日本財団ジャーナル

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鍵は人との関わり合いを持つ「越境」体験。若者の自分や社会を変える力を育てるには?

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パネルディスカッションで自らの活動や夢について語る、日本や海外の学生たち
この記事のPOINT!
  • 日本財団の調査で他国に比べて日本の若者が国や社会に対し意識が低いことが分かった
  • 日本の若者は社会の現状に触れる機会が少ないから意識が低くなり、自己肯定感も低くなる
  • 人と関わり合う「越境」体験が自身や社会に対する意識を高め、自分の可能性を広げる

取材:日本財団ジャーナル編集部

「人口減少」「少子高齢化」「貧困」…今の日本社会は多くの問題を抱えている。これは、国だけでなく、我々一人一人が向き合わなければ解決することは難しい。特に、これからの未来を担う若者世代にかかる負担は大きい。

日本財団では、全国1,000人の17〜19歳を対象にした「18歳意識調査」を継続的に行っている。第20回のテーマは「国や社会に対する意識」(別ウィンドウで開く)。2019年11月29日から3日間にわたって開催された日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム2019では、この調査結果について若者が議論し合うプログラム「自分で国や社会を変えられる」が11月30日に設けられた。

日本の未来には夢や希望がない?

2019年9月下旬から10月上旬にかけて行った今回の調査は、若者が自分の国や社会に対しどのような思いを抱いているか調べたもの。国際比較を行うために、インド、インドネシア、韓国、ベトナム、中国、イギリス、アメリカ、ドイツと日本の若者各1,000人を対象に行った。

司会進行役の日本財団・橋本朋幸(はしもと・ともゆき)さんが調査結果を紹介する。

「9カ国の中で、『自分を責任ある大人と感じている』日本の若者は約30パーセント、『自分で国や社会を変えられる』と思っている割合は18パーセントほどでした」

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調査結果について報告する橋本さん

「一番ショッキングだったのは、『自分の国の将来についてどう思っていますか?』という設問に対する回答です。中国では、96.2パーセントの若者が『良くなる』と答えていますが、日本ではその10分の1にあたる9.6パーセント。37.9パーセントが『悪くなる』と回答し、30パーセント以上が『分からない』と回答しました。9カ国の中で『分からない』と回答した人数が最も多かったのも日本です」

図表:自分の国の将来について

自分の国の将来についてどう思うかを示す横棒グラフ。中国は良くなる96.2%、悪くなる0.1%、変わらない1.1%、どうなるか分からない2.6%。インドは良くなる76.5%、悪くなる7.3%、変わらない5.6%、どうなるか分からない10.6%。ベトナムは良くなる69.6%、悪くなる9.3%、変わらない2.5%、どうなるか分からない18.6%。インドネシアは良くなる56.4%、悪くなる11.7%、変わらない4.5%、どうなるか分からない27.4%。アメリカは良くなる30.2%、悪くなる29.6%、変わらない11.3%、どうなるか分からない28.9%。イギリスは良くなる25.3%、悪くなる43.4%、変わらない11.6%、どうなるか分からない19.7%。韓国は良くなる22%、悪くなる26.7%、変わらない19.7%、どうなるか分からない31.6%。ドイツは良くなる21.1%、悪くなる35.5%、変わらない14.9%、どうなるか分からない28.5%。日本は良くなる9.6%、悪くなる37.9%、変わらない20.5%、どうなるか分からない32%。
国の将来像について「良くなる」と回答した日本の若者はトップの中国の10分の1という結果に

驚きの結果ではあるが、挨拶で登壇した日本財団・笹川陽平(ささかわ・ようへい)会長はこの数字を憂うことに意味がないと断言する。

「私は、若者の可能性を信じていますし、ここで悲観論を述べるつもりはありません。日本では、これまで世界が経験したことのない速度で少子高齢化が進み、国の借金も1,000兆円以上に膨れ上がり、いまだに答えが見えない状態。仕方ないと思える部分もあると言えます。この結果を頭に入れながら、夢や魅力ある国づくりをするには何が必要か、パネリストと専門家の皆さんで話し合っていきましょう」

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プログラムの冒頭で挨拶をする笹川会長

続くパネルディスカッションでは、4人のパネリストと教育に携わる専門家が、調査結果について意見を述べ合った。

〈パネリスト〉

木暮里咲(こぐれ・りさ)

2000年生まれ。高校ではボランティア部に所属し、東京都練馬区や長野県上田市で、地域の企業や行政・NPOとつながり、街歩きイベントやスタディツアーなどを開催。寄付月間発足時には唯一の公認中高生団体として参加し、中高生への寄付啓発イベントで寄付月間2017大賞を受賞。

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木暮さん。慶應義塾大学総合政策学部1年生、寄付月間2019学生チーム、東京学芸大学附属国際中等教育学校ソーシャルアクションチームコーチ

