社会との間に壁を感じることはないですか?」という問い。

プロジェクトOの2人は、そもそもハンセン病のことを知らない同世代の無知と無関心に大きな壁を感じているという。

「大島のマップをつくったり、島歩きツアーを開催したりして、ハンセン病の問題を身近に感じてもらうところから始めています。重い話から入るよりも、気軽に参加してもらった方が私たちも伝えやすいので」

ハンセン病問題の敷居を下げて、まずは知ってもらうきっかけをつくることが自分たちのやるべきことだと話す。

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プロジェクトOの2人が取り組むハンセン病理解促進活動

一方で、先入観からくる敷居の高さが壁となり、活動を広げるのに苦心しているというBE Frontierの久保田さん。

「興味を持たない人にとっては、ただ“意識高い系の人たち”の集まりと思われてしまいます。高校生全体に自分たちの意思をアプローチしていくのはとても難しいですね」

本プログラムがi Standとして初めてのイベント開催になる池田さんも「久保田さんと同様、自分たちのやりたいことを大事にしながら、いかに活動を広め参加してもらえるかが大きな課題です」と話す。活動を広めるためにツイッターやインスタグラムを使った広報活動を始めようとしているが「それも意識高い系の人にしか届かない気がして…」と、自分たちが本当に届けたい相手に伝えることの難しさを感じている。

そんな彼らの壁に対し、下村さんは一つのヒントを導き出す。

「ある程度の信頼できる仲間を集めるときは対面というアナログなアプローチが重要で、一気に活動を広げるときにネットを活用するというのが、夢を実現するための一つの方程式かもしれない」

その言葉にうなずくパネリストたち。SNS全盛の若者世代とはいえ、対面でのコミュニケーションが強いつながりをつくる。その場を、ネットも活用していかに生み出していくかが、壁を崩す上で重要と言えるだろう。

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パネリストの中高生たちが抱える課題に耳を傾け、解決の糸口を探る司会進行役の下村さん(写真左端)

下村さんから「若者に対し、大人ではなく、同世代だから強く響くアプローチの仕方があるのでは?」という問いが投げられると、i Standの池田さんは学校の友達に話をしても他人事として流されてしまうと答える。

「私たちの活動の話をすると、『すごいね、頑張ってね』で終わってしまうんです。授業で社会課題が出てきた後、休み時間にみんなで話し合うなど、何か共通で話題にできるきっかけがあると、他の人ともつながりやすいと思うんですが…」

プロジェクトOの2人も、友達に響かないという同じ悩みを抱えている。少しでも解決できればと、彼女たちは学校の先生に交渉し、ハンセン病の問題を授業で取り扱ってもらうことになった。

「全校生の前で私たちが話をして、そのあと映像を見るという機会をつくってもらえたんです。活動を広めるには、周りの人たちのサポートも大切なんだと感じました」

その話を聞いた下村さんは「なるほど」と共感する。「周りの大人を口説いて協力してもらう。それも多くの人にアプローチするために必要な手段ですね」と、自分たちの力だけでなく、周囲のネットワークを活用することの大切さを説いた。

未来をつくるのは「私たち」。自分がやらなければ何も変わらない

パネルディスカッションの終盤、下村さんは、根本的な質問を彼らに投げかけた。

「そもそも大変な思いをしてまで、中高生が社会貢献活動に取り組む必要があるのか?」

BE Frontierの久保田さんは、もともと社会問題に関わるつもりはなかったという。

「人の話を聞いたり、人と人をつないだりすることが好きで、そんな自分の好きなことをしていたら、いつの間にか今の活動につながったような気がします」と、人と関わり、互いに影響し合ううちに自然と社会貢献活動につながったと話す。

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「数学好き」や「イベント好き」など、BE Frontierの活動には多様な高校生が集う

プロジェクトOの津田さんは、ハンセン病や大島の問題を初めて知った時に使命のようなものを感じたという。

「誰も知らないのか、触れないようにしているのか分からないけど、この問題に気付いた私が今動かないと何も解決しないし、大島がなくなってしまうかもしれないと思ったんです」

神さまが気付かせてくれた、自分が関わることで何か変えられるかもしれないと感じ、行動を起こしたと話す。そんな活動を同世代に広めるために、津田さんと行動を共にする平井さんは「大人ではなく、私たちだから分かりやすい言葉で伝えることができると思っています」と強い意思を示した。

i Standの池田さんも「自分がやらなければ社会は変えられない」という思いで活動を始めたという。

「身近な問題についてとなりの人と話をするだけでもいい。社会を変えることは難しいけど、身の周りや自分のことを少しでも変えることができれば、大きな一歩につながると思っています」

高い志を持って活動に取り組む彼らの行動力に対し、下村さんは賞賛の言葉と共に、「この先の未来をつくっていくのはキミたち。今日この場で得たヒントをもとに、これからも活動を続けていってください」とエールを送り、パネルディスカッションは幕を閉じた。

パネリストの中高生たちはいずれも目の前にある社会課題を自分事ととらえ、自らリーダーとして行動している。「若者は無限の可能性を持つ」、そのことを改めて感じさせられた。

中高生たちが夢実現に向けて動き出す。若者の力が社会を変える

パネルディスカッション終了後、同プログラムを企画したi Standのメンバーによる、これからスタートする大きな試みについてプレゼンテーションが行われた。ソーシャルイノベーションフォーラム2020における「ユメジツゲン大会」の開催だ。

中高生を中心とした若者の「社会を変える」挑戦を応援するために結成されたi Stand。ユメジツゲン大会では、「しょうがない」という言葉で見逃されているさまざまな社会課題を解決するためのアイデアを、全国の中高生から募り発表する。そして、中高生たちによる審査を経て最優秀に選ばれたアイデアは、企業やNPOといった「大人たち」と共に全力でサポートし、実現を目指す。

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ユメジツゲン大会の開催を宣言するi Standのメンバー

「他人が何とかしてくれるのを待つのではなく、自分たち一人一人が立ち上がること。そんな想いを込めて、私たちは自分たちの団体に『i Stand』という名前を付けました。全国の中高生の皆さん、どんなに小さなテーマでもかまいません。ぜひ、世の中の問題を解決する最高のアイデアを持って、参加してください!」

そう、池田さんを中心とするi Standのメンバーは、会場にいる同世代の若者に呼び掛けた。

同プログラムでさまざまな価値観や方法論に触れた若者たちの中から、未来を切り開くために行動を起こす新たなリーダーが生まれることを期待せずにはいられない。ユメジツゲン大会の行方が、実に楽しみである。

撮影:十河英三郎

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