中村伊希(なかむら・よしき)

2002年生まれ。小学6年生の時にフリー・ザ・チルドレン・ジャパンに通い始める。中学生の時に、インドにある村の井戸作りなどの資金集めを目的としたワークショップを実施。高校では、グローバルウィークでの問題提起や「世界一大きな授業2019」を開催。

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中村さん。青山学院高等部3年生、フリー・ザ・チルドレン・ジャパン

ホー・ティ・クウィン・チャン

1999年ベトナム生まれ。早稲田大学社会科学部のソーシャルイノベーションプログラムで学ぶ。国際協力・持続可能な環境・経済発展分野での社会的企業に関心を持つ。ベトナムの小中学生に対する教育支援を行うDOORSー日越交流プログラムーにも関わっている。

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チャンさん。早稲田大学社会科学部2年生、UWC ISAK Japan(長野県の全寮制国際高校)出身、日本財団-ISAK奨学金スカラー

セルバラジ・ヤシュウィニ

1999年インド・バンガロール生まれ。インドの社会問題、特に女性の教育やエンパワメントに関心を持つ。高校時代からディベートや模擬国連に参加したこともある。将来は日本の大学で学んだことをインドの発展に役立てて、大学卒業後に国連で働くという夢を持つ。

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ヤシュウィニさん。立教大学異文化コミュニケーション学部2年、UWC ISAK Japan(長野県の全寮制国際高校)出身、日本財団-ISAK奨学金スカラー

日本の若者の本当の答えは「分からない」?無関心の背景にあるもの

「結果を見て、驚きました。私の周りでもボランティアなどをするのは『意識高い系』といった考え方をされる時があり、こういったレッテルをなくしていけたらと思います」

そう語るのは、若者と地域の関わり合いを増やす活動を行う木暮さん。彼女は調査項目にについて「『社会を変える』という言葉が示す規模が大きくて、よく分からなかった人もいるのかもしれません。夢を持っている子は多いので」とも意見を述べる。

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地域と中高生をつなげる活動を行う木暮さん

貧困や差別から子どもを解放することを目標に掲げるフリー・ザ・チルドレン・ジャパンで活動する中村さんは「知る」ことの大切さを強調する。

「『どのようにして国の役に立ちたいか?』という調査項目に対して、日本では『納税』や『学業』を挙げている人が多いけど、それって学校で耳にしているからでしかない気がします。社会問題に触れる機会が少ない気がしますね」

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親の影響で幼い頃から環境問題や社会貢献に興味を持つ中村さん(写真中央)

「ベトナムでは15歳になるとみんな働き始め、18歳にもなれば国や社会から何を期待されているか誰もが自覚している」と発言したのは、ベトナム出身のホー・ティ・クウィン・チャンさん。インド出身のセルバラジ・ヤシュウィニさんは、「成長する中でインドの抱える問題に触れる機会がたくさんありました。小さい子どもの死亡率の高さの裏にある、女性の差別など何とかしなくてはならない」と、2人は自国と日本の違いという観点を交えながら意見を語る。

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国際協力や持続可能な環境・経済発展分野での社会的企業に関心を持つチャンさん(写真右から2人目)
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インドの社会問題、特に女性の教育やエンパワメントに関心を持つヤシュウィニさん

日本と世界各国の若者たちの考え方の違いの背景には、一体何があるのだろうか?

会場では、東京学芸大学付属国際中等教育学校教諭の藤木正史(ふじき・まさし)さんの見解が紹介された。

「日本の若者は『自身について』という項目について『はい』が少ないのが特徴。本当は、日本社会の現状に触れる機会が少なく、自身や日本の社会の現状について『よく分からない』というのが、実態なのではないか。現実を認知できないから、どのような国になってほしいかも分からない」

藤木さんの指摘は、現状を的確にとらえているように思える。

図表:自分自身について

自分の国の将来についてどう思うかを示す横棒グラフ。「自分は大人だと思う」に対する回答は日本29.1%、インド84.1%、インドネシア79.4%、韓国49.1%、ベトナム65.3%。中国89.9%、イギリス82.2%、アメリカ78.1%、ドイツ82.6%。「自分は責任がある社会の一員だと思う」に対する回答は日本44.8%、インド92%、インドネシア88%、韓国74.6%、ベトナム84.8%。中国96.5%、イギリス89.8%、アメリカ88.6%、ドイツ83.4%。「将来の夢を持っている」に対する回答は日本60.1%、インド95.8%、インドネシア97%、韓国82.2%、ベトナム92.4%。中国96%、イギリス91.1%、アメリカ93.7%、ドイツ92.4%。「自分で国や社会を変えられると思う」対する回答は日本18.3%、インド83.4%、インドネシア68.2%、韓国39.6%、ベトナム47.6%。中国65.6%、イギリス50.7%、アメリカ65.7%、ドイツ45.9%。「自分の国に解決したい社会議題がある」対する回答は日本46.4%、インド89.1%、インドネシア74.6%、韓国71.6%、ベトナム75.5%。中国73.4%、イギリス78%、アメリカ79.4%、ドイツ66.2%。「社会議題について家族や友人など周りの人と積極的に議論している」対する回答は日本27.2%、インド83.8%、インドネシア79.1%、韓国55%、ベトナム75.3%。中国87.7%、イギリス74.5%、アメリカ68.4%、ドイツ73.1%。
日本の若者は、いずれの調査項目においても9カ国の中で他の国に差をつけて最下位という結果に

確かに、日本の子どもは忙しい。学校の勉強や、習い事などの毎日では、社会と向き合える機会は、なかなかないのかもしれない。徐々に結果の背景にある実像が見えてきた。

一歩「越境」すること。そこから可能性は広がる

「私たちが関わる学校の生徒は、個人的な感想として、社会変革に対する意識が一般と比べて割と高い数字が出ている気がしますね」

そう語るのは、特別ゲストとして参加した一般財団法人「地域・教育魅力化プラットフォーム」(別ウィンドウで開く)で共同代表を務める岩本悠(いわもと・ゆう)さん。彼は、島根県を拠点に、地域を越えて学生が社会課題に向き合う「地域みらい留学」(別ウィンドウで開く)と「学校魅力化」に取り組んでいる。

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教育による地方創生に取り組む岩本さん

「僕が活動を行っているのは、いわゆる条件不利地と呼ばれる場所。他の地域に行くのにも時間がかかり、高校の入学人数が高校定員を下回っていたところです。しかし、だからこそ皆さんにシェアできるものもあります」

岩本さんは2007年から現在の活動に取り組んでいる。「学校魅力化」は、学校を地域に開き、地域の大人たちとセクターの壁を越えた協働チームをつくって、子どもたちが地域の抱えるリアルな課題を解決する取り組み。「地域みらい留学」は、全国各地や世界各国から日本の地方に関心がある子どもたちを『留学生』として迎え、一緒に学校生活を送るプログラムだ。

学校を地域や全国に開くことでもともと定員割れだった高校には多くの生徒が集まるようになり、地方へのIターン、Uターンが増える結果となった。

さらに特筆すべき点は、子どもたちの「社会変革」に対する意識の変化だ。多くの質問項目において、魅力化された高校の生徒は、全国平均に比べてポジティブな回答が多かった。

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自分に社会を変える力があると答えた生徒は、全国平均 27.2パーセントに対し、魅力化された高校の生徒は39.1パーセント

また、さまざまなバックグラウンドを持つ人との関わり合いが、子どもたちの客観的自己理解につながること、周囲の大人が伴走することで、子どもたちのチャレンジ精神や行動力が高まることも同時に分かった。

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自分と異なる立場や役割を持つ人との関わりが多いほど、自分を客観的に理解する力が高くなる傾向にある

岩本さんの話から言えるのは、地域に暮らす人々や社会課題に触れる機会、温かく見守ってくれる大人との出会いが、子どもたちの自身や社会に対する意識を高めるのではないかということ。これまでの環境から新しい環境に「越境」することで、自分の可能性が広げるのかもしれない。

そういう意味では、パネリストの学生たちは普段自分がいる環境から越境してきた若者とも言える。国境を超えてきたチャンさんやヤシュウィニさんはもちろん、ボランティア部の戸を叩いた木暮さん、フリー・ザ・チルドレン・ジャパンのメンバーとして活躍する中村さんも同様だ。

彼らは自分の思いや希望を明確に語る。

「日本の同調圧力が社会活動をちゅうちょさせている面もあると思う。もっと当たり前にみんなで活動をするといった社会にできるといいですね。僕自身は、ファッションデザイナーになって、環境を汚さない服づくりをやってみたいと考えています」と話す中村さん。

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ファッションデザイナーになって環境や子どもに優しい世界をつくりたいと語る中村さん(写真左から2人目)

他のパネリストたちも「自分が率先して動けば、それに付いてきてくれる人もいる」(木暮さん)、「インド人は楽観的かもしれないが、それは良いこと。ポジティブであればそこにきっとチャンスを見出せるから。私はジェンダーに左右されない、教育機会の平等を進めていきたい」(ヤシュウィニさん)、「社会を変えるのに、大人も子どもも関係ない。日本はこれまで多くのことを達成してきたし、ポテンシャルがある。若者の教育が鍵となるのではないか」(チャンさん)と、熱く語った。

いつもと違う環境に身を置いて、大人や周りの人たちと積極的に関わりを持つ。自分や社会の変革は「行動から始まる」のではないだろうか。

撮影:十河英三郎

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